なんとでも言え。私とてテラの大地を救わなければならない…   作:バリアンの(面)白き盾

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前回の駆け足の補足回のようなものです。
短くてすみせん…


ブックス!

 フロストノヴァの精神、静寂と冷気が支配するその場所で、ナストラルは浮遊しながら思案に耽っていた。

 

 その半透明な瞳に映っているのは、現実世界でキレのあるポーズを連発し、フロストノヴァに呆れられながらも信頼を勝ち取っている「あの男」の姿だ。

 

 

 

 ナストラルにとって、先日の廃ビルでの出来事は、彼の計算の範疇を大きく逸脱するものだった。

彼は知っていた。あの男の中身が、ドルベというバリアンの戦士の形を借りただけの「一般人の魂」であることを。そして、その未熟な魂では、高純度のカオスエネルギーを必要とする「バリアルフォーゼ(バリアン形態)」など到底不可能であることを。

 

(使えないカードに執着し、非力な自分に絶望して諦める……。それが、私が描いていた結末だったのだが…。洗脳能力の暴走をロドスが抑え込んだように、彼もまた『分相応』な力の中で生きるべきだと判断していたのだが……)

 

 しかし、現実は違った。

 ドルベは、自身を対象にするという、テラの理はおろかバリアンの常識すらも超えた「自己のランクアップ」を敢行したのだ。

 

 

ナストラルは、あの光の中でドルベが下した決断を繰り返し思い返していた。

そして一つの結論を出した。

 

(彼は、偽物である自分を否定しなかった。一般人である自分を消し去ってバリアンの戦士に成り代わったのではない……。偽物であることを、弱いことであることを、無様であることを全て飲み込んだ上で、『それでも自分はバリアンの白き盾だ』と自分自身を再定義したのか)

 

 それは「意地」という言葉だけで片付けるには、あまりに重い代償と覚悟を伴う行為だった。

 かつてのナストラルは、ドルベが『意地』だけでは境界線を越えることは不可能だと断じていた。しかし、ドルベは「中身が偽物なら、その偽物を本物にすればいい」という、あまりに愚直で壊滅的な答えを導き出した。

 

 

 ナストラルは、ふっと自嘲気味に口角を上げた。

 

(……評価を変えねばならんな。あの男は、ただのドルベの姿をした依代ではない。泥を啜り、無様なポーズを晒しながらも、最後に勝利を掴み取る……。あれもまた、一つの『戦士』の形なのかもしれない)

 

 ナストラルがドルベの前に直接姿を現すことはない。彼はあくまでフロストノヴァの影であり、この世界の観測者で居続けるつもりだった。

それにドルベのうるさい心の声に振り回されるのは頭が痛くなるからだ。

 

 しかし、その眼差しには、以前のような冷徹な突き放しではなく、ほんの少しの……「相棒」を見守るような微かな好奇心が宿り始めていた。

 

 

 ロドス本艦の修復作業が進む中、ドクターは一つの「仮説」を証明したくてたまらなかった。

フロストノヴァが目撃したという、白と青の光を纏った「真の姿」。既存のアーツ体系を根底から覆すナンバーズの力を持つ彼が、バリアン形態の真の姿。指揮官として、そして研究者として無視できないものだった。

 

 ドクターはフロストノヴァを伴い、医務室で「回復の兆しを、指先で描くVサインと背筋の伸びで表現する快癒のポーズ」を決めていたドルベのもとを訪れていた。

 

「ホワイトシールド、例の変身をもう一度見せてくれないか?」

 

 ドクターの頼みに、フロストノヴァも横から「私からも頼むわ。あの時のことが夢じゃなかったと証明して」と、通訳を兼ねて言葉を添えた。

 いつもなら、どんな無茶振りでも「ブックス!」と二つ返事でポーズと共に応じる男である。ドクターは当然、今回も光り輝きながら応じてくれるものと思っていた。

 

しかし、ドルベの反応はドクターの予想を裏切るものだった。

 

 ドルベはポーズを止め、ゆっくりと腕を下げた。その瞳に宿ったのは、いつもの狂気じみた情熱ではなく、静かで、どこか悲しみを含んだ決意だった。

 

