なんとでも言え。私とてテラの大地を救わなければならない…   作:バリアンの(面)白き盾

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時間が空き申し訳ありません。
しかもギャグも殆どありません。
私がアークナイツをハマったきっかけのSR6「オペレーションオリジニウムダスト」はストーリーをしっかり見るようになったきっかけのイベントでした。
みなさんもアークナイツにハマったきっかけはなんでしたでしょうか?

 私はアークナイツのメインもろくに進めれずエンドフィールドの武陵へようやく着きました…。
評価や感想をいただけると励みになるのでよろしくお願い致します。
また近いうちに投稿できるように頑張ります。
あと…タイトルのドルベ語が尽きて悲しいです…


オペレーション・オリジニウムダストinドルベPart1

 

 

 サルゴンの灼熱の太陽が、赤茶けた砂漠を容赦なく焼き付けていた。

 

 輸送車を失い、補給もままならないロドスの外勤チーム――レンジャー、フランカ、リスカム、そしてシュバルツの4人は、絶体絶命の危機に瀕していた。彼らを包囲していたのは、この地の生態系には存在し得ない、異形の変異生物の群れだった。

 

「リスカム、盾のチャージは!?」

「……限界に近いわ! この数、異常よ!」

 

 フランカの鋭い声にリスカムが応じるが、変異生物の執拗な攻撃に防衛線が削られていく。シュバルツがクロスボウで核となる個体を射抜くが、次から次へと砂の中から湧き出してくる。

 

 その時、砂丘の向こうから凄まじい光の奔流と共に、一人の男が滑り込んできた。

 

「私が君の危機に駆けつけないと思ったか……!?(訳:待たせたな、諸君! ロドスの盾、ホワイトシールドが只今参上した!)」

 

 砂塵を巻き上げ、これ以上ないほどキレのあるポーズで着地したのは、迷子になっていたはずのドルベだった。その隣には、彼を見つけ出し、共に駆けつけたフロストノヴァが立っている。

 

「ドルベ……あんた、本当に世話が焼けるものだ…。……行くぞ!」

 

フロストノヴァは双剣を使い感染生物をなぎ倒す。彼女の動きは無駄がなく、変異生物の隙を突いては、その生命活動を的確に停止させていく。

 

(……俺は偽物だ。だけど、この仲間たちが危機に瀕している今、俺の魂が本物かどうかなんて関係ねぇ!)

 

ドルベはデュエルディスクを起動させ、己の「意地」を具現化する。

 

「現れろ! 光天使ウィングス、ブックス!!(訳:私の『意地』を見よ! 砂漠の果てまで届く守護の光を!)」

 

「エクシーズ召喚! No.102! 光天使グローリアスヘイロー!」

 

 顕現した黄金のナンバーズは、かつてのような派手な発光を抑え、実戦的な鈍い輝きを放ちながらドルベの背後に浮遊した。ドルベは自らも剣を抜き、グローリアス・ヘイローの巨大な盾と連携して、リスカムたちの前に鉄壁の守護を築き上げる。

 

「なんとか凌いだようだが、僅かな時を稼いだにすぎん(訳:この程度の数、私の執念を突破するには足りないぞ! 全員、私の後ろへ!)」

 

 ドルベのグローリアス・ヘイローは、変異生物の不気味な体液を浴び、砂にまみれながらも、一ミリたりとも後退することはなかった。その泥臭くも圧倒的な防衛能力に、レンジャーは目を細め、シュバルツは驚きに眉を動かした。

 

「……助かるわ、ホワイトシールド! 相変わらず何を言ってるのか分からないけど、その力は本物ね!」

 

 フランカが笑いながら隙を突き、変異生物を切り裂く。

灼熱のサルゴンに、場違いなほど真っ直ぐで「意地」の詰まった黄金の輝きが、反撃の狼煙を上げていた。

 

 

 

 

 グローリアス・ヘイローが最後の一体を黄金の光矢で射抜くと、辺りには不気味な静寂と、変異生物が撒き散らした異臭だけが残った。

 

 戦闘が一段落し、BSWの二人とシュバルツ、レンジャーが武器を収めながら合流する。彼らの視線の先には、先ほどまで「ウオオワアアアアアッッ!」という、情けない絶叫を上げながら砂丘の彼方へ消えていったはずの男、ドルベがいた。

 

砂まみれになりながらも、平然とポーズを決める彼の姿に、リスカムが信じられないといった様子で口を開く。

 

「……あの高度から放り出されて、どうしてそんなにピンピンしているの? 骨の一本や二本、折れていてもおかしくないはずだけど」

 

フランカも苦笑交じりにフロストノヴァへ問いかけた。

「ねえ、ホワイトシールドっていつもあんな感じなの? どうみても元気そうに今も周囲の警戒をしてるみたいだけど…」

 

問われたフロストノヴァは、双剣を納めながら淡々と答えた。

「ああ。以前、チェルノボーグの侵入時に足を滑らせて移動都市艦体に真正面から撥ねられたことがあったけれど、その時も気絶しただけで、すぐに起き上がってポーズを決めていたわ」

 

「……」

BSWの二人は絶句し、シュバルツに至っては「……ロドスの人事選考基準を疑うべきだな」と、本気で顔を伏せた。

 

ドルベ本人はそんな困惑などどこ吹く風で、「戦場の安全を確認し、仲間に平和を告げるための地平線監視ポーズ」を決めていた。

 

「姑息な手を……!(訳:周囲に動体反応なし! 安心していいぞ、諸君。私の光によってこの地の邪悪を一時的に退けたようだ!)」

 

