俺の脳内選択肢が、呪術師としての尊厳を全力で破壊してくる   作:シモケンサンバ

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生得領域でジェンガやったことある?

「ハァ……ハァ……虎杖、もういい、逃げろ……」

 

 

有沢の肉体は、とっくに限界の向こう側へと家出していた。

特級の呪圧を受けながらの全力ダンスは、内臓が裏返るような苦痛を伴う。 その時、遠くで伏黒の合図が響いた。

 

 

「――来た。有沢、あとは任せろ」

 

 

虎杖が静かに目を閉じる。 次の瞬間、空気が凍りついた。

いや、空間そのものが「王」の絶対的な支配下に置かれたのだ。 虎杖の体に黒い紋様が奔り、邪悪で圧倒的な威圧感――両面宿儺が、現世にその爪を立てた。

 

 

「忌々しい小僧だ――」

 

 

宿儺が周囲を睥睨した、その目と鼻の先。 自分に指を食わせた「あーん」のガキ――有沢が、まだ踊っていた。

 

 

「…………貴様か」

 

 

宿儺の顔から感情が消えた。 目の前では、さっきまで威張っていた特級呪霊が「王」の気配に震え上がり、その横では、有沢が「夫婦を超えてゆけー♪」のポーズを、涙目で完璧にこなしている。

 

「待て宿儺……さん! 誤解です! これは俺の意思じゃない、呪いなんです! ……あ、ヤバい、最後のキメポーズに入る! うわあああああ!!」

 

 

有沢の指先が、宿儺の鼻先をかすめて華麗に決まる。 宿儺は不快さの極致といった表情で、有沢を一瞥した。

 

宿儺は、もはや怒りを通り越して、道端の奇妙な虫を見るようなゴミを見るような、なんとも言えない表情で有沢を一瞥した。

 

「不愉快だ。死ね」

 

宿儺が指先を動かそうとした瞬間、有沢はダンスの終了と同時に糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。

 

「……終わった……終わりました……宿儺さん!」

 

 

「興が削げた。そこで震えている出来損ない(呪霊)からだ貴様は最後だ、存分に絶望しておけ」

 

 

宿儺は苛立ちをぶつけるように、指先一つで特級呪霊を肉片へと解体した。 血飛沫が舞い、生得領域がガラガラと音を立てて崩落し、景色は元の少年院へと戻っていく

 

 

雨の中、泥まみれで横たわる有沢を見下ろし、宿儺は残酷な笑みを浮かべた。

 

 

「貴様のその奇行……次に俺の前でやれば、その四肢をバラバラにしてから踊らせてやる。精々、もがくがいい」

 

 

宿儺の言葉が、雨音に消えていく。 有沢は、虎杖が守り抜いた自分の命の重さと、これからも続くであろう不条理な選択の日々に、ただ震えることしかできなかった。

 

*

*

どこまでも続く、赤黒い血の海。そして、見渡す限りに積み上げられた牛の頭蓋骨。 都立呪術高専の解剖室で息を引き取った虎杖悠仁は、その禍々しい光景の中に立っていた。

 

「……ここは?」

 

「俺の生得領域だ。いわば心の中だな」

 

頭上から響く、傲岸不遜な声。骨の山を積み上げた巨大な玉座の頂に、両面宿儺が頬杖をついて座っていた。

 

「ケヒッ、感謝しろ。俺たちが完全に死ぬ前に、条件付きで怪我を治してやるという話だ。……ん?」

 

宿儺が虎杖に「縛り」――『契闊(けいかつ)』の提案を持ちかけようとした、その時だった。

 

「……う、うう……。冷てぇ……血の海って、生臭いし、なんか鉄分多すぎて肌が荒れそう……」

 

骨の山の麓から、場違いなほど情けない声が聞こえた。 宿儺が眉をひそめて視線を落とすと、そこには魂だけの存在となり、半透明になった有沢が這いつくばっていた。

 

「……。貴様、死してなお俺の前に現れるか」

 

「す、宿儺さん……! いや、俺だって来たくて来たんじゃ……ひぎゃああああ!?」

 

有沢が叫び声を上げた。 死後の精神世界にすら、あの忌々しい「呪い」は追ってきたのだ。脳髄を直接針で刺されるような激痛と共に、空中に禍々しい選択肢が浮かび上がる。

 

【選べ】

(もう勘弁してくれ! ここは呪いの王のプライベートゾーンだぞ!? 殺される、今度こそ魂ごとデリートされる!!!!)

 

① 宿儺の膝の上に座り、「パパ、お話聞かせて♡」と甘える。

② 宿儺が座っている骨の山から、構造的に最も重要な一本を抜き取り、全力で「ジェンガ」を仕掛ける。

 

(①は死ぬより恥ずかしい! それに宿儺の膝になんて座ったら、座った瞬間に細切れにされる! ②だ……②なら、ワンチャン物理現象として処理されるはずだ!!)

 

有沢は決死の覚悟で②を選択した。

 

「――おい、小僧。話を聞け。俺が『契闊』と唱えたら、一分間肉体を――」

 

宿儺が、千年の威厳を込めて「縛り」の条件を口にしようとした瞬間。

 

「……これだあああああっ!!」

 

有沢が猛然とダッシュした。彼は宿儺が座る巨大な骨の山の最下部、全体を支えている「これ抜いたら全部終わるよね」という太い大腿骨に両手をかける。

 

「なっ……!? 貴様、何を――」

「おらあああああ!!」

 

有沢が渾身の力でその一本を「シュッ」と引き抜いた。瞬間。

 

ガシャアアアアアン!!

 

完璧なバランスを保っていたはずの骨の玉座が、たった一本の欠損によって連鎖的に崩落を開始した。 頂点に座っていた宿儺は、「おわっ!?」と一瞬だけ王らしからぬ声を上げ、崩れる骨の山と共に血の海へと無様に転落した。

 

ピチャーン……。 シンとした空間に、水滴の落ちるような間の抜けた音が響く。

 

「……プッ、アハハハハハハ!! ざまぁねえな宿儺!!」

 

虎杖が腹を抱えて爆笑した。 一方、血の海からゆっくりと這い上がってきた宿儺の顔は、これまでの人生で一度も見せたことがないほど、怒りと困惑と屈辱で般若のように染まっていた。

 

「……有……沢……!! 貴様だけは、貴様だけは絶対に……!!」

 

「ごめんなさい! 構造的にそこが一番抜きやすかったんです!! 構造上の欠陥ですってこれ!」

 

有沢は半泣きで逃げ回るが、この精神世界において有沢の奇行は「因果の強制」として働いた。 宿儺がどれほど殺意を向けても、有沢が「選択肢」を完遂した直後は、なぜか滑って転んだり、次の骨が崩れてきたりして、決定的なトドメが刺せないのであった。

 

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