【完結】 僕のくせにボクの邪魔しないでよ!   作:破れ綴じ

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意外かもしれないんですが実は私ってヤンデレが好きなんですよ(´・ω・`)
だからヴィっくんを一度殺す必要があったんですね(狂気)


男ならそれぐらい当然

 ヴィクはボクの理想の男そのものだ。

 

 強くて、困っている人を放っておけなくて、颯爽と悪を討つ。あの力を、誰かを傷つけるためじゃなく、誰かを救うために使う。それが理想の男の在り方で、ヴィクはそれを完璧に体現してる。彼の過去や出自は色々あったけれど、それで彼の価値が落ちる訳じゃない。

 ボクが前世から夢見てきた理想像が、すぐ隣を歩いてる。これ以上の幸運があるかな。

 

 そんな彼がモテるのは仕方ない。彼ほどの男なら当然だし、寄ってくる女の人がいるのは理想の男の証拠みたいなもので。例え、ヴィクの周りに女の子が沢山集まって、変な色の空気が漂っていたとしても、これは複ざ……いや、羨ましいだけ。自分自身にモテたって嬉しくは無いけれど、女の子に人気なのは、別に悪いことじゃないんだよ。

 ただね、理想の男っていうのは、生涯愛する女性は一人と決まっているものなんだ。デレデレしてふらふらするのは違う。それは理想の男じゃない。

 ヴィクはそういうことしないし、する人じゃない。だからボクはヴィクが好きで……いやそうじゃなくて、ヴィクのことを理想だって言える。

 

 ……だから、ボクの務めは、ヴィクが理想の男であり続けられるように支えることなんだ。

 相棒として、すぐ隣で。

 

 

 

「……ねぇ、ヴィク。結婚、どうするの?」

 

「意味もなく受ける気はない。そんなの不誠実だからな」

 

 ……だよね。

 彼はずっと、変わらない。

 

 

 

 こうして、馬車に揺られながら考えてみてもさ。

 最近、ちょっと、周りがおかしいんだよ。

 

 マージュもリュトもルメドもシュヴァもサシナも、節度がないっていうか、踏み込みすぎなんだ。最近だとエペまで様子がおかしいし。ヴィクはお人好しだから、ああいう距離の詰め方されたら無下にできない。困ってるのに、皆気づかないで好き勝手に……。

 ヴィクが流されないように、相棒のボクが正しい方向に導いてあげなきゃいけないんだよ。それが相棒の務めってもの。長く隣にいた相棒として、当然のことなんだ。

 

 ボクは違うからね、勘違いしないでほしいんだけど。

 ボクはちゃんと正しい距離を保ってる。正しい順序を踏もうとしてる。

 形だけで近づこうとして、関係を壊そうとしてる人達と、ボクは違う。

 研鑽だってずっと積んできた。剣の腕も、シエルとしての在り方も、ヴィクの相棒として釣り合う人間であろうとして、ずっと、ずっと努力してきた。

 

 いくら自分自身とはいえ、皆はそれが分かってない。

 正しい順序、正しい距離、正しい関係性──それを守れるのは、相棒であるボクだけ。

 

 だから、相棒のボクが軌道修正しなきゃいけない。

 

 皆の態度を見るに、多分この中にいる何人かはもう『告白』を済ませちゃったんだろうね。流石にまだ二三人だろうけど……ヴィクもその事実を聞かされてきっと動揺しちゃってるんだ。

 そろそろここら辺で、大本命のボクが勇者シエルとしての正体を告白してさ。自分の出自に悩み、かつての勇者に憧れるヴィクにボクがお墨付きを与えて、さらに関係を深めるイベントが必要なんだよ。

 

 

 

 それに、シズィにだって──あと数日で着くんだし。

 

 

 

 ……はぁ。そう考えたら頭が重くなってきた。

 あの女がヴィクを待ってるんだ。ボクたちと「同類」を主張する、あの仮面女が。

 

