なんとでも言え。私とてテラの大地を救わなければならない…   作:バリアンの(面)白き盾

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非力な私を許しくれ…

 ロドス・アイランド本艦、第3演習場。

そこには、まるで巨大な隕石が直撃したかのようなクレーターと、物理法則を無視して残留する黄金の光の粒子が漂っていた。

 採用試験という名の「測定不能な事象」を終え、首脳陣と人事部は会議室に集まり、頭を抱えていた。

これはその時の議事録の内容である。

人事部担当

「……正直に言います。今回の試験、途中で中止すべきでした。彼が『現れろ!No.102!光天使グローリアスヘイロー!』と叫んだ瞬間、演習場の防壁システムが『想定外の干渉』を検知して全停止。おまけに、対抗策として用意した妨害用のアーツユニットが、召喚物の輝きに触れただけで強制的に沈黙したんです。あのアーツ無効化能力、テラの常識を超えています。」

ケルシー

「……アーツではない。あれは、事象そのものを上書きする何らかのエネルギー体だ。特にあの『No.(ナンバーズ)』と呼ばれる個体群……。私のMon3trですら、あのアーツ無効化の余波を受けて一瞬リンクが不安定になった。それ以上に厄介なのは、彼が複数の個体を同時に、それも瞬時に具現化させる点だ。」

ドクター

「ああ。『私は光天使ウィングス! ブックス! ソードでオーバーレイ!』と言いながら、一秒足らずで戦場を完全に支配してしまった。戦略的価値は計り知れないが……やはり最大の問題は、彼の『対話』能力だ。」

アーミヤ

「……皆さんが戦慄していたあの時、彼の心の中は……その……『うわあああ! かっこよく決まったぁぁ! さすが俺のグローリアスヘイロー! でもケルシー先生の顔がめちゃくちゃ怖い! どうしよう、やりすぎたかな!? 嫌われたらどうしよう!』……と、号泣に近いパニック状態でした。」

人事部

「……はい? あの冷酷な無敵の戦士のような顔で、心の中では泣いていたんですか?」

アーミヤ

「はい。試験が終わったあと、ドクターに詰め寄られて、彼は『すまない、非力な私を許してくれ…』と言いましたが、心の中では『ドクターに褒められた! 生きててよかった! 寿命伸びた!』と、お祭り騒ぎだったんです……。」

ドクター

「……。まあ、悪意がないことは保証されているわけだ。むしろ、善意の塊が、言葉の呪いのせいで傲慢な暴君のように出力されている、と。」

ケルシー

「放っておけばどこかの国を滅ぼしかねんし、何より本人がロドスへの加入を心中では熱望している。人事部、彼を雇用しろ。ただし、彼の言動にいちいち反応するな。あれは一種の……不可抗力だ。」

人事部

「承知しました…。そのように資料を作成します。」

人事部担当

「……ドクター、ケルシー先生。彼のコードネームの件ですが、本人の希望を確認しようとしたところ……デスクを叩き、窓の外の荒野を指差しながら、こう叫ばれました。「バリアンの白き盾!ドルベ!」と」

ドクター

「……それで? そのまま登録したのか?」

人事部

「いえ……。あまりにも語気が強く、かつ意味不明だったので、私の判断で『ホワイトシールド(白き盾)』とさせていただきました。その後の説明が全て『私はナッシュ・・・ただの旅行者だ』にループして会話にならなかったので……。もう白くて盾っぽいし(投げやり)、これでいいだろうと……。」

この後の議事録には満場一致で彼のコードネームが『ホワイトシールド』に決ったことが記録されている。

 

その頃のドルベは自室にて彼は支給されたばかりのロドスの制服を抱きしめ、ベッドの上で一人、感極まっていた。

(やった……! ついに、ついにロドスの一員になれたぞ! 言葉は全く通じなかったけど、ドクターが最後、肩を叩いてくれた! あれはきっと、俺のバリアン魂が伝わった証拠だ!)

彼は立ち上がり、壁の鏡に向かって、今日一番の鋭いポーズを決めました。

「そうだ凌牙! 私はバリアンだ!」

(訳:明日からの初任務、気合入れていくぜ!)

