なんとでも言え。私とてテラの大地を救わなければならない… 作:バリアンの(面)白き盾
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ロドスの執務室。静かで穏やかな時間が流れていた。
デスクに山積みの書類を前に、ドクターとフロストノヴァが肩を並べて書類仕事をしていた。
「……ここの数値、整合性が取れていないわ。私の部隊の補給記録と照らし合わせて」
「ありがとう、フロストノヴァ。君がいてくれると、仕事早く進んで助かるよ…」
フロストノヴァは少し照れくさそうに、書類に視線を戻した。二人の距離は、以前よりもずっと近くなっている。時折、書類を受け渡す際に指先が触れ合い、彼女の封印された冷気ではなく、確かな体温がドクターに伝わる。
一方、執務室の扉の前では、一人の男が「不動の門神を表現するために、両腕を交差し、片脚を直角に曲げて宙に浮かす難解なポーズ」で立ちはだかっていた。ロドスの「ホワイトシールド」ドルベです。
(邪魔はさせない! 今、ドクターとフロストノヴァの間には、ロマンチックなオーバーレイネットワークが構築されているんだ! 邪魔する奴は、この俺がポーズで分からせてやる!!)
中身の転生者としての魂が燃え上がらせていた。
「用事があるんだ、どいてくれ」と事務連絡に来たオペレーターや、「ドクターにサインをもらいに……」という新人を、彼は鋭い眼光だけで射抜く。
「なんとでも言え。私とてバリアン世界を救わなければならない(訳:今は大事なところなんだ、帰ってくれ)」
「いや、バリアン世界とかいいから通してよ!」という抗議も、ドルベは「聞く耳を持たないことを全身で表現するために、耳を塞ぎつつ優雅に回転するポーズ」で完全スルーした。
しかし、ついに「本気」の面々が姿を現した。
「……ドクターに、渡したいものがある。そこを退け」
無表情ながらも、背後に巨大な海獣の幻影を背負ったように見えるスカジ。
「ドクターとの面会予約はしていないが、今すぐ会う必要がある。どけ」
鋭い殺気を放ち、腰の剣に手をかけるテキサス。
ドクターガチ勢の二人の圧力を前に、ドルベのポーズも次第に限界を迎え、プルプルと震え始めた。
「なんとでも言え!私とてバリアン世界を救わなければならない!(訳:ひぃい! さすがにこの二人は怖い! でも、フロストノヴァの幸せは俺が守るんだぁあ!!)」
あまりの恐怖が限界突破し、ドルベはパニックに陥った。
「ブックス!! ブックス!! ブックス!! ブックス!!(訳:来ないでぇ! でも通さないぃい!!)」
執務室の廊下に響き渡る、鼓膜を突き刺すような「ブックス!」の連呼。
ついに執務室の扉が内側から勢いよく開かれた。
「……うるさい!!」
中から現れたのは、顔を真っ赤にしたフロストノヴァだった。彼女は良い雰囲気だったのを台無しにされた怒りと、外の騒ぎの恥ずかしさから、流れるような物理ダイレクトアタック(渾身の飛び後ろ回し蹴り)をドルベの顔面に叩き込んだ。
「うあああああああッ!!」
ドルベは「回転しながら虚空に弧を描き、最後は綺麗な土下座の形で着地するポーズ」で沈黙。
「……スカジ、テキサス。用があるなら入って。……ホワイトシールド、あなたはそこで、そのまま冷えていなさい」
フロストノヴァはそれだけ言い捨てると、気まずそうにドクターの方を向き直しました。廊下には、気絶しながらも「任務を完遂した男の満足げな笑みを浮かべるポーズ」のドルベだけが、静かに横たわっていた。
ドクターはペンを置き、
「……次は防音対策についても、ケルシーと相談したほうがいいかな」
