リジェネレイト・トリップ~アルのゼンゼロ旅行記~   作:自由山明

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1章4話 六分街での日常

 翌日、暖かな日差しのもと六分街を散歩する。

 新エリー都での日常が、少しずつ僕の新しい記憶として刻まれていく。

 

 午前は六分街のコーヒー店でティンさんからカフェオレを入れてもらい、ゆったりとくつろぐ。

 ティンさんが丁寧に淹れてくれたカフェオレは、ミルクのまろやかさとコーヒーの香ばしさが絶妙な層を成しており、手渡されたカップからは柔らかな湯気が立ち上っている。

 

「……ふぅ。美味しい」

 

  僕はテラス席の椅子に深く腰掛け、一口含んだ。

 熱い液体が喉を通るたびに、ホロウでの激戦で高駆動状態だった冷却システムが、ようやく平時のリズムへと落ち着いていくのを感じる。

 

「おや、アルティマさん。今日は一段と充実したお顔をされていますね」

 

  カウンター越しにティンさんが穏やかな声をかけてくる。

 

「はい、昨日は仕事をこなしてきました。……この街には、本当に色々な人がいますね」

 

「左様でございますか。この六分街は、新エリー都の縮図のような場所。出会いこそが、何よりのスパイスになりますから」

 

 ティンさんの言葉に頷き、コーヒーを飲み進め、すべて飲み干した。

 ディニーを支払い、次はエイファさんのお店に向かう。

 

 エイファさんの店の前に立つと、色とりどりの商品が並ぶ賑やかな棚と、店主である彼女の明るい声が迎えてくれた。

 

「あら? アルティマ君、今日も買い物かしら?」

 

 エイファさんは棚の整理をしながら、親しみやすい笑顔を向けてくる。

 

「そうですね、個人的に何かいいものがないか探したくて」

 

 頼まれたものを小脇に抱え、自分の好きな曲を探す。

 

「あ、この曲いい、エイファさん、これください」

 

「はい、アストラ・ヤオさんの『原色』ですね」

 

 買った曲を早速インプットし、聞きながらおもちゃ店に向かう。

 

 おもちゃ店の自動ドアが開くと、電子音のメロディと、所狭しと並べられたフィギュアや精密パーツの独特な匂いが僕のセンサーを刺激した。

 

「いらっしゃい、アルティマ君! 今日は何を買っていく?」

 

 店員のスージーさんが、元気に出迎えてくれる。

 

「こんにちは、スージーさん。今日は何か自分に合った音動機のパーツがないかと思って」

 

 最近音動機作りをはじめたんだよな~。

 もうすぐで自分専用の音動機が出来そうだから感性が楽しみだ!

 

「お、良いパーツがあった! すみません、これください!」

 

「は~い、また来てね、今度も新作が入荷していると思うから!」

 

 最後に雑貨店でおいしそうなジュースを買って、自室に帰る。

 

「ふー、今日も平和だったな~。さて、音動機音動機~!」

 

 僕の趣味の一つであるものづくりを始める。

 数時間後、この世界に来てからたくさんの時間をかけて作成してきた自信作の音動機が完成した。

 

「出来た~! 名前は……この世界での旅の始まりを記録してあるから……『ジェネシス・コア』」

 

 この音動機は旅路を記録する他、僕のコアのエネルギーを限定的に使えるようにするための機能を持っている。

 

 これを使う事で、無重力を発生させて疑似的に飛んだりシールドを発生させたり、空中投影型のディスプレイが表示出来て、携帯端末としての機能も使うことができるようになった。

 隠し機能もあるが危険だから使うことがないことを祈ろう。

 音動機は作り終わったし、今度は武器でも作ってみるか。

 おっと、もう遅い時間だしスリープモードに入らないとな。

 

 翌朝、目が覚めると同時に僕は「ジェネシス・コア」を起動し、そのコンディションをチェックした。 空間に浮かぶ半透明のインターフェース、そこには僕のコアの出力と同期した安定した波形が表示されている。

 

「……よし、完璧だ。これで万が一の事態になっても、仲間の足を引っ張らずに済む」

 

 窓から差し込む光を反射する赤黒い球体——ジェネシス・コア。これがあれば、以前のような地上戦だけでなく、三次元的な機動も可能になる。

 スリープモードに入り休んでいると、突然深夜に柳さんから連絡が来た。

 

『今すぐデッドエンドホロウの書定位置に来てください! 細かい所はあとで話します!』

 

 急いでデッドエンドホロウに向かうと、中には霧のようなものが辺り一面に立ち込めていた。

 

 霧の向こうから、抜刀したままの星見雅さんが姿を現した。

 彼女の周囲には、すでに沈黙したエーテリアスの残骸が転がっている。

 

「星見さん、状況は?」

 

「最悪だ。奥の裂け目から絶え間なく増援が湧き出している状態だ。悠真と蒼角が食い止めているが、それも時間の問題だろう」

 

 その時、通路の奥で大きな爆発音がした。

 

「ああもう! 数が多すぎるよ! 課長、早く代わってくれませんかね!」

 

「蒼角もお腹すいちゃった~! 力が出ない~!」

 

 悠真さんと蒼角さんの悲鳴に近い声が聞こえる。

 

「……アルティマ、お前の新しい『力』、見せてもらうぞ」

 

 星見さんが僕の音動機を見て、不敵に口角を上げた。

 

「了解。——ジェネシス・コア、出力三十%。重力コントロール起動!」

 

 僕が命じると、背後に浮遊していたコアが眩い光を放ち、周囲の重力を操作する。

 

 身体が羽のように軽くなる。僕は地面を蹴るのではなく、空間を「滑る」ようにして最前線へと飛び出した。

 

