【完結】 僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

100 / 100
最終話です。
普段は6000字強・3シーン構成なんですが、今回は9000字強・5シーンあります。

……多いですね(´・ω・`)


僕のくせに……!

 魔王と思わしき怪物が討伐され──今日で大体一週間。

 世界には、とある『英雄譚』が広まるようになった。

 

 

 

 全ての始まりは、平和な街アザールからある日突如として、現れた巨大な災厄。

 数百年前の魔王の再来だなんて陰謀論じみた噂もちらほら囁かれてはいるけれど、まあ、世間一般としては「ある日突然降って湧いた未曾有の脅威」ということになっている。

 その脅威に立ち向かうべく、各地の勇気ある者達、各勢力が手を取り合って『対魔王軍』が設立された。元傭兵の『シュヴァ』を旗本に、交易都市シズィの商会令嬢ディアマがパトロンを担い、困窮する人々に救いの手を差し伸べ、徐々に勢力を強めていったという。

 

 そうして生まれた、『対魔王軍』視点の英雄譚。

 実際には色々あるんだけど……一番有名なのは別の部分。主に最後のパート。

 災厄の脅威に世界が慄く中──対魔王軍は周到な準備の末に迎え撃つことを決意した。

 

 最終決戦は……それはそれは熾烈なものだったと言われてる。

 大まかにいえば巨大な落とし穴の罠を設置し、そこを綿密に計算された配置と火力を最大限優先した連携で一斉に叩くというもの。災厄の反撃も相当なものであり、その場その場で何度も戦局が入り乱れるように目まぐるしく動いていたとか。

 そして、一度対魔王軍は窮地に追い込まれるものの──ここで、『天の導きにも似た運命の偶然』が重なって、ドゥジェームの賢者達が放った超高圧水魔法が、ちょうど災厄に直撃した……らしい。

 これで大きく弱った災厄の隙を対魔王軍は見逃さず。一斉に火力を集中させ、そして致命傷を与え、見事に災厄を討ち取った。

 

 人々の勇気と折り重なった偶然が、突如現れた強大な悪を討ち取り、世界に再び平和をもたらしたのだと。そういう流れで、この英雄譚は締めくくられる。

 

 

 

 まぁ、うん。

 ちょっと脚色されてるね。

 

 

 

 一般人向けの英雄譚だからいいんだけどさ。致命傷を与えたのが具体的に誰なのか、なんていう話はまるで出てこない。対魔王軍の地道な攻撃が結果に繋がったというだけ。

 この話において、ヴィクも、エスクリも、マージュも、リュトも、ルメドも、サシナも。誰一人として名前は挙がっていない。唯一シュヴァの名前だけが対魔王軍の総指揮官として、広く知られている。

 プレヴィに至っては、そもそも世間のほとんどの人が存在を知らない。新魔王だなんて事実が広まったらそれこそ大混乱だから、当然なんだけど。彼女がどう処理されたのかなんて話は、表に出るべくもない。

 

 ……ま、それでいいんだと思う。

 あんまり個人個人に光が当たりすぎると、後々厄介なことになりそうだし。ソワンでは周知の事実だけど……シエルの転生体がどうこう、なんていうよりも、現代の人々の努力が実を結んだって喋る方が聞いてて気分が良いんだろうね。

 あるいは──そう脚色することでより高い宣伝効果を期待している人物がいるのかもしれないけど。

 

 その後、災厄が倒れたことで、その手駒だった魔物達の脅威は、大きく減ったらしい。災厄が通った跡から多くの魔物が湧いてたみたいだけど、力の供給源を失ったのか徐々に姿を消しつつある。

 とはいえ、魔物が完全にいなくなった訳じゃないし、日常的な脅威は今も残っている。

 被災地の復興という課題もあって。アザールは壊滅、その他いくつかの街や村も大きな被害を受けた。建物を建て直し、住む人を呼び戻し、生活を取り戻すまでには、何年、下手すれば十数年単位の時間が必要になる。

