なんとでも言え。私とてテラの大地を救わなければならない…   作:バリアンの(面)白き盾

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なんとでも言え。私とてテラの大地を救わなれねばならん…

 

 ドッソレスの海辺。照りつける太陽と原色のパラソル、そして街中に流れる陽気な音楽。

 しかし、その喧騒の中に、およそバカンスとは程遠い「冷戦」が繰り広げられている一角がありました。

 

「……ドクター。一応確認しておくが、今回の休暇はアーミヤの休息を最優先事項としたものだ。不必要な私語や、ましてや砂を艦内に持ち込むような無意味な行動は慎んでもらいたい」

 ケルシー先生は、サングラスの奥にある冷徹な瞳でドクターを見据えます。

砂程度でケルシー先生は怒ったりしてませんがドクターに対して思うところがあるのか言葉にトゲがあります…。

 対するドクターは、他のオペレーターに無理やり着せられた慣れないアロハシャツの襟をいじりながら、無言で視線を海へと逸らしました。

 恐らく私たちに気を利かせるためにロドスの皆さんが動いた結果なのでしょうか…。

(うう……。せっかくの休暇なのに、ケルシー先生とドクターの距離が10メートルくらい開いてる気がします……!)

 間に挟まれた私は、必死に会話の糸口を探していました。このままでは、ドッソレスの特製ドリンクを飲む前に、二人の間の空気が完全に凍結してしまいます。

 何か…何かきっかけがあれば…!

 私はドッソレスの照りつける空の下凍えるような2人の間に挟まれてました。

 

 そんな折、近くの露店から聞こえてくる観光客たちの話し声が私の耳に飛び込んできました。

「おい、聞いたか? さっきビーチの裏手で喧嘩があったらしいが、変な奴が乱入してきたってよ」

「ああ、なんか訳のわからないことを叫びながら、見たこともない光る物体を召喚したらしいぜ」

「助けてもらった奴も困惑してたぞ。去り際に変なポーズを取ったかと思ったらどこか行くんだからよ…。怖くて話しかけれねえよ」

「助けてもらったんだが『少しは楽しませてくれたが、結果は最初から見えていた』とか言われたぜ…ありゃあ関わらん方が良い人間だぜ…」

 

私は「これだ!」と直感しました。

「ドクター、ケルシー先生! 聞きましたか? この街に、なんだか不思議な人がいるみたいですよ。喧嘩を仲裁したり、不思議な力で人を助けたり……でも、すごく『独特な言葉』を使う人らしくて」

「……。『結果は最初から見えていた』、か。傲慢な言い草だが、事象の確定を予見するアーツ使い、あるいは計算能力に長けた者の可能性はあるな」

ケルシーがわずかに眉を動かした。

「ですよね! もし放っておいて何か事件に発展したら大変ですし……調査も兼ねて、三人でその人を探してみませんか? ほら、ドクターも気になりますよね!」

アーミヤの必死な提案に、ドクターも小さく頷きます。

どうやらお二人とも気まずかっただけで本当は仲良くなれるきっかけが欲しかったのかもしれません。

こうして、ギクシャクした「ロドス首脳陣」による、謎の人物捜索作戦が幕を開けました。

 

 三人がビーチ沿いを歩き始めると、噂の主の痕跡はあちこちに残されていました。

第一の目撃証者「右手を腰に当てて、左手を顔の前にかざして、背中を思いっきり反らしながらポーズを取っていたわ。去り際に『私の名はナッシュ・・・ただの旅行者だ』って言われたけど、どう見ても旅行者には見えなかったわね」

第二の目撃証言「アイスクリームを落とした子供に、新しいアイスを浮かせながら渡してたぞ。『なんとでもいえ、私とてバリアンを救わねばならん』なんて呟いてたが、アイス一個で何を救うつもりだったんだ?」

「……。『バリアン』。テラのどの公国、どの民族の歴史にも存在しない単語だ。言語学的にも、既存のどの系統とも一致しない」

ケルシーはいつになく真剣な表情で考察を始めます。ドクターも、証言を元に私たちは噂の人物の正体に迫っていました。

 心なしかドクターとケルシー先生の心の距離も近くなった気がします。「バリアン…何の意味だ…?」「ドクター…興味深いが今は立ち止まるな。情報を集めた結果ここの付近にいるのは間違いない」良かったです…!2人とも今は噂の真相が気になって仲良さそうです!