と、遠い目をするのだった。
ロドスの演習場。ドクターは、チェルノボーグで見せた「奇跡」のさらに先にあるというドルベの「新たな力」を確認するため、観測席に座っていた。
そこには、やる気に満ち溢れたホワイトシールド(ドルベ)が、「嵐の前の静けさを表現するために片手で顔を覆い、指の間から鋭い眼光を放つポーズ」で待機していた。
「我ら二人の力をみせてやる!」
ドルベが叫ぶと共に、彼の手から放たれた一枚のカードが空中で砕け散った。
「フィールド魔法発動!『異次元の古戦場-サルガッソ』!!」
その瞬間、演習場の景色が歪んだ。床は無機質な金属から、紫色の雷鳴が轟く荒廃した大地へと書き換えられた。物理法則を無視した空間の書き換えに、ドクターは椅子から転げ落ちそうになった。
「空間そのものを……上書きしただと!?」
驚くドクターを余所に、ドルベの動きは以前よりも遥かに洗練されていた。
「さあ、決着をつけよう!デュエルだ!」
「出でよ!光天使スケール!効果発動、来い!光天使セプター!さらに手札から光天使スローネを特殊召喚し、私はカードを1枚ドロー!」
以前のように一体ずつ時間をかけるのではなく、光の粒子が次々と具現化し、一瞬にして三体の光天使がフィールドに並ぶ。その展開速度は、ロドスに来た時よりも凌駕する速度だった。
「光の使いよ、今、悠久の時を超え、輝きの衣をまといて、かの地に降臨せよ!No.102!光天使グローリアス・ヘイロー!」
黄金の騎士が、サルガッソの紫の空を背景に堂々と降臨したのだ。しかし、その感動の瞬間に「事件」は起きた。
「NO.102光天使グローリアス・ヘイロー」が着地した瞬間、虚空から謎の紫の雷電が走り、ドルベの背中を直撃しました。
「うあああああああッ!!」
情けない悲鳴を上げて派手に吹っ飛ぶドルベ。あまりの出来事に、ドクターは開いた口が塞がらなかった。
「……えぇ……。自分で出したフィールドで、自分でダメージ受けてる……」
ドルベはフラフラと立ち上がり、「苦痛に耐えながらも高潔さを失わない、片膝をついた敗北者のポーズ」で解説を始めました。
「なんとでもいえ、私とてバリアン世界を救わねばならん。このサルガッソの効果により、エクシーズ召喚に成功する度に、そのプレイヤーは500ポイントのダメージを受ける!」
そこまで真剣に語った直後、彼はハッと目を見開き、自身の叫び声に驚いたようにこう続けた。
「ポイント制!?」
自分の発言を自分に突っ込みを入れるドルベ。その様子を見て、ドクターは静かに記録用のペンを置いた。
「……ケルシー、すまない。ホワイトシールドの能力解明だが……今日で打ち切りにさせてくれ。私には、彼を理解するだけの、精神力がもう残っていないんだ」
ドルベはそんなドクターの絶望にも気づかず、「ダメージを受けてボロボロになりながらも、やり遂げた感を出して爽やかに微笑むポーズ」で、グローリアス・ヘイローと共に黄金に輝き続けていた。
演習場からフラフラと出てきたドルベは、自ら招いたサルガッソの雷撃によって服のあちこちが焦げ、髪も少し逆立ったボロボロの状態だった。しかし、本人はやり遂げた感に満ち溢れており、「満身創痍ながらも夕陽に向かって勝利を確信する、無理な角度で腰を捻ったポーズ」を決めている。
そこへ、ドクターと共に訓練を眺めていたフロストノヴァが、冷ややかな、それでいてどこか「やっぱり」と諦めの混じった視線を向けて歩み寄ってきた。
「……ホワイトシールド。自分で自分を攻撃して、一体何の訓練をしていたのか説明してくれるかしら?」
