そいつは明子って言って、よく部活で差し入れをくれるんだ。最近はよくスマホで話したりしててさ、なんか良い感じなんだよな。
でも…なんだろうな。
明子のことを考えていると、胸のあたりがズキズキ痛くて苦しくなる。
最近は、それがもっと酷くなった。
数希に、予定があるって言って明子とショッピングに行った時も、変な後ろめたさがあった。
なんで、こんな思いしてるのかわかんねえな。本当に、なんでだろうな…
オレは数希とは対等な親友だと思ってるし、かけがえのない人だとも思ってるし。
だからって、こんなさ。
こんなのまるで、恋みたいな。
オレなんかが、あいつの隣にいていいのかな。
いつものようにとても寒い夕暮れの中、近所を散歩していた。
けど、今日は1人で歩いている。
理由は特になくて、ただ単に1人で歩きたかっただけである。
前はリフレッシュやストレス解消として散歩をしていたが、ここのところ趣味としての性質が強くなってきた気がする。
最近は色々な人と出会えて、ある意味幸運だったのかもしれない。
歩いていると、どこかの家からシチューのいい匂いがする。そっか、もう夕飯の時間なんだ。そろそろ帰らないと…
そう考えていると、少し気分が落ち込んだ。
僕は今は大和の家にいるけど、いつかは自分の家に帰って父と仲直りしなければならない。
だけど…そんなこと、本当に可能なのだろうか…?
そう深く考え込んでいた、そのタイミングで誰かが話しかけてきたような気がする。
「…ょっと!聞こえてる?!」
「…あっ」
「ようやく気づいたの?全く、私を無視するなんて…」
「えっと…すみません…」
「まあまあ姉さん、この人も悪気があったわけじゃないと思うからその辺で…」
目の前にいたのはライオンの姉弟。
確かこの前会った影谷さんたちである。
話を聞くと、スーパーをはしごしてタイムセールをかっさらっていたその帰りらしい。
「ま、その情報も師匠が教えてくれたものだけどね」
「あぁ、そうなんですか。いつもうちのサヌが世話になってます…」
「いいのよ、こっちも世話になってるし。というかなりっぱなしだし」
弥来さんから聞くサヌはどれも聞いたことも見たこともない姿で、新鮮だった。
そっか…サヌも僕が知らないところで交友を深めてたんだね。
あの子、僕以外は全然信用してくれないからなんだかちょっと嬉しいな。
僕は気づいてなかったけど、かすかに微笑んでいた。
「…?ところで、さっきは何に悩んでいたのかしら?」
「…え?そう見えましたか?」
「……誰だってそう見えるわよ、あんなに深く考え込んで。私の声も聞こえなかったくせに」
「それは本当にごめんなさい」
「…ふん、まあいいわ。今回は特別に話を聞いてあげる」
「いいんですか…?」
「…いいのよ。気まぐれみたいなものだけど、悩んでいるならそれを手助けすることぐらいはできるし」
「そう…ですか。ありがとうございます。」
僕と影谷さんたちは近くのベンチに座った。
弟さんも一緒に聞いてくれるそうだ。
なんだか悪いことをしたような気がしてちょっと落ち着かない。
一呼吸置いてから、僕は今悩んでいることを打ち明けた。
「…そう、家族と仲直りしたいのね。でも、恐怖と不安で一歩を踏みしめられないってところかしら。」
「…はい。そんなところです」
「んー…そうね。これはあたしの経験に基づく話だからあんまり鵜呑みにしないでほしいのだけれど…」
そう言って、弥来さんは遠くを見つめながら語り始めた。
「あたしたちは、小さい頃に捨てられてたの。理由は知らないけど。
宛もなく彷徨っていたわ。路地でゴミを食べたり、盗んだり、闇バイトで稼いだり、弟の世話をしたり、守ったり。日々お金を稼ぐのも命がけだった。
そんなある日よ、おじさまと出会ったのは。
あの時は、よくいる孤児を売るキモいやつだと思って警戒してたけど、それは勘違いだったことに気づいたの。
おじさまはある神社の神主…というか祭神の1人?で、あたしたちを引き取ってくれたの。
疑問だったわ、こんな汚れて穢れきった人をどうして引き取ったのかって。
そしたらおじさまはなんて言ったと思う?