「我ら二人の力をみせてやる!(訳:さあ、警戒を解いて次の行動に移ろう。この私がいる限り、砂嵐の一粒たりとも君たちには触れさせん!)」

 

 余りある元気なドルベの振る舞いに、外勤チームは「頼りにはなるが、この先も気苦労が絶えなさそうだ」と、一様に肩を落とした。

 

 しかし、話が先ほどの変異体に及ぶと、場に再び緊張が走る。

この地の砂漠を熟知するレンジャーが、死骸を慎重に検分しながら重い口を開いた。

 

「……妙だな。長年この地を歩いてきたが、このような個体は見たことがない。体に源石結晶は見られるが……天災に適応しきっているはずの野生生物が、あのような不自然な変異を起こすなど、理にかなわん」

 

「人為的なもの、あるいは……未知の脅威の前兆か」

シュバルツの言葉に、全員が沈黙する。

 

不気味な変異生物の出現。そして、それとは対照的なほど明るく、けれどどこか「異質」な輝きを放つドルベ。

一行は、砂漠の奥底で何かが蠢き始めていることを肌で感じ始めていた。

 

 その時全員の通信機が、砂嵐の風切音を切り裂くようにしてノイズ混じりの悲鳴を吐き出した。

 

『ザザ……こちら……アインタウィル……展望タワー33……』

『……暴徒……が……』

『……侵入してきた! 至急……救援を……!』

 

 途切れ途切れの声、そして通信が強制的に切断される電子音。

 その場にいた全員の空気が一瞬で張り詰めた。ただの通信障害や定期連絡の不備ではない。明確な敵意と、切迫した死の気配がそこにはあった。

 

 シュバルツは足元に転がる異形の変異体の死骸へと視線を落とした源石に侵食された異様な感染生物…。そしてタイミングを合わせたかのように発生した、セーフハウスへの暴徒の襲撃。

これらが単なる偶然の一致であると考えるには、あまりに不穏な要素が揃いすぎていた。

 

「……レンジャー、フランカ、リスカム。予定を変更する。我々はこれよりSOSの発信源、アインタウィルと呼ばれる場所へ急行し救援を行う」

 

シュバルツの判断は早かった。だが、本来の調査任務である「最初の目標地点」を放棄するわけにはいかない。彼女は視線を巡らせ、砂まみれになりながらも油断なく周囲を警戒している「規格外」の二人――ドルベとフロストノヴァに狙いを定めた。

 

「ホワイトシールド、フロストノヴァ。あなたたち二人は、当初の予定通り『最初の目標地点』へ向かってくれ。事態は深刻かもしれん。もしもの備えとしてロドスへの救援連絡を頼む」

 

 その人選は、ロドスの中でも選りすぐりの戦力である彼らへの最大限の信頼の証だった。変異体との戦闘で見せたドルベの不可解だが鉄壁の防御、そしてフロストノヴァの圧倒的な殲滅力。この二人ならば、単独行動で何が起きても対処できると踏んだのだ。

 

「我ら二人の力をみせてやる!(訳:了解した! SOSの主は君たちに任せる。我々は本来の任務を遂行し、必ずや成果を持ち帰ろう!)」

 

ドルベは「友の旅路の無事を祈りつつ、自身の指名を再確認する分かれ道のポーズ」(ただY字に立っただけ)をビシッと決め、シュバルツの指示を快諾した。

 

 

「頼んだわよ、二人とも。……特にホワイトシールド、また迷子にならないでよね」

フランカが軽口を叩き、レンジャーが静かに頷く。シュバルツ率いる外勤チームは、砂塵を巻き上げながらアインタウィルの方角へと駆けていった。

 

 あとに残されたのは、どこまでも広がるサルゴンの荒野と、二人だけ。

 日が傾きかけ、砂漠特有の急激な冷気が足元から這い上がってくる。

 

フロストノヴァは、遠ざかる仲間の背中が見えなくなるまで見送った後、ドルベの隣に並び、彼らがこれから向かうべき「最初の目標地点」の方角を睨んだ。

地図もナビゲーションもない。あるのは地平線と、果てしない砂の海だけだ。

 

「……行くぞ、ホワイトシールド。ここから目的地までは、夜通し歩いても着くかどうか怪しい距離だ」

 

「王を救うのだ! 全軍突撃!(訳:ああ、望むところだ! この足で大地を踏みしめ、夜を越えてみせよう! 進軍開始だ!)」

 

 ドルベは夕日に向かって「勇壮なる旅人のポーズ」をとった。

その背中には、以前のような浮ついた軽さはなく、長い夜の旅路を友と共に踏破しようとする、静かで熱い覚悟が宿っていた。

 

 灼熱の太陽が地平線の彼方へと没し、サルゴンの砂漠は一転して、肌を刺すような極寒の世界へと姿を変えていた。

 見渡す限り、命の気配を拒絶するかのような赤茶けた砂の海が広がっているばかりで人の気配など感じない。風が吹くたびに砂粒が乾いた音を立てて舞い、足跡を瞬時に消し去っていく。

 

 フロストノヴァは、隣を歩く男の様子を横目で窺った。

 輸送車を失うという不慮の事故に見舞われ、そのまま夜通しの進軍を余儀なくされた過酷な状況。しかし、ドルベは弱音一つ吐かず、むしろ「地平線の果てにある真実を追い求める、孤高の探索者ポーズ」を維持しながら、砂を一歩ずつ着実に踏みしめていた。

 

「……ホワイトシールド。あんた、疲れはないの? 相当な距離を歩いているけれど」

 

