なんとでも言え。私とてテラの大地を救わなければならない…   作:バリアンの(面)白き盾

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シリアスで終わらせたかったんで、笑いを期待してた人に申し訳ない。
いつもより短くてすまない。
非力なドルベを許してくれ…


メラグ・・・ナッシュ・・・君たちと出会えて本当に良かった・・・

 

 輸送機の機内には、重く、引き裂かれるような沈黙が流れていた。

ドクターは拳を血が滲むほど握りしめ、レーダーから消えた「白い光」の残滓をモニター越しに見つめていた。

「……計算が合わない。すでに彼なら離脱できているはずだ…。これは一体…まさか…!!」

「ドクター、落ち着いて」

 フロストノヴァの声が、鋭く機内に響いた。彼女自身、今にも叫び出したいほどの不安と、ドルベを一人残した自分への怒りで胸が張り裂けそうだった。それでも戦士としてドクターを現実に繋ぎ止めた。

「あの男は『意地』だけで死の境界線で何度も奇跡を起こしてきた。あなたが今すべきなのは、後悔することじゃなく、最短距離で彼を拾い上げるルートを導き出すことでしょう?」

 それは気休めに近いのものだった。今戻った所で何もできない。残酷な真実だった。

「……ああ。分かっている。 体制を立て直し次第、直ちに反転する!エンジンを――」

ドクターが冷静さを取り戻し、操縦席へ指示を飛ばしかけたその時だった。

「……っ!?」

 フロストノヴァは、自分の目の前の空間が、まるで水面に石を投じたかのように波打つのを目撃した。

 ドクターや他のオペレーターたちが気づかない、彼女の網膜だけに映る青白い光。

 そこには、夢の中でしか会えなかったはずの人物、ナストラルが幻影として立っていた。

 

 

「……ナストラル!? なぜ、ここに……。ここは夢じゃないわ」

「事態は一刻を争う、フロストノヴァ」

 ナストラルの表情は、かつてないほど険しく、その瞳には焦燥の色が浮かんでいた。彼は周囲の人間には目もくれず、ただ真っ直ぐにフロストノヴァを見据えていた。

「……今のドルベには、あの感染生物の波を押し返す力は残っていない。彼が握りしめているナンバーズ……スカイ・ペガサスの残光も、間もなく完全に潰えるだろう」

「そんなこと、分かっているわ! だから今、引き返そうと……」

「間に合わない。断言しよう、救助が届くより先に、彼は命を落とす。そうなれば、君のアーツを縛る封印も解け、彼も、そして君も失われることになる」

 ナストラルは一歩分、フロストノヴァに歩み寄った。その手が、彼女の胸元――ドルベが施した封印の光が眠る場所を指し示した。

「フロストノヴァ。……彼を救う方法が、たった一つだけある」

その言葉に、フロストノヴァは息を呑んだ。

 

 

 輸送機の窓を叩く乱気流の音さえ、今のフロストノヴァには遠く感じられた。

ナストラルは静寂を纏い、彼女の瞳の奥を覗き込むように言葉を続けた。

「フロストノヴァ。君の中に眠り、彼が抑え込んでいるそのアーツ……それこそが、現在あの地を覆う厄災を打払い、彼を救い出せる唯一の手段だ」

 ナストラルは淡々と、しかし残酷な真実を突きつけた。

「君の全力のアーツを解放すれば、あの感染生物たちは一瞬で全て片付く。今のドルベに必要なのは、君のアーツだ」

 その提案を聞いた瞬間、フロストノヴァの心臓が激しく脈打ちけた。

「な……何を言っている? アーツを、使えというのか? そんなこと……」

彼女は自分の震える手を見つめた。

かつてチェルノボーグの戦場で見せた、自身の命を薪にして燃やす諸刃の剣。ドルベがその身を呈し、そして「意地」という名の封印を施してくれたことで、ようやく手に入れた「生きる時間」。

「そんなことをしてしまえば……私の身体は、今度こそ……」

その先の言葉は口から出なかった。言えるわけがなかった。

 封印を解くということは、ドルベが今も命がけで繋ぎ止めてくれている自分自身の命を、再び投げ出すことに他ならない。そして、それは何よりも「彼女を救いたい」と願ったドルベの想いを、彼女自身の手で引き裂くことを意味していた。

