俺の脳内選択肢が、呪術師としての尊厳を全力で破壊してくる 作:シモケンサンバ
任務が一段落したある日の昼下がり。
高専のラウンジには、虎杖悠仁、伏黒恵、釘崎野薔薇、の1年生3人が集まっていた。
つかの間の休憩をとっていたが、その場の空気はどこか奇妙な空気に包まれていた。
「……ねえ、ちょっといいかしら」 沈黙を破ったのは釘崎だった。
その表情は、いつになく険しい。
「あの『クソメガネ』……有沢のことよ。あいつ、なんなの? 英集少年院で特級を前に『恋ダンス』を踊り狂ったのは百歩譲っていいわ。」
「でも初任務の時、呪霊の攻撃を避けるためにあたしの頭を躊躇なく『踏み台』にして飛び上がったのは絶対に許さないから。おまけに交流戦でのマヨネーズまみれのヲタ芸……」
釘崎は思い出すだけでも忌々しいといった様子で、持っていた湯呑みを机に叩きつけた。
「まあ、確かにやり方は独特だけど……有沢、いつも死ぬほど必死な顔してるよな」
虎杖がフォローを入れるが、伏黒も複雑な表情で頷く。
「結果として俺たちは助かっているし、今までの特級呪霊と渡り合った実力も本物だ 。だが、あの奇行に合理性があるとは思えない。正直、どう接していいか分からない時がある。」
その様子を眺めていた五条悟が、わざとらしくポンと手を打った。 「あ、そういえば君たちに、有沢について詳しく話してなかったっけ?」
「……今更ですか」伏黒がジト目で五条を睨む。
「てっきり説明したつもりだったよ。有沢の術式、『絶対選択肢』についてね」
五条は目隠し越しに、少しだけ真面目なトーンで語り始めた。
有沢の術式:絶対選択肢の真実
五条の説明によれば、呪術師としての有沢は想像を絶するものだった。
強制的な二者択一: 彼の脳内には突如として不条理な2択が出現し、どちらかを選ぶまで脳を焼くような激痛が走り続ける 。
因果の強制: 選択した行動は、完遂するまで「絶対」となる。この世の原理原則を捻じ曲げるような挙動が可能。それは同時に、有沢の肉体に許容範囲を超えた負荷を強いることを意味する。
常時発動の呪い: これは彼の術式であり、本人の意志に関係なく、有沢の中に呪力がある限り、脳に刻まれている術式に強制的に呪力が供給され続ける。
「つまり、あいつの奇行は本人の趣味じゃない。有沢の中に巣くう術式という名の『呪い』に振り回され続けてるんだよ。」 五条が更に言葉を繋ぐ。
「野薔薇の頭を踏み台にしたのも、あの瞬間、それが最も生存率の高い選択肢だったから。彼は『社会的死』を恐れるまともな人間でありながら、仲間のためにその尊厳を自ら投げ捨てる合理性を持っているんだ」
「本人の意志とは関係なく、動作するなんて厄介な術式だよね。」 五条は楽しそうに付け加えた 。
釘崎は長い沈黙の後、小さく舌打ちをした。
「……何よそれ。最悪じゃない。あいつ、そんな地獄みたいなもん抱えて、あんな涼しい顔して交流戦でマヨネーズ撒き散らしてたわけ?」
「あいつを『五条先生と同じカテゴリーの人間』だと思ってたけど……少し見方が変わった」 伏黒も、有沢が背負っている羞恥心と肉体的苦痛という代償の重さを理解し、静かに目を伏せた。
*
*
その時、ラウンジの扉がゆっくりと開いた。 そこには、虚ろな目で宙を見つめる有沢の姿があった。
「……あ、みんな。いたんだ」 有沢が力なく手を挙げる。
その瞬間、彼の脳内ではまたしても
【選べ:①全員に全力で投げキッスをする ②一人一人の靴の裏を舐めて回る】という地獄の選択肢が躍っていた。
「……有沢」 釘崎が立ち上がり、有沢の目の前まで歩み寄る。
また「クソメガネ」と罵倒されるのかと身構える有沢だったが、釘崎は彼の肩を強く叩いた。
「あんたのセンスがクソなのは変わらないけど……まあ、その『クソメガネ』なりに苦労してんのは分かってあげたわよ」
「えっ?」
「有沢! 次の任務、俺も手伝うからさ! 一人で抱え込むなよ!」 虎杖が屈託のない笑顔で寄り添い、伏黒も「……フォローはする」と短く付け加えた。
誰にも理解されず、ただの変態として蔑まれることを受け入れてきたその戦いが、孤独なものではなくなったのだと感じ、有沢は鼻の奥がツンとするのを感じた。
「……みんな。ありがとう。でも今、俺の脳内では君たちの靴の裏がダイヤモンドより輝いて見えてるんだ。頼む、察してくれ。」
「「「全力で拒否する」」」
高専のラウンジに、久しぶりに穏やかな(?)笑い声が響いた。有沢という男の戦いはこれからも続くが、その背中を支える「仲間」との絆は、確実に深まっていた。