 フロストノヴァの問いかけに、ドルベは立ち止まり、夜空に煌々と輝く銀河を見上げた。砂漠の夜空は、ロドスの艦上から見るそれよりも遥かに近く、恐ろしいほどに澄み渡っている。

 

「感じるぞ、お前の魂を(訳:見てくれ、フロストノヴァ。この星々の瞬きを。宇宙(バリアン)の真理が、この荒野を優しく照らしているようだ。実に美しい夜だ)」

 

 あまりに呑気で、それでいて詩的な(ドルベ語特有の)響き。フロストノヴァは呆れたように吐息を漏らし、口元に微かな笑みを浮かべた。

 

「……お前は。……どんな時でも、いつもそうだな。その余裕だけは、少し羨ましいものだな…」

 

 歩き始めてから3時間が経過した頃。砂を蹴る足の重さが増し始めたのを感じ、二人は砂嵐を避けるように突き出した、天然の岩囲いへと滑り込んだ。そこは風が遮られ、わずかながらも安らぎを感じられる場所だった。

 

岩肌に背を預けて腰を下ろすと、ドルベはすぐさま「戦いの合間に訪れた一時の静寂を噛み締め、次なる夜明けへと魂を研ぎ澄ませる、休息の騎士ポーズ」をとった。

 

 

「ブックス!(訳:この場所はいい。天然の要塞のようだ。少しの間、ここで英気を養うとしよう。フロストノヴァ、君も少し休むといい)」

 

 ドルベは手荷物からわずかな保存食と水を取り出し、彼女へと差し出した。その手は砂に汚れ、微かに震えていたが、差し出される所作にはバリアンの戦士としての誇り高い優雅さが宿っていた。

 

 フロストノヴァは差し出された水を受け取り、冷え切った夜気に身を縮めながら、隣に座る奇妙な相棒を見つめた。

「……ありがとう。夜明けまで、まだ先は長い。少しだけ、体を休ませてもらおう」

 

 静まり返った砂漠の夜。岩陰の微かな温もりの中で、二人は束の間の休息に身を委ねた。ドルベは目をつむりながらも、周囲の警戒を怠ることなく、神経を研ぎ澄ませていた。

 

(アインタウィルに向かったシュバルツたちは大丈夫だろうか…。あの4人であれば問題ないとは思うが……。この砂の底で蠢く不気味な気配が、ただの感染生物だとは思えない。俺がこの地でなすべきことは、まだ始まったばかりだ)

 

 ドルベの胸の中で、目に見えぬ覚悟が静かに、しかし熱く燃え上がっていた。

 

 

 

 岩陰で暖を取りながら、冷え切った夜気の中で二人は静かな時間を過ごしていた。

 保存食をかじりながら、フロストノヴァはふと、焚き火代わりの携帯ライトに照らされたドルベの横顔を見つめた。

 

「なあ、ホワイトシールド。お前は、ロドスに来る前は何をしていた? その……『バリアンの騎士』っていうのは、カジミエーシュか何かの称号なのか?」

 

 その問いに、ドルベは一瞬動きを止めた。

 彼にとって「過去」とは、テラには存在しない異世界の記憶であり、説明しようにも説明できない禁忌の領域だ。まさか「アニメやアークナイツを知っていて、気づいたら転生していた」などと言えるはずもない。

 

(……参ったな。正直に話すわけにはいかないし、かといって嘘をつくのも心苦しい。……よし、ここはドクターたちと出会った『ドッソレスでの出来事』を、騎士物語風にかいつまんで話して誤魔化そう!)

 

 ドルベは食べかけの保存食を置き、おもむろに立ち上がると、夜空の星を指差す「過去の栄光と追憶を語る、吟遊詩人のポーズ」をとった。

 

「私の名はナッシュ・・・ただの旅行者だ(訳:……ふっ、私の過去か。私はただ、この大地を彷徨う旅人に過ぎない)」

 

「お前たちを追ってきた、これ以上ナンバーズを渡すわけにはいかない(訳:あの日、私は太陽が照りつける南の海……ドッソレスで、運命に導かれるようにドクターたちとであったのだ!)」

 

 ドルベの脳裏に、あの日の光景が蘇る。

 照りつける太陽、不機嫌なケルシー、気まずそうなドクター、そして間に挟まれた可哀想なアーミヤ。あの「冷戦」状態のロドス首脳陣に対し、空気を読まずにポーズ全開で意図ぜず出会い、結果として(変質者として)保護されたあの日のことを。

 しかし、彼の脳内フィルターを通すと、それは「孤独な騎士が、王の資質を見抜き、忠誠を誓った英雄譚」へと変換されていた。

 

「感じるぞ、お前の魂を(訳:そこで私は、ドクターという男の魂に触れた。言葉は通じなくとも、あの人の瞳には世界を救う光が宿っていた)」

 

「少しは楽しませてくれたが、結果は最初から見えていた(訳:ケルシー殿には警戒されたが……ふっ、私がロドスの盾となることは、出会った瞬間から運命づけられていたのさ)」

 

 ドルベは満足げに腕を組み、ドヤ顔で締めくくった。

 実際には、「怪しい言動で周囲を混乱させ、アーミヤの精神感応で辛うじて善性を証明され、危険物として回収された」というのが真実なのだが、彼の中では美しい思い出として処理されているようだ…。かわいそうな生き物だ…。

 

フロストノヴァは、身振り手振りだけで壮大に語る(しかし内容は全く要領を得ない)彼を見て、呆れたように、しかし優しく微笑んだ。

 

「……結局、何も分からないじゃない。あんたって奴は、本当に……」

 