ドルベは彼女の姿を見た瞬間、中身の一般人としての魂が激しく震え(あああ!フロストノヴァ!今日も美しい!罵倒されても幸せだ!)という歓喜に包まれた。しかし、ナストラルの計らいにより、その気持ち悪い心の声は一切彼女に届くことはなかった。。
彼女に聞こえるのは、高潔なバリアンの騎士としての「断片的な心の声」だけだった。
「非力な私を許してくれ……(訳:ダメージは計算内だ! たかが500ポイントのダメージ!まだライフは残っている!)」
「……計算内? その震える足でよく言えるわ」
フロストノヴァは呆れて溜息をつきます。彼女はドクターと過ごす平和な時間を、隣でこうしてポーズを取り続け、意味不明な供述を繰り返すドルベには、恩義を感じつつも時折、猛烈な「黙らせたい衝動」に駆られていた。
「我ら二人の力をみせてやる!(訳:さあ、次はドクターも交えて三人で……)」
ドルベが興奮のあまり、ドクターとフロストノヴァの間に割り込もうと「愛のキューピッドを模した、片足を高く上げる難解なポーズ」をとったその時。
「ホワイトシールド」
「ブックス!?」
フロストノヴァは、アーツが封印されていて氷が出せないことを思い出し、無言で拳を固めた。そして、流れるような動作でドルベの腹部に強烈なダイレクトアタック(無言の腹パン)を叩き込んだ。
彼は少々特別なのでこれくらい大したことはないという信頼の裏返しでもある。事実、彼はチェルノボーグの艦体に轢かれても無事だったのだ何ともないだろう。
「うあああああああッ!!」
「うるさい。ドクターと話している時は、少し黙っていて」
ドルベは床に崩れ落ち、悶絶しながらも「痛みに耐えながら地面に止まるんじゃねぇぞ…のポーズ」へと移行した。
ドクターが苦笑いしながらそれを見守る中、フロストノヴァは「仕方ない」と呟き、救急キットから冷却パックを取り出した。アーツは使えないが、簡単な治療ぐらいお手の物だった。
彼女はドルベの焦げた肩に、乱暴ながらも優しく冷却パックを押し当てた。
「ほら、冷やしなさい。……全く、あなたは私を助けた時のように、もっと『まともな』戦士に戻れないの?」
(無理です…(即答)
「メラグ・・・お別れだ」
ドルベは冷却パックの冷たさに悶えながらも、フロストノヴァに介抱されているという事実に、かつてない多幸感に包まれていた。
ドクターはそれを見て、「いや、フロストノヴァ。彼は君を助けた時からまともではなかったよ…」と心のなかで留めた。解明を諦めたノートをそっと閉じた。
サルガッソの研究のためドクターとフロストノヴァは演習場にまたもや来ていたが今日のロドスの演習場は、かつてない重圧に包まれていた…。
そこには、重厚な甲冑を纏い、動かぬ山のごとく鎮座する「愛国者」パトリオットの姿があったからだ。
ロドスの若きオペレーターたちが、パトリオットの放つ凄まじい威圧感に震えながら基礎訓練に励む中、パトリオットの赤い瞳は、演習場の中央で異彩を放つ一人の男を凝視していた。
「……ホワイトシールド。……ソノ……異形ノ……戦域(サルガッソ)……見事ナ……術式、ダ」
パトリオットは、ドルベが展開した「サルガッソ」の空間書き換え能力を、高度な領域型アーツの一種として極めて真面目に分析していました。彼にとって、戦場そのものを自分に有利な(?)環境へ作り変えるドルベの力は、戦術的に非常に興味深いものだった。
「我ら二人の力をみせてやる!」
パトリオットという伝説の戦士に見守られ、ドルベの魂が燃え上がる。
(パトリオットさんが見てる! なんだっていい!伝説の英雄に俺の『最強の展開』を見せつけるチャンスだ!!)
