リジェネレイト・トリップ~アルのゼンゼロ旅行記~ 作:自由山明
一話は時系列的には特別劇場「虚ろに潜む報復劇」の少し前です。
作者はゼンゼロをサービス開始からプレイしているため、キャラの矛盾などは少ないかと思います。
「……マスター、小型のワームホールを確認しました」
相棒のAIであるアイザの優しいながらも無機質な声で目を覚ます。
「うぅん? どれどれ……なるほど、これは先に何かありそうだけど、この宇宙戦艦じゃあ通れなさそうだね。……よし、ちょっと探検してくるよ。アイザはここに残って宇宙戦艦の管理をしといて」
「了解しました。ワームホールの先には何があるかはわかりません。くれぐれもお気お付けください」
宇宙戦艦の上部ハッチから発艦し、不気味な色のワームホールに入る。
その刹那、視界に飛び込んできたのは、赤い警告ログの数々だった。
『警告:未知の異常を検知』 『警告:本国、およびアイザとの接続途絶』『警告:本国との接続が切れたため強制シャットダウンを実行』
そうして、僕の意識は強制的に闇に消えていく……。
その後はいくら時が流れたかはわからない。
ようやく意識が戻り、重い瞼を押し上げると、 空には、すべてを飲み込もうとするかのような漆黒の巨大な「穴」が口を開けている。周囲には、重力を無視して宙に浮くコンクリートの残骸と、紫色の不気味な光を放つ結晶体。
「ここは……どこだ?」
僕はふらつく体で立ち上がり、体に着いた汚れを払う。
「僕の名前は……アルティマ・リジェネレイト・ライガー。種族はアンドロイド。ここに墜落している理由は……思い出せない……」
渋い顔をしながらも周囲を索敵する。
アンドロイドとしての基本的なセンサーは生きているみたいだ。
――ザッ。
何かが、瓦礫の陰からこちらを覗いている。 それは、僕が知る地球の生物よりもずっと歪で、無機質な殺意を孕んだ存在だった。
アルティマは、腰に差したままだった二本のナイフ『雷光』に手をかけた。 記憶を喪失しているが、瞳には旅人としての輝きと期待が映る。
「前は何か遠距離攻撃が出来た気がするけど……思い出せない以上物理で戦うまで……よし、やるか」
アンドロイドの驚異的な演算速度で敵の攻撃機動を導き出し、蝶のように避ける。
その傍ら、敵の構造を解析し、弱点を見つける。
最初に攻撃してきた黒と黄緑のコントラストがどこか奇麗な敵に向かい反撃の刃を叩き込み、弱点と思しき頭の丸い部分を破壊した。
敵が何かの粒子となって崩れ去る。
周りにいるのは……ざっと百体か、おそらく弱体化している僕だけど、装甲は元のまま……壊れはしない、やってやる!