「アーツを使えば、彼は助かる。……けれど、私は……」

 フロストノヴァは、遠く霞む戦地の空を、絶望的な面持ちで見つめました。あそこで一人、自分を信じて泥臭く戦っている「相棒」の姿が脳裏に浮かぶ。

 自分の命を守るために、彼を見殺しにするのか。

 それとも、彼を救うために、彼が最も守りたがった自分の命を捧げるのか。

「……ナストラル。あなたは……私に、死ねと言うの?」

 震える声で問いかける彼女に対し、ナストラルは何も答えず、ただ悲しげな光を湛えて彼女を見つめ返しているだった。

フロストノヴァに、あまりにも過酷な選択肢が突きつけられました。それは時が止まったかのように長く感じた。

 

 

 輸送機を揺らす轟音の中、ナストラルは静かに、しかし力強い意志を込めて首を振った。

「そうではない。フロストノヴァ、君の記憶を……君がこれまで歩んできた、あまりにも冷たく、孤独で、悲しみに満ちた日々を、勝手ながら見させてもらった」

 ナストラルの瞳には、彼女の壮絶な半生に対する深い敬意と、寄り添うような慈しみが宿っていた。

「私も、君に力を貸したいのだ。君のアーツが君の命を削るというのなら……その代償は、全て私が引き受けよう」

 フロストノヴァは目を見開いた。

 自身の体内で澱んでいた死の予感が、ナストラルの青白い光に溶かされていくのを感じます。かつて「スノーデビル」を率い、戦場を白銀に変えたあの圧倒的な力が、今、純粋な「意志」として彼女の指先に集っていきた。

「……代償を引き受けると言ったけど。ナストラル、そうなればあなたはどうなるの?」

 彼女の問いに、ナストラルはフッと、どこかいたずらっ子のような、あるいはドルベにも似た不敵な笑みを浮かべた。

「何ともないさ。少しの間お別れというぐらいだ。……だが、アーツの解放はそれほど長くは持たない」

 ナストラルは窓の外、ドルベが孤軍奮闘しているはずの荒野を指差した。

「使える時間は……102秒。102秒間だけ、君のアーツをこの世界の理から切り離し、全力で放てるようにしよう」

「102秒……」

 フロストノヴァはその数字を噛み締めました。短い。あまりにも短い。

 しかし、かつての彼女であれば、その時間があれば一軍を凍土に沈めるには十分すぎる時間だった。

「102秒あれば、あのバカを拾い上げる道を作るには十分だな」

 フロストノヴァは、隣で状況を注視していたドクターに向き直った。彼女の瞳は、もはや迷いも絶望も消え、戦場を支配するかつての「スノーデビル」としての鋭利な輝きを取り戻していた。

「ドクター、輸送機のハッチを開けて。……私が、あいつを連れ戻すわ」

「フロストノヴァ? 君は、何を……」

 ドクターの静止を遮るように、彼女の周囲に冷たい霧が立ち込め始めた。ナストラルが彼女の背後に重なり、青い光の粒子が新衣装をさらに白く、神々しく輝かせた。

 

 

 輸送機が反転し、エンジンが咆哮を上げながら全速力での加速を開始しようとした、その刹那のことだった。

ドクターは、隣に立つフロストノヴァの異変に気づいた。

彼女は、誰もいないはずの虚空を凝視し、唇を微かに動かしていた。その瞳は焦点が合っているようでいて、同時にここではない「どこか遠い場所」を見つめているようだった。

「フロストノヴァ……? 誰と話しているんだ?」

ドクターが声をかけましたが、彼女からの返答は返ってこなかった。

ただ、彼女の口から漏れ出る言葉だけが、静まり返った機内に響いた。

「……代償を引き受ける……? ………ナストラル、そうなればあなたはどうなるの?」

 「ナストラル」の名を聞いた瞬間、ドクターの背筋に冷たいものが走った。彼女は以前、その名を「夢の中に現れる存在」だと言っていたはず。しかし、今の彼女は、まるですぐそこに誰かが実在しているかのように、切迫した様子で対話を続けている。

「フロストノヴァ、落ち着くんだ。そこには誰もいない。精神的な過負荷か……?」

 ドクターが彼女の肩に手を置こうとした、その時だった。

——劇的な変化が、彼女を襲った。

機内の気温が、急激に、氷点下へと下がり始めていた。

 ドクターの手が彼女の肩に触れる直前、パキパキという鋭い音と共に、フロストノヴァの足元から白銀の霜が爆発的に広がる。

「……ええ、分かったわ。102秒ね」

 彼女が顔を上げた瞬間、ドクターは息を呑んだ。

 先ほどまで不安と悔しさに揺れていた彼女の瞳は、今や極北のブリザードをそのまま閉じ込めたような、透き通った、そして絶対的な力を持つ「死神」の色へと変貌を遂げていたのです。