 彼女は、彼が「過去」について何かを隠していること、あるいは言えない事情があることを察していた。だが、目の前で胸を張るこの男が、今はロドスのために、そして自分のために命を懸けている「バリアンの戦士」であることだけは疑いようのない事実だった。

 

「ま、いい…。過去がどうあれ、今のお前は頼れる相棒だ。……『旅行者』さん」

 

「私の名前はナッシュ!ただの旅行者だ!(訳:ああ! 過去など些細なことだ! 重要なのは、今私が君の隣にいるということだけさ!)」

 

ドルベは嬉しそうにポーズを崩し、再び腰を下ろした。

星空の下、語られなかった真実は砂漠の風に溶け、二人の間には言葉以上の信頼だけが残されていた。

 

 サルゴンの夜は静寂に包まれていた。時折吹く風が砂を撫でる音以外、生命の気配は感じられない。

 ドルベの「過去」という名の英雄譚(実態は壮大な勘違い劇)を聞き終えたフロストノヴァは、呆れながらも微かな笑みを浮かべ、腰を上げた。

「……さて、行くか。休憩は終わりだ」

彼女がそう言い、砂の上にブーツの裏を押し付けた、その瞬間だった。

 

ズズッ……。

足元の砂が、まるで生き物のように不気味に隆起した。

 

「ッ……! 下か!」

 フロストノヴァが鋭く反応し、バックステップで距離を取ると同時に、彼女がいた場所から鋭利な鋏のような器官が突き出した。

 月光を反射することなく、ただ禍々しい赤黒さを放つそれは、昼間に遭遇した異形の感染生物と同じものだ。だが、サイズも、放つ威圧感も、先ほどの個体とは比較にならない。

 砂煙を上げ、全長3メートルはあろうかという巨体が姿を現す。全身にビッシリとこびりついた源石結晶が、夜の闇の中で不気味に脈動していた。

 

「この突然の異変は・・・まさか滅びの前兆!?(訳:伏兵か! しかも、この距離まで気配を殺していたとは……! だが、遅い!)」

 

ドルベは瞬時にデュエルディスクを展開。

彼の瞳に、以前のような「焦り」や「功名心」はない。あるのは、眼前の敵を冷静に分析し、最短で無力化しようとする冷徹な戦士の眼差しだ。

 

「現れろ! 光天使ウィングス、ソード!ブックス!!(訳:フロストノヴァ、左翼は任せた! 私は正面から奴の注意を引きつける!)」

 

 ドルベの呼びかけに呼応するように、三体の光天使が夜空を駆ける。

 以前なら派手な光と共に召喚していたであろうそれらは、今は必要最低限の光量で、しかし驚異的な速度で変異体の視界を攪乱する。

 

 変異体が咆哮を上げ、ドルベに向かって酸のブレスを吐き出す。

だが、その軌道上には既に『No.102 光天使グローリアス・ヘイロー』が黄金の盾として展開されていた。

「なんとか凌いだようだが、僅かな時を稼いだにすぎん(訳:無駄だ。私の『意地』という名の盾はは、そんな安っぽい攻撃で揺らぐほど軽くはない!)」

 

 酸が盾に触れてジュウジュウと音を立てるが、ドルベは一歩も引かない。その背中は、岩のように不動だ。

変異体の注意がドルベに釘付けになった一瞬の隙。

 

「……遅い!」

 冷徹な声と共に、フロストノヴァが変異体の懐に潜り込んでいた。

 アーツを使わずとも、彼女の身体能力は卓越している。手にした双剣が、月光を受けて煌めいた。

「ハッ!」

 鋭い呼気と共に放たれた斬撃が、変異体の関節部を正確に断ち切る。硬質な音と共に、巨体がバランスを崩して砂に沈んだ。

 

「我ら二人の力をみせてやる!(訳:今だ、ヘイロー! トドメの一撃を!)」

 

 ドルベが右手を振り下ろすと、グローリアス・ヘイローの放つ光の矢が、変異体の急所を正確に貫いた。

断末魔を上げる間もなく、異形は沈黙し、ただの骸へと変わる。

 

 

 戦闘は、あまりにあっけなく終わった。

 ドルベの研ぎ澄まされた防御と、フロストノヴァの的確な攻撃。二人の連携は、言葉を交わさずとも完璧に機能していた。

 

 しかし、勝利の余韻に浸る空気は微塵もなかった。

 

「……ここもか」

 フロストノヴァは、変異体の死骸を見下ろしながら呟いた。

 昼間の遭遇地点からはかなりの距離を移動している。それなのに、未だに同種の、しかもより強力な個体が出現する。これは、この砂漠の広範囲に既に「生息」しているのだろかと不安にさせた。

 

「この突然の異変は・・・まさか滅びの前兆!?(訳:……シュバルツたちの懸念は正しかったようだな。この変異、局地的なものではない。何かが、この大地の下で起きている)」

 

 ドルベは北の空、彼らが目指すフィアルクンのセーフハウスがある方角を見上げた。

 通信機を取り出してみるが、案の定、激しいノイズしか聞こえない。シュバルツたち外勤 チームとも、目的地のセーフハウスとも連絡は未だ取れる位置にいないようだ。

 

「急ぎましょう、ホワイトシールド。……嫌な予感がする」

「ブックス(訳:ああ。フィアルクンの安否が心配だ。……急ごう、夜明け前に到着しなければならない)」

 

 二人は再び砂を踏みしめ、歩き出した。

 冷たい夜風が吹き抜ける中、ドルベとフロストノヴァの胸中には、得体の知れない「闇」への不安が重くのしかかっていた。

 