◇◇◇
一方そのころ、対ホロウ六課の面々は零号ホロウを探索していた。
周囲にはなぜか目標の高危険度エーテリアスがおらず、道中は平和そのものだ。
「柳、ここには目標はいないみたいだ。エーテル濃度の高い所に移動するぞ」
「はい、課長」
「蒼角お腹すいた~! 休憩しよ、きゅ~け~」
「本当にその高危険度エーテリアスとやらはいるんですか~? ……まあ、ここまで何もいないのは明らかにおかしいですが……」
そうして一行は、エーテル濃度の高い地点へと向かう。
その先で見たものは……。
「む、あれは……人か?」
「課長、あれが私たちの追っていた高危険度エーテリアス『トラキアン』です!」
「あのトラキアン、ボロボロじゃないですか、僕たちの出る幕はなさそうですね」
「あの人の動きすご~い! まるでかちょーみたい!」
彼は地面を蹴り、コンクリートを砕きながらトラキアンに肉薄、エーテルの粒子が鮮血の如く飛び散る。
四者と一機が彼の戦闘に目を奪われる中、星見雅が警戒しながら六課のメンバーに告げる。
「皆、コッソリ近付くぞ。警戒を緩めるな、私の勘が言っている、奴は強いと」
「課長がそこまで言いますか。じゃあ、僕もちょこっと本気を出しましょうかね」
そして六課が近づこうとした時、トラキアンが力尽き、赤黒い軍服の少年がその白髪をたなびかせながら、双眸を一瞬六課の面々に向ける。
「……ッ! 課長、気付かれました!」
「あぁ、分かっている。こうなったら堂々と近付くぞ」
「よかった~、蒼角おんみつこうどう? が苦手なんだよね~」
「奴さん、動く気配がないね。まるでこっちを待っているみたいだ」
そうして、対ホロウ六課とプロキシ、そしてアルティマの奇妙な出会いが始まるのだった。
◇◇◇
……目標の撃破を確認、そしてこちらに近付いてくる生命体が四、機械が一。
そのうち一人は現在の僕よりも強そうだ。
場合によっては逃げることも視野に入れないと……。
そんなことを思いながら気を抜かずに、しかし戦闘の意志がないことを暗に告げるため、雷光をカチッと音を立てながら鞘にしまう。
「貴様、何者だ。名を名乗れ」
「……僕の名前はアルティマ、アルティマ・ライガー」
「アルティマ・ライガー……聞いたことのない名前ですね。新エリー都の登録名簿にも、知能機械の製造ロットにも、その名は見当たりませんよ」
薙刀を持った女性がそう言った後、狐耳の少女は刀の柄に手をかけたまま、数歩の距離まで間を詰めた。彼女の鋭い双眸が、僕の全身をスキャンするように観察する。
◇
「……課長、見てください。彼の心拍、呼吸……いえ、そもそも生体反応がまるでありません」
先ほど喋った女性が手元の端末を叩きながら、信じられないものを見るような声を上げた。
……しまった、偽装呼吸と偽装生体反応を出すのすっかり忘れていた。
「へぇ、熱も出さなきゃ音もしない。おまけにあのトラキアンを一人で片付ける強さ……。君、どこの最新モデルだい? もしかして、秘密裏に開発された軍用機とか?」
青年が弓を肩に担ぎ、飄々とした口調で問いかける。だが、その目は笑っていない。
僕は彼らの言葉を頭の中で反芻した。
――最新モデル、軍用機、どれも自分を指す言葉としてはどこかズレている気がしたけど、記憶の霧がそれを明確に否定させてくれない。
「僕……種族はアンドロイド、多分軍用機だった気がする」
「もしかして記憶しょーがいってやつ? 大変! エーテル浸食が進んでいる証拠だよ!」
「しかし……彼からはエーテル浸食の痕跡が一切ありませんね。健康そのものです」
「……僕は、ただの旅人だよ。少なくとも、以前はそうだった気がする……そう言えば偽装呼吸と偽装生体反応を出すのを忘れていた。付けるか」
僕は、自嘲気味にそう言った。
偽装生体反応を起動し忘れるという初歩的なミス、記憶を失っているとはいえ、アンドロイドとしての根幹部分が十全ではないことを痛感する。
遅まきながら設定を換え、肺があるかのような一定の呼吸リズムと、人工的に生成した微弱な心拍を機体表面に流し始めた。
「……む? いま、確かに心音が発生したな」
狐耳の女性が眉をひそめる。彼女の直感は、僕が施した偽装すらも見抜こうとしていた。