 

 だから、対魔王軍は名前を変えて、これからも活動を続けることになった。

 既にある程度の知名度と、災厄討伐という確かな実績を持っている組織なんだから、解散して一から新しい組織を作るより、そのまま流用したほうが効率がいい。

 残党の掃討も、被災地の復興も、これからはこの新生対魔王軍が担っていく予定らしい。

 

 そしてその裏で。

 影の功労者である僕達は……。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「……そんなにひっつかなくてもいいんじゃないか」

 

「ああ、ボクのヴィク……」

 

「ヴィクくん……大好き……」

 

「こっち向いてくださいヴィクトールさん。今は絶対安静なんですから」

 

「あの、色々当た……いや、俺は文句言える立場じゃないんだが」

 

 ……こうして一つのベッドに群がっている。

 

 

 

 ここはソワンの療養所。

 ヴィクが寝かされているベッドを中心に、僕達はてんでバラバラに、それでいて一箇所に集まってる。

 

「アイツら、恥ずかしいとかそういう感情ねーのかよ」

 

「わたしは言われた通り離れたのに。不平等」

 

『ははは……』

 

 僕だって今は色々問題が片付いたから笑っていられるけれど……自分自身が三人もこうやってるのを見ると……複雑というかなんというか。

 ルメド曰く、ヴィクは本来まだ完全安静の期間で、リハビリを始める段階にすら入っていなかったみたい。蘇生できたとはいえ、本来あんな全力で動き回っていい状態じゃなかったって、ルメドは何度も何度も繰り返し説教してた。

 僕もびっくりしたよ。急に結界が解けて外に出られると思ったらヴィクが普通に動いてるんだもの。完全に死んだと思ってたのにどうして……。

 

 ……いや、彼が無事に生きてるならもうそれはどうでもいいか。

 僕だって結局はすごく嬉しかったんだもの。

 

 で、当のヴィクはというと……。

 

「そう……だよな。皆、こんな俺を心配してくれてたんだよな。悪かった」

 

 ……うーん。

 

 彼は……経緯こそ知らないけれど、彼のまま復活した。

 でも、あの自分を責めるような姿勢はあんまり変わってない。いや、彼のまま復活したならそれは当たり前なんだろうけどさ。

 自分のせいでパーティーが大変だったって思ってるのか……全員が無遠慮にベタベタ触れてくるのを半ば許容してるみたいな状態になってる。「あの過去」を持つ自分に対しても、いつも通り仲間だと思ってくれてるなら……それを拒否する訳にはいかないって。

 別にここの誰であれ、彼を責めるつもりなんてまるでないんだけど……ヴィクの心の闇が深いことは僕が一番よく知ってるからね。これから皆で徐々に解きほぐしていく必要があると思う。

 

 まぁ、要は彼はいつも通りってことだね。

 どっちかというともっと問題は色々ある。

 

「ヴィクくん、ヴィクくん。ぼくは役に立てたかな。大好きだよ、ヴィクくん……」

 

 まずヴィクにぴったりくっついてずっと甘ったるいこと言ってるのがマージュ。

 

 もう好意を隠そうともしないでひっついてて、僕としては色々もうほとんど諦めてるんだけど……前聞いたときはこれで全く自覚してなかった。ちょっと怖すぎる。

 表情も、仕草も、視線の動きも、何もかもが全部ヴィクへの感情で出来上がっているのに、当の本人は「ヴィクくんの役に立つために側にいたいだけ」みたいな顔で平然としている。

 

 最終決戦でも、災厄ル・マルの障壁破壊に一役買ったみたいだけど。いざヴィクと再会できた時の表情といったら……何かとてつもないものを感じたよ。

 そのまま絶望に突き進まないで良かったと思う反面、依存が危うい方向に深まったことは否めないよね。

 

「エスクリ、離れてください。ヴィクトールさんはまだ万全じゃないんです」

 

