なんとでも言え。私とてテラの大地を救わなければならない… 作:バリアンの(面)白き盾
赤茶けた砂塵が舞うアインタウィルの街。その一角は、先ほどまでの喧騒が嘘のように重苦しい静寂に包まれていた。
ロドス小隊と、素性を隠し「傭兵」と名乗る異世界からの来訪者たち――レインボー小隊は、破壊された感染者地区の瓦礫の陰に身を潜め、去っていく一団の背中を険しい表情で見送っていた。
彼らから感染者たちを強引に引き離し、連れ去っていったのは、この地を治めるロングスプリング領主の衛兵隊。そして、それを率いていたのは領主の娘であるピカールだった。
ピカールは非常に高圧的で、当初はロドスやレインボー小隊を感染者暴動の元凶かと疑い、駆逐を命じようとしていた。しかし、現地の感染者の医師であるミアロの必死の説得により、彼女は渋々ながら矛を収め、感謝の言葉を述べた。だが、その直後に彼女はロドスとの協力関係を一方的に破棄し、怪我人や感染者たちを「保護」という名目で領主邸へと連行していったのだ。
シュバルツは、クロスボウを握る手に力を込め、遠ざかる衛兵隊の砂煙を鋭く睨みつけていた。
「……領主はずっと顔を出さず、傭兵もただただここの感染者を誘拐しようとしていた。そして今、衛兵の隊長が現れ、大義名分に従い全員を連れて行った」
シュバルツの冷徹な分析に、フランカとリスカムも同意するように頷く。
「あまりにも都合がよすぎませんか? まるで、最初から感染者を一箇所に集めることが目的だったかのような……」
ピカールの行動には不自然な点が多いとシュバルツは考えた。しかし彼女は父である領主が既に亡くなっていることを隠蔽し、水面下で弟であるドラッジの反乱の芽を摘もうとしている――そんな複雑な内情など、シュバルツたちが知る由もない。だが、数多の戦場と陰謀を潜り抜けてきた彼女の直感は、この連行劇の裏に致命的な罠が潜んでいることを告げていた。
「尾行し、追跡を開始する。彼らだけで領主邸に向かわせるのは危険すぎる」
シュバルツがレインボー小隊の面々――アッシュやタチャンカたちに視線で合図を送り、追跡の陣形を組もうとした、まさにその時だった。
「なんとも奇妙なタイミングに合流してしまったようだな」
瓦礫の隙間から、周囲の熱気を冷ますような静かな声が響いた。
シュバルツたちが一斉に警戒を向ける中、砂埃を払うように現れたのは、白銀の髪をなびかせた一人の女性だった。手には双剣が握られているが、彼女は敵意がないことを示すようにそれを腰に収めた。
「フロストノヴァ……!」
リスカムが驚きの声を上げる。当初の予定では、彼女ともう一人の「問題児」は、ここから遠く離れた最初の目標地点へ向かっているはずだった。
「ホワイトシールドの奴が、『変異体の感染生物は局地的なものではない、アインタウィルが危ない』と、血相を変えて言い出してね。フィアルクンの村から輸送車を借りて、夜通し駆け通しだったわ」
フロストノヴァは軽く肩をすくめ、息をついた。ナストラルによる「102秒の奇跡」を使用した反動はまだ完全には抜けておらず、彼女の顔には微かな疲労の色が見える。しかし、その立ち姿は熟練の前衛オペレーターとしての隙のないものだった。
シュバルツは警戒を解き、背後に控えるレインボー小隊に向き直った。
「紹介しよう。彼女はロドス本艦から派遣された精鋭、フロストノヴァだ。強力な戦力になる」
「よろしく頼むわ。そちらの『傭兵』さんたちの実力も、陰ながら少し見させてもらったけれど、見事な制圧力だったわ」
アッシュが代表して頷き、タチャンカがその重装甲の下から興味深そうに彼女を見つめた。
しかし、そこでフランカが周囲を見回し、首を傾げた。
「ねえ、フロストノヴァ。あなたが来たってことは……もう一人、やたらと声が大きくて眩しい『アレ』も一緒のはずよね? どこにいるの?」
「ああ、あいつなら……警戒されると(誤解も生みかねない)いけないから、少し離れた場所に輸送車と一緒に待機させて……」
フロストノヴァが親指で背後を指差しながら振り返った。