 ……結婚? 冗談じゃない。

 ヴィクは戦う男だよ? 悪を討って、人々を救って、世界を駆け回る男なんだ。商人の飾り物にする存在じゃない。商会のために動く伴侶なんかにしていい人じゃない。

 あの女、自分が何を所望してるか分かってるのかな。ヴィクみたいな男を、自分の隣に飾り物として置こうだなんて、釣り合ってないにも程がある。

 あの女は、結婚という形式でヴィクと釣り合ってるように見せかけたいだけ。商会の格を上げるために、ヴィクの名前を利用したいだけ。形だけ整えて、釣り合いを偽装する気だ。

 

 ……ヴィクが正しい判断をするためには、あの女を退ける必要がある。

 相棒として、ヴィクが間違った道に進まないよう導いてあげなきゃ。それが相棒の務め。

 ボクの理想の男を、ボクの相棒を、釣り合わない者の手に渡しちゃいけない。

 絶対に、絶対に、渡さない。これは独占とかそういう話じゃないからね? ヴィクが正しい人生を歩むためのサポートで、相棒としての務めなんだ。

 

 ボクはあの女のことよく知らないし、知りたくもない。

 ヴィクはあの女と数回しか話してないって聞いた。

 なのに婚約。そんなのおかしいよ。

 ヴィクはボクの──ボクの相棒なのに。

 

 あの女には渡さない。

 誰にも渡さない。

 

 

 

「──エスクリ」

 

 ……ん? 

 え、ヴィク? 

 

「そういえば、聞きたいことがあったんだが」

 

 ……っ! 

 

 

 

 え、な、なに急に? 

 ヴィクが、ボクに話しかけてくれた? 今まで馬車の外でずっと考え込みながら歩いてたのに。

 なんだって? 

 ……ボクに、聞きたいこと? 

 

 な、なに。なんだろう。もしかして、ボクのこと? ボクがちょっと不機嫌なのに気づいて、心配してくれた? いや、それともシエルの話とか? 他の皆が言った話の流れで、ボクのこともちゃんと聞こうとしてくれてるとか? 

 ……あ、ヤバい。心臓うるさい。

 なんで、別にいいじゃん。相棒なんだから話しかけてくれて当然、こんなに反応する必要なんて……。

 

「えっと、何かな、ヴィク」

 

 よし、声、上ずらなかった。たぶん。

 ボクだって丁度『告白』したいことがあったし、タイミング完璧、ドンとこいだよ。むしろそっちから声をかけてくれるなんて、ボクとしてもしっかり心構えして臨めるから丁度い──

 

 

 

「──探知魔法に魔物の群れがかかった! 周囲から三方向に複数だ!」

 

 ……っ、もーっ! 

 いいところだったのに……! 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 最悪のタイミングだよ! 

 なんで今なのさ、なんで今! ヴィクがボクに話しかけてくれて、ボクに、ボクに何か聞こうとしてくれてた、その瞬間に! タイミングって悪い時はとことん悪いんだ。森の中を通ってる最中だから、マージュが遠隔で全部焼き払う訳にもいかないし……! 

 

 でも、まぁ、いいよ。さっさと片付ければいいだけだもんね。

 残党のちょっとした集まりとかでしょ、こんなの。最近徐々に魔物って姿を減らしつつあるし、ボスがいなくなって眷属が散り散りになってることがあるから、その生き残りが偶然ここを通ったボクたちに目を付けたんだろうけどさ。

 ぶっちゃけ、目を付けたのがボクたちで良かったよね。今現在、ここって世界で一番強いパーティーだろうから。

 

「さっさと片付けるよ! ヴィクは下がってて!」

 

「いや、俺も──」

 

「ダメ! キミを危険な目に遭わせる訳にはいかないんだから!」

 

 こんな残党のためにヴィクが剣を抜く必要なんてないし、それはおかしいでしょ。釣り合わないよ。理想の男が泥臭い掃除なんかするべきじゃない。万が一にヴィクが怪我でもしたらどうするのさ。

 ボクが行く、それで十分。ボクは強いし、ヴィクの隣に立つに相応しい戦士なんだから。

 

 それに……今日は、ボクが行きたい。

 ヴィクの前で。ヴィクの目の届くところで。

 

「いくよーっ!」

 

『はいはい』

 

 エペも準備万端。皆も各々動きだしてるね。シュヴァの声が左奥からするし、リュトの気配は右側に向かったような。マージュとルメドは今回出番が無さそうだから下がってるだろうね。サシナは……どこ行ったか分からないけれど。

 ボクは前。一番前。一番速いのはボクなんだから、当然。

 

 ──ザシュッ! 