「じゃあなんでルメドもくっついてるのさ! ボクだって離れたくない!」

 

「僕はヴィクトールさんを診ないといけませんし。それに貴女だって、魔剣の反動であの後めちゃくちゃ吐──」

 

「──うわーっ! 言うなーっ!!」

 

 で、さっきから口論してるのは、ルメドと……恥ずかしながら僕の持ち主エスクリ。

 エスクリは呪いの剣か何かに憑りつかれてたみたいだけど、今はルメドの甲斐あって完全に快復したらしい。

 

 ヴィクの蘇生、災厄ル・マルへ大ダメージっていう……それはそれはものすごい任務を成し遂げた二人なんだけど。今は我らがリーダーにべったり抱き着きながら、やいのやいの騒いでる。

 二人とも、やってることは同じなんだよね。片方は相棒だからって言い訳して、もう片方は医療の建前で正当化してる。それだけ。

 

 ルメドは明らかに優先順位をヴィク優位にするようになったし、エスクリはなんだかヴィクへの独占欲が当然のように高まってる気がする。

 こっちにもダメージ来るからやめてほしい。僕達同一人物なんだよ? 

 

「正直者はバカを見る。なぜヴィっくんの頼みを聞かなかった三人が抱き着けているのか」

 

『別にそれでいいと思うよ……』

 

 少し離れた場所で律儀に距離を保ってるのがサシナ。

 僕を災厄ル・マルの中から連れ出してくれた恩人……恩剣……いや、この場合は恩人で合ってるのか。恩人とも呼べる存在。

 

 本来なら音もなくひっつこうとしていたはずなんだけど、復帰初日で満身創痍のヴィクが「ちょ……やめ……」って言った途端に眉を下げて、それ以降あんまり近づきすぎないように努力してる。

 なのに他三人が中々離れず、ヴィクがそのまま諦めたのを見て納得がいってないみたい。

 あれ、絶対耐えてるよね。「本当はわたしも飛びつきたいんだが?」って感情を抑えようとしてるよね。気持ちは分かるけどさ。

 

 ただ、そう考えてみれば。

 彼女はヴィクの死を経験して──自分のしたいこと、やってみたいことが素直に考えられるようになった気がするね。そういう意味では成長できてるのかな。

 

 ……これ成長でいいのかな。

 何をすればいいか事前にシミュレートして考える素振りも見せてたけどあれって……。

 

「にしても、シュヴァも可哀想だよな。アイツだけ対魔王軍がどうこうで駆り出されててよ」

 

『あれ、意外だね。リュトがシュヴァを気遣うなんて』

 

 少し離れた壁際から呆れたように眺めているのはリュト。

 

 彼女はべたべたしすぎるあの輪には絶対混ざりたくない、って雰囲気をずっと出してる。まぁ元々そういうキャラじゃないし、別にそういうことしたがるとも思わないから当然だけどさ。

 ただ、それでもほんの少し丸くなったような気もする。聞けば彼女が瀕死状態だったエネを助け出したって話らしいし、自分の嫌いなものに対して上手く折り合いをつける方法を見つけたのかな。

 

 ただ……彼女も彼女で、皆がいなかったら距離詰めそうなのは気のせいじゃないよね。

 どっちかというと、今ヴィクの周りに人がいて、自分が話しかけづらい状況なのが癪に触ってるというか……うん。

 

「憐れんでんだよ、あんな面倒な仕事引き受けやがって。言えば多少は手伝うってのに、抱え込みやがって」

 

 唯一シュヴァだけは、対魔王軍の総指揮官としての仕事があまりに忙しすぎるみたい。

 勿論、一度も会えてないって訳じゃないし、今日だって後ですぐこっちに来るって言ってたから少しぐらいは余裕が取れるようになってるんだろうけど……自分だけヴィクに会えないのが相当嫌なのか、調子が悪そうだったな。

 今後もしばらくは対魔王軍としての活動を続けるけれど……災厄討伐っていう大きな仕事が一区切りついたから、総合的な立場はディアマに譲るつもりらしくて。今は主にその引継ぎをやってるみたい。

 

 気になることがあるとすれば、女の子らしい恰好に興味を持ち始めてることかな。

 前までそんな素振りなかったのに、今は「いつ何が起こるか分からない」って考えになったみたい。自分の欲求を優先できるようになったのは良いことだけど……一応彼女の自認は男性なんだよね? 