しかし、彼女が指差した先――瓦礫の陰の開けたスペースには、赤茶けた砂漠の風景が広がるばかりで、あるはずの装甲輸送車も、白きバリアンの騎士の姿も、影も形もなかった。
「……えっ?」
フロストノヴァの目が点になる。
「ちょっと待って。さっきまでそこで待機するように……」
その場にいたロドス小隊の全員の顔から、スッと血の気が引いた。
レインボー小隊の面々が「どうした?」と不思議そうな顔をする中、シュバルツ、フランカ、リスカム、そしてフロストノヴァの四人は、深い、絶望的な溜息を同時に吐き出した。
「……やらかしたわね、あいつ」
「ええ……間違いなく、一人でどこかへ突っ走ったわ」
「……頭痛がしてきた。ロドスの医療部に鎮痛剤を要求したい」
ホワイトシールドが、ただの迷子になるような男ではないことを彼女たちは知っている。あの男が姿を消す時、それは必ず、彼なりの「騎士道」あるいは「意地」が暴走した結果なのだ。
そして彼女たちの直感通り、ドルベはその頃、輸送車を運転し砂漠を一人、爆走していた。
「非力な私を許してくれ……!(訳:くそっ! なんでテラの車のブレーキはこんなに重いんだ!? )」
ガタガタと激しく揺れる装甲輸送車の運転席で、ドルベは必死にハンドルにしがみついていた。
フロストノヴァを合流地点の近くで降ろした後、彼は原作の知識という名の「未来視」に従い、単独行動を開始していた。
(ピカールが感染者たちを領主邸に連れて行った……。物語は最悪のフェーズに進んでいる! この後、ドラッジの傭兵部隊とあの悪夢のような変異生物が領主邸を襲撃する。タチャンカたちやロドスのみんなが合流する頃には、既に防衛線は崩壊寸前で、ミアロ先生が……!)
ドルベは奥歯を強く噛み締めた。
シナリオ通りに進めば、ロドスとレインボー小隊が勝利を収めることは知っている。しかし、その過程で失われる命があることも知っていた。善良な感染者の医師、ミアロ。彼の死は、この物語においてあまりにも悲しい犠牲だった。
(俺は偽物だ。だけど、結末を知っているのに指を咥えて見ているような臆病者じゃない! 間に合わせる! ドラッジの傭兵どもが領主邸を包囲する前に、俺が『バリアンの白き盾』として、あの館の前に立ちはだかってやる!)
「王を救うのだ!全軍突撃!(訳:エンジン全開! 頼むからエンストしないでくれよ、フィアルクンのオンボロ輸送車!!)」
アクセルをベタ踏みし、砂丘を強引に乗り越える。サスペンションが悲鳴を上げ、車体が大きく宙に浮き、ドスンと重い音を立てて着地する。
ドルベは運転席で何度も頭を打ちつけそうになりながらも、その視線はただ一点、地平線の彼方に霞む「ロングスプリング領主邸」の巨大なシルエットだけを捉えていた。
(ピカールは弟のドラッジを舐めすぎている。あいつの背後にある『進化の本質』という本当の絶望を、まだ誰も知らないんだ)
輸送車の窓の外、荒涼としたサルゴンの風景が飛ぶように後ろへと流れていく。
バリアン形態(バリアルフォーゼ)への変化は極めて不安定だが、この命を賭してでも、彼は物語の悲劇を塗り替えるつもりだった。
「我ら二人の力をみせてやる!(訳:待っていろ、ドラッジ! お前たちの野望は、この私が全て無効化してやる!)」
爆音を轟かせながら、砂煙の尾を引いて暴走する一両の輸送車。
テラの常識も、異世界の兵法も通じない「不審者」による、領主邸への単騎突撃が、今まさに始まろうとしていた。
時は少し戻りホワイトシールドが単独で輸送車を奪取し、はるか彼方へ姿を消した事実に気づいた直後のことである。
唖然とするロドス小隊とフロストノヴァ、そして事情が飲み込めず首を傾げるレインボー小隊の面々は、気を取り直して直ちにピカール率いる衛兵隊の追跡を開始していた。
赤茶けた砂漠の轍を追いながら、シュバルツは警戒を怠らずに進軍のペースを上げていた。彼女の隣には、並走するフロストノヴァがいる。
シュバルツは前方を鋭く見据えたまま、ふと思い出したように口を開いた。