 

「はっ、一匹!」

 

 軽い軽い! これくらいの相手なら考えるまでもない、エペの方が勝手に動いてくれる。

 

 ああ、これだ。これなんだよ、ボクが一番好きな時間。

 風を切って、敵の懐に飛び込んで、必要な分だけの力で必要な場所を切り裂いて、次に行く。婚約とか商会とか手紙とか、ややこしいものが何もない、シンプルで澄んだ世界。

 ボクはこっち側の人間なんだ。ヴィクもそう。ヴィクとボクは戦場で出会って戦場で並んだんだから、ボク達の場所は最初からこっちなんだよ。

 

 ──ガキィン! 

 

「二匹目!」

 

 左からの鉤爪は……受けてから流す! 重さがちょうどいい、力みすぎなくて済むよ! 

 

 ボクは剣を振るう。ヴィクのために、ヴィクの前で。

 剣でヴィクと共に戦場に立つのが、相棒の務め。

 戦場でヴィクのために振るう剣こそが、ボクの在り方なんだよ。

 他の何でもない。これが、ボクなんだから。

 

『エスクリ、後ろ!』

 

「分かってるってば!」

 

 ──ズバッ! 

 

 三匹目! 

 ……届いた、よしっ! 

 

 マージュには火力でこれ以上のものが出せるし、リュトはヴィクに並ぶ破壊力がある。ルメドは回復魔法でパーティーを支えられるし、シュヴァは強化魔法で皆を底上げできる。サシナに至っては敵に気づかれることも無い。

 でもね、ヴィクと同じ速度で着いていけて、共に戦場を駆け抜けることができるのはボクだけなんだ。他の誰にも、できないことなんだよ。ディアマなんていう、あの女にだって絶対できない。

 商人のお嬢様にこの感触は分からないでしょ? 剣の柄の重み、刃が肉を割く時の手応え、敵の生気が消える瞬間の空気。これがボクの世界。これがヴィクの隣に並ぶための資格。

 

 ボクの方がずっと、ずっと、ヴィクの隣に──! 

 

 ──ズバァッ! 

 

 ……っ、ラスト! 

 よし、決まった、思い切り入った、抜けた、綺麗にいった! 

 

 ふふっ。どう、ヴィク。見てた? 今のボク、ちょっと格好良かったでしょ。理想の相棒として、文句なしの動きだったでしょ? 

 ヴィクからの「大事な話」をちゃんと受け入れるに相応しい、勇ましい姿だったはず──

 

「──エスクリ!」

 

「……え?」

 

 

 

 ──ブシャァァァァアッ! ベチャッ! 

 

 

 

「エ、エスクリ。大丈夫……か?」

 

「え……何、これ……」

 

 ……えっ、これ、何。なんかぬるいし、ずっと何か垂れてるし。

 体液? 斬りつけて、それがあふれ出してきて、今、ボクに全部かかっちゃって……。

 

 ……今、ヴィクが見てる? 

 今の、このボクを……? 

 

「……話は次の街で、体洗ってからでもいい?」

 

「お、おう」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ……やっと。やっとだよ。

 あのねばねばで全身べったべたになって。リュトやシュヴァに「どうやればそんな汚れるんだ……」みたいな目で見られ、マージュやルメドから「それで近づかないで」なんて視線を送られて、サシナから「慣れろ」って言いたげに慰められたあの戦いからようやく。

 なんとか次の街に到着して。今はもう体洗って、着替えて、匂いも確認して、準備万端。

 ここまで来たら邪魔は入らないよね? 魔物も出ないよね? 体液もかからないよね? 