 

「そういや。なァ、エペ」

 

『なに?』

 

 まぁ、色々あったけど──世界は概ね平和になったと思う。

 全体的に見ればまだまだ問題はあるし、救えなかった命だって少なくない。でも、残った問題に対して世界全体が前へ進もうとするようになっている。

 被害者を蘇生させるための大きなプロジェクトも進んでるみたいだし、そのために多くの人々が協力し合って、あの脅威から立ち直ろうとしているんだ。

 

 これが数百年前僕が救おうと決めた世界で。

 その世界は数百年経った今も変わらずに美しかった。

 かつて僕が見たかった平和が──今この世界なんだって。

 僕は数百年越しに、ついにこの光景を見ることができたんだって、ね。

 

 それもこれも、僕達を導き、支えてくれた、『彼』がいてくれたから。

 皆べたべたしてるけど、本当は、僕だって……。

 

「いや、なに? じゃなくてよ」

 

 

 

「いつ、ヴィクに『あのこと』言うんだ?」

 

『……あー』

 

 

 

 ……そして、今残っている大きな問題の一つ。

 早い段階で解決して、彼に誠意を示さないといけない問題が一つ。

 

 今の僕は魔力も補充してもらえたし、人型になってある程度自由に動ける状態。

 ここにいる全員だって僕が喋る剣だってことはもう知ってるし、黙る理由だってない。

 だから、言いたいことがあるのならいつでも言える状態なんだ。

 本当は今すぐ、彼に教えるべきなんだけど……。

 

『……うぅ』

 

 で、でも……! 

 やっぱり、『あれ』を切り出すのは……僕だって緊張するんだ! 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 あれは、最終決戦から二日後。今日から数えると五日前のこと。

 場所はソワンの療養所内の一室。最終決戦後、初めて全勇者が一箇所に集まれた日だった。

 

『──というわけで、これを最後の勇者会議にしようと思う』

 

 僕が切り出した瞬間、部屋の空気がぴたっと止まって皆黙り込んじゃった。

 当たり前だよね。この時点で勇者会議の回数は五十五回にも及ぶ。それを今になって、急に「最後にする」なんて言い出したんだから……普通意味が分からないと思うよ。

 

『最後って言っても、もう二度と会議をしないって意味じゃなくてさ。ここにヴィクを加えようって話なんだ』

 

「……ああ! ヴィクに正体を打ち明けようってこと?」

 

「だから、『勇者』会議は最後ということか。なるほどな」

 

『その通りだよ。まぁその称号に一番相応しいのは彼だけどさ』

 

 ……おぉ、全員頷いた。

 そっちに異論はないか。まぁ論点はそこじゃないからサクサクいくよ。

 

 事実、僕達は今まで自分達が「勇者シエルの生まれ変わり」であるという事実を一度も告げずにここまで旅を続けてきた。彼には隠し事をして、一方的に除け者にしてた訳だ。

 一応、理由はあったんだよ。生まれ変わりですなんて言ったところで証明する手段もなかったし……単純に、関係性に影響が出るのも良くない。旅の最中だったから、関係性の変化はそのままパーティーの分裂に繋がる危険があった。

 

 でも……。

 

『今は、状況がもう全然違うよね』

 

「まァ、そうだな。今思えば色々条件は整った訳だ」

 

「そうか……もうヴィクくんの前で自分のガチ恋過激派オタクを名乗る必要はないんだね」

 

