俺の脳内選択肢が、呪術師としての尊厳を全力で破壊してくる 作:シモケンサンバ
「喜べ男子。紅一点よ」
流行の最先端を自負する若者たちがひしめき合い、クレープの甘い香りと香水の匂いが混ざり合うカオスな街・原宿。
その中心地である竹下通りの入り口で、これ以上ないほど傲慢に腕を組み、不遜な笑みを浮かべて言い放った少女――釘崎野薔薇。
彼女は、これからチームメイトとして生死を共にするはずの有沢たちを、まるで「泥水に浸かったジャガイモ」でも見るかのような冷徹な眼光で、つま先からつむじまでじっくりと眺め回した
(うわ、予想を五周くらい上回って気が強そうだ……。あの目は、自分の価値観に合わないものを迷わずゴミ箱にダンクシュートするタイプの目だ。絶対に、一秒たりとも目を合わせちゃいけないタイプだこれ!)
有沢は極力気配を消し、通行人のフリをして視線を逸らした。
隣では虎杖が「俺、虎杖悠仁! 宮城から来たんだ!」と、大型犬のような無邪気さで自己紹介をぶちかましているが、釘崎の視線は北極の氷山よりも冷ややかだ。
しかし、運命は彼に「安全な傍観者」でいることを許さない。
ズキリ、と脳漿をミキサーでかき回されるような、あの忌まわしい激痛。原宿の華やかな色彩が反転し、有沢の脳内に直接、禍々しい漆黒のフォントで文字列が書き込まれる。
【選べ】
(嘘だろ……。よりによって、この地雷原みたいな女子が相手の時にかよ!?
① 釘崎が腰に下げている藁人形と金槌を見て、「それ、どこで売ってるんですか? お揃いにしてもいいですか?」と媚びる。
② 釘崎に向かって、初対面で真顔になり、「君、服のセンスが呪われてるね」と言い放つ。
(初対面の女子に喧嘩売るとか正気か!? いや、媚びるのも気持ち悪いけど…!)
究極の二択。有沢の脳裏に、田舎から出てきたばかりでファッションに敏感な釘崎の逆鱗に触れる恐怖がよぎる。しかし、①の媚びた態度は、後の人間関係に修復不可能な「パシリ」の構図を生む気がした。
(ええい、ままよ! ②!)
有沢の表情から感情が消えた。能面のような真顔になり、釘崎の目を見据える。
「……君、服のセンスが呪われてるね」
ピキリ。
原宿の喧騒が、一瞬で物理的に凍りついたような静寂。 横で聞いていた虎杖の顔が「こいつ死んだわ」と言いたげに引き攣り、伏黒は「関わりたくない」とばかりに額を押さえて天を仰いだ。
五条だけが、アイマスクの奥でワクワクを隠しきれない様子で静観している。
「あぁん!? テメェ今なんつった!? この私が田舎モンだって言いてぇのかオラァ!!」
釘崎が文字通り、髪を逆立ててブチ切れた。彼女は愛用の金槌を今にも振り下ろさんばかりに構え、有沢の胸ぐらに掴みかかろうとする。
虎杖と伏黒が、パニックになりながらも必死にその間に割って入った。
「まあまあまあ! 有沢もほら、緊張してただけだから! 呪術師的なジョークだからさ!」
五条が手を叩いて場を収めたが、釘崎の怒りは収まらない。
そのまま半ば連行されるようにして辿り着いたのは、六本木の廃ビル。澱んだ呪気が漂うその場所は、今の有沢にとって、釘崎の「殺すリスト」の上位に君臨している現状よりは、幾分か居心地が良く感じられるほどだった。
「おいクソメガネ! テメェは私の後ろでブルブル震えてな! 呪霊を祓うついでに、テメェのそのセンスの欠片もない脳みそごと祓ってやるからな!」
釘崎は有沢を睨みつけながら、ビルの中へと進んでいく。
「ひいぃ……すいません、ほんとすいません……」
有沢は、選択肢が生んだあまりに深い溝に胃薬を欲しながら、彼女の背中をトボトボと追いかけていくしかなかった。
だが彼はまだ知らない。この後、ビルの中で再び発動する「絶対選択肢」が、彼自身を人間ミサイルと化し、釘崎を襲おうとした呪霊を壁ごと粉砕することになる未来を。