 

「あ、見てください! あそこの岩場の上!」

私が指差した先。

 夕陽を背に受け、波打ち際の岩場に立っている白い人影がありました。

 その人物は、こちらに背を向け、片足を高く上げ、両手で円を描くような、およそ休息には不必要なほど「キマりすぎている」ポーズで静止していました。

その人物が、まだ見ぬ言葉を紡ぎ出す直前の、嵐の前の静けさ――。

「……ドクター。あれが、今回の『調査対象』で間違いないようだな」

ケルシーの手に、いつの間にかMon3trの召喚予兆がうっすらと浮かびます。

「待ってくださいケルシー先生! まずはお話から……!」

アーミヤは二人を促し、その謎の人物へと近づいていきました。

 

 

 

 

 ドッソレスの喧騒から遠く離れた、潮風の吹き抜ける人影のない岩場の上。

 そこには、夕日に照らされた海を寂しげに見つめる一人の男がいた。

 彼の名は……いや、彼の「中身」は、テラの世界に転生してきたごく普通の一般人だった。

 彼はなぜか転生する以前の名を失っていた。

 しかし彼は『アークナイツ』という物語を知っていた。この過酷な世界で、数々の憂鬱な展開をその手で打ち破り、ロドス・アイランドの一員として輝かしい活躍をすることをこのドッソレスに降り立った時から夢見ていた。

 しかし、目覚めた瞬間に全てが狂っていた。

手鏡に映っていたのは、かつてアニメで見た遊戯王ZEXALの登場人物「ドルベ」その人の姿。

 さらに、怒りや高揚と共にバリアン形態へと変身できる肉体と、強力なアーツ……ならぬ「光天使(ホーリー・ライトニング)」を召喚する力を手に入れていたのです。

(これなら……この力なら、ロドスのみんなを助けられる!)

 最初は歓喜した。しかし、彼はすぐに絶望することになった。

それは何とない通行人に挨拶しようとした時だった。

「私の名はナッシュ・・・ただの旅行者だ」

(……えっ?)

耳を疑った。自分の意志とは無関係に、口から出たのは全くの違う言葉。

 焦って「違います、私はドルベという者ですが、旅行者ではなく……」と否定しようとすると。

「バリアンの白き盾ドルベ!私とてバリアン世界を救わければならない…」

(違う! 今度はちゃんと名前を言えたけどなんか意味のわからない事言いだしたぞ!?俺はバリアンだけどバリアンじゃないんだ!)

 そしてその場から逃げるように彼は理解した。

 私はアニメでドルベが発言した言葉のみでしか発言出来ない、通称「ドルベ語」しか話せなかったのだ。

 

 

 それからというもの、彼はコミュニケーションの壁に叩きのめされた。

 親切な観光客に「どこから来たの?」と聞かれれば「私の名はナッシュ・・・ただの旅行者だ」と繰り返し、不審者として通報されそうになり、否定しようとすれば「そうだ凌牙! 私はバリアンだ!」とカミングアウトをぶちまける始末。

(ロドスへの加入なんて、夢のまた夢だ……。ケルシー先生やドクターに、俺のこの状況を説明できるわけがない……)

 彼はそこで夢を諦めた。

 せめてこの強力な力で、目の届く範囲の平和だけは守ろう。

 溺れている人がいれば「光天使ウィングス」を走らせ、喧嘩があれば「光天使ブックス!」で介入する。

 去り際には、本当は「お気になさらず」と言いたいのに、

「少しは楽しませてくれたが、結果は最初から見えていた」

と、最高に感じの悪い、しかしキマりすぎた台詞を吐いて立ち去る日々、それでも悪くないと感じ始めていた。

 ドッソレスの守護者になった気になって慰めていた。

 

 そして、運命の歯車が動き出す。

 今日も彼は、岩場の上で「バリアンの誇り」を無意識に体現するポーズを取りながら、海を眺めていた。

(ああ、今日も海は綺麗だな。……いつか、アーミヤたちに会いたかったな……)

 そんな彼の背後に、三つの足音が近づいていることにも気づかずに。

 一人は困惑し、一人は警戒し、そして一人はこちらの様子を窺っている。――あのロドスの御一行がすぐそこまで来ていることを。

「……あの、すみません! 少しお話を聞かせてもらってもいいですか?」

 アーミヤの声が響いた。

 ドルベは心臓が跳ね上がるのを感じた。

(アーミヤ!? 本物!? 落ち着け……今度こそ、今度こそ普通に挨拶するんだ! 誠実さが大事だ!)

