なんとでも言え。私とてテラの大地を救わなければならない…   作:バリアンの(面)白き盾

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オペレーション・オリジニウムダストinドルベPart3

 

 噴水から引き上げられたドラッジは、全身の痛みと屈辱で顔を醜く歪ませていた。

「殺せ! あのイカれた運転手を今すぐミンチにしろ!!」

 

 そのヒステリックな号令に応じ、周囲を固めていた歴戦のサルカズ傭兵たちが一斉に殺気を放って動き出す。巨大な剣を構えた前衛部隊が陣形を組んでドルベを包囲し、その後方に陣取った術師たちが源石アーツの禍々しい光を杖の先に灯した。

 

 対するドルベの瞳に、先ほどの運転時のパニックは微塵もない。そこにあるのは、テラの大地で数多の死地を潜り抜けてきた「バリアンの騎士」としての冷徹な闘志だった。

 

「しぶとい奴め!(訳:数の暴力で押し切るつもりか! だが、この私の盾は容易くは抜かせんぞ!)」

 

 ドルベはデュエルディスクを構え、虚空から次々と白銀の光を喚び出す。

 

「私は光天使ウィングスを召喚!」

「現れろ!光天使、ブックス!!」

「来い!光天使ソード!」

 

 三体の光天使がドルベの周囲を高速で旋回し、不可視の絶対防衛陣形を構築した。術師たちが放つ炎や雷撃のアーツは、光天使たちが生み出すエネルギーフィールドに触れた瞬間、波紋のように掻き消されていく。さらに、力任せに振り下ろされるサルカズ傭兵の巨剣を、ソードの刃が的確な軌道で弾き返した。

 

 その常軌を逸した攻防を後方から目撃していたレインボー小隊の面々は、完全に言葉を失っていた。

 

「信じられないな……。あのアーツ、まるで自律式のホログラムドローンだぞ」

ブリッツがシールド越しに目を丸くし、タチャンカも感嘆の唸り声を上げる。

「あの男、ただのイカれたドライバーではないということか……」

 

 多数対一。無謀かと思われた突撃も一人の男による圧倒的な実力による戦場の支配。しかし、ロドス屈指の戦闘経験を持つシュバルツとフロストノヴァの目は、その戦場に隠された「歪み」を正確に見抜いていた。

 

「……ホワイトシールドの奴、押されているわけではないが、決定打を撃てていないな」

シュバルツの鋭い指摘に、フロストノヴァが短く頷く。

「ええ。あいつ、自分の背後にいる感染者の領民たちを光天使で庇いながら戦っている。だから、あいつの最大の切り札である『No.102(グローリアス・ヘイロー)』を召喚できない…。相手の数が多すぎる。切り札である巨大なナンバーズを出せば、守り切れない…か」

 

ドルベは確かに苦境に立たされていた。

 

(くそっ! ドラッジの傭兵ども、人質の感染者を盾にするような嫌らしい位置取りをしやがって! グローリアス・ヘイローを呼んで一掃したいが、後ろの人たちに怪我をさせるわけにはいかない……!)

 

「仲間の為に身をていして戦うか。姑息な手を…!(訳:卑劣な真似を……! だが、私が一人残らず守り抜いてみせる!)」

 

 彼が防戦に徹し、一般人への射線を塞ぐように動いている間に、傭兵たちの包囲網は徐々に狭まっていく。

 

「少々予想外なことがあったが私たちも加勢しよう、シュバルツ。」

フロストノヴァが双剣に手をかけた、まさにその時だった。

彼女たちの前に、アッシュを先頭にしたレインボー小隊がスッと歩み出た。

 

「待ってくれ、ロドス。その役目、私たちに任せてもらえないか?」

アッシュの目には、テラの未知なる力への驚きはとうに消え去り、プロフェッショナルとしての極めて冷徹で鋭い光が宿っていた。

 

「人質救出と要人保護は、私たちが最も得意とする分野だ。あの男が派手に敵の視線を集めてくれている今なら、完璧に裏を突いて民間人を隔離できる」

 

「……わかった。その実力見せてもらおう」

シュバルツが静かにクロスボウを下げ、道を譲る。

 