「うおっ!? アル君、飛んでる!?」

 

 悠真さんの驚きを背に、僕は群がるエーテリアスの頭上を自在に舞った。

 僕は空中から攻撃し、一閃。 一太刀で十体以上のエーテリアスを粒子へと変え、そのまま無重力移動で次の標的へと肉薄する。

 

「すごい……。以前の模擬戦の時よりも、格段に速くなっている……」

 

 月城さんが驚嘆の声を漏らしながら、自身の薙刀で漏れた敵を仕留めていく。

 

「ははっ! これなら僕も楽ができるね!」

 

 悠真さんが弓を引き、僕が空中に打ち上げた敵を次々と射抜いていく。

 蒼角さんも「アル君すごい!  蒼角も負けないぞ~!」と、奮闘する。

 

 しかし、ホロウの亀裂からは、さらに巨大な個体——「ファールバウディ」が複数姿を現した。

 全身を硬質の結晶で覆ったエーテリアスだ。

 

「あれは……普通の攻撃じゃ傷つかないですよ!」

 

 柳さんが叫ぶ。

 

「……僕が、道を切り拓きます」

 

 僕はジェネシス・コアに全エネルギーを集中させた。

 

「ジェネシス・コア、出力五十%!」

 

 僕の身体は光の矢となり、ファールバウディのコアへと一直線に突き進む。

 

 重力により加速した一撃はファールバウディが掲げた大きな腕ごと切り裂き、コアを破壊する。

 轟音と共に、巨大なエーテリアスが内側から崩壊していく。 それに連動するように、周囲の霧が晴れ、裂け目がゆっくりと閉じていった。

 

「……ふぅ。任務完了、ですね」

 

 僕はジェネシス・コアを待機モードに戻し、ゆっくりと着地した。

 ジェネシスコアの駆動系が熱を持っているが、不快な熱さではない。

 

「見事だ。アルティマ、お前はもう立派な六課の戦力だな」

 

 星見さんが歩み寄り、僕の肩をポンと叩いた。

 その顔には、今までで一番はっきりとした信頼の笑みが浮かんでいた。

 

「あー、疲れた! アル君、今のすごかったじゃん! 録画しておけばよかったな~、プロキシの二人に自慢できたのに」

 

 悠真さんが伸びをしながら笑い、蒼角さんは……。

 

「お腹ペコペコ! 今日のボーナスで、何かいーっぱい食べ物を買ってよ、ナギ姉!」

 

 と月城さんにせがんでいる。

 

「はいはい、わかっていますよ。……アルティマさんも、今日はお疲れ様でした」

 

 月城さんが微笑み、僕たちは夕暮れに染まるルミナ・スクエアの地上へと戻った。

 

 街は、何事もなかったかのように賑わいを取り戻していた。 僕を助けてくれた人たち、僕が守ったこの街。 失った記憶はまだ完全には戻らないけれど、今僕が持っている『ジェネシス・コア』には、アイザへの想いと、この街で得た新しい絆が刻まれている。

 

「……いつか必ず見つけるよ、アイザ。そして、君にこの街を紹介するんだ」

 

 夕闇に溶け込む巨大なホロウを見上げながら、僕は軽やかな足取りで六分街への道を歩き出した。 星の海から来たアンドロイドの物語は、この不思議な街で、さらに色鮮やかに続いていく。

 

 六分街の喧騒を背に、僕は夜風に吹かれながら歩く。

 ふと、自作した音動機ジェネシス・コアが、マスターの思考に反応するように微かな電子音を鳴らした。

 投影されたディスプレイには、今日の戦闘データの解析結果が記録されていた。

 

(アイザ。僕は、君に伝えたいことがたくさんできたよ。この街の味も、この人たちの温かさも、全部……)

 

 深夜、アルティマは自分の部屋のバルコニーに出て、夜空を見上げた。

 新エリー都の空に浮かぶ巨大なホロウの穴は、依然として不気味だ。

 

「ジェネシス・コア、ログ保存」

 

 浮遊するコアが静かに点滅する。

 

「メッセージ……『アイザ、僕は元気だ。素晴らしい仲間に出会った。必ず迎えに行く。待っていて』……送信」

 

 届く保証のないメッセージを、僕は星の海へと放った。

 僕は対ホロウ六課の嘱託職員として、そして相棒を探し続ける一人の旅人としてこの世界で旅を続けている。

 

 翌朝、今日もいつも通りの一日が続くと思ったが、まさか今後のキーパーソンと出会う日になるとは、この時は思ってもいなかった。

 事の発端は星見さんからのノックノックからのメッセージだった。

 

『皆、非番のところ申し訳ない、私の個人的な用事なのだが一緒に郊外のとある場所に行って欲しい。無理にとは言わない、もし来てくれるのだったら正午までに六課のオフィスに来てくれ』

 

 星見さんからの呼び出しとは珍しい、予定は無いし行ってみよう。

 早速バスでHAND本部に向かう。

 オフィスに着くと、すでに星見さんが中で静かに佇んでいた。

 

「……来てくれたか、アルティマ。お前が一着だ。今回の要件については集まってから話す」

 

「わかりました。……黙っているのもなんですし何か話しますか」

 

 星見さんと昨日の戦闘について話していると、月城さんと蒼角さんが数分遅れてきた。

 そして、浅羽さんもぶつくさ言いながらなんやかんや来た。

 

「皆、集まってくれた事感謝する。今回呼び出したのはある知人からの連絡があったからだ」

 

 星見さん曰く、ある人からヴィジョンという企業が起こした事件の犯人である脱走犯パールマンを保護しているという連絡が来たらしい。

 

 星見さんの話によれば、その連絡主は新エリー都の便利屋家業に精通しており、名前はニコ・デマラさんというらしい。

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