「……そう言えば、ホワイトシールドは車両の運転ができたのだな」
その声には、純粋な疑問が混じっていた。
シュバルツの記憶にある限り、ホワイトシールドが関わる外勤任務において、ハンドルを握っているのは常に相棒であるフロストノヴァの役目だったからだ。彼自身はいつも助手席か後部座席で、意味不明なポーズを決めたまま固まっているか、窓の外に向かってよく分からない雄叫びを上げているイメージしかなかった。
それは今回の任務中も例外なくほかのオペレーターが代わる代わる運転するなかホワイトシールドはハンドルを握らなかった。(握らせたくなかったという思惑もあったが)
「あの目立つ出立ちで隠密行動など不可能だろうが、機動力で先回りする判断自体は悪くないかもしれないな。あの輸送車なら装甲も厚い。……少し意外だったがな」
シュバルツの冷静な評価を聞き流しながら、フロストノヴァは砂を蹴る足を一瞬だけ鈍らせた。
彼女の脳裏に、つい先ほどまでの記憶が蘇る。フィアルクンの村を出発し、このアインタウィルに到着するまでの長旅。その間、激しい砂嵐の中で重いハンドルを握り、悪路を走破し続けていたのは、間違いなく自分自身だった。
そして、ロドス本艦での彼の様子を思い返してみる。彼が自発的に車両のキーに触れ、運転席に座ったことなど、一度たりともあっただろうか。
「……いや」
フロストノヴァの口から、乾いた声が漏れた。
「ここに来るまでも、ずっと私が運転していた。それに……あいつ、ロドスに来てから車の運転なんて、ほとんどしたことがないはず……」
その言葉が風に乗って響いた瞬間、シュバルツの歩みがピタリと止まった。
後ろを歩いていたフランカとリスカムも、まるで冷水でも浴びせられたかのように硬直する。
熱砂の吹き荒れるサルゴンの荒野において、数秒間、彼女たちの間だけ絶対零度の沈黙が場を支配した。
背後で警戒に当たっていたアッシュやタチャンカたちレインボー小隊の面々が、突如として足を止めたロドスの精鋭たちを見て、敵襲かといきり立つ。だが、違う。ロドスの面々を襲っていたのは、迫り来る傭兵の恐怖などではない。
運転経験がほぼ皆無または未知数のホワイトシールドが、フィアルクンの村から借り受けた貴重な装甲輸送車を、単独でフルスロットルで走らせているという絶望的な事実だった。
「……シュバルツ。あの輸送車、フィアルクンの村の貴重な備品よ。それに、私たちの帰りの唯一の足でもある…」
「……ああ。理解している」
フロストノヴァの顔からスッと血の気が引き、シュバルツの額には冷や汗が滲んでいた。
あの男のことだ。敵の罠に単身で突っ込む度胸と実力はある。だが、それ以前に、目的地である領主邸に辿り着く前に、砂丘に激突して貴重な輸送車を完全にお釈迦にする確率が極めて高かった。彼自身の頑丈な肉体なら、車両が横転しようが爆発しようが、数分気絶した後に「なんとか凌いだようだが!」と叫んで無傷で起き上がってくるだろう。だが、車はそうはいかない。
もし車を失えば、負傷した感染者たちを無事に保護できたとしても、自分たちの帰還はこの灼熱の砂漠を徒歩で越えなければならなくなる。それは事実上の死の行軍を意味していた。
「急ぐわ!! ピカールの追跡もだけど、あいつが車を鉄屑にする前に止めないと!!」
フロストノヴァが、これまでに見せたことのないほどの焦燥感を露わにして駆け出した。もはや隠密行動の余裕すら投げ捨てたような猛ダッシュである。
シュバルツたちロドス小隊も「あの馬鹿野郎……!」と内心で毒づきながら、全速力でその後を追う。
「おい、ロドスの連中がいきなり走り出したぞ! 何か見つけたのか!?」
「分からないが、遅れるな! ついて行くぞ!」
事情を全く知らないレインボー小隊のアッシュたちも、ただならぬ気配を感じ取り、慌てて重武装を揺らしてロドス小隊の背中を追いかけ始めた。
かくして、陰謀渦巻くロングスプリング領主邸への追跡劇は、図らずも「暴走する初心者ドライバーから命の綱(車)を奪還する」という、極めて世俗的で切実なタイムアタックへと変貌を遂げたのだった。