「思い出せないんだ。気づいたらここにいて、名前以外は……霧の中だ。君たちが言う『最新モデル』っていうのが何のことかは分からないけど、僕がこの街の人間じゃないことだけは確かだね」
「思い出せない、か。なるほど、兎にも角にも貴様の身柄は一旦この対ホロウ六課で預かる必要がありそうだな」
うーん、ここは信用を得るためにも一旦言われた通りにするか。
見たところこの人は悪い人じゃあなさそうだし。
それに何かあったら逃げ出せばいいしね。
「分かった。今の僕には行く当てもないし、君たちに従うよ」
僕が軽く両手を挙げて降参の意を示すと、場を支配していたヒリつくような殺気がわずかに和らいだ。
「物分かりが良くて助かるよ。僕は浅羽悠真。そっちの怖そうな狐耳美人が僕らの課長、星見雅様だ。このピンク髪のお姉さんが月城柳、そしてこの角の生えた子が蒼格ちゃんだ。よろしくね、アル君」
「よろしくお願いします。浅羽さん」
浅羽さんが弓を肩に担ぎ直し、軽薄とも取れる明るい調子で歩み寄ってくる。しかし、その視線は僕の腰にある『雷光』から一瞬たりとも外れていない。
「……悠真、軽口を叩くな。柳、この個体の拘束……いや、護送の準備を」
「はい、課長」
月城さんが端末を操作し、携帯型の拘束用エーテルフィールドを展開する。
とはいえ、それは完全な拘束ではなく、あくまで“逃走防止”を目的とした緩いものだ。
「抵抗の意思がない協力的な対象ですし、最低限でいきましょう。……アルティマさん、歩けますか?」
「問題ないよ。……それ、効いているの?」
薄く光るフィールドを指で軽く弾くと、ピン、と乾いた音がしただけで、僕の動きは何一つ阻害されていない。
「……想定より出力を上げますね」
「あ、いや、上げなくていい。歩くって言ったでしょ」
慌てて手を引っ込める僕に、彼女は一瞬だけ困惑したような表情を浮かべた。
「よーし、じゃあ帰ろ帰ろー! 蒼角もう限界! お腹と背中がくっつきそう~」
「ああ、そうだな。あまり時間を食うのも非効率だ。……行くぞ」
星見さんが身を翻し、ホロウの出口へと歩き出す。
その後ろを、僕を囲むようにして月城さん、浅羽さん、そして空腹でふらついている蒼角さんが続いた。
道中、僕は周囲の景色を観察していた。
宙に浮く瓦礫、不気味な結晶体。それらはすべて、僕が知らないものだ。
ホロウの外へ出ると、そこには巨大な軍事施設のような外観の拠点が構えられていた。
僕は清潔で無機質な調査室へと案内される。壁は強化防弾ガラスとエーテル遮断材で覆われていた。
「さて、アルティマさん。まずはあなたの身体組成を調べさせてもらいます。服の上からで構いません、このスキャン台に立ってください」
柳がテキパキと精密スキャン装置を起動させる。
僕が台に乗ると、青いレーザーが彼の全身を舐めるように走った。
しかし、次の瞬間、月城さんの端末から激しい警告音が鳴り響く。
「……えっ? どうしたんですか?」
背後で見守っていた浅羽さんが、柳の青ざめた顔を見て覗き込む。
「信じられない……。スキャンデータが、何一つ返ってこないんです。表面の質感までは追えるのに、その内側の構造が……まるでブラックホールのようにすべての電磁波を吸収している……」
「吸収? ステルス機能ってこと?」
「いえ、もっと異常です。……それに見てください、この装甲の硬度。測定不能です。私たちの持っている最高出力のレーザーカッターでも、傷一つ付かない可能性がありますよ、これ」
星見さんがその報告を聞き、眉を寄せながら僕に近づいた。
「貴様……。自分を軍用機と言ったな。どこの国の、どのような技術で作られたものだ」
あまりの威圧感に僕はタジタジになってしまう。
「しかも……これはエーテル波形じゃない? いえ、そもそもエネルギーの定義自体が私たちの知るものとは根本的に違います。これは……? ……あ、データを一部抽出できました」
すると、僕の記憶領域の断片が、点描画のような不鮮明な映像として浮かび上がっていた。
そこには、微笑む――あるいはそう見えるほど優しげな発光を見せる――女性型のインターフェースが映っていた。