それは物質の配合を変え、別の物、性質に変える技術のことである。
紀元後以降ではメジャーな技術として広まっていき、現代では錬金術を応用したものが多数存在する。
教育カリキュラムにも理科の一部としてその分野があったりもする。
興味深いことに、小学5年生のカリキュラムにはホムンクルス生成の課題があることだ。
ホムンクルスは錬金術によって創られる錬金生命体。
寿命は平均として約15年、だいたいの家庭では犬猫と同じような扱いをする。
僕には、サヌという自称執事でとても愛らしいホムンクルスのオスがいる。
彼とは僕が小学生の頃に創ってから、ずっと一緒に暮らしている。
僕がまだ父さんと母さんの仲が良かった時は、大の仲良しだった。それは今も変わってないと思う。
僕は彼に色々なことを教えたり遊んだりして、とても楽しくて充実した日常を過ごしていた思い出がある。
けど、母さんが家を出ていったあの時から、サヌは父さんから隠れて過ごしてる。
無理もない。あの日から父さんは、僕に中学受験とか、検定とか、たくさんの勉強を強いてきた。言う事を聞かないと頭を殴られるし、泣くとさらに怒鳴ってくる。とても怖くなってしまった。
きっとサヌも直接は会いたくないくらい怖く感じたのだろう。
こんな生活、僕は大和とサヌがいなかったら、耐えられなかったし我慢もできなかったと思う。
サヌはこんな日々で疲れてしまった僕を見てて、何を思ったのかわからないけど、突然執事になると言い出したんだ。
それからは毎日毎日努力していた。父さんがいない時間を見計らっては部屋の掃除や料理、トイレや風呂掃除に洗濯などの家事全般をやり始めた。最初はおぼつかなくて頼りなかったけど、だんだんと美味しい料理が作れたり部屋をピカピカにしたりと成長していった。
僕にもたくさんのサポートをしてくれた。例えば茶菓子を出したりとか、抱き枕になってくれたりとか。
それから身体も大きくなった。普通の中学生くらいの身長と体格で言葉も喋れるようになっていた。僕にはそれが結構嬉しかったように感じた。
でも最近、サヌはあんまり姿を見せてくれなくなった。冬休みに入ってからはさらに見なくなった。
前まではあんなにも僕にべったりだったのに。
まさか、サヌは僕を見捨てようとしてる…?
ううん、そんなはずはない。ありえないよ。これはただの妄想だし…
…でも、もし、そうなのだとしたら………
「…ぁ、聞こえてるかー?」
「…あっ」
「なにぼーっとしてんだ?ホットドッグが冷めちまうだろ?」
「あっうん…ごめんね、考え事してたんだ…」
大和はちょっと怪訝そうな顔をしていた。なんだか悪いことをした様な気分だ…
ここは近くのコンビニ。僕たちは今鉄ポールの上に座っている。
僕はホットドッグを口にほおばった。暖かくて、噛んだ時に溢れ出る肉汁がパンと舌に染み込んでジューシーな味わいを作り出している。
「ん〜〜!やっぱうめぇなあ!」
「ほうはね…!あっあっふい!」
あっづ…ちょっと舌やけどしたかも…
でもこの熱さがなければ成立し得ない美味しさがこれにはある。
「ゴクン…ふ〜美味かった〜」
「だね〜」
「ちょっと聞きたいんだけどさ、最近サヌとはどうなんだ?」
「んー…全然姿見せてくれない…置き手紙とかはあるんだけど…」
「なんか変だよなぁ」
「大和の方はどう?」
「あータマ郎か?変わりないぜ〜。猫とパンダの混血ホムンクルスにしては猫部分が強いのかいっつも昼寝してるぜ」
「サヌより体大きいしリビング結構狭そう」
「まあなーでもモフモフでいいぞ〜」
そんななんてことない普通の世間話を話していると、ポケットに振動を感じた。なんだろうと思ってポケットからスマホを出すと父さんからメッセージが来ていた。
『今どこにいる?早く帰ってこい。話がある。』
「なあ、誰からのメッセージだ?」
「…父さんから。話があるから早く帰ろって」
「んー…まだ夕暮れ時でもねえのに…」
「とりあえず、今日はもう帰るね。バイバイ」
「おう、また明日」
別れ際に手を振る。
そうして僕は急ぎ足で家に帰った。なんだか胸が苦しい。嫌な予感がうざったいほどする。
話ってなんだろう?
また何か申し込んだのかな…それとも勉強の時間増やされるのかな…
最悪の場合は、大和と離れろ…とか…?
………これだけは外れて欲しいな。もし本当に言われたら僕は…僕は…多分……
がむしゃらに歩いて、歩いて、歩いた。向かってくる風は冷たく、吸った空気は喉を刺すように乾燥している。
気がついたら玄関前にいた。僕は何があってもいいように心の準備をしてからドアを開けた。
照明も付いてない玄関の奥に、父さんはいた。
その立ち姿はまるで深淵からやってきた死神のような貫禄を感じる。
少し泣きそうになってしまったが、なんとか声を出す。
「えっ…と、ただいま…です」
「…おかえり」
こ、怖い。声色がとても苦手な部類のやつになっている。これは確実に何か怒っているときの声色だ。…それでも、聞かなければいけないって、わかってる。
「その…話、とは」
「あぁ、それのことだが」
……覚悟はまだできていない。でも聞かなければ。
「最近、また山之木と遊んでいるようだな」
「…それは…」
「何度も言っただろう。遊ぶのもいいが勉強を第1にしろと」
「…ですが、」
「くどい」
何を言っても、言う前に拒絶される。僕には何を言う資格すらないのかな。僕は…
「まあ、今から話すことをちゃんと聞けばもう怒るような真似はしない」
「………え?」
…それは、本当だろうか?
ううん、これは罠だ。きっと甘い飴よりも先に鞭が来るはず。
「山之木と縁を切れ。二度と関わるな」
僕の目の前は、くらく、くらく、ぐちゃぐちゃになりました。
つづく
ご読了、誠にありがとうございます!
さて、次回は1/12の4時半に投稿予定です。
少し間を空けさせてもらいます。
数希くんがとても心配ですね。元気が出るように応援してあげてください!
それでは!