彼女の背後に、一瞬だけ青白い人影が重った…そんな風に見えた気がした。

「ドクター、下がって」

 その声は、もはや震えてはなかった。

 フロストノヴァの周囲で渦巻く冷気は、ドクターの頬を撫でるかのように吹き抜けていった。

 

 

「待て、フロストノヴァ! 何をするつもりだ!」

足元から広がる白銀の霜と、彼女の瞳に宿ったかつての「死神」の輝きを見て、ドクターは叫んだ。

「アーツを使うのは自殺行為だ! ドルベが君の命を繋ぐために、ここまで『意地』を見せてきたか忘れたのか! 君まで失うわけにはいかない!」

 ドクターは必死に彼女の腕を掴もうとしましたが、周囲を渦巻く極寒の障壁がそれを阻んだ。しかし、フロストノヴァは静かに、けれど揺るぎない眼差しでドクターを見つめ返した。

「安心して、ドクター。……これは、私一人で決めたことじゃない」

 彼女の背後の空間を指差しながら、フロストノヴァは早口で、けれど確かな言葉を紡いだ。

「ナストラル……夢に出たあの『白い関係者』がここにいる。彼が私に力を貸してくれると言った。私のアーツの代償を彼が肩代わりし、世界の理から私を切り離す……。時間は102秒。その間だけ、私はかつての姿に戻れる…」

「ナストラルが……!? だが、そんなことが本当に……」

 ドクターは一瞬困惑したが、彼女の生命バイタルが削られるどころか、安定し、爆発的なエネルギーへと変換されているのを、端末の数値が示していた。

「あいつが、一人で震えながら私の名前を呼んでいるのが聞こえるの。……ドクター、私を信じて。あのバカを拾い上げる道は、私が作ってくる」

 ドクターは、彼女の瞳に宿る覚悟と、ナストラルという未知の存在がもたらした奇跡を天秤にかけた。そして、即座に決断を下した。

「……分かった。全オペレーター、衝撃に備えろ! 操縦士、進路をホワイトシールドの最終確認地点へ! 限界高度まで降下し、フロストノヴァを最短距離で戦場へ送り届けるんだ!」

 輸送機が軋みを上げ、急降下を開始した。

 雲を突き抜け、眼下に広がるのは黒い感染生物の波と、その中心で消え入りそうな小さな光。

「102秒……。一秒たりとも無駄にはしないわ」

ハッチの前に立ったフロストノヴァの手が、凍りついたレバーを握った。

白き盾を救うための、テラに冬を再来させる奇跡のカウントダウンが、今まさに始まろうとしていた。

 

 

 荒野のただ中、ドルベは文字通り「死力」を尽くしていた。

「ここまで追い込まれるとはな・・・!(訳:まだだ! 私が倒れれば、フロストノヴァの封印が解けてしまう……それだけは、それだけは絶対に阻止せねばならん!)」

 彼の傍らで戦うNO.102光天使グローリアス・ヘイローの光も、度重なる激戦で煤け、震え始めていた。見渡す限りの黒い波。疲労でポーズのキレは失われ、視界は歪み始めていた。

その時だった。限界でも諦めないドルベの手の中に輝くカードが生まれようとしていた。、彼は躊躇うことなく、黄金の光を「ドロー」した。

(これだ……! これさえあれば、この絶望的な状況を切り抜けれる!)

「さあ、決着をつけよう!デュエルだ!私は手札から魔法カード!RUMバリアンズフォースを発動!(訳:現れろ、バリアンの究極の力! RUM-バリアンズ・フォース!!)」

 ナストラルの警告も、ドクターとの約束も、フロストノヴァの心配も、全ては戦いの霧の向こうへ消えていた。彼はただ、目の前の惨劇を終わらせるために、その輝くカードを掲げた。

しかし――。

カードは冷たく沈黙したままだった。

「RUM」の紋章は脈打つこともなく、ただの紙片のように、ドルベの手に掲げれたままだった。

(な……ぜだ……!? なぜ発動しない!? それとも、ナストラルの言った通り、俺は……!!)