薄暗い洞窟の奥底で、かつて地球と呼ばれた世界から来た狂気の科学者、レヴィ・クリチコは歓喜に打ち震えていた。
培養槽の中で脈動する巨大な肉塊――彼が「進化の本質」と呼ぶ、テラの生態系すらも蹂躙しうる最悪の生物災害が、今まさに目覚めの時を迎えようとしている。
レヴィにとって、ドラッジという男は非常に都合の良いパトロンであった。ドラッジは己の野望のために、領主の権限を利用して現地の人間や感染者、さらには死体までも、実験の「素材」として惜しみなく提供してくれたからだ。
一方、地上では、そのドラッジが全能感に酔いしれていた。
領主邸を包囲した彼の私兵たちは、圧倒的な暴力で姉・ピカールの衛兵隊を蹂躙していた。クルビア留学時代に培った裏の繋がり――ロングスプリングの源石採掘権を引き換えにして得た莫大な資金と軍備。そして、レヴィから提供された、感染生物。そしてそれを操る術師たち。
屈強なサルカズの傭兵と、痛覚を持たない異形の怪物の連携の前に、ピカールの部下たちはなす術もなく血の海に沈んでいく。
保護した感染者たちを先に領主邸へ逃がし、自らが殿(しんがり)を務めていたピカールは、今や絶望的な防衛戦を強いられていた。彼女は弟の狂気を、そして彼がここまでおぞましい化け物どもを戦線に投入してくることを完全に読み違えていたのだ。
このまま彼女の部隊が全滅し、領主邸になだれ込めば、中にいる感染者たちは全てレヴィの実験材料となり、ロングスプリングは完全にドラッジの手中に収まる。計画は、あまりにも完璧だった。
その時である。
1人のサルカズの傭兵が、信じられないものを見るような声でドラッジに報告を上げた。
「 北側の砂丘から、猛スピードで接近する車両が一つ! こちらの包囲網に突っ込んできやがるぞ!」
「……なんだと? まさか援軍か? いや、そんなはずはない。……構わん、対装甲用の術式とロケット弾で木っ端微塵にしてしまえ!」
ドラッジの苛立たしい命令を受け、傭兵たちは一斉に砲口を北へと向けた。
砂塵を巻き上げながら、フィアルクンの村から借り受けた装甲輸送車が、文字通り「暴走」しながら突撃してきていた。
直線を走っているはずなのに、車体は右へ左へと異常な蛇行を繰り返し、サスペンションが悲鳴を上げている。誰がどう見ても、運転手の操縦技術は素人以下のそれだった。
(うおおおおおっ! まっすぐ走れ! なんでこんなに横滑りするんだこの鉄屑!?)
運転席でハンドルと死闘を繰り広げているドルベは、冷や汗を滝のように流していた。ブレーキのタイミングもハンドルの遊びも全く掴めず、車は幾度となく横転しそうになりながらも、奇跡的なバランスで突き進んでいる。
そこへ、ドラッジの傭兵たちが放った容赦のないアーツの炎と、重いロケット弾の雨が降り注いだ。
万事休す。ただの輸送車であれば、一瞬でスクラップと化す集中砲火である。
しかし、ドルベはペダルを踏み込んだまま、デュエルディスクを起動させた。
「我ら二人の力をみせてやる!(訳:させん! この車は、ロドスの皆が帰るための大事な足なんだ! 傷一つつけさせるか!)」
「私は光天使ウィングスを召喚!ウィングスの効果発動!手札の光天使を一体特殊召喚する!」
「現れろ!光天使、ブックス!!ブックスの効果で手札の魔法カードを墓地に送りさらに特殊召喚!」
「来い!光天使ソード!」
ドルベの叫びと共に、暴走する輸送車の周囲の虚空から、三体の白銀の浮遊物体が展開された。
『光天使』たちは、時速百キロを超える輸送車のスピードに完全に同期し、まるで車体を護る装甲のように展開した。
直撃するかと思われたロケット弾やアーツの業火は、光天使たちが放つ未知のエネルギーフィールドに触れた瞬間、パキィン! という甲高い音と共に爆発を受け止め相殺し、空中で四散していく。
(よし、防げた! だが、前が見えねぇ! 爆炎でフロントガラスが真っ白だ! ええい、このまま突っ切るしかない!)