「光の使いよ、今、悠久の時を超え、輝きの衣をまといて、かの地に降臨せよ!No.102!光天使グローリアス・ヘイロー!」
再びサルガッソの空を黄金の騎士が舞い降りる。しかし、お約束かというように「サルガッソの雷」がドルベの脳天を直撃した。
「うあああああああッ!!」
激しく火花を散らして転倒するドルベ。それを見た若手オペレーターたちが「ひっ!」と悲鳴を上げる中、パトリオットだけは深々と頷いた。
「……己ガ……放ッタ……術ノ……反動ヲ……受ケナガラモ……戦線ヲ……維持スル……。……強固ナ……精神力……ダ。……見ヨ。……彼ノ……瞳ニ……迷イハ……ナイ」
パトリオットの評価は、斜め上の方向で高まっていた。彼には、ドルベが「自分を傷つけることで、何か強大な誓約を成立させている」ように見えたのだ。
そこへ、我慢の限界に達したフロストノヴァが、ダイレクトアタック(物理)の構えで現れました。
「ちょっと! 父さんの前でそんな情けない声を上げないで! ホワイトシールド、そのポーズをやめなさい!」
ドルベは焦げた顔のまま、「痛みに耐えながらも、一本の槍として自立する騎士のポーズ」で固まりました。
「非力な私を許してくれ……(訳:パトリオットさん! 俺の魂の叫び、届きましたか!?)」
「ブックス!?(訳:ぐふっ!?)」
「やめろって言ってるでしょう!」
フロストノヴァの容赦ない正拳突きがドルベの顔面を捉えた。悶絶し、くの字に曲がって地面を転がるドルベ。
しかし、それを見たパトリオットは、さらに深く感じ入ったように呟きました。
「……娘ヨ。……彼ノ……鍛錬ヲ……手伝ッテ……イルノカ。……近接戦闘ノ……不意打ちニ……耐エル……訓練。……良イ……コンビ……ダ」
「違うわ、父さん! これはただの……! ああもう、父さんまであいつのペースに巻き込まれないで!」
フロストノヴァは顔を赤くして叫ぶが、ドルベは「地面に這いつくばりながらも、パトリオットに向かって親指を立てるポーズ」を決め、「パトリオットに認められた!」と絶頂に達していました。
ドクターは観測席から
「パトリオットが教官になってから、劇的にオペレーターたちが動きが良くなったが…。演習場の『理論』がどんどん崩壊していくな……」
と、遠い目をしてコーヒーを啜った。
それからはというものドルベを取り巻くロドスの日常は、かつてないほど「シュールな地獄」へと変貌していた。
フロストノヴァは、ハッカ飴を口に放り込み、こめかみを押さえながら、目の前で繰り広げられる光景に絶望していた。
演習場では、ドルベが「激しい雷撃(サルガッソ)に打たれながらも、片手で顔を覆い隠し、もう片方の手で虚空を掴むポーズ」を決めていました。
「私の名前はナッシュ…ただの旅行者だ(訳:この痛みこそが、かつての友との絆を繋ぎ止める!※親友ではありません※)」
それを見たパトリオットは、かつてウルサスの荒野で共に戦い、散っていった不屈の戦士たちの姿をドルベに重ね、重厚な声を響かせまた。
「……見事ダ。……ホワイトシールド。……貴殿ノ……ソノ……歪ンダ体勢……。……ソレハ……倒レタ……友ノ……魂ヲ……背負イ……共ニ……歩マントスル……覚悟ノ……形……ナノダナ」
「そうだ凌牙!私はバリアンだ!(訳:その通りです、大尉! 俺たちの魂は一つだ!)」
「……カカッ。……良イ……魂ヲ……持ッテイル。……貴殿トハ……杯ヲ……交ワシタカッタ……モノダ」
「……違う。父さん、それは絶対に違うから」
フロストノヴァは虚空を睨みつけながら呟いた。彼女には分かっていました。ドルベはただ、「カッコいいポーズでカッコつけているだけ」なのだと。
しかし、パトリオットはチェルノボーグでの事からドルベを「かつての親友たちに匹敵する高潔な戦士」として完全に認めていた。ドルベが変なポーズをすればするほど、パトリオットは「……深イ……。……敵ノ……視線ヲ……攪乱シ……味方ノ……戦意ヲ……鼓舞スル……究極ノ……儀式…」と、どこまでも前向きに解釈してしまう光景にフロストノヴァはこんな父さん見たくなかった…と絶望した。
「父さん! その男はただ、自分の領域(サルガッソ)で怪我して『ポイント制!?』って叫んでるだけよ! 高潔さなんて一欠片もないから!」
パトリオットは娘を静かに見つめ、諭すように言った。
