そこでは今とは違う景色と人がいて、違う歴史がある。
けれどどこか見覚えもあって、どこか知っているようにも思えてくる。
大抵の場合、並行世界は元の世界のどこかで分岐して生まれたものである。
だが
今いる世界が元の世界だとは限らない。
もし今いる世界が何十回、何百回と分岐を繰り返した果てに存在しているのだとしたら
いったいどれほどの時を、彼は巡っていたのだろうか。
気が重い、朝。
眩しく見える、光。
ふと漂う、ストーブの臭い。
僕はそれらを感じながら、身を起こす。
今日は僕のお父さんと会談をする日。
待ち合わせの時間は夜8時となっており、まだ時間はある。
サヌは用事があると言って、既に外へ出かけた。…買い物かな?にしてはいつもより時間帯が早くて怪しい。
僕はずっと気が気でない。不安とか、恐怖とか、色々ある。
でも、変わらなくちゃ。
いつまでも逃げてばかりじゃいられないんだ。
「よっ、大丈夫か?」
後ろから声をかけてきたのは大和だった。
「大和…うん、平気」
こう言うしかできなかった。大和にあんまり悪いところを見せたくないからね。
「あと数時間後かぁ〜。オレも緊張してきたわ」
「あはは、大和まで?」
「数希の一大事だろ?ならオレの一大事だよ」
「…ふふ、なにそれ」
「…自分で言っててアレだけど、恥ずいな…」
こんな他愛ない話をしている時間が、とても好きだ。
この時間が終わってほしくない。
永遠に続いてほしいと願う。
ほんとはまだ…
大和と話していると、時間はとっても早く流れていった。
あっという間に約束の時間の30分前となっていた。
「…そろそろ時間だね」
「…おう」
「…来てくれる?」
「……もちろん!」
僕と大和は先に喫茶店で待つことにした。
外に出ると、辺りはもう暗く冷気に包まれていた。
星が少し輝き、月は新月なのかどこを探しても見えなかった。
道中、魔獣とよく遭遇し何度も戦闘をしたが、なんとか間に合った。
心臓が激しく鼓動している。
少し息が荒くなってきた。汗も出てきたところで、大和が手をつないでくれた。
…だいぶ落ち着いてきた。
そして、約束の時間になり__
父さんは来なかった。
…?
何かあったのだろうか。
念のため10分待ってみた。父さんは来なかった。
何かおかしい。とても嫌な予感がする。
「大和…僕、なんだか…」
「ああ、オレも変だと思う」
スマホで連絡しようとしても反応すら無い。電話の向こうは定型文しか流れなかった。
何かがあったに違いない。そう思った僕たちは、僕の家へとダッシュで向かった。
「なあ、どう思う?」
「考えられないわけじゃないけど、魔獣とか…?」
「事故とか、渋滞とかあったわけじゃねえとは思うけどさ、そういう可能性もあるよな…」
「……そうだったら、まだいいかもしれない。魔獣が原因だったら、もう既に…」
「あ、おい!もうすぐ数希ん家だぞ!」
視線の先には見慣れた僕の家があった。
なんだか少し懐かしくも感じる。
魔獣の魔力を感じた…と思ったものの、途端に消えてしまった。
家の側についた僕たちは、急いで玄関を開けようとする。
すると玄関が勝手に開き、中からは
顔を俯くサヌと、何かを握っている店長s…アルさんが現れた。
「サヌ…?どうしてここに…それにアルさん…?」
「それより、数希の父ちゃんは無事なのか?!」
大和は、サヌに問いかけた。
サヌは…答えようとしない。
「…なんで答えねぇんだよ!!」
「……ぐっ…」
大和はサヌを揺さぶったけど、それでも答えてくれないばかりか…泣き出してしまった。
「……ごめん…なさい…またっ…また守れなくて、ごめんなさい…!!」
「あっ…ごめん、そんなつもりじゃ…」
「まあまあ…サヌくんは休んで。僕が説明するよ」
そう言ってアルさんは話し始めた。
今日は魔獣がよく現れる日だったらしく、サヌは一人で自宅周辺を守っていたこと。
ただ、だんだん一人じゃ手に負えなくなることを見越してアルさんを呼んで加勢してもらったこと。
そして注意が回らず、見逃してしまったたった一匹の魔獣に父さんは殺されたということ。
父さんが…死んだ?
「…ねぇ、サヌ、嘘だよね。嘘だって、言ってよ」
「………………………ごめんなさい」
サヌは目を伏せながら申し訳なさそうに言った。
僕は信じられなかった。
だって、サヌがウソをついている可能性だってある。
僕は急いで家に入った。
隅々まで家の中を探したけれど、父さんはいなかった。
見つけたのは、父さんの部屋にあった謝罪の台本だった。
何度も苦戦した形跡があり、メモには
『本心を書き出すこと』『あいつに少しでも戻ってきてもらえるように』
と書かれていた。
「………父さん……………」
落ち着いたサヌが話してくれた。
魔獣の領域内で死んだ人は、普通は結界が消えると同時に遺体も消える。魔力でコーティングできれば、遺体はかろうじて残るが…
サヌたちが気づいた頃には、彼の生首だけがその場に残っていたという。
…かろうじて魔力でコーティングはできたが…
「…ほんとごめんね」
「…オレじゃなくて、数希に謝ってください」
「………守れなくて本当にごめんなさ
「もう、いいから」
ちょうど玄関に戻っていた数希は、そう言った。
「…もう、たくさんだ」
「……これ、落ちてたから返すね」
数希はアルさんから形見を受け取ると、サヌを抱きしめながら静かに泣いた。それにつられてサヌも、オレも泣き出しちまった。
今夜の月は見えず、ただただ寒さだけがオレたちを静かに見ていた。
それから、葬式やら手続きやらの日々。
数希はずっと俯いていて、オレの側を離れようとしない。
流石にちょっと迷惑…なんて言ったらまずいよな…。
…どうして、数希ばっかりが嫌な目に合うんだよ。
こんな理不尽は、あんまりだよ。
あぁ、良かったじゃないか。
結局願い通りに、また大和の側にいられるじゃないか。
どうしてそんなに悲しんでいるんだ?
どうしてそんなに苦しんでいるんだ?
お前を苦しめた相手だろ?死んでせいせいしたじゃないか。
そうだろう?
………僕は……
…………自業自得、か。
……………また、なんだね…
こんなこと…願ったから…
また、僕の願いが……家族を……
…………あぁ、
とっても、消えたいな。
つづく
ご読了誠にありがとうございます!
怒涛の展開!激しく移り変わる感情!こういうのが書きたかった!
肉親が亡くなってしまった数希くん。
果たして彼が立ち直れる日は来るのだろうか?
次回を乞うご期待ください!
それでは!