 

 

 砂塵舞うサルゴンの荒野を夜通し歩き、ついに二人は目的地の村、フィアルクンと呼ばれる村へと辿り着いた。

 

 しかし、そこに人の営みの音はなかった。

 扉や窓は硬く閉ざされ、通りには風に転がる枯れ草があるのみ。まるでゴーストタウンのような静寂が支配していた。だが、ドルベとフロストノヴァの肌には、建物の中から無数の視線が突き刺さるような、張り詰めた緊張感が伝わっていた。

 

 二人がロドスのセーフハウスとおぼしき建物へ足を向けた、その時だった。

 

「……そこまでだ! 何の用だ、余所者!」

 

 影の中から、農具や自警用の武器を手にした村人たちが次々と現れ、二人を取り囲んだ。彼らの瞳には、明らかな敵意と、それ以上の恐怖が宿っていた。

 ドルベは咄嗟に身構えたが、ここで「ドルベ語」を発すれば混乱を招くだけだと理解していたため、沈黙を守りながら油断なく周囲を警戒する。

 

「待って。私たちは敵じゃない。ロドス・アイランドのオペレーターだ。ここには任務できた…」

 

 フロストノヴァが武器を収め、努めて冷静に語りかける。しかし、村人たちの警戒は解けない。彼らは極限状態にあり、外部の人間を信じる余裕など残されていないようだった。

 

「嘘を言うな! こんな時に来るような奴らを信じられるかか!」

 一触即発の空気が流れる。ドルベが盾(デュエルディスク)を展開しようとしたその瞬間――。

 

「待ってください! その人たちは味方です!!」

 

 セーフハウスの扉が勢いよく開き、ボロボロの装備を身につけた一人の前衛オペレーターが飛び出してきた。

 彼は村人たちの前に立ち塞がり、必死に説得を始めた。

「あの特徴的な盾のようなものと白いコートのコータス……本艦から派遣された精鋭、ホワイトシールドさんとフロストノヴァさんです! お願いします、武器を下げてください!」

 

 駐在オペレーターの必死の仲裁により、ようやく村人たちは武器を下ろし、蜘蛛の子を散らすように家の中へと戻っていった。

 

 場所は変わり、フィアルクンのロドスアイランドセーフハウス内。

中は消毒液と砂埃の混じった匂いが充満しており、簡易ベッドには怪我をした村人たちが横たわっていた。駐在の前衛オペレーターは、目の下に濃い隈を作りながらも、安堵の表情で二人に現状を報告した。

 

「……来てくださって本当によかった。見ての通り、ここは限界寸前です」

 

 彼によると、この村を脅かしているのは、やはりあの「謎の感染生物」だった。

 元々はこの地方の地中に生息する、比較的大人しい生物だったという。しかし、つい最近になって突如として体表に源石結晶が現れ、凶暴化。人を襲い、家畜を食らい、村を孤立させてしまったのだ。

 

「以前は人前に現れるようなことはない石を投げれば逃げるような生き物だったんです。それが今や、群れで人間を狩る捕食者になってしまった……。セーフハウスの備蓄医薬品でなんとか村人の治療を続けていますが、それも底をつきかけています」

 

 前衛オペレーターは悔しげに唇を噛み、部屋の隅にある通信機を指差した。

 

「それに、最大の問題がこれです。本艦に救援要請を送りたいのですが、通信が全く繋がらないんです」

 

 このセーフハウスの通信機は、有線ケーブルで村の外にある中継アンテナへと繋がっている。しかし、どうやらそのケーブルのどこかが、暴れた感染生物か何かによって切断されてしまったらしい。

 

「ここを守るだけで手一杯で、外へ修理に出る余裕がなくて……。お二人にお願いがあります。村の外へ出て、断線箇所を特定し、通信を復旧させてはいただけないでしょうか? 通信さえ繋がれば、物資と救援要請もできます!」

 

その悲痛な叫びに、ドルベは深く頷いた。

彼は前衛オペレーターの肩に手を置き、「友の苦境を救うため、危険な任務を快諾する英雄のポーズ」を力強く決めた。

 

「王を救うのだ!全軍突撃!(訳:任せておけ! 通信の復旧こそが、この村を救うライフラインとなるはずだ。私が必ず繋げてみせる!)」

 

 

「ブックス!(訳:フロストノヴァ、行こう! 原因を突き止め、この村に希望を取り戻すんだ!)」

 

 ドルベの迷いのない瞳に、前衛オペレーターは涙ぐみながら敬礼を返した。

 休息もそこそこに、ドルベとフロストノヴァは再び危険が潜む村の外へと足を踏み出すことになった。通信ケーブルの復旧、それがこのゴーストタウンを救う唯一の鍵となる。

 

 

 セーフハウスの中、湿った空気と消毒液の匂いが漂う薄暗い部屋で、駐在の前衛オペレーターは呆然としていた。

 目の前には、ロドス本艦から派遣されたという「噂のエリートオペレーターに匹敵するといわれる」、ホワイトシールドがいる。

 しかし、彼が発した言葉は「王を救うのだ! 全軍突撃!」という、通信ケーブルの修理任務にはあまりに不釣り合いな、芝居がかった台詞だった。しかも、その直後に取ったポーズは、狭い室内ではいささか邪魔になるほどに鋭角的で、無駄に洗練されていた。

 

「あ、あの……ホワイトシールドさん? 復旧を……お願いしたいのですが……? その、頭の方は大丈夫でしょうか……?」

 

