俺の脳内選択肢が、呪術師としての尊厳を全力で破壊してくる 作:シモケンサンバ
【 00:27 】
陀艮は本能的に自身の必中術式『死累累湧軍』による式神の群れを展開しようとした。
だが、呪力で編まれた巨大な魚群は実体化する直前、システムのノイズに弾かれて霧散する。
【 警告:『鬼』のロールからの逸脱。金棒にて迎撃せよ 】
システムによる因果律の強制。
陀艮の意志とは無関係に、周囲の空間からどす黒い血液と呪力が強引に圧縮され、彼の両手に巨大で禍々しい『血の金棒』が形成された。
「グォォォッ!!」
未知の理不尽に対する憤怒と共に、陀艮が金棒を薙ぎ払う。
しかし、直毘人の『最強の嗅覚』には、その攻撃軌道が数秒前から明確な「匂い」として可視化されていた。
「七海! 軌道は横だ、上を取れ!」
「合わせます!」
直毘人の指示と同時に、七海は重力という概念を完全に無視して虚空を蹴り上げた。
『猿の立体機動』による摩擦ゼロの加速。
陀艮の金棒が空を切った瞬間、七海は特級呪霊の頭上へ回り込み、右肩へ十劃呪法により「7:3」の弱点を正確に叩き割る。
【 00:18 】
「ガ、アァァァッ!!」 特級呪霊の強靭な肉体が破砕され、青い血が噴き出す。
だが、陀艮もただの呪霊ではない。
高度な知性を持つ彼は、瞬時にこの狂った領域のルールを逆手に取った。
(三人の命は繋がっている……ならば、最も脆い箇所を叩き潰せば済むこと!!)
陀艮の眼球が、空中を舞う七海や直毘人から、地上を一直線に突撃してくる全裸の有沢へと焦点を合わせた。
【 00:12 】
「有沢君! 回避を!」 七海が叫ぶが、遅い。
陀艮は残された全呪力を血の金棒に注ぎ込み、その暴力的な質量を有沢の頭上へと直接振り下ろした。
タイミング的に、完全にかわすことは不可能な一撃。
そしてこの領域の契約上、有沢が受けたダメージは連帯責任として七海と直毘人にも平等に共有されてしまう。
(ちょ、まっ! 俺がペシャンコになったらおっさん二人も即死!? ていうか全裸で圧死とか、イヤすぎるだろ!!)
有沢は悲鳴を上げながら間一髪で身を捩るが、凶悪な金棒が彼の左肩を深く掠め、鬼ヶ島の岩盤を粉砕する轟音と共にその体が吹き飛ばされた。
【 00:08 】
「ガッ……!?」
「ぐぅッ……!」
瞬時に、空中の七海と地上の直毘人の左肩にも、肉を削がれるような激痛が走る。
だが、歴戦の一級術師である彼らがこの程度の痛みで止まるはずがなかった。
「チッ……上等だ!!」
痛みを力に変えるように、直毘人が投射呪法による最速の踏み込みで陀艮の懐へ潜り込み、残された左腕で金棒を持った陀艮の腕の関節を正確に破壊する。
「これで、終わらせます」 続く七海が空中の足場から弾丸のように落下し、体勢を崩した陀艮の鳩尾へと、最大呪力を込めた鉈を深々と突き立てた。
【 00:02 】
「ガハッ……!?」 完全に防御機構を失い、血を吐きながら膝をつく陀艮。
その眼前に、先ほど岩盤ごと吹き飛ばされたはずの全裸の『桃太郎』が、砂煙を切り裂いて猛然と突っ込んできた。
強烈な痛みを置き去りにするほどの怒りで地を蹴り、体勢を崩した陀艮の顔面めがけて跳躍する。
(なんで俺だけ、便利な能力が発動しねぇんだよッ!?)
一切の防御バフすらかからなかった理不尽なシステムへの怒りと、極限の羞恥心が、有沢の右拳に異常なまでの呪力を収束させていく。
呪力の流れが黒く染まり、空間が歪んで黒い火花を散らす。
【 00:01 】
「俺の……服と尊厳を、返せェェェッ!!」
有沢の拳が、陀艮の顔面を完璧に捉えた。
――黒閃。
特級呪霊の頭部が、空間そのものを抉り取るような黒い閃光と共に完全に吹き飛んだ。
首を失った巨大な体躯がぐらりと揺れ、鬼ヶ島の乾いた大地へとドス黒い音を立てて崩れ落ちる。
【 00:00 】
【 制限時間到達。条件達成を確認 】
システムのアラートが空に響き渡ると同時に、陀艮の肉体が灰となってパラパラと崩壊し始めた。
そして、すべてが終わったその静寂の中――遅れて、有沢の視界に『主人公補正』の詳細が明滅した。
【 主人公補正:『なろう系テンプレの強制』 】
【 解説:強敵を討伐した直後、主人公が周囲の驚愕をよそに無自覚な強者を演出する定型句を強制的に発声させる。戦闘における実用性は皆無である 】
(……は?)
システムの文字を読み終えるより早く、有沢の口が自身の意志とは無関係に勝手に動いた。
全裸で、血にまみれ、左肩を負傷した満身創痍の状態で。
彼は灰になっていく特級呪霊を見下ろし、呆然と立ち尽くす七海と直毘人を振り返って、極めて爽やかなドヤ顔と共に言い放った。
「あれ?……俺、またなんかしちゃいました?」
「……ええ。お陰様で私の肩の肉が少し削げました。あと、視界の暴力が過ぎます」
七海がひどく疲弊した、氷点下の声で返す。
「カカッ! 違いねぇ! どうせならその見苦しいイチモツも吹き飛んでいれば傑作だったんだがな!」 直毘人が豪快に笑い飛ばした。
(ああああああああああ殺してくれえええええええ!!!!)
有沢が羞恥心で発狂しかけたその時、空中に新たな通知が浮かび上がった。
【 演目報酬:『鬼ヶ島の財宝 現状復帰』 】
【 劇中における桃太郎一行の負傷を全回復し、開演前の状態へと巻き戻す 】
直後、淡い光が三人を包み込む。
有沢、七海、直毘人の左肩に刻まれた生々しい傷跡と激痛が、嘘のように消え去った。
しかし、この領域が展開される前に既に失われていた直毘人の右腕と、七海の左目が元に戻ることはなかった。
あくまでシステムが還元したのは「劇中での負傷」のみである。
【 『鬼』の討伐を認定。『狂演・桃太郎』、これにて終幕 】
鬼ヶ島の崩壊と共に、有沢の社会的な命は完全に終わりを告げた。