「フラッシュバン、スモーク、準備よし。タイミングを合わせるぞ」

ブリッツ、タチャンカ、フロストがそれぞれの特殊装備を構え、アッシュのハンドシグナルに視線を集中させる。

彼らはアーツを持たない。テラの基準では「一般人」に等しいかもしれない。しかし、彼らが地球という世界で磨き抜いてきたのは、純粋な戦術と極限状態での近接戦闘(CQB)の技術、そして何より「人質を無傷で救い出す」ための専門的なノウハウだった。

 

「ブリーチング開始(ゴー)!」

アッシュの号令と共に、レインボー小隊が戦場の死角を縫うようにして、音もなく駆け出した。

 

(ん? あれは……?)

 

防戦一方だったドルベの視界の端に、タクティカルギアに身を包んだ異世界のスペシャリストたちの姿が映る。

彼らが感染者と傭兵の間に滑り込み、絶妙なタイミングで特殊な音響閃光弾(スタングレネード)を投げ込んだ瞬間、膠着していた戦場の流れが劇的に変わろうとしていた。

 

 

鼓膜を破るような破裂音と、視界を白く塗り潰す強烈な閃光が領主邸の前庭で炸裂した。

レインボー小隊が放ったスタングレネードである。

 

 視覚と聴覚を同時に奪われ、サルカズの傭兵たちと術師が悲鳴を上げて顔を覆ったその瞬間、アッシュたちレインボー小隊は既に死角から包囲網の内側へと浸透していた。

短い報告の声が交交差する中、ブリッツのシールドが傭兵の顎を砕き、タチャンカの重い一撃が術師を昏倒させる。彼らは一切の無駄のない動作で、ドルベを囲んでいた敵兵を瞬時に無力化し、人質となりかけていた感染者の領民たちを安全な後方へと引き剥がした。

 

「な、何が起きた!? 怯むな、数はまだこちらが圧倒している! 押し潰せ!」

 後方でうろたえていたドラッジが、唾を飛ばしながら喚き散らす。彼の言葉通り、周囲にはまだ多数の私兵と感染生物が残っていた。物量で押し切れば、あの奇妙な光の盾を持つ男も、見慣れぬ装備の兵士たちもいずれ力尽きる。ドラッジがそう確信して部下を突撃させようとした、まさにその時。

 

「それは無理な話だ」

ドラッジの部隊の背後から、氷のように冷たい声が響いた。

シュバルツ率いるロドス小隊による、完璧なタイミングでの挟撃である。

 

 先陣を切ったフロストノヴァは、両手に構えた双剣で敵陣に飛び込んだ。彼女の剣術は、広範囲を制圧するアーツの恐ろしさに隠れがちだが、パトリオットの精鋭をも退けるほどに洗練されている。

舞うようなステップで傭兵の巨剣を躱し、流れるような連撃で急所を的確に斬り伏せていく。アーツの輝きすらない、純粋な武の力。彼女の双剣が閃くたびに、ドラッジの私兵たちは為す術もなく崩れ落ちていった。

 

 背後からの奇襲と、異世界の兵士による強襲。戦場の天秤は、この瞬間に決定的にドラッジから勝利の目を奪い去っていた。

 

「ば、馬鹿な……! 私の、完璧な計画が……!」

形勢の逆転を悟ったドラッジは、傭兵たちがロドス小隊とレインボー小隊の連携に完全に圧倒されていくのを見るや否や、味方を見捨て感染生物たちを盾にして一目散に逃げ出した。向かう先は――レヴィ・クリチコとあの忌まわしき「進化の本質」が待つ洞窟だろう。

 

「逃げたようね。……追う?」

血振るいをして双剣を納めたフロストノヴァが、シュバルツに視線を向ける。シュバルツは周囲の残敵が制圧されたことを確認し、静かに首を横に振った。まずは保護した領民たちの安全確保と、戦線の整理が先決だ。

 

 激しい戦闘が終わり、領主邸の前庭にようやく静寂が戻り始めていた。

 ドルベは展開していた光天使たちを消滅させ、深く息を吐き出した。そして、レインボー小隊によって安全な場所へと誘導されていく感染者の領民たちへ歩み寄る。

 