「えっなんですかその話。今とんでもないワードが聞こえたんですけど」

 

 サクサクいくよ。余計な話はしないからね。

 

 まず一番大きいのは──ヴィク自身が転生魔法を知っていたこと。

 彼は自分でも自覚している通り、数百年前からの生まれ変わりだ。魂の転生という概念を当たり前に理解してくれている。今までは『説明したところで信じてもらえないかも』っていう壁があったけど、向こうにその知識がある以上、今ならちゃんと話を理解してもらえるんだ。

 

 それに実際、魔王は倒したよね。旅としての大目標は達成された。

 これから先、関係性が多少揺らいだとしても、致命的な問題にはなりにくい。

 いや、絶対に彼との縁は切れてほしくないよ? ただ少なくとも、それが世界の危機に繋がる事態は避けられたし……すぐ見捨てられない程度の関係性は築けている、と思う。

 

『何より……ヴィクは僕達に、自分の出自を打ち明けてくれた』

 

「……」

 

『彼にとっては一番重い秘密だったはず。魔王の生まれ変わりだなんて、本来絶対に言えないことのはずなのに……それを、自分から話してくれた』

 

「……」

 

『彼が憧れた勇者シエルの側が、自分達の都合で黙ったまま、ヴィクの告白だけ受け取って、食わぬ顔で旅を続けるなんて……それはもう、不誠実が過ぎるよ』

 

「……」

 

『だからこれを最後の勇者会議にして、ヴィクに全部話そう。皆、どう思う?』

 

 もう遅すぎた話かもしれないけれど。

 僕達はずっとヴィクを騙してた。仲間とはいえ、事情があったとはいえ、彼のためだったとはいえ、そんなものは言い訳にならない。

 僕は既に勇者失格の存在だけど、これ以上恥の上塗りを重ねていられない。

 

 だからこそ、彼に打ち明けるべきなんだ。

 

「ぼくは賛成、かな。あんなこと言っても、ヴィクくんの役には立てないし……」

 

「……ボクも! ボクも賛成! それでボク、ちゃんとヴィクに向き合うよ!」

 

「まー……オレも賛成だぜ。今更隠す意味もねェだろうしよ」

 

「僕も異論ないです。その……ガチ恋云々は気になりますが」

 

「私も、賛成。今日まで黙ってきたんだ……これ以上は、良心が持たない」

 

「わたしも。ここで反対票を選ぶチャレンジャー精神は生憎持ち合わせていない」

 

『みんな……』

 

 ……うん。全員、賛成。

 ちょっと、じーんとしてしまった。

 それぞれ温度差はあるけど、向いてる方向は全員同じ。

 誰か一人でも反対したらどうしようかと思ってたんだけど、皆同じ気持ちでいてくれ……。

 

 

 

「で、誰から話す?」

 

 おっと。

 

 

 

 これは……ちょっと予想外の沈黙だ。

 

 いやでも、そうか。

 全員、トップバッターは嫌だよね。

 結局、ヴィクから拒絶されるリスクは消えてない訳だし、最初にヴィクの反応を見るのはやっぱり怖い。一番手は手探りで、ヴィクの顔色も読めないまま、最も重い告白を投げないといけない。

 誰だって嫌に決まってる。

 

『じゃあ……僕が言うよ』

 

「……!」

 

「……いい、の?」

 

『うん──というか、一番手は僕に任せてほしい』

 

 思い返せば。

 彼に一番隠し事をしてきたのは、他でもない僕なんだ。

 

 他の皆は隠し事をすることはあれど、それぞれちゃんとヴィクと会話し、能動的に関わって来た。基本的に何もせず、ただ傍観するだけに徹していたのは僕だけ。

 剣であるが故に、思考と発話能力を持ちながらヴィクの前ではただの剣のふりをしてきた。彼の秘密を全部知りつつ時折その情報を皆に告発し、彼が話しかけてきても返事一つせず、ただの剣のふりをし続けてきた。