「……エレーナ。……心ノ……眼デ……見ヨ。……彼ガ……自ラ……傷付クコトデ……我ラニ……示シテイル……『犠牲』ノ……尊サヲ。……彼ハ……真ノ……親友ニ……値スル……男ダ」
フロストノヴァはついに限界に達した。
ドクターに好感を持っている自分にとって、この「父と相棒の変な意気投合」は、ドクターに変な目で見られる要因、かつメンタルを削る凶行でしかなかった。
「我ら二人の力をみせてやる!(訳:さあ、大尉! 次は二人でダブルポーズを決めましょう!)」
ドルベがパトリオットを誘い、「二人の巨星が並び立つ構図」を提案しようとしたその瞬間。
「……いい加減に、しなさいッ!!」
フロストノヴァのダイレクトアタック(回転跳び蹴り)が、ドルベの横っ面を捉えました。
「うあああああああッ!!」
派手に回転して壁にめり込むドルベ。それを見たパトリオットは、感心したように頷く。
「……ホウ。……娘ノ……一撃ヲ……全テ……受ケ流サズ……身デ……受ケルコトデ……彼女ノ……溜マッタ……熱(ストレス)ヲ……逃ガシテ……ヤッタカ。……ホワイトシールド……貴殿ハ……ドコマデ……思イ遣リニ……溢レタ……男ナノダ……」
「非力な私を許してくれ……(訳:もうダメだ……幸せすぎて死ぬ……)」
壁にめり込んだまま、幸せそうに白目を剥いて「昇天する聖者」のポーズで固まるドルベ。
「父さん……。もう、勝手にしなさい……」
フロストノヴァは、空になった飴の袋を握りつぶし、ドクターがいる執務室へと(癒やしを求めて)無言で立ち去るのだった。
ロドス・アイランドのとある1日、今日は穏やかなで静寂に包まれていた。
アーミヤは資料を抱えながら艦内を歩き、いつもの光景が少しだけ「まとも」になっていることに、逆に違和感を覚えていた。
まず異変を感じたのは、甲板の隅、一番見晴らしの良いスペースを通った時。
そこは、本来なら太陽の光を一身に浴びながら、様々なポーズをとって固まっているホワイトシールド(ドルベ)が鎮座しているよく見かける場所だ。
「……あれ? ホワイトシールドさん、今日はいないの?」
通りかかった若手オペレーターが不思議そうに足を止めた。
「いつもなら、あの場所で三時間は微動だにせずポーズを決めてるのに。息詰まったら、ホワイトシールドのポーズを見て気持ちを切り替えに来たけどいないのか……」
ロスモンティスもトコトコと歩いてきて、誰もいない甲板の床をじっと見つめた。
「……キラキラ、いない。あそこにいないと、磁石が外れたみたい。ちょっと、落ち着かない」
アーミヤは苦笑いしながら彼女たちの横を通った。
「彼は今、フロストノヴァさんと一緒に調達任務に出ているんですよ。しばらくは戻りません」
続いてアーミヤが演習場の横を通ると、中から切実な叫び声が聞こえてきた。
「大尉! 大尉、おやめください! 落ち着いてください!」
「ソレハ……我ら遊撃隊ノ……誇りアル……盾術トハ……無関係デスッ!」
中を覗くと、そこには巨大な盾を置き、真剣な面持ちで「右手を天にかざし、左手を腰に当てて限界まで身体を反らせるポーズ」に挑戦しようとしているパトリオットの姿があった。
「……ム……。……ホワイトシールド殿ガ……言ッテイタ……。『ポーズハ……心ノ……鏡』……ト。……私モ……彼ノヨウナ……澄ンダ……鏡ヲ……得タイ……」
「大尉! それをやると大尉の古傷に障ります! それに見た目の威圧感が別の意味で凄まじいことになりますから!」
泣きながらパトリオットの巨体にすがりつき、ポーズを阻止しようとする遊撃隊の隊員たち。
ドルベがいない間、パトリオットは親友と認めた男の教えを試そうとして、かえって周囲をパニックに陥れていた。
アーミヤは(……あ、あとでドクターに報告して止めてもらわなきゃ)と心に決めて、そっと扉を閉じた。
その頃、艦外の移動都市の市場では、ドルベとフロストノヴァが買い出しを来ていた。
ドルベは荷物を山ほど抱えながら、フロストノヴァの後ろを「忠実な従騎士を表現する、一歩下がるごとに優雅に一回転する歩き方」で付いていっています。
もちろん、彼の心の中は大変なことになっていました。
(あああ! フロストノヴァと買い出し! 転生して良かった! この市場、全部買い占めてプレゼントしたい! でも俺、給料全部演習場の破壊で天引きされてるから無い! つらい! でも幸せ!!)