 その群衆の中に、怪我人の手当てに奔走する一人の青年の姿があった。

 医師、ミアロ。

 ドルベの知る原作のシナリオにおいて、ドラッジの傭兵たちの凶刃に倒れ、誰よりも平和を望みながらその命を散らすはずだった心優しき青年。彼が今、五体満足で、かすり傷一つ負うことなくそこに立っている。

 

(……よかった。本当に、よかった。俺の無茶苦茶な突撃と、皆の力が合わさって……最悪の未来を変えることができたんだ)

 

ドルベの胸の奥で、熱いものが込み上げてくる。

偽物のバリアン騎士である自分が、このテラの大地で初めて、明確に「運命」を覆した瞬間だった。

 

「蘇った我等七皇の力、アストラルの為に使おう!」

(ミアロ先生、あなたの未来はこれからだ。この命を守り抜けたこと、本当に誇りに思う!)

 

ドルベのよく通る声が響き、ミアロが不思議そうにこちらを振り向いてペコリと頭を下げた。言葉は通じなくとも、自分たちを庇い続けてくれた白い騎士への感謝は伝わっているようだった。

 

 だが、感傷に浸っている暇はない。

 ドルベは顔を上げ、ドラッジが逃げ込んだであろう領主邸の奥を鋭く睨みつけた。

ドラッジを逃がしてしまった以上、あの狂気の科学者レヴィの計画は止まっていない。地下の洞窟では、全てを呑み込む厄災「進化の本質」が今まさに産声を上げようとしているはずだ。

 

(気は抜けない。あの悪夢のような怪物を倒さなければ、アインタウィルに本当の朝は来ない。だが……)

 

 ドルベは自らの手を見た。ハンドルを強く握りしめすぎたせいで微かに震えているが、その手は確実に一つの命を、一つの未来を救い出したのだ。

絶望的なシナリオは、変えられる。

 

「さあ、決着をつけよう!デュエルだ!」

(待っていろ、レヴィ!そして進化の本質!貴様らの野望は、ロドスと異世界の兵士、そしてこの私が完全に打ち砕いてみせる!)

 

 確かな自信と覚悟を胸に、ドルベは次なる死地へと向けて、その足を踏み出した。

 

ロングスプリング領主邸の前庭。

先ほどまで殺気とアーツの爆炎が渦巻いていた戦場は、今は嘘のように静まり返り、疲労と安堵が入り交じった独特の空気に包まれていた。

 

「ミアロ先生! 無事だったか!」

「アッシュさん! タチャンカさん! あなたたちも、怪我はないですか!?」

 レインボー小隊の面々と、感染者の医師ミアロが再会を喜び合っている。異世界から来た兵士たちにとって、この見知らぬ大地で初めて損得勘定抜きで接してくれた善良な医師の無事は、何にも代えがたい戦果だった。

ミアロは少し土埃を払いながら、彼らの無骨な装備を安堵の眼差しで見つめ、深く感謝の意を述べている。

 

 その少し離れた場所では、ロングスプリングの若き領主、ピカールが、シュバルツとレンジャーに向かって頭を下げていた。

「……ロドスの皆さん。先ほどは非礼を働いたこと、そして私の無力さゆえに多大な危険に巻き込んでしまったこと、深くお詫びします」

 ピカールの声には、かつての高圧的な響きは微塵もなかった。彼女は、自らが弟ドラッジの狂気を甘く見ていたこと、そしてロドスの精鋭たちとあの「傭兵たち」がいなければ、領民の命はおろかロングスプリングそのものが終わっていたことを痛感していた。

「領民たちを……感染者である彼らを見捨てず、命懸けで守ってくれたこと。ロングスプリング領主として、最大限の感謝を」

シュバルツは無言で頷き、レンジャーは「気にするな、お嬢さん。」と静かに笑って見せた。

 

しかし。

そんな和やかな、あるいは厳粛な雰囲気の漂う前庭の片隅で、ただ一箇所だけ、全く毛色の違う重苦しい空気が立ち込めている場所があった。

黒煙を上げ続ける「元・フィアルクンの村の貴重な装甲輸送車」のボンネットの前である。

 