発動に失敗した動揺は、戦場では致命的だった。

「RUM」に意識を奪われた一瞬の隙を突き、巨大な感染生物の爪がドルベの胸元に迫り来る。防御のポーズを取る余裕すらない。

「すまない、非力な私を許してくれ…」

ドルベが覚悟を決め、静かに目を閉じた、その時だった。

 カラン、と。

 戦場の喧騒をすべて切り裂くような、硬質な音が響いた。

 次の瞬間、ドルベの頬を掠めていったのは、鋭い爪ではなく、全てを無に帰す絶対零度の氷柱だった。

「……私の相棒を、勝手に終わらせないで頂戴」

 その声と共に、上空から一筋の白銀の閃光が降り立つ。

着地と同時に、ドルベを囲んでいた数百の感染生物が、断末魔すら上げることなく一瞬で巨大な氷柱へと変貌した。

ドルベが目を開けると、そこには新衣装の裾をなびかせ、かつての「冬の死神」そのものの威厳を纏ったフロストノヴァが立っていました。

(フロ……フロストノヴァ……!? なぜ……封印が…………!!)

「ホワイトシールド、休んでいる暇はないぞ」

 フロストノヴァは、手にした冷気の刃を振るい、さらに押し寄せる群れを視界の端から端まで凍結させていく。その背後には、青白い光を放つナストラルの影が寄り添っていた。

「今から102秒。この間に、すべてのケリをつけるわ」

「間に合ったようだな。行くぞ、フロストノヴァ今ここに勝利の方程式は揃った!」

テラで最も長く、最も凍える「102秒間」が、今、始まろうとしていた。

 

 

 戦場は、一瞬にして音を失った白銀の監獄へと変貌した。

 フロストノヴァが地を蹴るたびに、周囲の地面は瞬時に絶対零度の凍土へと塗り替えられていく。かつての彼女のアーツが彼女が指先を向けるだけで、猛り狂っていた感染生物たちは断末魔すら上げられず、命の灯火を氷の中に封じ込められた。

「残り70秒……。フロストノヴァ、ためらう必要はない。全力で行こう」

 彼女の耳元で、ナストラルの透き通った声が響く。フロストノヴァは内心で激しい衝撃を受けていた。アーツを練り上げるたびに、かつては内臓を鋭利な氷で削られるような激痛が今は無い。今はただ澄み渡るような冷気だけが彼女を包んでいる。

(信じられない……。アーツユニットも詠唱も無しでここまで…!これが、私の本来の『全力』だというのか……!?)

「残り30秒……」

フロストノヴァは大きく両腕を広げた。大地から巨大な氷の棘が噴出し、空を覆わんばかりの感染生物の群れを一網打尽に貫く。ナストラルの影が彼女の背後で翼のように広がり、その冷気を戦場全域へと増幅させた。

「10、9、8……」

ナストラルのカウントダウンが終わりに向かうにつれ、戦場の「動き」は完全に消失した。最後に残った巨大な個体が凍りついたその瞬間、残り3秒を残していた。

「……3、2、1。……見事だ、フロストノヴァ」

振り返ると、そこにはもうナストラルの姿はなかった。ただ、嵐の後のような静寂と、美しくも残酷な氷の彫刻たちが果てしなく広がっているだけだった。

「……はぁ、はぁ……。終わったぞ、ホワイトシールド……」

フロストノヴァは肩で息をつきながら、戦場の中心にいたはずの相棒へ視線を向けた。驚愕し、腰を抜かしているであろう彼の顔を見て、少しだけ皮肉を言ってやろうと思ったのだ。

しかし、そこにいたのは、想像を絶する姿のドルベだった。

「……は?」

ドルベは『救済の受容』ポーズのまま、フロストノヴァの余波による冷気でカチコチに凍りついていた。

その瞳だけが、氷の中から「ブックス……(解せぬ)」とでも言いたげに目が合った。

「ちょっと!! 何やってるのバカ!!」

フロストノヴァは、自分の放ったアーツの威力が大きすぎたことに気づき、顔を青くした。このままでは救助したはずの相棒が、物理的な意味で「展示品」になってしまうだろう。

彼女は上空でホバリングしていた輸送機に向かって、全力で手を振り、叫んだ。

「ドクター!! 早く降りてきて!! 敵は全部片付けたけれど、代わりにホワイトシールドがガチガチに凍りついちゃったわ!! 早く解凍しないと死んじゃう!! ドクター!!」

戦場を支配した氷の女王の威厳はどこへやら、彼女は慌てふためきながら、氷漬けのドルベの周りを右往左往するのだった。

 




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オリジニウムダスト後は…

  • オペレーターとの交流(時系列バラバラ)
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