 

 他の皆が「身分を隠してきた」のとは、隠してきた量が違う。

 しかもその隠し事を「何も悪くない、追い詰められただけのヴィクを騙し討ちで拘束するため」に利用するって最悪の使い方をしちゃったんだ。

 この中で彼に一番誠意を見せないといけないのは──間違いなく、この僕だ。

 

 だから、言い出しっぺとして。そして何より、彼へのケジメとして。

 僕が一番先に告白する。

 いや、僕が一番先に告白したい。

 彼にシエルという──人間を見てもらうのは、僕からがいい。

 

『僕が一番初めに、ヴィクに本当のことを言う』

 

 そう思って。

 啖呵を切ったんだ……。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ……何やってるんだ僕は。

 

「……何やってるんだテメェは」

 

『本当だよ……』

 

 あれだけ啖呵切っておいて、いざとなったらこれだ。情けない。

 心の準備をする時間は五日もあったんだよね。あーもう……。

 

 ほんと、何でこんなに緊張してるんだろう。

 ヴィクが受け入れてくれないかも、なんて心配は今更ない。

 皆と話し合って、ちゃんと結論も出して、その上で僕からって決めたのに。

 なのに、いざ目の前にすると喉……喉はないんだけど、何かが詰まる感じがして……。

 

 

 

 ──バタン! 

 

「ヴィクトール!」

 

 うわ。

 

 

 

「シュヴァ、来てくれたのか」

 

「勿論だとも! 何せ君の『最初』の相棒なのだから!」

 

「お、おお」

 

「ああ、ようやくだ。会いたかったぞ……っと、いやその、職務として様子を見に……」

 

 びっくりした。シュヴァだ。なんか髪飾りみたいなのしてる。

 今日の分の仕事が終わったのかな。引継ぎはどこまで進ん……おぉすっごく近い。

 一気にヴィクのベッドまで距離詰めるね。既に引っ付いてた三人が凄く警戒してるけど。

 相変わらずだなぁ。

 

「そ、そうだ、ヴィクトール。ディアマからの届け物だ。私が立ち寄った時に、これを君に渡すよう頼まれてな」

 

「……手紙か? あの……彼女から?」

 

「えっなになに? 何の話?」

 

「さぁ……大方、金にまつわる話だと思うが」

 

 ……ふぅ。

 

 助かった……というか、ちょうど良かった。

 あの届け物が何かは知らないけど、皆も興味あるみたいだし、しばらくはそっちに注目が集まりそうだ。

 その間に、僕も一回思考を冷静に……。

 

 ……僕もちょっと気になるな。

 ちらっ……。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

『拝啓 ヴィクトール様

 

 この度は災厄討伐の偉業、誠におめでとうございます。

 最終決戦の最終局面における貴方様のご活躍につきましては、対魔王軍を率いるシュヴァ殿より逐一報告を受けております。一度は失われた命を取り戻し、御身を以て致命の一撃へと導かれたとのこと、まさに英雄の名の如き結末でございました。

 

 まずは、わたくしの近況をお伝え申し上げます。

 今般の災厄を巡る一連の混乱の中、わたくしの父はその身に大きな傷を負いました。命に別状こそございませんが、今後の商会運営に従事し続けることは困難との判断に至り、これを良き機会として、父の意向のもと、わたくしがシズィ商会の正式な後継者として一切の権限を引き継いでおります。

 従いまして、本件に関する申し出は、一個人の独断ではなく、シズィ商会代表としての正式な意思表示であることを、まずもって申し添えておきます。

 

 思えば、わたくしと貴方様が直接言葉を交わしましたのはシズィでの交渉のみ。期間にすればごく短いものでございました。

 しかしながら、あの限られた時間の中で貴方様が示されたお人柄、判断力、そして真摯なる態度。これらは、わたくしの記憶に深く刻まれております。

 