「……で? 何か言い訳はあるのかしら、ホワイトシールド」

 

フロストノヴァの声は、かつて雪原で無数の命を凍りつかせた時よりも、さらに数度低かった。

彼女は腕を組み、冷ややかな瞳で、煙を上げる鉄屑……もとい輸送車と、その隣で所在なさげに立っている「相棒」を交互に睨みつけている。

 

「ひどい有様だな(訳:いや、その……結果的にドラッジの奇襲を防げたわけだし、領民の皆さんも無事だったのだから、輸送車一台の犠牲は必要な経費というか……)」

 

ドルベは目を泳がせながら、無意識のうちに「責任の所在を曖昧にしつつ、大局的な視点を強調する苦しい弁明のポーズ」…もとい土下座をしていた。

 

「必要な経費ね」

フロストノヴァが一歩、にじり寄る。

「私たちは、この車を『借りて』きたのよ。フィアルクンの村の人たちから。無事に返すという約束でね。それを、あんな風に……ドラッジに向かってボーリングの球みたいに突っ込ませて、スクラップにするのが『必要な経費』?」

 

「非力な私を許してくれ……(訳:申し訳ありません! 完全にテンパってアクセルとブレーキを踏み間違えました!!)」

 

ドルベはついにポーズを崩し、両手で顔を覆ってうなだれた。

原作の知識があり、最悪の未来を防ぐためだったとはいえ、彼自身「車で敵将を轢いてしまった」という荒技に出たことには少なからず反省していた。それに、テラにおいて車両は貴重品だ。修理費がロドスの給与からまた天引きされるとなれば、再び硬いクラッカーだけになる生活が続くかもしれない。

 

そんな二人のやり取りを少し離れた場所から見ていたBSWのコンビ、リスカムとフランカは、煙を上げるボンネットを覗き込みながら何やら話し合っていた。

 

「……エンジンブロックは完全にイってないわね。ラジエーターとフロントのシャフトが曲がってるだけみたい」

リスカムが専門的な目でダメージを評価する。

「てっきり爆発でもする勢いだったのに。ホワイトシールドが展開していたあの光の盾が、上手いこと衝撃を逃がしてくれたのかもね」

 

「まあ、どっちにしてもこのままじゃ走らないわよ」

フランカが肩をすくめた。

「でも、アインタウィルのセーフハウスに予備のパーツが残っていれば、リスカムの応急処置でなんとかなるんじゃない?」

 

「……パーツ次第ね。セーフハウスの備蓄リスト、後で確認してみるわ」

 

その会話が耳に入った瞬間、うなだれていたドルベがガバッと顔を上げた。

 

「命を削っての特殊召喚、見事だ(訳:本当か!? リスカム、君はメカニックの天才だな! パーツ探しなら私が光の速さで手伝うぞ!)」

 

「……まだ直ると決まったわけじゃないから、そんなに調子に乗らないでよね」

フロストノヴァが呆れたようにため息をついた。

だが、その瞳に先ほどまでの怒りはもうなかった。彼が後先考えずに単独で突撃したことで、確かにミアロや領民たちの命が救われたのだ。その無茶苦茶な「善性」を、彼女は誰よりも理解している。

 

「まったく……。次からは、運転は絶対に私がするから。あんたは助手席で大人しく座っときなさい」

 

「ブックス!!(訳:了解した! )」

 

 ドルベはすかさず「相棒の寛大な処置に感謝し、再び忠誠を誓う騎士のポーズ」を決めた。

煙を上げる車の前で繰り広げられる、どこか気の抜けたやり取り。

 それは、死線を超えた者たちにだけ許された、束の間の安らぎの時間だった。

 ドラッジを取り逃がし、地下には未だ「進化の本質」が眠っている。本当の厄災はこれからかもしれない。それでも今は、誰も欠けることなくこの場に立っているという事実が、彼の心を確かに救っていた。

 

 

 

 ロングスプリングの狂気を根本から断ち切る。その悲壮な決意のもと、ロドスと異世界の兵士たちは迅速に戦術を立案した。

 

