俺の脳内選択肢が、呪術師としての尊厳を全力で破壊してくる 作:シモケンサンバ
「あははは! 真依さーん! その蔑んだ顔、最高だよ! もっと……もっとゴミを見るような目で僕を見てぇぇ!!」
有沢は、もはや人間としてのブレーキを完全に破壊していた。真依の放つ弾丸を「愛のラブレター」として歯で受け止めようとし 、西宮の箒の風圧を「新婚家庭に吹き込む春一番だね!」と深呼吸で受け止める。
「無理……。もう呪力とか術式とか、そういう次元じゃないわ……」 西宮は空中から有沢を見下ろし、ガクガクと膝を震わせた。
彼女の脳裏には、先ほど有沢が放った「君の箒の枝、一本もらっていいかな? 帰って君の残り香を抽出する触媒にしたいんだ」という言葉が、特級呪物級のトラウマとしてこびりついて離れない。
「加茂さん、メカ丸! やっぱり助けて! 早く……早くこの『概念』を消してぇぇ!!」 三輪の悲痛な叫びに、ついに加茂憲倫とメカ丸が耐えかねて参戦した。
「……致し方ない。」 加茂が鋭い血の矢を構える。メカ丸もまた、大出力のアルティメット・キャノンを有沢へ向けた。
しかし、その瞬間。有沢の脳内で、世界が停止するほどの衝撃と共に「あの声」が響き渡った。
【選べ】
① 全員を自分の「大家族」と思い込み、加茂を「頑固な義父」、メカ丸を「最新式の全自動洗濯機」、女子三人を「僕の三つ子の新妻」と呼び、全員まとめて『家族の絆(物理的な抱擁)』に巻き込む。
② 「今から僕、人間やめるから!!」と叫び、四つん這いで高速移動しながら、全員の靴の裏に「自分の連絡先(呪いのこもったメモ)」を貼り付けて回る。
(家族!? 全自動洗濯機!? 何を言ってるんだこの呪いは!!) 有沢は、加茂の放つ殺気とメカ丸の砲身を見据え、極限の恐怖の中で思考を加速させる。
(ここで②を選んでも、攪乱はできても京都校の精鋭5人を同時に無力化はできない。)
(確実に交流戦で『勝利』を掴むには、①の『家族の絆』による物理的制圧しかない……! ①を選べば、選択を完遂するまで発生する【因果の強制】によって、あらゆる攻撃を無視して全員を強制的に一箇所に拘束できる!!)
「お……お義父さぁぁぁん!! 娘さん(たち)を、僕にくださいぃぃぃ!!」
有沢は、加茂の放った鋭い血の矢をを、あろうことか『全力の抱擁』の姿勢で迎え撃った。
「なっ……!? 自殺行為か!?」 加茂が驚愕した瞬間、有沢は鼻先数ミリで血の矢を回避(という名の転倒)し、そのまま加茂の腰にしがみついた。
「お義父さん! 硬いこと言わないでくださいよ! 僕と彼女たちの新居には、あの全自動洗濯機(メカ丸)も持って行くから!!」
「誰ガ洗濯機ダ、貴様!!」 メカ丸が激昂し砲火を放とうとするが、有沢は「義父」である加茂を盾にしながら、空中にいる「新妻」の西宮を見上げた。
「桃ちゃん、浮気は許さないよ! 家族団欒の時間だ!!」
有沢が虚空へ向かって「手招き」をした瞬間、因果が捻じ曲がった。
選択行動(家族の抱擁)を完遂させるため、物理法則が有沢に味方する 。上空で静止していたはずの西宮の箒が、まるで巨大な磁石に引かれるように急降下し、有沢の手元へと吸い寄せられた。
「えっ、ちょっと!? 箒が勝手に――きゃあああ!?」 抗えない力で引きずり下ろされた西宮は、そのまま加茂の上に墜落。
さらに、パニックになった三輪が有沢を止めようと振り回した刀が、メカ丸の関節部に挟まって火花を散らす。
「ひっ、あああ! ごめんなさい、メカ丸!!」
「ヤメロ、三輪! ソコハ感度ガ……ッ!!」
「さあ、家族みんなで川の字になって寝ようよぉぉぉ!!」 有沢がその混沌の渦の中心で、全員をまとめて抱きしめる(という名のプロレス的な拘束)を敢行。
その瞬間、京都校の面々の精神は限界を迎えた。
真依はあまりのキモさに泡を吹いて卒倒し、西宮は「除霊師の資格取る……」と現実逃避。三輪は号泣しながらその場に座り込み、加茂は「私の……私の家系図に、全自動洗濯機が……」と虚空を見つめて静止。メカ丸は過負荷でショートし、沈黙した。
有沢は、ボロボロの体で立ち上がった。背後には、精神的・物理的に再起不能となった京都校の精鋭たちが転がっている。
「……勝った。俺の……俺の尊厳と引き換えに……」 有沢は虚ろな目で、虎杖たちのいる戦場へとふらふらと歩き出した。
有沢が激戦(地獄)の森を抜け、開けた場所に出た時。 そこには、予想だにしない光景が広がっていた。
「いいか、マイ・ブラザー!! 迷いは禁物だ! 魂の鼓動を拳に乗せろ!!」
「分かったよ、東堂…… 最高の気分だ!!」
そこには、上半身裸で汗を飛び散らせながら、固い握手と熱いハグを交わす虎杖と東堂の姿があった。
二人の周囲には、なぜか「存在しないはずの思い出」のような爽やかなオーラが漂っており、先ほどまでの殺伐とした雰囲気は微塵もない。
「……は?」 有沢の口から、声が漏れた。
「あ、有沢! 遅かったな! 紹介するぜ、東堂だ!!」
「ほう、お前がブラザーの言っていた有沢か。……森の向こうから、かつてないほど不浄で『絶対』な因果の響きを感じたが、貴様だったか。お前の『女の好み』は最悪だが、その実力は認めてやろう!!」
東堂が、有沢の肩をバシバシと叩く。その手には、どこから取り出したのか、高身長アイドルの握手券が握られていた。
「虎杖……。俺が向こうで『三つ子の妻と全自動洗濯機』との家庭を築くために魂を削っていた間に、何があったんだよ……」
「家庭? 洗濯機? 何言ってんだ? それより来週、東堂と一緒に、高田ちゃんの握手会に行こうぜ!!」
虎杖の屈託のない笑顔。東堂の、暑苦しいほどの友情の眼差し。
有沢は、自分だけが別の宇宙(ギャグ時空)に置いてけぼりにされたような孤独を感じながら、鼻血を拭って天を仰いだ。
交流会初日。 京都校が「変態一人の手によって壊滅」するという、呪術界の歴史に泥を塗るような大混乱のまま、事態は特級呪霊の乱入へと向かっていく。