 また、貴方様がこの世を去られたとされていた数か月の間。わたくしは対魔王軍の運営に従事する中で、貴方様のご友人方の様子を間近で拝見してまいりました。

 シュヴァをはじめ、皆様が貴方様の不在をどれほど深く受け止め、その日々をどのように過ごしておられたか。貴方様お一人が、あれほど多くの方々の支えとなっておられたという事実。これを目の当たりにいたしまして、わたくしは貴方様という存在の比類なき価値を、改めて確信するに至りました。』

 

「へェ。結構ちゃんとしたお嬢様なんだな、シズィの令嬢ってのは」

 

「いや……これは意外だな。あの女、こんな口調ができたのか」

 

「これ俺個人宛の手紙だよな。こんな大勢で読んでいいのか? えっと、次は……」

 

 

 

『そうした次第を踏まえまして、本書面を以て、正式に申し上げます。

 

 わたくしと、婚約していただきたく存じます。』

 

「……ん? ヴィクくん? 聞いてないけど……」

 

「……はて? ヴィっくん? これは一体……?」

 

「……ま、待ってくれ。その、どういうことだ」

 

 

 

『唐突に映ることは重々承知の上にございます。

 

 しかしながら、貴方様という存在の希少性、そしてシズィ商会との相性を勘案いたしますれば、これ以上に理に適った提案はないものと確信しております。

 シズィ商会といたしましては、貴方様を血縁としてお迎えすることにより、今後の事業展開において計り知れぬ価値が見込まれます。また、新生対魔王軍の運営においても、わたくしの伴侶という立場にあられれば、世界平和を望む貴方様のご発言力は飛躍的に増すこととなるでしょう。

 貴方様にとりましても、生涯にわたる経済的安定、シズィにおける確固たる地位、そしてわたくしという伴侶。双方にとって、これ以上ない条件であると確信いたしております。

 

 ご返答、心よりお待ち申し上げております。

 

 敬具

 シズィ商会代表 ディアマ』

 

「ちょっ……えっ!? な、何言ってんのこの女!?」

 

「ヴィクトールさん、どういうことですかこれ!?」

 

「し、知らない! 俺も初耳だ! そもそも俺は仮面が……」

 

 

 

『追伸

 

 仮面がお嫌いとのこと、存じておりますわ! 

 ですので、貴方様にだけは特例として、素顔で接することを確約致しましょう! 

 

 今までずっと隠してきた、仮面の奥の──勇者シエルの生まれ変わりを意味する『黄金の瞳』を、貴方様だけにお見せする権利を差し上げます! 

 良いお返事を期待しておりますわー!』

 

 

 

 ……えっ? 

 ………………えっ? 

 

「……ど、どういう、ことだ? 皆? これは一体……」

 

 どういうこともなにも。

 その事実は、僕が、一番初めに伝える、はずで……。

 

 で、でも。

 ということは、ディアマも勇者シエルの……。

 

 

 

「勇者シエルが転生してたなんて……初めて、知った」

 

 

 

『……ぼ』

 

「? エペ?」

 

『僕の……』

 

 

 

『「僕」のくせに、なんで「僕」の邪魔するんだよーっ!』

 

 

 

 

 

『僕のくせにボクの邪魔しないでよ!』 おわり




これで一旦完結です。
できるだけ毎日投稿したかったんですが、途中からずっと隔日投稿になっていました。
忙しかったんです許してください。

感想や意見や評価やここすきや誤字報告をして応援してくださった皆々様には非常に感謝しております。特に感想なんていくらあってもいいものですからね。

また、近いうちに別作品を書こうと思っています。
次は二作同時連載とかやってみたいなーと考えていましたが、今の投稿ペースだと4日/話とかのペースになってしまいそうでちょっと悩んでいます。

長くなりましたが。
何はともあれ、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。



あと余談ですが10話ほど追加で後日談を書こうと思います。
隔日投稿できるかは分かりません(´・ω・`)
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