『人は変われるさ。たとえ罪を背負っていても、生きてそれらを償っていけばいつかは赦される』ってね。
あたしはおじさまたちが好きよ。家族としてね。優人も好きよ。
みんな大好きなの。だから守りたい。
…話がずれたわね。言いたいことをまとめるわ。
家族って、いたらとっても嬉しいものだって思うの。いつまでも不仲のままじゃ、何も進まないしお互いにとっていい事は何もないわ。
だから…そうね、一度話し合ってみたらどうかしら?」
弥来さんがこちらを見る。その顔は憑き物が取れたかのように明るくてなんだか弥来さんだとは思えなかった。
「……話し合う…か」
「そうよ。逃げてばかりじゃ何も進展なんてないわよ〜」
弥来さんは、とても優しいな。
お世辞にも良い過去とは言えないし、沢山の苦労を負ってきたはずなのにそれでも明るく振る舞おうとして、今を生きている。
……僕も、そろそろ変わる時かもしれない。
ちゃんと、向き合わないと。
「…あっ、姉さん!もう帰る時間…」
「あっ、やばいわね…と、とにかくよ!とりあえずなんとか頑張りなさい!それじゃ!!」
「あー!待って姉さん!せっかくの戦利品(食材)置いてってる!待って!!」
なんとも騒がしい、けれど微笑ましい会話だろうか。
そう思いながら彼女らの後ろ姿を眺めていた。あれが家族というものだと再確認させられたような気がする。
…僕も帰るか。
帰路に着く。その途中で、久々に電話をかけた。
「……」
『……父さん、久しぶりです。今度、話し合いをしませんか?場所は喫茶店エテルニテで、日時は…』
「………わかった」
『……! よかった…それじゃあまた…』
ツー、ツー、ツー…
こうして、僕は今度あの喫茶店で、父さんと話し合いをすることになった。
なんだかさっきの弥来さんの話で勇気が出たんだ。
仲直りはできなくとも、せめてお互いを理解し合えたらと願って……
なんて、思っていた。そんな夕暮れでした。
つづく……
…
…
…
突然だが僕は大和のことが好きだ。小さい頃、ガリ勉だって言われてイジメられていた時に助けてくれたあの時から、自然と目を追っていた。
それから、中高と一緒になって。
だんだんと、その魅力に惹かれていったんだ。
おっちょこちょいな大和。
かっこいい大和。
かわいい大和。
少し大人な大和。
子どもな大和。
魅力的な大和。
料理ができるように一生懸命練習してる大和。
僕のことを名前で呼んでくれる大和。
その明るく眩しい笑顔を向けてくれる大和。
僕はそんな大和が大好きだ。
今はただ、この時間が愛おしい。ただ側にいてくれるだけで、僕は今とっても幸せなんだ。
愛してるって伝えたい。恋してるって伝えたい。でも、きっと断られる。オス同士は恋人になれないから。でも大和なら、親友のままでいてくれるかもしれない。
でも怖い。嫌な顔をされるかもしれない。つらい気持ちにさせるかもしれない。もしかしたら、距離を離されるかもしれない。
そう思ったら、とても怖くて伝えられない。苦しい。
1週間後には、父さんとの会談がある。この会談が上手く行ったら、僕は大和の家を出ていって、自分の本当の家に帰ることになる。
…本当はこんなことを思ってはいけないってわかってる。自分から言い出したことに今更二言はないとも知っている。
わかってるけどさ。
正直…さ、
まだまだ大和と一緒にいたい。でも、駄々をこねて迷惑をかけるわけには行かない。
……こう、考えてると胸がとても苦しくなる。
来週の会談に進展がないといいな…なんて。思ったりして。
そうして僕は眠りについた。どうせ叶わない夢を見ながら__
つづく
ご読了、誠にありがとうございます!
よくよく考えたらこれって選択ミスったかな?と思ったことありますか?
今回彼は弥来ちゃんと話し、覚悟を決めて父親との会談を約束しました。
しかしよくよく考えたら、それは今の生活が終わるかもしれないという不安が出てきました。
本来はいいことなんです。しかし彼にとっては…
次回も未定です。どうか気長にお待ちください。
それでは!