彼は意を決し、最高にかっこいい角度で振り返り、口を開きました。

「私の名はナッシュ・・・ただの旅行者だ」

(ああああああああああああああ!!)

伝説のオペレーター「ホワイトシールド」誕生まで、あとわずか。

 

 

 

 

 

 ドッソレスの喧騒から少し離れた岩場。夕陽を背負い、不自然なほどキマったポーズで佇む白い男に対し、ケルシーとドクター、そしてアーミヤが対峙していた。

 

 

視界に入ってきたのは、三つの人影。

一人は、アロハシャツを着ておりフードを深く被り、ミステリアスなオーラを纏ったドクター。

一人は、不機嫌そうに端末を弄りながらも圧倒的な威圧感を放つ、生ける伝説ケルシー。

そしてもう一人は、長い耳をピクリと動かし、不安げにこちらを見つめる、あまりにも愛らしいアーミヤ。

(えっ……ええええええ!? 本物!? 本物のドクター達!?)

 ドルベの脳内はパニックという名のオーバーレイが構築されていた。画面越しの彼らが、今、目の前に、生身の存在として立っている。

(やばいやばいやばい! ドクターだ! ケルシー先生だ! アーミヤちゃんだ! 近い、解像度が高い! 待って、俺、今どんな顔してる!? 変なポーズ取ってなかったか!?)

 あまりの衝撃と喜びに、彼は文字通り「フリーズ」しました。しかし、彼の肉体は悲しいかな「ドルベ」です。驚きを表現しようとした結果、無意識に右手を高く掲げ、腰を45度反らせる最高にキマった迎撃ポーズを完成させてしまいました。

 

 ケルシーが警戒を強め、Mon3trの影がうっすらと背後に浮かび上がる。

「……ナッシュといったか。その奇妙な構え……我々に敵意があるのか?」

 ドルベは必死に(違います! 大ファンなんです! 握手してください! ロドスへ就職させて下さい!)と叫ぼうとした。しかし、極限の緊張と興奮によって「ドルベ語」の変換機能がフル稼働する。

「お前たちを追ってきた、これ以上ナンバーズを渡すわけにはいかない!」

(心の声:ずっと会いたかった! あなたたちを追いかけてロドスに入りたかったんだ!)

「ナンバーズ……? やはり何かの回収任務についているエージェントか。ドクター、下がっていろ」

 ケルシーの視線が鋭利な刃物のようにドルベを射抜いた。(違うんだケルシー先生! 睨まないで、でもその冷たい目最高です! じゃなくて!)

 焦った彼は、次にドクターの方を向き、親愛の情を全力で伝えようとした。

「感じるぞ、お前の魂を!」

(心の声:ドクター! あなたの指揮能力とカリスマ性、尊敬しています!)

ドクターは一歩後ずさりし、「……。魂を抜かれるのか?」と困惑気味に呟いた。

 そんな緊迫した(と、ロドス側が思っている)空気の中、アーミヤが恐る恐る口を開いた。

「あの……。あなたは、一体どんな力を持っているんですか? 街の人を助けていたと聞いたのですが、それはアーツなんですか?」

推し(アーミヤ)からの直々の質問!

