俺の脳内選択肢が、呪術師としての尊厳を全力で破壊してくる 作:シモケンサンバ
結局、宿儺は苛立ちのあまり、当初予定していた「この縛りを忘れること」という条件を言い放つ際、怒りで少し噛んでしまった。
「いいか、小僧……。一つ、俺が『契闊』と唱えたら……(中略)……そして、この契約を……有沢……いや、小僧! 貴様は忘れるものとする!」
「え、今、有沢の名前混ざらなかった?」
「黙れ!!」
宿儺は荒々しく虎杖の胸を貫き、無理やり契約を成立させた。 有沢の不条理な介入により、宿儺の完璧な計画には、本人が気づかぬほどの小さな「ノイズ」が混入することとなった。
こうして、虎杖悠仁は蘇生した。 その横では、精神的に完全に擦り切れた有沢が、解剖台から「あ、もう無理……」と力なく転げ落ち、床と熱烈なキスを交わしていた。
「……悠仁、おかえり。あと有沢、床は冷たいから起きようか」
「ただいま、五条先生!!……それと有沢、お前あの世でも最高だったぜ」
五条悟の「お帰り」という言葉に混じって、虎杖の言葉が、有沢の心に深く(そして痛く)突き刺さるのだった。
*
*
英集少年院での惨劇の後、都立呪術高専の解剖室。 白い布がかけられた二つの台を前に、伊地知潔高は沈痛な面持ちで立っていた。
「……虎杖くんと、有沢くんです。救えませんでした。特に有沢くんの方は……死因が『過度な社会的ストレスによるショック死』という、呪術師として前代未聞の最期で……」
伏黒恵と釘崎野薔薇の前に提示された、非情な現実。 特級呪霊との死闘により出血死した虎杖。そして、特級の呪圧に当てられ、精神の摩耗と過呼吸の末に心肺停止に陥った有沢(※実際は選択肢による極度のストレス)。
「……そう、あいつら、死んだの。……バカね、一人は指を食うし、もう一人はこんな時まで変なポーズして……」
釘崎は顔を背け、震える声で絞り出す。伏黒はただ黙って、自分の無力さを噛み締めるように拳を握りしめていた。同期四人のうち、二人が欠けた。一年生の心には、癒えない傷が刻まれた――。
……はずだった。
「いやぁ、死んだふりさせるのも一苦労だったよ! 硝子も協力してくれて助かった〜」
解剖室の奥、隠し部屋。 そこには、さっきまで遺体安置台で寝ていたはずの虎杖と有沢が、カップラーメンを啜りながら座っていた。
「五条先生! 俺たち、いつまで死んだことになってりゃいいんですか? あとこのラーメン、伸びてます!」
「伏黒と釘崎のあの暗い顔……俺、今すぐ『ドッキリ大成功!』の看板持って飛び出したいんですけど。じゃないと俺の心が先に祓われます」
「ダメだよ。上層部に悠仁が生きてるって知られたら、またすぐ狙われちゃうからね」
五条悟は、まるでお昼のメニューを決めるような軽さで続けた。
「それに、悠仁を始末するついでに有沢も『あ、ついでにこいつもいたから消しとこ』くらいの軽いノリで、サクッと巻き添えにされちゃうだろうしね。 理由なんて『そこにいたから』で十分成立しちゃうのが、あいつら老害の怖いところだよ〜」
「理由が雑すぎる!! 俺、そんなセット販売のポテトみたいな扱いで死ぬんですか!?」
有沢は絶望のあまり震え上がった。
五条悟はニヤリと笑い、二人の肩を叩いた。
「というわけで! 交流会までの間、君たち二人には僕の特別メニューで『秘密の特訓』をしてもらいまーす!」
*
*
地下の隠れ家で始まった特訓。 虎杖は「呪力制御」のために映画を観続け、少しでも感情が乱れれば隣の呪骸(人形)に殴られるという修行。
有沢もその横で、「虎杖が殴られた衝撃で壁を壊さないようにクッションを敷く」という、もはや何の修行か分からない雑務をこなしていた。
「なぁ有沢、この映画、めっちゃ感動す……痛っ!! 待てよ、今のは感動して呪力が漏れただけだろ! 殴るなよ!」
「虎杖、集中しろ。俺なんて、さっきから画面の隅に『選択肢』の影がチラついて、映画の内容が『全米が泣いた』から『全俺が死んだ』に上書きされてんだよ……」
有沢がガタガタと震えながら呟いた、その時。 視界が歪み、感動的なラストシーンを遮るように禍々しいフォントが出現した。
【選べ】
(来た……! 特訓中だろうが何だろうが、こいつは容赦ねえ!)
① 呪骸を抱えている虎杖に、背後から「膝カックン」を仕掛ける。
② 映画のクライマックスの感動的なシーンで、五条悟の耳元で「それ、私の家で昨日起きた実話です」と涙ながらに嘘をつく。
(②は五条先生に『へぇ〜』とか適当に返されて終わりだ!そんなつまらない嘘で先生からの評価を下げ、ただでさえ低い自分の生存優先順位を『セットのポテト』から『食べ残しのパセリ』にまで落とすわけにはいかない!)
有沢の思考は、もはや保身のために光速を超えた。
(ならば①だ!ここで虎杖を鮮やかに犠牲にすれば、先生の中での俺の評価は『面白いおもちゃ』としてキープされる!先生のお気に入り(娯楽)でいることこそが、上層部から守ってもらう唯一の道なんだ!すまねえ虎杖、俺の社会的地位と命のために、その膝を差し出してくれ!!)
「許せ、虎杖ッ!!」 「えっ、わっ!? ちょっ、有沢、何すんだよ!?」
有沢の完璧な膝カックンにより、バランスを崩した虎杖。抱えられていた呪骸は「集中力が切れた」と判断し、虎杖と有沢を二人まとめて部屋の隅まで殴り飛ばした。
「ハハハ! 仲が良いねぇ」
五条はポップコーンを食べながら笑っていた。 有沢の「絶対選択肢」は、もはや特訓の難易度を「運要素」という名の絶望で跳ね上げる、呪術高専史上最も迷惑なギミックとして定着しつつあった。