「非力な私を許してくれ…(訳:……ドクター、それはできない。あの姿を見せることは、今の私には許されないのだ)」

 

 はっきりとした拒絶。

 ドクターは虚を突かれた。彼がこれまで、恥ずかしがったり、状況を鑑みて渋ったりすることはあっても、ドクターの頼みをこれほど明確な「NO」で撥ね退けたことは一度もなかったからだ。

 

「ひどい有様だな(訳:あの変身は、まさに奇跡……。己の未熟さを、仲間の命という天秤にかけてようやく手にした『覚悟の形』だ。興味本位で、あるいは安易に晒していいものではない)」

 

「私はバリアンだ…(訳:……期待に応えられず、申し訳ないと思っている。だが、今の私はこの姿のまま、ロドスの盾として戦うべきなのだ)」

 

 ドルベは深く頭を下げた。その姿には、普段の「面白い不審者」としての面影はなく、一人の誇り高き騎士としての重圧が漂っていた。

 

 ドクターは、差し伸べようとした手を止めた。

 彼にとってあの変身は、単なるパワーアップの手段ではない。

ドルベは自分という「偽物」を認め、その上で何かを守るために魂を削り取った結果なのだ。

 ドクターには、彼が転生者であることも、本物のドルベと対話したことも知る由はなかったが、その拒絶の重さから、彼が「何らかの代償」あるいは「不可侵の聖域」をその変身に抱いていることを察した。

 

 フロストノヴァもまた、彼の横顔を見て黙り込んだ。あの時見た、神々しくも孤独だった白い背中を思い出していた。

 

「……分かった。無理を言って悪かったな」

 ドクターがそう告げると、ドルベは再び顔を上げ、いつもの「仲間の理解に感謝し、友情を熱い拳の握りで誓う信頼のポーズ」を繰り出した。

 

「蘇った我ら七皇の力、アストラルのために使おう!!(訳:力になれなくて申し訳ない!理解してくれて感謝する、ドクター! さあ、復興作業に戻ろう! )」

 

 元に戻った彼の振る舞いを見て、ドクターは安堵すると同時に、彼が抱える「孤独な真実」への興味を、心の奥底に静かに沈めることに決めた。

 

 薄暗い会議室、モニターの光がケルシーの鋭い眼差しをモニターへ向けていた。彼女の目の前には、レユニオン襲撃事件の事後報告書、そしてフロストノヴァの証言に基づいた「ホワイトシールドの変身」に関する断片的なデータが並んでいる。

 

「…ドクター、あえて言わせてもらうが…。彼の存在自体が予測不能な特異点であることは、これまで黙認してきた。だが、あの完全なバリアン形態と呼ばれる現象は、もはや無視できる規模ではないと判断する」

 

 ケルシーは淡々と、しかし拒絶を許さないトーンで言葉を重ねた。

 

「作戦中にコントロールできない未知の力を振るうことは、戦場における最大の攪乱(かくらん)になる要素になりうる。彼がどのような原理で物理法則を書き換え、あの姿に至ったのか。メディカルチェックを含めた精密な検査を行い、その出力を管理下に置くべきだ。これはロドスの安全保障に関わる問題だ」

 

 彼女の主張は冷徹なまでに正論だった。未知を既知に変え、リスクを排除するのがケルシーのやり方だ。しかし、ドクターはデスクに広げられた資料を閉じ、ゆっくりと首を振った。

 

「ケルシー、君の懸念は理解している。だが、それは不可能だ。そして……やるべきではない」

 

「感情論を求めているわけではない、ドクター」

 

「感情論じゃない。確信だ。先日、彼に直接その姿を見せるよう頼んだが、彼は明確に拒絶した。あのホワイトシールドが、だ」

 

 ドクターは、あの時のドルベの、ポーズさえも忘れたかのような静かな眼差しを思い出していた。

 