窓の外では、ロドス・アイランドがゆっくりと荒野を動き始めていました。テラの歴史に、最も騒がしく、最も話の通じない「白き盾」が刻まれた瞬間だった。

 

 

 

 ロドスの訓練場。そこには、新米オペレーター(という体裁の)ドルベと、訓練教官を務めるドーベルマン、そして様子を見守るアーミヤとドクターの姿があった。

 

「いいか、ホワイトシールド。今回の訓練は、模擬敵の包囲をいかに迅速に突破するかだ。配置につけ」

ドーベルマンの指示に対し、ドルベはいつものように完璧な角度で背筋を反らし、指を天に突き立てた。

「さあ、決着をつけよう!デュエルだ!」

(訳:了解しました、教官。全力を尽くしましょう!)

「……デュエル? 訓練と言ったはずだ。まあいい、始めろ!」

模擬敵(ドローンと訓練用重装兵)が迫る。ドルベはカオスの力で具現化したデュエルディスクに光り輝くカードを叩きつけた。

「私は光天使ウィングスを召喚! そしてウィングスの効果発動! このカードの召喚に成功した時、手札から光天使モンスターを1体、特殊召喚する事ができる!」

光の粒子と共に、幾何学的な浮遊物体が次々と出現する。そのあまりにスムーズな多重召喚に、モニター越しに見ていたドクターが目を見開いた。

「……アーツの起動速度が異常に速い。詠唱と同時に、既に複数の個体が戦場に召喚されている…」

「来い! 光天使ソード! 私はレベル4の光天使ウィングス! ブックス! ソードでオーバーレイ! 3体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 現れろ! No.102! 光天使! グローリアスヘイロー!」

 眩い閃光とともに、巨大な翼を持つ騎士が降臨した。訓練場の床がその圧力でわずかに沈む。

「光の使いよ、今、悠久の時を超え、輝きの衣をまといて、かの地に降臨せよ! No.102! 光天使グローリアスヘイロー!」

あまりに長い口上に、ドーベルマンが眉をひそめる。

「おい、詠唱が長すぎる! 実戦ならその隙に……」

「少しは楽しませてくれたが、結果は最初から見えていた。」

(訳:ご心配なく。既にチェックメイトです)

その言葉通り、グローリアスヘイローが放つ「ライトニングクラスター」によって、模擬敵の回路は一瞬で焼き切られ、訓練はわずか数分で終了した。

 訓練終了後。ドーベルマンは記録端末を片手に、ドルベに歩み寄る。

「……戦闘能力は文句なしだ。だが、作戦中の発言が支離滅裂すぎる。特にあの『オーバーレイネットワーク』とは何だ? 建築のアーツか?」

ドルベは誠実に答えようとした。

「なんとでもいえ、私とてバリアンを救わねばならん…。」

(訳:それは私の力の根源であり、説明するのは難しいのですが、決して怪しいものではありません)

「バリアンを救う? ここはロドスだ、バリアンなどという地名は……」

困惑するドーベルマン。そこへアーミヤが慌てて駆け寄る。

「ド、ドーベルマン教官! 今のは『機密事項なので、後で報告書にまとめます』という意味です! 悪気はないんです、本当です!」

一方、ドルベは隣にいたドクター(ナッシュ)を見て、感極まったように言う。

「我ら二人の力をみせてやる!」

(訳:ドクター、これからの任務も私に任せてください!)

「……ああ、頼りにしてるよ。だが、作戦中はもう少し……そう、静かにしていてくれると助かる」

言われたドルベは、ショックを受けるどころか、むしろ「信頼の証」を受け取ったかのような表情で、ドクターの手を握りしめました。

「ナッシュ、感じるぞ、お前の魂を。」

(訳:さすがドクター、余計な言葉はいらないというわけですね。理解しました!)

 

訓練終了後ドルベを見送り演習場に残った者たちは先程のことを語っていた。

ドクター

「……彼は、私のことを本当に信頼してくれているようだが……。なぜ私が『命を削って特殊召喚(?)』をした前提で話しかけてくるんだ? 体調なら万全なんだが」

ドーベルマン

「……正直、教育の範疇を超えています。あのアーツ?の威力は凄まじいですが、ポイント制!? と叫びながら模擬敵のダメージを計算し始めた(数値は勝手にドルベが言い出した)時は、私の精神が削られました」

アーミヤ

「でも、ドルベさん、最後にボロボロになった訓練用ドローンを見て、『むごいな……』って悲しそうに言ってたんです。やっぱり、とっても優しい人なんですよ!」

 

 