 前衛オペレーターの顔には、「この人に村の命運を託していいのか」という深刻な不安が張り付いていた。

 ロドス本艦では、もはや彼の奇行は日常風景の一部として認知されて久しく、ほぼ誰も気に留めなくなっていたが、辺境の駐在員にとって、この「バリアンの戦士」の初見のインパクトは計り知れないものがあった。

 

それを見て、フロストノヴァが小さく溜息をつき、慣れた様子で助け舟を出した。

 

「心配しないで。こいつは……少し『言語出力回路』が特殊なだけよ」

 

「は、はぁ……特殊、ですか?」

 

「ええ。言っていることは支離滅裂に聞こえるかもしれないけれど、こちらの意図は完全に理解しているし、作戦行動に支障はない。実力も申し分ない。……さっきの『全軍突撃』は訳すと『了解した、直ちに取り掛かる』という意味だと思っておけばいい」

 

フロストノヴァの淡々とした、しかし確信に満ちた解説を聞き、前衛オペレーターはようやく強張った表情を崩した。

「……なるほど、そういうアーツの副作用か何か……失礼しました。では、頼みました!」

 

(……副作用とかじゃないんだけどな。俺、ただの一般人だし。でもまあ、信頼してくれたならそれでいいか!)

 

ドルベは心の中で苦笑しつつ、「颯爽と戦場へ向かう英雄の背中ポーズ」を決め、セーフハウスの扉を開け放った。

 

「ブックス!!(訳:行くぞ、フロストノヴァ! 誤解も解けたところで、さっさと仕事を片付けよう!)」

 

 二人が一歩外へ踏み出すと、そこは再び死の静寂に包まれたゴーストタウンだった。

 前衛オペレーターから渡された地図端末を頼りに、二人は村の外縁部、通信ケーブルが走っているとされている荒野へと急いだ。

 

 村外れの砂漠地帯。風化して剥き出しになったケーブルの一部が、砂の中から黒い蛇のように顔を出している場所があった。

 

「ここか。……酷い有様だな」

 

 フロストノヴァが指差した先、ケーブルは鋭利な何かで無残に引きちぎられ、断面からは火花が散っていた。明らかに自然劣化ではない。

 ドルベが修理キットを取り出し、切断面を確認しようと屈み込んだ、その時だった。

 

ズズズズズ……ッ!!

 

 地面が微動し、遠くの砂丘から、地鳴りのような音が響き渡ってきた。

 風の音ではない。それは、無数の生物が砂を掻き分け、一斉にこちらへ向かってくる足音だった。

 

「食われたくなければ、貴様を倒すしかないというわけか!(訳:来たか……! 修理を邪魔するつもりか!)」

 

 ドルベが顔を上げると、月明かりの下、砂漠の稜線が黒く波打っているのが見えた。

 目を凝らせば、それは砂の波ではない。

 先ほど遭遇した、源石結晶に侵食された異形の感染生物たちだ。だが、その数は数体や十数体ではない。数を数えるのもばからしい超える凶暴化した感染生物の群れが、まるで一つの巨大な生き物のように、このフィアルクンを飲み込まんと押し寄せてきていた。

 

「防衛線が突破されたら、村は終わりだ。……ホワイトシールド、お前は修理を。私が時間を稼ぐ」

 

フロストノヴァが双剣を持ち、構えを取る。しかし、ドルベは首を横に振った。

 

「我ら二人の力をみせてやる!(訳:駄目だ! この数は君一人で支えきれる量じゃない! 私が盾となり、君が剣となる。二人でこの波を食い止めながら、隙を見て修理するんだ!)」

 

 ドルベはデュエルディスクを展開し、光天使たちを呼び出した。

修理が必要なのは分かっている。だが、今はまず、この圧倒的な暴力の波を押し返さなければ、修理どころか自分たちの命もない。

 

「現れろ! 光天使ウィングス! ブックス! ソード!!」

 

 三体の光天使がドルベの周囲に展開し、即席の防壁(バリケード)を構築する。

感染生物の先頭集団が、涎を垂らしながら咆哮を上げ、二人に飛びかかってきた。

 

「貴様・・・何のためにこんな真似を!(訳:罪なき人々を襲う貴様らの暴虐、この私が許さん! ここを一歩も通すものか!)」

 

(この村の人たちが、あんな狭い部屋で怯えているんだ。通信さえ繋げば助かる……なら、俺がここで倒れるわけにはいかねえ! この泥臭い盾で、全部弾き返してやる!)

 

 砂煙舞うフィアルクンの外縁で、たった二人対、狂乱の軍勢による防衛戦が幕を開けた。

 

 

 

 フィアルクンと呼ばれる村の外縁で防衛戦を始めたドルベとフロストノヴァ。

 防衛に専念していたが押し切られ防衛線が押されていた…。

 

「なんとか凌いだようだが、僅かな時を稼いだにすぎん(訳:くそっ、キリがない! 倒しても倒しても、次から次へと湧いてきやがる! このままじゃ押し切られるぞ!)」

 

 ドルベの光天使たちが必死の防衛線を張るが、狂乱した感染生物の波は留まることを知らない。グローリアス・ヘイローの盾が軋みを上げ、ドルベの額に脂汗が滲む。

この数を捌き切るには、通常の戦力では足りない。

 

(……やるしかないのか。制御できる保証はないが、ここで『RUM(ランクアップ・マジック)』を使ってカオス・エクシーズ・チェンジを……!)