まずは、敵の圧倒的な物量をどうにかしなければならない。リスカムとフランカの手によって辛うじて応急処置が施された護送車が、作戦の要となった。その源石エンジンを限界まで稼働させ、源石反応を起こす。走りながら感染生物を引きつけさせそれを「囮」とすることで、本能のままに動く感染生物たちの大群を街から遠ざけながら通過ポイントで撃退を繰り返す。

 

「感染生物の数は計り知れない。このまま放置すれば、間違いなく隣町まで被害が及ぶことになる…」

 

 フロストノヴァが、腰の双剣の柄を強く握り締めながら、いずれ地平線を埋め尽くさんとする異形の群れを見据えて言った。

 

「街の防衛と、群れの掃討は私たちロドスが引き受ける。坑道へ逃げ込んだドラッジの追撃と、災厄の源の破壊は……」

 

 シュバルツの鋭い視線が、異世界のスペシャリストたちに向けられる。

アッシュがバイザーの奥で力強く頷いた。

「了解した。閉鎖空間(坑道)の制圧と掃討は私たちの専門分野だ。災厄の源(ターゲット)は確実に排除する」

ここで明確な戦力の分散が行われることになった。

 だが、最悪のバケモノである「進化の本質」が待ち構える坑道へ、源石のアーツを持たない彼らだけで向かわせるわけにはいかない。原作の知識を持つドルベは、その地下にどれほどの地獄が広がっているかを痛いほど理解していた。

 

 ドルベは迷うことなく一歩前に出た。

 そして、これから死地へ赴くレインボー小隊の面々に向かって、「背中を預け合う真の友のポーズ」を全力でビシッと決めた。

「私が君の危機に助けに来ないと思ったか…?(訳:戦士たちよ! あの地下には、君たちの想像を絶する化け物はずだ! 私も同行し、君たちの盾となろう!)」

 領主邸の前庭で、全身からオーラと光の粒子を放ちながら静止するドルベ。

 レインボー小隊の四人は、そのあまりにも前衛的な佇まいを前に、完全に言葉を失い固まっていた。

「……ロドス。これは、どういう意味のボディランゲージだ?」

ブリッツがシールドを少し下げ、極めて困惑しきった声でフロストノヴァに尋ねる。タチャンカに至っては光るドルベに「フラッシュバンに誤爆か?…まさか身体が光ってるのか…?」と目を擦っている。

 フロストノヴァは、深く、それはもう深く重い溜息をつき、気まずそうにスッと目を逸らした。シュバルツは既にクロスボウの弦の点検に逃避しており、フランカとリスカムは苦笑いを浮かべている。

「……言葉通りよ。あいつはあなたたちと一緒に行くと言っている。ああ見えて……いや、言葉はおかしいけれど、実力…だけは私たちが保証する。絶対にあなたの部隊の盾として役に立つから、連れて行ってやって」

 ロドスの精鋭たちが全員目を逸らしながら「実力だけは申し分ない」と太鼓判を押すという、異常極まりない推薦。

アッシュは頭痛を堪えるようにこめかみを揉んだが、先ほどの戦闘で見せた光の盾の絶対的な防御力は確かに本物だった。それに、未知の怪物相手には少しでも手札が多い方がいい。

「……実力『だけ』は申し分ない、か。了解した。先程のアーツの力、期待させてもらう。ただし、勝手な行動は許可しないぞ」

アッシュは割り切り、作戦の合理性を優先した。

「王を救うのだ!全軍突撃!(訳:よし、話はまとまったな! いざ、ロングスプリングの深淵へ! 諸君、私の光に続け!)」

 

 ドルベは意気揚々と、しかしどう見ても隠密行動には不向きな奇妙なステップを踏みながら、坑道の入り口へと歩き出した。

その後ろ姿を見送るフロストノヴァは、「頼んだわよ、色んな意味で……」と心の中で祈りを捧げていた。

 

 一方のレインボー小隊は、かつて経験したことのない「極めて視認性の高い(暗闇で目立ちすぎる)輝く不審者」を分隊の先頭に組み込むという異常事態に困惑しきりだった。

「……作戦中、あの光は消せないのか?」というアッシュの呟きは虚しく風に消え、彼らは災難の源を断つべく、冷たく湿った死の坑道へと足を踏み入れていくのだった。

 

 

