リジェネレイト・トリップ~アルのゼンゼロ旅行記~ 作:自由山明
「パールマン……。あのヴィジョンの不祥事の中心人物ですね。治安局だけでなく、多くの勢力が彼の身柄を狙っているはずです」
月城さんが手元の端末で情報を整理しながら、慎重な面持ちで付け加えた。
「ああ。本来なら治安局の管轄だが、連絡主は『信頼できる者にしか渡さない』と言っている。そして、その邪兎屋のニコとは少々……色々あってな」
星見さんの言葉に、浅羽悠真が嫌そうな顔をして肩をすくめる。
「課長の知人で癖が強いって、それもう相当ヤバい人じゃないですか? 僕、お腹痛くなってきちゃったな……」
「悠真、逃がさないぞ~! 蒼角、そのパールマンって人を捕まえたら、おいしいもの食べられるかな?」
「ふふ、食費が出るかは交渉次第ですね」
「今回その知人には申し訳ないが身柄を拘束する。作戦は——」
作戦会議をしてから、僕たちはニコ・デマラさんの手配した猪突猛進と書かれたトラックに乗り、郊外へと向かった。
そして郊外へとつくと……。
「うわ~、ここが郊外か~。すご~い、目はぐるぐるするし、地面はゆらゆら揺れてる~」
うーん、それは酔っているんじゃないかな?
「蒼角、私と一緒に少し休みましょう。こっちに来てください」
蒼角さんは月城さんに任せよう。
「う~ん、このドライバー、運転荒過ぎ……袋、何か袋は……」
浅羽さんもグロッキーなようだ。
どうやら無事なのは僕と星見さんと月城さんだけらしい。
「パールマンを預かる、尋問するからな。アルティマ、少し席を外すぞ」
パールマンさんが連れて行かれ、泣きながらも尋問される。
泣いたりしている理由は考えないでおこう。
小一時間後、尋問を終えた六課のみんなが放心状態のパールマンさんを連れて戻ってきた。
「戻ってきたわね。どう? ヴィジョンの裏には黒幕がいたのよ。それがブリンガー次期総監よ!」
星見さんと因縁があると予測するニコさんが自信満々にそう言う。
すると、月城さんが厳しめの口調でこういった。
「貴方が提供した情報はブリンガー長官が今回の件に関与しているとのことでしたが……パールマン氏が司法取引の結果提供した情報は主犯格が他にいるという事のみです」
ニコさんはそれに対して文句を言う。
「あらあら、説明ありがと。でも、それじゃあこれからどうしたいかが分からないわよ」
「……柳の言う事は専門的で私にはよくわからない。だが、ヴィジョンの件についてはもっと調査がいるだろう」
「……フフ」
月城さんがそう笑うと、ニコさんはキーキー言いながら文句を言いまくる。
それに乗じて六課のみんなが囲もうとするが……。
「そこまでよ」
緑の戦闘服を着た白髪の女性の言葉でそれまでの雰囲気が一変する。
「どうしたのかな~? もしかして副課長が君たちのボスを笑ったのが気に入らなかったのかい?」
浅羽さんが飄々とその場をごまかそうとするが……。
「私は囲む動きをやめろと言ったの。私たちに危害を加える気がないならそう言った行動はしないで、気に入らないわ」
……気付かれたか。
どうやら相当やる人たちらしい。
「へぇ……君、鋭いね……もしかして、そのメカメカしい彼が銃を抜こうとしているのもまぐれじゃあない感じかな?」
「学級委員長みたいな姉ちゃんがその薙刀から手を放したら、俺もそんな真似はしないさ」
場の空気が張り詰め、一気に緊張状態になる。
「……ヴィジョンの件についてはもっと捜査が必要だ。しかし、我らが欲する証人はこのパールマンだけではない」
「え、もしかして、僕かい?」
灰色の髪をした青年が、少しびっくりした様子でそう答える。
……む、こっちに集中していてうっかりレーダーを見ていなかったけど……どうやら武器を持った連中に囲まれているな。
「っく、プロキシごめん、あたしたちが時間稼ぎをするから早く逃げ——」
「みんな、囲まれているよ。気を付けて」
「囲まれている……だと?」
星見さんの鋭い視線が周囲の廃墟へと走る。
「……アルティマさんの言う通りです。熱源反応多数。武装した人間です!」
月城さんが叫ぶとほぼ同時に、周囲の建物や瓦礫の影から、漆黒の戦闘服に身を包んだ集団が姿を現した。
「ニコ、『時間稼ぎ』も必要ないみたい。向こうは全員まとめて消すつもりらしいわ」
先ほど囲もうとしているのを見抜いた女性が、無機質な、しかし戦意に満ちた声で刀を構える。
そんな一触即発の空気を破るように、トラックがけたたましいエンジン音を響かせながら割り込んできた。
「おーいお前さんたち、逃げるぞ、乗りな!」
トラックの運転席から身を乗り出し、豪快に叫んでいるのは先の爆走ドライバーだ。
その合図と同時に、廃墟の影に潜んでいた武装集団が一斉に発砲を開始した。
「ちっ、傭兵どもか! どいつもこいつも残業を増やしやがって!」
浅羽さんが毒づきながらも、瞬時に弓を引き絞り、飛来する銃弾を空中で射落としていく。その隣では蒼角さんが巨大な扇を振り回し、弾幕を風圧で強引に逸らしていた。
邪兎屋の人たちが二台のトラックり乗り去ると、傭兵たちも僕らを無視してトラックを追いかけ始めた。
「追うぞ」
「無茶言わないでくださいよ! さすがにトラックに走って追い付けるのは課長と課長と同じくらい速いアル君ぐらいですって!」
うん、まあ僕は普通にトラックに追いつくことはできる。
「お前たちは適当に車でもなんでも捕まえてこい。アルティマ、付いて来られるな」
「もちろん、全力でいきます!」
――ドォォォォン!