 当のドルベは、自分の部屋に戻り、「(よし、今日の訓練もバリアンの誇りを示せたな!)」と満足げに、新しい「光天使(ホーリー・ライトニング)」のカードを磨き上げるのだった。

こうして、ホワイトシールド(ドルベ)のロドスでの評判は、「最強クラスの実力を持つ、言葉が1ミリも通じない狂人」として定着していくのだった。

 

 

 

 後日、ロドスの医務室。そこには、重苦しい沈黙と、場違いなほど神々しいオーラが同居していた。

 ホワイトシールド(ドルベ)の定期健診。それは執刀医であるケルシーにとって、今や最も忍耐を要する業務の一つとなっていた。

「座れ、ホワイトシールド。……ポーズをとるなと言っている。心拍数が正確に測れん」

ケルシーの冷徹な指示に対し、ドルベは診察台の上で背筋を反らし、右手を顔の前にかざしたまま静止した。

「私の名はナッシュ・・・ただの旅行者だ」

(訳:心の声:ケルシー先生、お疲れ様です! 今日も先生の診察を受けられて光栄です!)

「君がナッシュだろうがドルベだろうが、私のカルテには『ホワイトシールド』としか記載せん。……。血液検査の結果だが、やはりオリジニウム粒子の含有量は見当たらない。それどころか、君の細胞自体が未知の光学的エネルギーと置換されている節がある。この『バリアン形態』とやらの変身プロセスを詳しく述べろ」

ケルシーの鋭い追及に、ドルベは(アニメではどう言ってたかな…?こんなのだったかな)とノリノリで答えようとした。

「そうだ凌牙! 私はバリアンだ! 貴様らのしがみつく希望! 今こそ意を決し、花と散れ!」

(訳:この体はバリアン世界という異次元のエネルギーで構成されていて、感情の高ぶりと共に真の姿を現すんです!)

「……。話にならんな。希望が花と散ってどうする。……Mon3tr、彼を少し抑えていろ」

 ケルシーが聴診器を当てようとした瞬間、ドルベは彼女の多忙なスケジュールを思い出し、心からの気遣い(ドルベ語)を口にした。

「女、貴様はよく戦った、眠りにつくがいい!」

(訳:ケルシー先生、いつもロドスのために働きづめですよね。少しは休んで、ゆっくり眠ってください!)

「……。私を眠らせてどうするつもりだ。文字通り永遠の眠りにつかせたいという宣告か? それとも、私の医療技術が君の『バリアン』なる肉体には不要だという挑発か?」

 医務室の温度が急降下した。背後のMon3trが不穏な唸り声を上げた。ドルベは焦って(違います! 先生の健康を心配しただけなんです!)と必死に弁解しようとした。

「なんとでもいえ、私とてバリアンを救わねばならん…。」

(訳:すみません、言葉が足りませんでした! 先生に何かあったら、俺……じゃなくてロドスのみんなが悲しみますから!)

その日、医務室は戦場になった。

 

 

 

 

そこへ、騒ぎを聞きつけたアーミヤが飛び込んできた。

「ケルシーさん、待ってください! 彼は『いつも頑張っているケルシーさんに、ゆっくり休んでほしい』って言いたいだけなんです! 本当に、心の中では先生の体調をすごく心配していて……!」

 アーミヤの必死の通訳を聞き、ケルシーは深く、長いため息をついた。

「……。ホワイトシールド、健診は終わりだ。……去り際に変なセリフを吐くなよ」

ドルベは(よかった、誤解が解けた!)と安堵し、最高の笑顔でビシッと指を指しました。

「少しは楽しませてくれたが、結果は最初から見えていた。」

(訳:今日の診断結果も異常なしですね! 先生のおかげです、ありがとうございました!)