 ロングスプリングの地下深く。冷たく湿った空気が漂う坑道内は、源石の不気味な光と、薬品の鼻を突く異臭に満ちていた。

 慎重に歩を進めるレインボー小隊と、背後で無駄に神々しい光を放ちながら追従するホワイトシールド。彼らが辿り着いた最深部には、狂気に満ちた実験施設の痕跡が広がっていた。

すべての真実はここで暴かれた。

 マッドサイエンティスト、レヴィ・クリチコ。アッシュたちと同じ地球という世界からこのテラの大地に流れ着いた彼は、領主の弟であるドラッジと結託し、ここで己の狂った「進化」の実験を継続していたのだ。感染者たちを攫い、テラの生態系を根底から歪める最悪の生物兵器を生み出すために。

その実験施設の片隅、薄暗い空間に鎮座する頑丈な鉄の檻の中に、一人の男がうずくまっていた。

「ひぃっ……! た、助けてくれ……!」

 先ほどまで地上で全能感に酔いしれていた男、ドラッジである。彼は用済みとばかりにレヴィに裏切られ、あわや実験材料にされる寸前の哀れな囚人へと成り下がっていた。

なおこんなにもドラッジが怯えているのは暗い空間で

意☆味☆不☆明(原理不明)に光っているドルベのせいである。

 

 アッシュは銃口を下ろし、檻の中のドラッジを静かに見下ろした。

 本来の歴史――ドルベが介入する前の運命であれば、ここでアッシュは怒りに任せてドラッジの顔面を力一杯殴り飛ばしていたはずだった。心優しき医師、ミアロの命を理不尽に奪ったこの卑劣な男に対する、制裁として。

 しかし、ドルベの決死の暴走輸送車アタックにより、ミアロは無傷で生還している。

 それゆえに、アッシュをはじめとするレインボー小隊の面々がドラッジに向ける視線には、燃え盛るような殺意はなかった。ただ、自らの愚かさで自滅した小悪党に対する、底冷えするような哀れみと軽蔑があるだけだった。

 

「行こう。こんな男に構っている暇はない」

 

 アッシュは短く吐き捨てると、檻の鍵を開けることも、殴りかかることもなく、一切の関心を失ったように背を向けて坑道のさらに奥へと歩き出した。ブリッツたちも無言でそれに続く。

 

 その後ろ姿を見送りながら、ドルベは静かに佇んでいた。

 現在の彼には、己の奇行と「ドルベ語」を完璧に翻訳し、周囲とのコミュニケーションを成立させてくれる唯一の通訳、フロストノヴァがいない。このプロフェッショナルな異世界の軍人たちの前で不用意に口を開けば、場を混乱させるだけだと彼は痛いほど理解していた。そのため、ここに至るまで彼は極力口を閉ざし、静かなる騎士を演じ続けていたのである。

(……レインボーシックスシージコラボ特有の、あの憎きおっさんを思い切り殴り飛ばす最高のシーンがお流れになってしまったのは、正直少しだけ心残りではあるが……ミアロ先生の命と引き換えなら仕方ないか。それに、俺たちの本当の標的はこの先にいる)

心の中で密かに原作の展開を惜しみつつも、最悪の未来を回避できた結果に納得するドルベ。

彼は気を取り直すと、薄暗い坑道の中でひときわ眩しい光の粒子を撒き散らしながら、一切の迷いがない鋭いモーションでポーズを決めた。

 

「ブックス!!」

 

 その一言だけを力強く坑道に響かせると、彼はアッシュたちの背中を追って堂々とした足取りで歩き出す。

 レインボー小隊の面々も、背後で突然叫びながら変なポーズを取った光る不審者に対して、もはや突っ込む気力すら湧かなかったのか、振り返ることなく足早に奥へと進んでいった。

最悪の生物災害「進化の本質」と、狂気の科学者レヴィが待ち受ける最深部へと、彼らの歩みは止まらない。

 

オリジニウムダスト後は…

  • オペレーターとの交流(時系列バラバラ)
  • ドクターやロドス首脳陣主体の交流
  • 単独でサイドストーリーに乗り込む
  • 結果を見たい用兼感想でお教え下さい
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