「あの変身は、彼が望めば起動するアーツユニットのような代物じゃない。彼はそれを『覚悟の形』と言った。私が感じたのは、あれが彼の精神、あるいは魂そのものを極限まで削り、燃焼させることで得られる、いわば『最後の切り札』だということだ。それを研究のために再現させようとすれば、最悪の場合、彼の存在そのものが影響しかねない…」

 

 ケルシーは沈黙した。ドクターの言葉から、ホワイトシールドという男が抱える、滑稽な言動の裏に隠された「致命的なまでの重さ」を感じ取ったようだった。

 

「彼はあの時、自分が何者であるか、その限界を知った…。だからこそ、安易に変身することを拒んだんだ。それはロドスを守るためであり、彼自身が『白き盾』であり続けるための誇りでもある。彼を信じよう、ケルシー。彼は混乱を招くためにあの力を使ったんじゃない。失われかけた仲間を、文字通り限界を超えて救い出すために、命を賭けたんだ」

 

 ドクターの説得を受け、ケルシーは視線を落とした。しばらくの沈黙の後、彼女は手元の端末を閉じ、席を立った。

 

「……いいだろう。現時点での強制的な調査は見送る。だが、彼がその『重さ』に耐えきれなくなった時は、私が介入する。ドクター、君の判断が正しいことを祈っている…」

 

 ケルシーが部屋を去った後、ドクターは窓の外を見上げた。甲板では、相変わらず意味の分からないポーズで周囲を困惑させているドルベの姿があった。その不器用で、けれど誰よりも真っ直ぐな背中を、ドクターは確かな信頼を込めて見つめ続けた。

 

 

 訓練室の熱気は、以前の彼が放っていた「光り輝く狂騒」とは一線を画していた。

 

 かつてのドルベは、ナンバーズを顕現させてはその神々しさに酔いしれ、あるいは突拍子もないポーズの新作を試す場として演習場を使っていたように見えた。しかし、今の彼の動きには、削ぎ落とされた剣客のような静謐さが宿っている。

 

 壁際でその様子を眺めていたフロストノヴァは、彼が一度も「RUM」を手に取らないことに気づいた。

 

 ドルベは、自身の影を追うように光天使たちを召喚する。

「私は光天使ウィングスを召喚!このモンスターを召喚した時、光天使モンスターを1体を特殊召喚できる!現れろ!光天使、ブックス!!」

「さらにブックスの効果発動!1ターンに1度、手札からマジックカード1枚を墓地へ送る事で、手札の光天使モンスター1体を特殊召喚する事ができる!墓地へ送ったカードはサルガッソの灯台!そして手札から光天使ソードを特殊召喚!」

 

「ウィングス」「ブックス」「ソード」。

それぞれのカードのタイミング、サルガッソの灯台を墓地へ送る一連の挙動。それらはもはや、意識して行う動作ではなく、呼吸と同じ次元まで磨き上げられていた。

 

「我ら二人の力をみせてやる…(訳:……この三体の光が一つになる瞬間に、一切の淀みがあってはならない)」

 

 彼はそう呟くと、三体の光を収束させ、オーバーレイネットワークを構築した。

 

「光の使いよ、今、悠久の時を超え、輝きの衣をまといて、かの地に降臨せよ! No.102! 光天使グローリアスヘイロー!」

 

 現れたグローリアス・ヘイローは、以前よりも密度を増し、その白い翼はより鋭利に空気を切り裂いた。特筆すべきは、その後のドルベだ。彼はナンバーズを出して満足することなく、その巨大な盾の陰に身を隠し、自らも剣を構えて実戦的な防御姿勢(ポーズではない、真の構え)を維持し続けた。

 

「しぶとい奴め!(訳:……守るべき者が後ろにいるとき、ナンバーズの力だけに頼るわけにはいかない。私自身が、この盾の厚みの一部とならねば)」

 

 数刻の後、彼は満足げにナンバーズを消滅させ、訓練室の後にした。タオルを首にかけ、部屋を後にするその横顔に、かつてのような「一般人の転生者」としての浮ついた余裕は微塵もなかった。

 

 そこにあるのは、テラという過酷な大地に根を張り、大切なものを守り抜こうとする一人の「決闘者(デュエリスト)」としての覚悟だった。

 