「なんとか凌いだようだが、僅かな時を稼いだにすぎん(訳:どうだ、傭兵ども! 私の『意地』という盾は、爆撃程度で貫けるほど薄くはないぞ!)」
「王を救うのだ!全軍突撃!(訳:道を開けろ! このバリアンの白き盾が、貴様らのくだらない野望ごと轢き潰してやる!)」
爆炎の中から、無傷の輸送車が猛獣のような咆哮を上げて飛び出してきた。
その光景に、歴戦のサルカズの傭兵たちすら顔を青ざめさせた。テラに存在するどのアーツ理論にも当てはまらない、強固な防壁を展開する光の物体。それが車と併走しながら、あらゆる攻撃を弾き返しているのだ。
「な、なんだあれは!? アーツか!? 攻撃が全く通用しねえ!!」
「ひけ! 轢かれるぞ!!」
鉄壁の陣形を敷いていたはずの傭兵と感染生物の群れは、ドルベを止めようとしたが、激しく蛇行しながら突っ込んでくる輸送車の予測不能な軌道に奇跡的に接触できずにいた。
「ば、馬鹿な……! なんだあの光は! 一体誰が乗っているんだ!?」
全能感に酔いしれていたドラッジの顔に、初めて焦燥と恐怖の色が浮かんだ。
完璧だったはずの盤面が、たった一台の、運転の下手くそな輸送車と意味不明な光の乱舞によって、無茶苦茶に荒らされていく。
(待ってろよ、ミアロ先生! ロドスのみんな! 悲劇のシナリオは、この俺が今ここで叩き壊す!!)
「食われたくなければ、貴様を倒すしかないというわけか!(訳:覚悟しろ、ドラッジ! 貴様のの企みも、進化の本質は私が打ち取ってやる!)」
けたたましいエンジン音と意味不明な叫び声を轟かせながら、ドルベの駆る輸送車は、ドラッジが陣取る本陣のど真ん中へと、激しく蛇行しながら突入していった。
アインタウィルの砂漠を駆け抜ける、二つの追跡劇。
シュバルツ率いるロドス小隊とレインボー小隊は、その卓越した身体能力と連携で、殿を務め苦戦していたピカールの部隊を救出することに成功していた。彼女たちを追撃していた傭兵や感染生物の波を強行突破し、ピカールを伴って、ついにロングスプリング領主邸の正面ゲートへと到達したのだ。
「……すでに敵部隊が、領主邸を完全に包囲しているはずだ。気を引き締めろ」
シュバルツがクロスボウを構え、アッシュたちレインボー小隊も武器のセーフティを外した、その時。
ブオオオオオオオン!! キキィィィィィィーーーッ!!!
彼女たちの耳をつんざくような、エンジンが焼き切れる寸前の爆音と、タイヤが砂利と舗装路を削り取る凄まじいスキール音が響き渡った。
「……な、なんだ!?」
タチャンカが驚いて声を上げる。
全員の視界の端から、一両の装甲輸送車が猛スピードで飛び出してきた。
それは、彼らが血眼になって探していた「フィアルクンの村の貴重な備品」であり、その運転席には、目を血走らせ、顔を真っ青にしてハンドルにしがみつくドルベの姿があった。
「ホワイトシールド!!」
フロストノヴァが悲鳴のような声を上げた。
だが、時すでに遅し。激しく蛇行を繰り返していた輸送車は、傭兵たちの陣形をボーリングのピンのように弾き飛ばし、その勢いのまま、全能感に酔いしれていたはずの反乱の首謀者、ドラッジの本陣のど真ん中へと突撃していったのだ。
(うおおおおっ! ブレーキ! ブレーキどっちだ!? 左か!? 右か!?)
