俺の脳内選択肢が、呪術師としての尊厳を全力で破壊してくる 作:シモケンサンバ
修行開始から数日後。五条は「今日は夜景の綺麗な峠までドライブに行こうか!」と、遠足に向かう幼稚園児のようなテンションで、虎杖と有沢の二人を連れ出した。
「先生、俺、ドライブって聞いてたのに、なんでずっと全力疾走で並走させられてるんですか!?」
「悠仁、これは足腰の修行だよ! 有沢なんて、もう三回くらい魂が口から出てるけど、ちゃんと並走できてるよ!」
有沢は返事をする余裕すらなく、意識は半分ほどあの世に足を突っ込んでいた。
そこには、特級呪霊・漏瑚が待ち構えていた。
「今日は『領域展開』の授業をしまーす!」
「……五条悟。その子供らは何だ。盾にするつもりか?」
「失礼だな。これは『見学』だよ。君みたいな『中の中』くらいの呪霊なら、教材に丁度いいと思ってね」
五条の言葉に、漏瑚の頭の富士山が噴火した。
「貴様、塵も残さず焼き尽くしてくれるわ!! 領域展開、『蓋棺鉄囲山(がいかんてっちざん)』!!」
一瞬にして、三人は硫黄の臭いと熱風が渦巻く火山の内部へと閉じ込められた。
「あちちち!! 何だこれ、本物のマグマかよ!?」
「悠仁、有沢、落ち着いて。これが呪術の極致、『領域展開』だよ。必勝の必中、いわばこの中はアイツの勝ち確ゲーってわけ」
五条が悠々と解説を始めようとしたその瞬間、熱波に煽られた有沢の脳内で、マグマよりも熱い激痛が走った。
【選べ】
(この熱気! この殺意! なのに……なんでこのクソシステムは、いつも『空気』を読み間違えるんだよ!!)
① 漏瑚の頭の火山部分にマシュマロをかざし、「キツネ色に焦げ目がつくまで待っててね」と優しく微笑む。
② この領域を「地獄の露天風呂」だと思い込み、その場で音速の脱衣(下着死守)を完遂。「いい湯だな」を熱唱する。
(①は死ぬ! 近づいた瞬間に、俺がミディアムレアを通り越してウェルダン(炭)になる!! 消去法だ、消去法で『社会的な死』を選ぶしかないんだあああ!!)
「……脱げばいいんだろ、脱げば!!」
有沢は極限のストレスで理性が完全崩壊し、猛烈な勢いで制服を脱ぎ散らかした。その脱衣速度は、呪術師としての成長よりも遥かに速く、残像すら見えるほどだった。
「……は?」
漏瑚の動きがピタリと止まった。自身の必勝の領域内で、一人の少年が全裸に近い姿(※下着死守)になり、マグマのほとりで「いい湯だな♪」と、魂を削るような歌声を響かせている。
「…………こいつは、何だ? 狂っているのか?」
有沢は魂を削るような、しかし妙に艶のある歌声を響かせながら、エア手ぬぐいで頭を叩くポーズを決めた。
「彼は常に『縛り』を背負って生きてるんだ。面白いだろう?」
五条はこの隙――漏瑚の意識が「あまりの不審者に0.1秒ほど釘付けになった瞬間」を見逃さなかった。
「お返しだよ。領域展開、『無量空処(むりょうくうしょ)』」
宇宙の深淵が漏瑚の火山を塗りつぶす。情報が完結せず、何もかもが止まる世界。 漏瑚が情報の奔流に飲まれてフリーズする中、有沢もまた、全裸に近い姿でフリーズした。
結局、漏瑚は首だけにされたが、花御の介入により逃走に成功した。 領域が解け、夜の森に戻った時、有沢は湿った地面に這いつくばって、滝のような涙を流していた。
「……悠仁。俺、もう決めた。交流会には出ない。このまま、この森の精霊としてひっそり暮らすよ……」
「気にするなよ有沢! 凄かったぜ、あの歌!」
五条悟は地面に落ちていた有沢の制服を拾い上げ、笑いながら二人の肩を叩いた。
「ハハハ! 二人とも、これで『頂点』は分かっただろう?有沢は今回、僕の領域の中で『全裸で情報の奔流を受ける』っていう、呪術史上初の偉業を成し遂げたわけだしね。自信を持ちなよ!」
「 交流会まで、さらにビシバシ鍛えてあげるからね!」
五条の言葉に、虎杖は目を輝かせて「領域展開、俺もやりてぇ!」と叫び、有沢は静かに余生をどこで過ごすか考え始めた。
「死んだ」ことになっている二人が、驚異的な成長の果てに仲間たちの前に姿を現すまで、あとわずか。
交流会という名の「ドッキリお披露目会」の火蓋は、今、不条理に切って落とされたのである。