「……。Mon3tr、やはりこいつを一度解剖する必要がある。」

「しまっ……!ポイント制!?(訳:ええっ!? 冗談ですよね!?)」

 

【健診後のカルテ】

担当医:ケルシー

「身体能力、代謝、共に異常なし。ただし、精神面……特に言語出力系に極めて深刻なバグ、あるいは高次元の干渉が認められる。本人の意志は極めて善良(アーミヤ談)とのことだが、私を『メラグ』と呼んだり、眠りに誘おうとする不敬な態度は改善の余地がある。……次回の健診時は、ドクターを盾として同席させることを推奨する」

 

 

 

 ドルベは医務室を出た後、廊下で「私はナッシュ・・・ただの旅行者だ(訳:検診終わりました!)」と他のオペレーターに元気に挨拶しながら、心の中では(ケルシー先生の診察、やっぱり緊張するなぁ……)と胸をなでおろすのだった。

 彼は他のオペレーターたちからの奇異な向けられられながら自室へ戻っていった。

 




 ロドス・アイランド本艦の人事部オフィス。そこには、数多のオペレーターを担当したベテラン人事担当者の、力なく項垂れる姿があった。

「……ええと、では改めて確認します。あなたの正式なコードネーム、および本名を教えてください。先ほどの試験では『ドルベ』と仰っていましたが……」
ドルベは、心の中で(よし、今度こそちゃんと『ドルベ』で統一して、手続きをスムーズに進めるんだ。ドクターたちの信頼を勝ち取る第一歩だぞ!)と気合を入れた。
「私の名はナッシュ・・・ただの旅行者だ。」
 人事担当者のペンが止まる。
「……ナッシュ? いや、しかし履歴のメモには『ドルベ』と……。では、ナッシュで登録を……」
「お前はナッシュではない、あいつはお前のような臆病者ではなかった!」
(訳:ナッシュじゃないです! あ、つい否定の台詞が……! 違うんです、ドルベでいいんです!)
「……何故急な臆病者呼ばわり!? しかも自分でナッシュと言った直後に否定されるとは。……。で、では、改めてお名前を」
「バリアンの白き盾!ドルベ!私とてバリアン世界を救わなければならない…」
「よし、ドルベさんですね。ではここにサインを……」
「私の名はナッシュ・・・ただの旅行者だ。」
人事担当者は静かに書類を机に置きました。「……ドクター、アーミヤ様。無理です。彼のアイデンティティがゲシュタルト崩壊を起こしています。どの名前で呼んでも否定か上書きが返ってくる……」
 彼の助けを求める声は人事部オフィスに小さく溶けていった。
「……分かりました。名前は一旦置いておきましょう。出身地は? クルビア、あるいはシエスタのあたりですか?」
ドルベは誠実に答えようと、遠くの空を指差しました。
「蘇った我等七皇の力、アストラルの為に使おう!」
(訳:私はこことは異なる世界から転生してきました!)
「アストラル? どこの移動都市ですか? データベースに該当がありません。……ご家族や友人の連絡先は?」
ドルベの脳裏に、転生前の記憶を思い出そうとしたが何も思い出せない。仕方がないから今は亡き(生きてます)七皇の仲間たちの姿が浮かびます。彼は悲しげに目を伏せた。
「メラグ・・・お別れだ。メラグ・・・ナッシュ・・・君たちと出会えて本当に良かった・・・・!」
「……。全滅した、ということですか? 非常にむごい過去をお持ちのようだ……」
担当者が同情の目を向けた瞬間、ドルベは「いや、俺は生きてるし、ここはテラだし!」と慌ててポーズを決めました。
「勝った思うのはまだ早いぞ!」
(訳:いや、悲劇で終わらせるつもりはありません! 前向きに行きましょう!)
「……励まされたのか…? なぜ私が上から目線で励まされているんだ!?」
 結局、3時間が経過しても書類は1行も埋まることは無かった。
「……もういいです。名前は『ホワイトシールド』。出身は『不明(本人談:ナッシュ、あるいはドルベ)』。特記事項……『極めて重篤な言語障害、または高度な多重人格の疑いあり』……と。」
ドルベは手続きが終わった(と思い込んで)、感謝の意を込めて担当者の手を握りしめた。
「だが安心しろ、貴様が途中で逃げださぬ様、私が地獄まで付き合ってやる。」
(訳:ありがとうございます! これから同僚として、末永くよろしくお願いしますね!)
「ひっ……! 死の宣告……!? 手続きを簡略化した報いが地獄への同伴……!」
 事担当者が白目を剥いて倒れる中、心配で立ち寄ったアーミヤが慌てて「違うんです! 彼はすごく喜んでるだけなんです!」と駆け寄ります。
 当のドルベは、受理された(と思い込んでいる)書類を手に、満足げに部屋を去っていった。
(よし、これで俺も正式にロドスの一員だ! 幸先いいぞ!)
 後の人事担当者からの議事録の報告に頭が痛くなる首脳陣の苦悩はもうすぐだった。

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