地面を蹴った衝撃で土が爆ぜ、僕と星見さんは二筋の閃光となって荒野を駆け抜けた。時速百キロを軽く超えるトラックの速度を、生身(とアンドロイドの機体)で凌駕する。
トラックに追いつくと、パールマンさんが乗っている方のトラックに装甲車が集中して群がっていた。
「よし、装甲車を潰……うわっと!」
ドライバーの腕がいいのだろう、装甲車に囲まれている中、急停車し反転、後続の装甲車をぶつけてまとめて爆破、排除する。
反転してきたときに危うくぶつかりそうになったが、何とかよけ、再びトラックを追おうとするが……。
「後ろから接近警報? ……しまった、ミサイルか!」
ミサイルがトラックを追い、一発は避けるがもう一発は当たってしまう。
あ、トラックがホロウに……!
「アルティマ、私がホロウに入る。お前はもう一台のトラックの方に行け!」
「了解、任せて!」
そうして、僕はもう一台のトラックに加勢するのだった。
「な、なによアイツ! 走って追いついてきたわよ!?」
トラックの運転席でアタッシュケースのような武器を使い、傭兵の侵入を防いでいたニコさんが、目を見開いて叫ぶ。
「ニコの親分、テレビで見たことはないが対ホロウ六課だぜ!」
赤い服を着た機械人が傭兵を蹴り落としながらそう言う。
「加勢します!」
僕はトラックの速度に合わせて並走し、そのまま横から近接武器を振り回し肉薄してきた傭兵に飛び乗った。
「はああぁっ!」
二振りのナイフ雷光が交差し、傭兵の乗ったバイクを切り裂く。
「何なのにゃ、あの動き……にゃっと!」
猫耳の生えた女性が驚きながらも傭兵をトラックから蹴落とす。
トラックに張り付いた傭兵は倒せたが、そのあと追いついてきた傭兵との戦闘が始まった。
「……チッ、しつこいわね! この賞金稼ぎども、いくら払われてるのよ!」
ニコさんがアタッシュケース型のキャノンをぶっ放し、追走するバギーの一台を吹き飛ばす。しかし、地平線の向こうからは次々と増援の砂煙が上がっていた。
「ニコの親分、弾切れが近いぞ! それにさっきからあの白いのが……凄まじい速度で敵を間引いてるにゃ!」
猫耳の少女が驚愕の表情で僕を指差す。僕はジェネシス・コアによる重力制御を稼働させ、爆走するトラックの周囲を、まるで重力がないかのように縦横無尽に飛び回っていた。
「……計算完了。次、左後方の装甲車、無力化する!」
僕は空中で身を翻し、弾丸のような速度で装甲車のフロントガラスへ突っ込む。
雷光を逆手に持ち、超振動させた刃で装甲を一気に切り裂いた。
「なっ……生身で装甲車を!? バケモノかよ!」
傭兵の悲鳴を置き去りにし、僕は爆発する車両を足場に再び跳躍。トラックの荷台へと着地した。
「助かったわ、白髪のイケメン君! あんた、対ホロウ六課の新人? 雅の秘蔵っ子ってわけ?」
ニコさんが余裕を取り戻したのか、不敵な笑みを浮かべて話しかけてくる。
「……秘蔵っ子かどうかは分かりませんが、課長の指示で動いているのは確かです!」
僕は荷台の上で、激しい風に髪をなびかせながら雷光を構え直した。
背後の砂塵からは、まだ執拗に数台のバイクが食らいついている。
「ビリー、猫又! 惚けてないで、この凄腕君のサポートに回るわよ! 弾幕を張ってちょうだい!」
「了解だぜ、ニコの親分! 最高のガンアクションを特等席で見せてやるよ!」
赤い機械人——ビリーさんが二丁の拳銃を華麗に回しながら、バイクのタイヤを正確に撃ち抜いていく。
猫耳の少女——猫又さんもまた、小柄な体躯を活かした俊敏な動きで、トラックに飛び移ろうとする傭兵を次々と叩き落としていった。
「……そろそろ、片を付けます。シールド展開!」
僕が空中にジェネシス・コアを固定すると、トラックの前方に頑丈なプラズマエネルギーの壁が発生した。
追走していたバギーやバイクが、目に見えない巨大な力に押し潰されるように次々と地面に叩きつけられ、スクラップに変わっていく。
「うわっ、何今の!? 魔法!? それとも超能力!?」
「えぇ、ちょっとした超常現象……とでも言っておきますか」
最後の一台が爆発炎上するのを確認し、僕はようやく武器を収めた。
やがて追跡を振り切り、トラックは荒野の物陰に停車した。 エンジンが止まり、静寂が戻る。
ビリーさんがふぅ、熱いぜ……と銃身を冷ましている横で、ニコさんが僕の前に歩み寄ってきた。
「さて……改めてお礼を言わせてもらうわ。あんたがいなきゃ、今頃あたしたち、蜂の巣にされて砂漠の肥やしだったわね」
ニコさんは腰に手を当て、僕を上から下まで値踏みするように眺めた。