診療所は静かだった。
診察に当たったのは、アミッドという少女。
丁寧に、真剣に、身体を調べる。
だが――
「......分かりません」
アミッドは、悔しそうに首を振った。
「病気であることは確かです。でも、こんな症例を見たことがない」
「症状の一部だけなら近いものはあります。でも、“笑いで一時的に回復する”という点が説明できません」
そんな彼女に向けてシロガネは微笑んだ。
「ありがとうございます。ここまで診てくれただけで十分です」
感謝の言葉と共に立ち上がろうとした、その瞬間。
「おい、アミッド。今日の――それを貸せ」
低い声と共に、扉が開いた。
現れたのはディアンケヒト・ファミリアの主神ディアンケヒトだった。
彼は診察書に目を通し、眉を寄せる。
「
「ゾナハ...病?」
「ああ、儂も患者を見るのは初めてだ」
シロガネ達に向けて、神は続けた。
「正式名称は他者の副交感神経系優位状態認識における生理機能影響症」
「人には自分の体を自動で調整する奴の1つに副交感神経というものがある」
「ゾナハ病は
「......それってどういう事なんですか?」
アーディの疑問に、神は答えた。
「
「......本当に、そんな病気が?」
「儂もこうして実物を見るまで信じられんかったがな」
ディアンケヒトはシロガネに向けてはっきりと言い放った。
「お前には悪いが、ゾナハ病の治療法は儂でも知らん」
「...っ」
「ゾナハ病については分からないことが多い、だが分かっていることは発症した者は例外なく死ぬことだけだ」
「そんな...本当にどうにかならないんですか!?」
アーディの悲痛な叫びに対しても、神はただ首を横に振るだけだった。
シロガネもオラリオに来れば...という希望を持っていたため、その言葉は心に重くのしかかった。
だが、その中で聖女だけは諦めなかった。
「...なら、私が治してみせます」
「貴方を――その例外にしてみせます」
彼女のその言葉を聞き、シロガネは肩を震わせ頭を下げた。
「お願いします...僕を治してください......」
「はい。治療師の誇りにかけて、必ず治します」
その日から、シロガネは定期的に診察を受けることになった。
そしてディアンケヒト・ファミリアから出て間も無くアーディが口を開いた。
「......ごめんね」
「え?」
「私...君の病気のこと簡単に考えてた......ディアンケヒト・ファミリアに連れてくればすぐに治るものだって勘違いしてた......」
彼女の声は震えていた。
「なのに...治らない病気だって聞いて......私...ごめんね」
「ちがう!」
今にも泣きそうになっていた彼女に対して、シロガネは思わず声を上げた。
「僕は、君に救われた」
「あの時、君が笑ってくれたおかげで僕は助かった」
「僕の病気を聞いた時、疑わずに案内してくれた」
「だから...そんな風に言わないでくれよ」
「だからさ...また笑顔を見せて欲しいな」
「僕を助けてくれたあの笑顔を」
「...うん!」
シロガネの言葉に、アーディは涙を拭い笑顔を見せた。
その笑顔は、少年を救った笑顔と変わらないくらい綺麗なものだった。