車内でパニックを起こしたドルベは、突っ込む直前、最後の最後に勘でペダルを思い切り踏み込んだ。
ガッシャァァァァン!!!
「……あぶべらっ!?」
間の抜けた悲鳴と共に、ドラッジの身体が宙を舞った。
時速数十キロの衝撃を真正面から受けた彼は、まるで漫画のワンシーンのように、綺麗な放物線を描いて領主邸の前庭の噴水へと勢いよくダイブした。
それを見ていた全員はやけにその光景がスローモーションのように感じ目の前の狂気的にな光景にその場を動けなかった。
ザパーーーン!!
静寂。
傭兵たちも、ピカールも、そして到着したばかりのロドスとレインボー小隊も、全員の開いた口が塞がらなかった。
「……」
「……」
シュバルツのクロスボウを持つ手が微かに震え、フランカは言葉を失い、フロストノヴァは額に手を当てて天を仰いだ。アッシュやブリッツたち異世界の兵士に至っては、「テラの戦術は、車ごと突っ込むのがセオリーなのか?」と本気で困惑しきっている。
ドラッジが即死を免れたのは、偏に「テラ人の肉体が異様に頑丈であること」と、ドルベが直前に奇跡的にブレーキペダルを引き当て、減速に成功していたためだった。
噴水からずぶ濡れになって這い上がってきたドラッジは、全身の骨が軋む痛みに呻きながら、プルプルと震える指で輸送車を指差した。
「き、貴様ぁ……! どこの刺客だ!? なんなんだ躊躇いのない突撃は……! 貴様狂っているのか!?」
彼は、相手がどれほど冷酷無比な殺し屋なのかと戦慄していた。あんな速度で、しかも予測不能な軌道で迷いなく突っ込んでくるなど、常軌を逸しているとしか思えなかったのだ。
一方、その「冷酷な殺し屋」は、ボンネットからモクモクと黒煙を上げ始めた輸送車の運転席で、完全にフリーズしていた。
(……やっちまった。ブレーキ踏んだつもりだったのに、止まりきれなかった! 人を車で轢くなんて、俺の人生(前世含む)で最大の不祥事だ……! でも、とりあえず生きてるみたいでよかったぜ……)
ドルベは内心で激しく冷や汗をかきながらも、フラフラと運転席のドアを開け、外に降り立った。
全員の視線が彼に突き刺さる。彼がここで、この場を収めるために発すべき言葉は、謝罪か、あるいは敵将への降伏勧告か。
だが、極度の緊張と罪悪感によって、彼の「言語出力回路」は最悪のカードをドローしてしまった。
ドルベは、ボロボロになった輸送車の前で、ビシッと片腕を突き出すとピースを決めた。
「なんとでもいえ、私とてバリアンを救わねばならん(訳:……すまない、運転に不慣れなもので、ついアクセルとブレーキを間違えてしまった! だが、お前たちの陰謀を止めるためなら、この輸送車一台の犠牲(とお前の骨折)くらい安いものだ!)」
「……は?」
ドラッジがポカンと口を開ける。
「……バリアン? なんだそれは…。…………?」
アッシュが信じられないものを見るような目で、思考停止している隣のフロストノヴァを見上げた。
「……あいつのたわごとは………気にしないで頂戴…」
フロストノヴァは、アッシュからの目線から逃れるように目をそらし消え入りそうな声で答えた。
「姑息な手を……(訳:とりあえず、ドラッジ、お前は包囲された! 傭兵どもも武器を捨てろ!)」
ドルベはさらに、意味不明な言葉で降伏を促すポーズを重ねる。
領主邸の前庭は、もはや戦場というよりは、巨大な交通事後のような、奇妙でシュールな空間と化していた。ロドスの仲間たちは頭を抱え、ドラッジは狂気(実はただのドルベの運転ミス)に怯え、レインボー小隊はテラの常識の底知れなさに戦慄するのだった。
オリジニウムダスト後は…
-
オペレーターとの交流(時系列バラバラ)
-
ドクターやロドス首脳陣主体の交流
-
単独でサイドストーリーに乗り込む
-
結果を見たい用兼感想でお教え下さい