俺の脳内選択肢が、呪術師としての尊厳を全力で破壊してくる 作:シモケンサンバ
「――貴様ラ……、森ノ尊厳ヲ何ト思ッテイル……!!」
特級呪霊・花御の怒りが、周囲の木々を震わせた。全身にこびりついた「業務用マヨネーズ」が、静かな怒りに火をつけたのだ。
大地から噴き出す根の速度は倍増し、もはや回避不能な弾幕となって虎杖たちを襲う。
「うおっ、なんか急にマヨネーズが沸騰するくらいの熱量で怒り出したぞ!」
「当然だブラザー!! マヨネーズは高温で分離するが、奴の怒りは今、その沸点を遥かに超え、もはや全てを焦がす『憤怒の油』と化している!! さあ有沢、おかわりをくれてやれ!!」
「いや、無理!! 普通に死にそうなんですけど!?」
有沢の絶叫を無視して、戦場はカオスへと加速する。
虎杖の「黒閃」と東堂の「不義遊戯」の超速連携にあわせて、有沢は死に物狂いでマヨネーズを挟みこんでいくという、高度なんだか不毛なんだか分からない戦いを強いられていた。
だが、特級の地力は圧倒的だった。
花御が放った無数の「呪いの種子」が空を埋め尽くし、一斉に地面に向かって降りかかろうとした。
逃げ場を完全に封鎖され、東堂が舌打ちし、虎杖が拳を固めた、その隣で。 有沢は絶望のあまり、握りしめていたマヨネーズの容器を力なく手から落とした。
(あ、終わった。今度こそ俺の人生幕を閉じるんだな……)
絶望したその時、脳内にあの「耳を劈く不快なアラート」が鳴り響いた。
【緊急回避イベント:シャイニング・サバイバル】
① 花御に向かって、枯れ葉を紙吹雪のように撒き散らしながら、「君こそが森のミス・ユニバースだ!!」と120点の大声で叫び、スタンディングオベーションを捧げる。
② 手に「サイリウム(システム特別支給品のオレンジ色)」を出現させ、最高速度の『ヲタ芸』を披露する。圧倒的な踊りで五条悟の代役を務めろ
(①を死を受け入れるってこと?!②はなんだよヲタ芸って! この状況で俺を踊らせてどうすんだよ!!)
だが、選択しなければ完全に死ぬ。生きるには五条悟の代役を務めるしかない。
有沢は生存本能のままに②を選択した。
「――光れええええええ!! ウリャャャ!!!」
有沢の両手に、直視できないほど眩いオレンジの閃光が宿る。 有沢はこれまでの人生で一度もやったことのない、キレ味の鋭すぎる「ヲタ芸」を開始した。
「ウリャ! オイ! ウリャ! オイ!!」
空から降ってきた致死性の「呪いの種子」と、有沢が渾身の力で振り上げたサイリウムがぶつかる。
その瞬間。 狙ってできるはずもない、偶然という名の必然が起きた。
生存本能のみで繰り出された有沢の不条理な呪力操作と、特級呪霊の攻撃が、誤差0.000001秒以内に交差した。空間が軋み、大気が悲鳴を上げる。
バヂィィィンッ!!
オレンジ色のサイリウムに、禍々しくも美しい、黒い稲妻が宿る。
激しく発光する棒を振り回し、背骨が逆向きに折れるほどの勢いで上半身を反らし、黒い火花を周囲に撒き散らしながら、残像で空間をオレンジ色に塗りつぶしていく有沢。
そのあまりの「視覚的暴力」と、「生物としての理解不能な挙動」、そして何より「マヨネーズをまき散らしていた男が呪力の核心に近づいた」という事実に、特級呪霊・花御の高度な知性が完全にショートした。
「ナイスだ有沢!! まさか魂の鼓動を『光の演舞』に変換し、あまつさえ『黒閃』までキメて特級を怯ませるとは!! お前、やはり天才か!?」
「違うんです東堂さん……俺はただシステムに踊らされているだけで……肩の関節がもう……!!(なんで黒く光ったの!? 怖いんだけど!!)」
有沢が光り輝きながら(そして時折黒くスパークしながら)絶望の淵で踊り続けていると、上空の空気が一変した。
「帳」が、まるで古い布のように無惨に引き裂かれる。
「――お待たせ。ちょっと野暮用で遅れちゃった」
空中に浮遊していたのは、目隠しをした白髪の男――五条悟。 彼が現れた瞬間、戦場を支配していた緊張感は「一方的な殺戮」へと塗り替えられた。
「あ、五条先生!」 「やぁ、悠仁。それに東堂。……あと、えーっと、そこで踊ってる『マヨネーズまみれで激しく発光してる不審者』は誰かな?」
五条が、地面でまだサイリウムを振り回している有沢を指さして笑う。
六眼を持つ彼ですら、その光景の処理には一瞬戸惑ったようだ。
「とりあえず、あそこの『マヨネーズサラダ』を片付けちゃおうか」
五条が指先を向ける。その圧倒的な圧力を前に、花御は瞬時に理解した。
(勝てない……。この男と、あの『不条理な光の黒閃戦士』が揃っては、私は祓われる……!)
花御は即座に無数の花弁を散らし、地中へと逃亡を図る。
「あ、逃げた。……まあ、あんなにマヨネーズかけられた上に目の前で黒閃ヲタ芸されたら、僕でも一回お風呂入りに帰りたくなるよね」
五条は追撃する代わりに、ひょいっと有沢の元に降り立った。
「サイリウムで黒閃キメる呪術師なんて初めて見たよ。全くもって無駄すぎる技術だね!……その光る棒、いつまで振り回すつもり?」
「……システムが、……システムが、サビが終わるまで……止まるのを許可してくれないんです……(誰か助けて……)」
白目をむき、関節が軋む音を響かせながら、虚空に向かって激しくサイリウムを振り続ける有沢。
呪霊は去った。平和は戻った。
しかし、有沢の心には「マヨネーズ」と「消えない残像」、そして「意図せず呪力の核心に近づいた恐怖」という、生涯消えることのない深い傷跡が刻まれるのであった。