ドルベは(よし、任せろアーミヤちゃん! 俺の『光天使』の凄さを、一番いい特等席で見せてやるからな!)と、パニックを通り越してノリノリのテンションに突入した。

「さあ、決着をつけよう! デュエルだ!私は光天使ウィングスを召喚!」

黄金の光が溢れ出し、物理法則を置き去りにしたデモンストレーションが始まった。

心の中では「(見ててねアーミヤちゃん!)」と叫びながら、地獄のコミュニケーションが幕を開けた瞬間だった。

 

 

 ドッソレスの静かな岩場は、先ほどまでとは一変し、異様な光圧と質量に支配されていた。

ドクターとケルシーの眼前に広がる光景は、テラの既存のアーツ理論を根底から覆すものだった。

「……アーツユニットの予兆がない。それどころか、空間そのものを塗り替えているのか?」

 ケルシーの言葉通り、ドルベはノリノリで指を走らせ、空中に複数の輝く物体(光天使たち)を召喚した。

「私はレベル4の光天使ウィングス! ブックス! ソードでオーバーレイ! 3体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! 現れろ! No.102! 光天使! グローリアスヘイロー!」

 複数のわけの分からない物体(光天使たち)が光の渦に飲み込まれたかと思うと、そこから巨大な翼を持つ騎士が降臨しました。その神々しい圧力にドクターは息を呑みます。

ドルベは(どうだ! これが俺の切り札、グローリアスヘイローだ! こいつは相手の効果(アーツ)を封じるし、攻撃力も半分にする最強の切り札なんだ!)と、その性能を自慢げに解説し始めた。

「グローリアスヘイローの効果、発動! このモンスターはオーバーレイユニットを1つ使い、相手モンスター1体の効果を無効にし、更にその攻撃力を半分にする!」

「……。召喚物に干渉しようとしたMon3trの術式が、一瞬で『封じられた』……。並大抵の力ではないな」

ケルシーの顔に、かつてないほどの警戒心と好奇心が混ざり合っていた。

 ドルベがノリノリでポーズを決め、叫び続ける中、ドクターとケルシーは冷静に観察を続けていた。

「……ドクター。気づいたか。彼は自分のアーツを誇らしげに語っているようだが、状況と言葉が全く噛み合っていない」

「ああ、ケルシー。彼は『説明しようとしている意志』はあるようだが、口から出る単語は強制的に『別の台詞』へ書き換えられている節がある……。これは一種の強力な呪い、あるいは自分を縛る『制約』あるいは『代償』なのかもしれない」

 二人が言語の壁の正体に辿り着いたその時、アーミヤが震える手で耳を抑えてうずくまりまった。

「……っ、ドクター……もう、わけがわかりません……!」

アーミヤは混乱の極みにあった。

 2人はアーミヤ!と駆け寄った。しかしアーミヤの口からドクターたちの推測を裏付ける決定的な情報がでた。

「今も実演しているドルベさんの口からは『貴様らのしがみつく希望! 花と散れ!』なんて物騒なことを言っているのに、心の中では……『うおおお! 俺の召喚シーン見せられた! ! 冷たい目線たまらん! 俺は本当はただの一般人だけど、皆さんの力になりたいんですぅぅ!』……って、ものすごい熱量です…!」

 

 ドルベは(よし、アーミヤに心の内が伝わったはずだ! 俺をロドスに入れてくれ!)という期待を込めて、最後にビシッとポーズを決めた。

「バリアンの白き盾! ドルベ!私とてバリアンを救わねばならん…」

「……。さっきは自分のことを『旅行者のナッシュ』と名乗っていたはずだが……。今は『バリアンのドルベ』か」

ドクターは、この男との言語の壁がいかに絶望的に高いかを痛感し、頭を抱えた。

「……だが、アーミヤの報告を信じるなら、彼の本心は我らへの協力的だ。……ドクター。彼は極めて危険な異能者だが、同時に、その『呪い』のせいで誰にも真実を理解されない、救いようのない『善良な変質者』のようだ。放っておけばその善意でドッソレスを消滅させかねん。……保護(監視)すべきと判断した。……この壊滅的なコミュニケーション能力を除けば、戦力としては異常に強力だ。保護し、監視下に置くべきだろう」

 ケルシーの判断により、彼はロドスへ連れて行くことが決まった。

(やったあああ! 念願のロドスだ! 憂鬱展開は全部俺がグローリアスヘイローで無効化してやるからな!!)

しかし、口から出たのは――

「少しは楽しませてくれたが、結果は最初から見えていた。」

「……。これからの任務、先が思いやられるな」

ドクターの溜息が、ドッソレスの潮風に消えていく。

こうして、史上最も「話が通じない」最強のオペレーターが誕生しようとしていた。

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