俺の脳内選択肢が、呪術師としての尊厳を全力で破壊してくる 作:シモケンサンバ
「おい、クソメガネ! いつまで私の後ろで震えてんのよ、このチキン野郎が!」
六本木、呪霊の気配が澱む廃ビルの3階。釘崎野薔薇の怒声がコンクリートの壁に反響する。彼女の歩幅は迷いがなく、背後をついてくる有沢を親の仇か何かのように睨みつけていた。
「す、すいません釘崎さん! 本当に、さっきの服の話は不可抗力というか、脳のバグというか……!」
「黙れ! テメェのセンスがバグってんだよ!」
有沢が必死に弁解(という名の命乞い)を繰り返していた、その時。 天井の配管から、どろりと粘着質な液が滴り落ち、巨大な三つ目の呪霊が姿を現した。
「ギギ……ギシャァァァ!」
「あ、出たわね。ちょうどいいわ、あんたで私の……」
釘崎が不敵な笑みを浮かべ、腰の金槌に手をかけた瞬間。有沢の脳内で、あの「この世の終わりを告げるファンファーレ」が鳴り響いた。
【選べ】
(よりによって、このタイミングで!? 待ってくれ、釘崎さんが今かっこよく決めようとしてるんだから!!)
① 呪霊に向かって走り寄り、「その三つの目、一個分けてくれませんか? ビー玉にしたいんです」と幼児退行してねだる。
② 釘崎の肩を跳び箱の踏み台にして、自身を「超電磁人間ミサイル」と化し、頭から呪霊に突っ込む。
(①はダメだ! 言った瞬間に俺の目がビー玉にされる! でも、②は……釘崎さんを踏み台にする!? そんなことしたら、呪霊に殺される前に釘崎さんにミンチにされる!!)
「う、うわああああああ!! 選べねぇええええ!!」
有沢の絶叫。しかし、無情にもタイムリミットが訪れる。脳を焼くような激痛に耐えかね、彼は涙ながらに②を確定させた。
「……ッ、すまねえ釘崎さん!!」
「は? アンタ何言って――」
次の瞬間、有沢の体は物理法則を完全に無視した挙動を見せた。 彼はトップスピードで釘崎へと肉薄すると、彼女の右肩にガッ、と足をかける。
「ちょっとぉ!? 何してんのよテメェ!!」
「必殺……『人間・超電磁レールガン』ッ!!」
有沢は叫んだ。叫ばされた。
釘崎の肩を力一杯蹴り上げた反動(踏み台にされた釘崎は「グェッ」とカエルのような声を上げた)を利用し、有沢の体は水平姿勢のまま、文字通り音速のミサイルとなって射出された。
「あべしっ!!」
ドォォォォォン!!!
有沢の頭頂部が呪霊の腹部にクリーンヒット。特級クラスの呪いをも貫きそうな勢いのまま、彼は呪霊を巻き込んで背後の壁へと激突した。
バリバリバリ! と凄まじい破壊音と共に、分厚いコンクリートの壁が粉砕される。
もうもうと立ち込める塵煙。その先には、壁に大穴を開け、バラバラに霧散した呪霊の残骸の中に、逆さまになって埋まっている有沢の姿があった。
有沢が血を流しながら、虚空を見つめて呟く。 だが、彼が本当に恐れるべきは、消滅した呪霊ではなかった。
「……テメェ………………」
背後から、大地の底から響くような、怨念に満ちた声が聞こえる。
ゆっくりと振り返ると、そこには肩を土足で蹴られ、お気に入りのセットアップに泥をつけられた釘崎野薔薇が、般若のような形相で立っていた。
「私の……肩を……踏み台にしたわね……? おまけに……『人間レールガン』……?」
「あ、いや、これはあの、不可抗力……物理現象の気まぐれというか……」
「死ねぇぇぇえええ!!!」
その後の六本木廃ビルには、呪霊の叫び声よりも遥かに恐ろしい有沢の悲鳴と、釘崎が打ち込む五寸釘の「カーン! カーン!」という景気の良い音が、街に響き渡ったという。