 フロストノヴァは、彼が去った後の無人の訓練室を見つめ、小さく息を吐いた。

(……あいつ、変わったわね。自分の力を「アーツユニット」か何かだと思っていた頃とは違う。……今のあいつは、砕けはしない「白き盾」になろうとしている)

 

 ドルベの成長は、バリアンの力への習熟ではなく、その力を振るう「己」への厳しさに現れ始めていた。

 

 

 演習場に響き渡る光の爆音と、カードを叩きつける鋭い音。

フロストノヴァとパトリオットの二人は、その激しい訓練の様子を遠巻きに眺めていた。

「父さん……あいつ、少し様子がおかしいかもしれない。あんなに必死に、基礎(カード)の練度を上げようとして。前みたいに『ランクアップ!』って叫んでいれば、あいつらしいのに」

 フロストノヴァの言葉には、かつてないほどの懸念が混じっていた。パトリオットもまた、仮面の奥で静かにドルベの動きを追っていた。その動きは研ぎ澄まされ、無駄な派手さは消え、どこか死地へ向かう兵士のような危うい気迫を孕んでいたからだ。

 

 しかし、二人の心配をよそに、ドルベの心象風景はかつてないほどに澄み渡っていた。

(……俺は、本物のドルベさんじゃない。このテラの大地で生まれたわけでもない、ただの一般人の成れの果てだ。弱くて、無様で、この姿だって借り物にすぎない)

 ドルベは、ナンバーズを顕現させるその指先の震えさえも、自分の一部として受け入れていた。

偽物であることを否定しない。

 完璧な騎士を目指すのではなく、この不完全で、滑稽な「自分という偽物」を丸ごと抱えたまま、この大地で『バリアンの白き盾』として生き抜くと、彼は迷うことなく信じていた。

(だけど……偽物だからって、守れない理由にはならない。俺がここで足掻いて、執念深く盾を構え続ける限り、この光は本物になるんだ)

「そうだ凌牙!私はバリアンだ!(訳:見ていてくれ、友よ。私はもう、自分の影を恐れない。この偽物の魂が、君たちを守る最強の壁となる!)」

 彼がカードを掲げるたびに、デッキから溢れる黄金の粒子は以前よりも密度を増し、より暖かく、力強い輝きを放つようになっていた。それは「超越的な力」への渇望ではなく、ただ「守りたい」という泥臭い執念が結晶化した輝きだった。

 パトリオットは、その光の中に宿る「不退転の意志」を感じ取った。それは、かつて彼が認めた高潔な戦士たちの輝きとは違う。もっと低く、もっと執念深く、泥を噛みながら地を這う者の「意地」の輝きだ。

「……心配ハ……イラン……。ヤツハ……己ノ……魂ノ……在リ方ヲ……見ツケタ……」

 パトリオットの掠れた声に、フロストノヴァは少しだけ驚いたように彼を見上げた。

 ドルベは二人にその「覚悟」を語ることはなかった。ただ、今日もまた演習場の中心で、誰の影も追わない、自分だけの「白き盾」を形にするために、幾度となくその身を光の中に投じ続けた。

 不器用なポーズを決めながら、しかしその瞳には、テラの夜明けを信じる強靭な光が宿っていた。

 




感想、評価、お気に入り登録ありがとうございます。
めちゃくちゃ短いし、ギャグもなくてすまない…非力な私を許してくれ…。
ここから下はあとがきみたいなものになります。
本当はフロストノヴァを助けたところまでを向けて書こうと思っていたものでしたがたくさんの人に読んでいただき嬉しくてここまでか書きました。
私の中ではもう完結のようなものですがメインを進めてまた進めることがあるかもしれません。
皆様の暇をつぶせたりクスッときたりドルベで笑顔を…ができたら幸いです。
ここまで読んでくださりありがとうございました!

オリジニウムダスト後は…

  • オペレーターとの交流(時系列バラバラ)
  • ドクターやロドス首脳陣主体の交流
  • 単独でサイドストーリーに乗り込む
  • 結果を見たい用兼感想でお教え下さい
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