フロストノヴァは知らないが、ナストラルの守護によってその「気持ち悪い心の声」を一切遮断されていたが、ドルベが時折、変な回転をしながら「ブックス!」と短く叫ぶたびに、周囲の視線に耐えきれずフードを深く被り直した。
「……ホワイトシールド。いいから黙って荷物を持って。あと、その場で不規則に回転するのをやめなさい」
「非力な私を許してくれ……(訳:身体が勝手に……! 喜びをポーズで表現せずにはいられないんだ!)」
夕方、アーミヤがドクターの執務室でお茶を淹れていると、ふと窓の外を見てドクターが呟いた。
「静かだね、アーミヤ。今日はポーズの解説をしに来る人も、演習場からの謎の叫び声も聞こえない…」
「そうですね、ドクター。……でも、なんだか少しだけ寂しい気もします。彼がいると、ロドスの皆が呆れながらも一つになっている気がして」
「そうだね。……そろそろ、彼らも帰ってくる頃かな」
その直後。
遠くの廊下から、ガシャンッ!!という盛大な荷物の崩れる音と、「しまった!バリアラピスを・・・これでは本来の力を使う事ができない!私とした事が・・・!(荷物の重さに耐えきれなかっただけ)」という、聞き慣れた絶叫が響き渡った。
アーミヤとドクターは顔を見合わせ、同時にふっと微笑みました。
「……帰ってきたみたいですね」
ロドスの「いつもの騒がしさ」が、今ようやく戻ってきた。
ロドス・アイランドの居住区の一角、日光を効率よく取り込めるよう設計された温室エリア。
そこには、かつてウルサスの大地を震撼させた「愛国者」パトリオットが、重厚な甲冑を鳴らしながら鍬を振るうという、信じられない光景があった。
パトリオットにとって、武器ではなく農具を手にすることは、数百年の生涯で初めての経験だった。ロドスから提供された小さな区画の畑。彼はそこで、ウルサスでは育たないような色鮮やかな野菜の苗を、巨大な指先で壊さないよう細心の注意を払って植えていた。
元はロドスに来て何もすることがないパトリオットにドルベが勧めたことであった。
「……土トハ……正直ナモノ、ダ。……注イダ……手間ハ……嘘ヲ……ツカヌ……」
パトリオットは、まるで最愛の孫を慈しむかのように、芽吹いたばかりの苗をじっと見つめていた。彼にとってこの畑は、血生臭い戦場から離れ、命を「奪う」のではなく「育む」喜びを知る、穏やかな聖域となっていた。
調達任務から戻ったばかりのドルベとフロストノヴァが、その様子を遠巻きに眺めていた。
フロストノヴァは、鍬を振るう父の背中を見て、かつてないほど穏やかな表情を浮かべます。
「……信じられる? あの『愛国者』が、槍を置いて野菜を育てているなんて。チェルノボーグにいた頃の私たちに見せたら、腰を抜かしてしまうでしょうね」
隣でドルベは、その光景の尊さに中身の転生者として号泣(脳内)していた。
「感じるぞ、お前の魂を(訳:パトリオットさん、あなたのその生き様こそが、真の平和の象徴です!)」
ドルベは「大地に感謝を捧げつつ、収穫の喜びを全身で表現するために片足を耳の横まで上げるポーズ」で固定。相変わらずのポーズに彼女は小さく溜息をついた。
パトリオットが一人で作業を始めると、どこからともなく聞きつけた部下たちがワラワラと集まってくる。
「大尉! その畝の作り方は私たちにお任せください! 私が補強します!」
「スノーデビル小隊、冷却アーツで土壌の温度を最適化します! 暑さに弱い作物にはこれが必要です!」
遊撃隊の盾持ちたちが盾を置いて肥料を運び、スノーデビルの隊員たちが霧状の冷気で温度を調整する。それはもはや、一つの作戦行動のような熱量だった。
パトリオットは、かつての部下たち、そして今は「仲間」となったロドスの面々が入り混じって土にまみれる姿を見て、静かに鍬を天へと掲げました。