 

 ドルベの手が、デッキの一番奥にある、禍々しくも強力なカードへと伸びた。一か八かの賭け。リスクを負ってでも、この場を制圧する火力を得るために。

 

「しまった! バリアラピスを・・・これでは本来の力を使う事ができない! 私とした事が・・・!(訳:ええい、迷っている暇はない! 私の全存在を賭けて、この窮地をランクアップさせるしか……!)」

 

 その指先がカードに触れようとした瞬間、冷たい手がドルベの腕を掴んだ。

 

「早まるな、ホワイトシールド。お前のその切り札は、もしもの時な時のために取っておきなさい」

 

 フロストノヴァだった。彼女はドルベの無謀な賭けを制すると、静かに目を閉じた。

 彼女の精神の深淵。そこには、彼女と共生する高次精神体――ホワイトシールドのナンバーズの力の残滓の、「ナストラル」が静座していた。

 

『……ナストラル。力を貸して。この数を一瞬で黙らせるには、アレしかないわ』

 

 彼女の呼びかけに、精神世界の中でナストラルが目を開く。

『……君のことを思えばあまり推奨できないが致し方ない。今こそ枷を外す時だ。この戦場の勝利の方程式をそろえようか…』

 

 ナストラルの承諾と共に、フロストノヴァの身体から「リミッター」が外れる音がした。

 それは、彼女がロドスで「解放者」として登録されてから、極限の状況下でのみ使用を許可されている切り札。

 ナストラルが全ての代償と身体負荷を肩代わりすることで実現する、かつての「雪原の死神」の再臨。

 

制限時間は102秒。

 

「――凍りつけ」

 

 囁くような一言と共に、灼熱のサルゴンの大地が、瞬時にして極寒の死地へと変貌した。

 

 アーツユニットも、詠唱もない。

 ただ彼女がそこに「在る」だけで、世界が凍結していく。

 押し寄せていた数百の感染生物たちが、足を止めることすら許されず、その身を黒い氷像へと変えられていく。砂漠の乾燥した空気中の水分が凝固し、ダイヤモンドダストとなって戦場を舞う。

 

 それは、かつて彼女の命を蝕んでいた呪いのような力だった。しかし今は、ナストラルの加護により、彼女を傷つけることなく、敵のみを粉砕する純粋な「勝利の力」として昇華されていた。

 

 ドルベはその光景を、盾の陰から呆然と見つめていた。

(……すげぇ。やっぱりすげえぜ!フロストノヴァの、本気のアーツ……! )

 

 圧倒的な冷気が荒れ狂う中、ドルベは思わず呟いた。

 

「命を削っての特殊召喚、見事だ(訳:……ふつくしい…。見事だ、フロストノヴァ……)」

 

 氷像と化した感染生物たちが、次々と自重に耐えきれず砕け散っていく。

 102秒という僅かな時間。だがそれは、この戦場を制圧するには十分すぎるほどの「永遠」だった。

 

「ホワイトシールド! 道は開けたわ! 今のうちにケーブルを!」

 

 吹雪の中心で、白銀に輝くフロストノヴァが叫ぶ。その姿は、ドルベが知るどの騎士よりも気高く、美しかった。

 

「ブックス!!(訳:了解した! 君が作ったこの勝機、無駄にはしない!)」

 

ドルベは寒さに震えるどころか、その魂を熱く震わせながら、露出したケーブルへと全速力で駆けた。最強の矛が切り開いた道を、最強の盾が繋ぐために。

 

 

 

 

 

 サルゴンの焦熱が支配する砂漠の一角に、あり得ないほどの冷気が滞留していた。

 

「――終わり、ね」

 

 フロストノヴァが静かに呟くと同時に、世界を凍てつかせていた絶対零度の嵐がふっと霧散した。

 ちょうど102秒。

 彼女の意識の深淵で、ナストラルの気配が深い眠りにつくように途絶える。それと同時に、彼女の身体を覆っていた神々しいまでの冷気の加護も消失した。

 

 目の前に広がるのは、氷の彫像と化した感染生物の大群だった。

 かつてロドスの精鋭たちすら震え上がらせた「冬の化身」の力は、この砂漠の暴虐すらも沈黙させるに十分すぎた。しかし、その代償としてナストラルとの交信は断たれ、彼女はしばらくの間、あの規格外のアーツを行使することはできない。

 

「……ふぅ」

 

 彼女は小さく白い息を吐き、手にしていた双剣を納めた。

 力の供給が止まった今、無理は禁物だ。だが、その表情には安堵の色が浮かんでいた。

 

 その時、氷像の隙間から数体の感染生物が、身体の半分を凍らせながらも奇跡的に動き出し、フロストノヴァの背後へと這い寄ろうとした。

 

「行け! グローリアスヘイロー! シャークドレイクに攻撃! ライトニングクラスター!(訳:逃がすものか! 我が友に仇なす残滓よ、光の彼方に消え去れ!)」

 

 轟音と共に、黄金の閃光が砂漠を焼いた。

 ケーブルの修復を終えたドルベが、間髪入れずに『No.102 光天使グローリアス・ヘイロー』によって、残存勢力を正確無比に撃ち抜いたのだ。

閃光が収まると、そこには動くものは何一つ残されていなかった。

 

 ドルベはデュエルディスクを収納し、足でバンと踏み固めると、「友の背中を守り抜いた満足感に浸る騎士のポーズ」を決めた。

 

「なんとか凌いだようだが、僅かな時を稼いだにすぎん(訳:修理完了だ! これで通信は繋がる。君の背中は私が守ったぞ、フロストノヴァ!)」

 

 

 フロストノヴァは振り返り、ポーズを決めるドルベと、その足元でしっかりと再接続された通信ケーブルを確認した。

 

