俺の脳内選択肢が、呪術師としての尊厳を全力で破壊してくる 作:シモケンサンバ
虎杖と東堂が、爽やかな汗を流しながら「友情」を確認していた、その時だった。 突如、空が禍々しい闇に覆われ、強固な「帳」が降り注いだ。
「――愚かな人間よ。星の叫びを聞け。母なる大地を汚す、その罪を贖うがいい」
大地から無数の根が噴き出し、空間を埋め尽くす。
その中心に現れたのは、白い仮面のような顔に木の枝が生えた特級呪霊――花御。
これまでの呪霊とは一線を画す、圧倒的な「生命」の呪圧。東堂の表情が瞬時に引き締まり、虎杖も戦闘態勢に入る。
「特級か……! 面白い。ブラザー、これは俺たちの愛と友情の試練だ!!」
「おう!! やってやるぜ!!」
二人が最高潮のボルテージで構えた、その横。 有沢は、先ほどまでの「因果の強制:大家族の絆(物理)」による精神的・肉体的摩耗により、地面に膝をついてガタガタと震えていた 。
(嘘だろ……。なんだよあの植物の化け物。少年院の特級が可愛く見えるレベルじゃねーか!!……あんなのとまともに戦ったら、物理的に肥料にされて、来年の春には綺麗な花を咲かせるハメになる……!)
恐怖で心臓が止まりかけた瞬間。 有沢の視界が真っ赤に染まり、脳内で「核爆弾のカウントダウン」のような衝撃音が鳴り響いた。
【選べ】
① 花御に向かって、ポケットに入っていた『花の種(アサガオ)』を全力で投げ込み、「僕たちの子供を育てよう……!」と異種間交配を前提としたプロポーズをする。
② 花御を「巨大なブロッコリー」だと思い込み、虚空から召喚したマヨネーズをぶっかけながら、「茹で時間は5分だ。硬めが好きなんだよ」と調理アドバイスを送る。
(出たよ……! 選択肢がどっちも終わってる、クソシステムが!! 誰が設計したんだこれ、仕様書出せ、修正パッチ当てろ!!)
有沢は、花御の冷徹な眼差し(?)を見つめる。
(①はダメだ! 初めてのプロポーズは人間にって決めてんだ!! ならば②だ! ②なら、ただの『頭のおかしい食いしん坊』として、一瞬だけ動きをとめれるかもしれない!!)
有沢は、もはや涙すら出ない極限状態でありながらも、仲間を救うための「戦略的変態」としての最適解を導き出した 。
「……ターゲット、確認。排除する」 花御が、理解不能な呪言を発しながら、巨大な木の腕を振り上げた。
「――待てええええええい!! お湯が沸いてるだろおおおおお!!」 絶叫と共に、有沢は圧倒的な加速力で花御の足元へ、ヘッドスライディングを敢行。
「…………?」 花御の動きが止まる。
その足元で、有沢は虚空から出現した「マヨネーズ(業務用1kg)」をひったくり、蓋を歯で引きちぎり、花御の脚に向かって噴射した。
「……見たところ、鮮度は良さそうだけど、ちょっと芯が硬そうだ。 君、無農薬だよね!? 茹で時間は3分……いや、君のような立派な大物は5分じっくりボイルして、この特製マヨネーズで和えてあげなきゃ、食卓の主役にはなれないぞ!!」
有沢はキマったような目で、花御の脚をマヨネーズでデコレーションしていく。
花御は術式で有沢を排除しようとするが、「選択した行動を完遂するまで」発生するプロテクトにより、花御の呪力を帯びた根は有沢に触れる直前で、まるで見えない壁に阻まれるように弾き飛ばされていった 。
「……何だ、この個体は。攻撃が、届かない……?」
花御の脳内に直接響く声が、初めて困惑に染まる。
花御の高度な知能が、有沢の「未知の術式」か何かとして解析しようとするが、結果は『エラー:理解不能』。花御の攻撃の手が、わずかに停止した。
「――ナイスだ、有沢!! まさか『食欲』という原始的な欲望で特級の意識を逸らすとは!!お前のソウル、今、最高に脂が乗っているぞ!!」 東堂が、その隙を見逃さずに跳躍した。
「ブラザー、今だ!! 有沢がマヨネーズで切り拓いた、この『旨味』に満ちたチャンスを無駄にするな!!」
「おう!! よく分かんねーけど、マヨラーの意地、見せてもらったぜ有沢!!」
虎杖の拳に、空間を歪める黒い稲妻が宿る。
「――黒閃!!」 ドゴォォォォン!!
虎杖の一撃が花御の腹部に直撃する。その凄まじい衝撃波で、有沢はマヨネーズを自分の顔面に浴びながら、高速回転して森の奥へと吹き飛び、大木に激突した。
「ぶふぇっ!!(マヨが……目に入った……!! )」
「 ブラザー、見たか! 有沢のあの、捨て身の囮を!! 自分の命に変えてまで俺たちの道を切り拓く……。お前は立派な、呪術師だ!!」
「いや、俺はただ……選択肢が……業務用マヨネーズを……」 有沢は、白目をむき支離滅裂なうわ言を吐くが、その声は二人の熱い戦闘ボイスにかき消された。
特級呪霊・花御。 森を守るために現れた高潔な存在は、今、「マヨネーズをかけられた温野菜」という屈辱的なレッテルを貼られたまま、最強のブラザーコンビ、そして有沢との、泥沼の戦いに引きずり込まれていくのであった。