「……良カロウ。……全軍……突撃(種まき)……開始、ダ」
「「「「「オーーー!!」」」」」
その号令に、ドルベも我慢できずに参戦する。
「我ら二人の力をみせてやる!」
ドルベが「太陽の光を増幅させるために、鏡のように体を反らせるポーズ」で畑のど真ん中に立ち、フロストノヴァが「もう、邪魔よ!」と物理的なツッコミを入れた。それを見てパトリオットが「……カカッ。……賑やか、ナ……収穫ニ……ナリソウ、ダ」と笑う。
ロドスの一角に生まれたその小さな畑は、テラで最も不器用な英雄たちが、未来という名の種を育てる場所となっていた。
ロドスの執務室。深夜の静寂を切り裂くのは、端末の駆動音と、定期的に持ち込まれる「ホワイトシールド(ドルベ)」に関する異常な報告書の束だった。
ドクターとケルシーは、最近この「バリアンの戦士」がもたらす超常現象——「光天使」の生態や、アーツを無効化する性質を持つ「NO.102」という特殊な存在——についての協議で、顔を合わせる機会が劇的に増えていた。
「……以上が、彼が『オーバーレイ・ユニット』と呼称するエネルギー体の観測結果だ。既存の源石アーツの理論とは一切の互換性がない。……率直に言って、私の理解の範疇を超えていると言わざる得ない」(全部そうだろと言ってはいけない)
ケルシーは珍しく、眉間に深い皺を寄せてコーヒーを口にした。彼女の背後には、ドルベが熱弁した「バリアン世界とアストラル世界の対立構造」について書かれた、支離滅裂なメモが積み上がっている。
疲れの色が見えるケルシーを、ドクターは静かに気遣った。
「ケルシー、少し根を詰めすぎじゃないか? ホワイトシールドのことは、焦って結論を出さなくてもいい。彼は……まあ、少なくとも味方なのは確かだから」
その言葉に、ケルシーは端末から視線を上げ、ドクターをじっと見つめた。かつての彼女なら、ここで冷徹な警告の一つも飛ばしていたかもしれない。しかし、今の彼女が口にしたのは、独特の独白だった。
「……ドクター。君が彼に対して楽観的な見解を持つのは、司令官としての直感だろう。確かに、彼の存在はロドスにとって未知の脅威というよりは、計算不能な変数に近い。だが、その変数がもたらす『混乱』の処理は、全て私の、そして君のタスクとして蓄積される。テラの理を無視して顕現する『黄金の騎士』や、物理法則を書き換える『古戦場』……それらの観測データを整理し、他のオペレーターに説明可能な形へ落とし込む労力がどれほどのものか、君には想像がつくはずだ。……つまり、私が言いたいのは」
彼女は一度言葉を切り、少しだけ声を和らげた。。
「……君の苦労は理解しているということだ。そして、これ以上の無理は君の判断力を鈍らせ、ロドス全体の効率を低下させる。……ドクター。後の処理は私が行う。君は、今すぐ身体を休めるべきだ。これは最高責任者としての命令ではなく、……今のロドスを共に支える者としての、提言だと思ってくれて構わない」
そのあまりにも長い、けれど確かな労いの言葉に、ドクターはふっと笑みをこぼした。
「ありがとう、ケルシー。……君も、あまり一人で抱え込まないでくれ。明日の朝、また一緒に『ポイント制』の謎について考えよう」
「……その言葉、今は冗談に聞こえないのが恐ろしいところだ」
ケルシーもわずかに口角を上げた。以前のような、刺すような緊張感や過去のわだかまりが消えたわけではない。しかし、ドルベという「共通の悩み(頭痛の種)」を分かち合う中で、二人の間にはかつて失われた信頼に似た、新しい「同僚」としての関係が築かれようとしていた。
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