「……助かったわ、ホワイトシールド。あんたがケーブルを直してくれなきゃ、この勝利も無意味になるところだった」

 

 彼女は視線をフィアルクンの村の方角へと向ける。

 ゴーストタウンのように静まり返っていたあの村に、これでロドスの支援が届く。医療物資、食料、そして何より「孤立していない」という事実が、村人たちとあの駐在オペレーターの心を救うはずだ。

 

「これで本艦と連絡が取れる。補給部隊が来れば、この村は持ち直すはずだ」

 

「少しは楽しませてくれたが、結果は最初から見えていた!(訳:ああ、その通りだ! 希望の回線は開かれた! さあ、吉報を村に持ち帰ろう!)」

 

 ドルベは高らかに叫び、フィアルクンへの帰路を指差した。

 ナストラルという切り札を一時的に失った不安はあったが、フロストノヴァは隣を歩くこの「奇妙で頼もしい盾」を見つめ、微かに口元を緩めた。

 

 冷たい夜風の中、二人は確かな戦果を胸に、村へと足を速めた。

 

 

 夜が明けた顔をのぞかせた陽によってに照らされた砂漠の地平。フィアルクンの村へと戻るフロストノヴァの、白銀の髪が風にたなびく背中を眺めながら、ドルベの心象には説明のつかない強烈な違和感が澱のように沈殿していた。

 

(……おかしい。さっきの感染生物の挙動、そしてこの不気味な増殖の仕方。どこかで、いや、確実に『知っている』。この不快な既視感は何だ……?)

 

彼は砂にまみれたデュエルディスクを無意識に撫でながら、前世――テラに転生する前の、一人のゲーマーとしての記憶の海を深く潜っていった。アークナイツという過酷な物語を愛し、その設定やイベントを隅々まで読み耽っていたあの日々の記録を。

 

 

 脳内の検索エンジンが、ある結果を出した瞬間、ドルベの背筋に氷のような戦慄が走った。

 

 

(……間違いない。これは『R6S(レインボーシックス シージ)』とのコラボイベント第一弾、『オペレーション・オリジニウムダスト』の状況そのものじゃないか!)

 

 ドルベの顔から血の気が引いた。単なる「アークナイツの世界の日常」ではない。これは、異世界から迷い込んだ「地球の兵士たち」と、マッドサイエンティストが生み出した「最悪の生物災害」が交差する、極めて危険な特異点なのだ。

 

(……っていうことは、あのアインタウィルのセーフハウスにいるのは……。タチャンカか!? アッシュやブリッツ、フロストたちも、もうこの世界のどこかにいるのか!? そして、あの塔の奥底で蠢いているのは……『進化の本質』。あの、画面を埋め尽くすほど増殖し続ける絶望の化身か……!)

 

 

 

 この事態の重さは、一介の感染生物の暴走などというレベルではない。放置すれば、サルゴンはおろかテラ全土が「分裂する肉塊」に飲み込まれかねない未曾有のバイオハザードなのだ。

 

 シュバルツたちは今、その中心地であるアインタウィルへと向かっている。

 彼女たちが合流するのは、地球の特殊部隊「レインボー」の面々。彼らは強力だが、テラの源石(オリジニウム)の理を完全には理解していない。

 

「この突然の異変は・・・まさか滅びの前兆!?(訳:……この胸騒ぎ、ただ事ではないぞ。これは単なる変異ではない。この大地を、いや世界そのものを食い尽くそうとする『悪意の進化』が始まろうとしている!)」

 

ドルベは思わず声を上げたが、口から出るのはやはり、状況に合っているのかいないのか分からないバリアンの台詞だった。

 

(……ナストラルが一時的に眠りにつき、フロストノヴァも消耗している。そんな時に、よりによってあの『進化の本質』が相手かよ! 原作知識があっても、俺の言葉じゃ誰も信じてくれない。ドクターもケルシー先生も、この異変の真の正体にはまだ気づいていないはずだ……!)

 

 

 

 ドルベは天を仰いだ。星々は相変わらず美しく瞬いているが、その静寂が今は嵐の前の静けさにしか思えない。

 

 

(……だが、幸いなことにここには『原作』にはいなかった戦力がいる。……俺だ。そして、ロドスのオペレーターとして再誕したフロストノヴァだ。バリアンの力が、あの異世界の怪物にどこまで通用するかは分からない。だけど……!)

 

 ドルベは拳を強く握りしめた。

 

「なんとでも言え…!私とてバリアン世界を救わなければならない…!(シナリオは知っている。最悪の結末も、あの怪物の弱点も。ならば、私が行かなくてどうする! 運命を書き換え、誰も欠けることのないエンディングへとランクアップさせてみせる!)」

 

「ブックス!!(訳:急ごう! この先には、我々の想像を絶する『異世界の嵐』が待ち構えている!)」

 

ドルベは「迫りくる巨大な災厄を予見し、絶望を希望へと反転させるべく地平線を指差す、不屈の先導者ポーズ」を決めた。

 

夕闇が深まる中、彼は自らの内に眠るバリアンの魂を鼓舞する。異世界の兵士たち、そしてロドスの仲間たちを救うため。偽物の魂を持つ男が、真実を知る唯一の「騎士」として、狂乱の渦へと飛び込む覚悟を固めていた。

 

 

 

オリジニウムダスト後は…

  • オペレーターとの交流(時系列バラバラ)
  • ドクターやロドス首脳陣主体の交流
  • 単独でサイドストーリーに乗り込む
  • 結果を見たい用兼感想でお教え下さい
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