 

 よし。

 

「じゃあ、その……話そうか」

 

「ああ、エスクリ」

 

 ヴィクが、ボクの向かいに座ってる。宿の部屋。二人きり。窓の外は夕焼け。

 お風呂上りだからエペも他の人に預けてあるし。お風呂上りの女の子がパーティーの男の人と二人きりって緊張するシチュエーションだけど……ボクたちの関係だし、特に変なことは起こらないはず。

 それどころかこの状況、なんだか運命的じゃない? さっきあんなことがあった後で、こうしてちゃんと二人で向き合えてる。何かが、今日このタイミングでボクに話させようとしてるような。

 

「で、さっきの話の続きなんだが」

 

「……うん」

 

 ……よし。

 ヴィクが聞きたいことがある、って言ってたよね。

 ボクにも言わなきゃいけないことがある。出会った頃からずっとずっと、言えてなかったこと。きっとヴィクが聞きたいのはそのことだ。他の皆も徐々に打ち明けてるんだし、ボクもここで打ち明けるべき。

 今日だ。今ここで言う。

 

 ……よし! 

 言うよ! 

 

 

 

「そう、ボクは勇者シエルの生まれ変わりなんだ!」

 

「この手袋についてなんだが……」

 

 

 

「……え? シエル?」

 

「……え? 手袋?」

 

 

 

 ……か、噛み合ってない! 

 ていうかヴィク、今なんて言った? 手袋? 

 ボクは今、人生最大の告白をしたんだけど。勇者シエルの生まれ変わりだって、ついに言ったんだけど。

 手袋って……。

 

「エスクリも、か。シエルの生まれ変わり。そうか、やっぱりな。薄々察してはいたが……」

 

「えっ待って手袋? てぶくろ? テブクロ?」

 

「だ、大丈夫か?」

 

 ……手袋? 

 

 ……。

 

 え。

 

 ……え? 

 

 あ。

 

 あ、あ、あ、あ。

 

 手袋。革手袋。使い込まれた、擦り切れた表面の、指の形に皺が寄った──

 

「……ヴィクの、手袋?」

 

「そうだ。トロワジーで拾ってな」

 

 聞きたいことっていうのは、勇者シエルのことじゃなくて。

 というか、それより、あれは。

 

 ボクが処分を引き受けた、あの。

 盾から外して、こっそり持ち歩いてた、あの。

 気になって匂いを嗅いだ、あの。

 荷物の一番下に隠してた、あの。

 

 トロワジーでカバンが破けて、失くしちゃって、本当にショックだった、あの手袋を。

 ヴィクが……出してきた? 

 

 ……え? 

 

「確か、処分を頼んだんだ。なのにこれが見つかったから、ちょっと気になって」

 

 気になって。

 ちょっと、気になって。

 ……ちょっと!? ボクは今めちゃくちゃどころじゃなく気になってるんだけど!? 

 

 や、やばい。やばいやばいやばい! 

 言い訳。何か言わないと。何でもいいから。

 

「せ、戦利品!」

 

「?」

 

「戦利品だよ! ほら、ボクとヴィクで模擬戦したじゃん! あの時ボクが勝ったから、勝者は敗者の装備を戦利品として回収する権利があるの! 戦場の習わしとして正当な──」

 

「……処分するって言ってなかったか? ゴミ箱があるって」

 

「う」

 

 一個目、撃墜。

 次、次の。早く言わなきゃ。

 

「え、エコだよ! 革がまだ使えたから! まだ使えるものを捨てるのは環境に良くないし、再利用できるものは再利用すべきで──」

 

「……何に再利用してたんだ?」

 

「……」

 

 二個目、沈没。

 マズイ、もう一個。もう一個だけ。

 

「研鑽! そう、研鑽なの! 理想の男であるヴィクの持ち物を手元に置いて、身も心もヴィクに近づくための修行の──」

 

「エスクリ」

 

「はい」

 

 ……全滅、だ。

 

 もう一個も言えることがない、一つ残らず撃ち落とされちゃった。丸腰。素手。裸同然。

 ボクの前にいるのはヴィクで、ヴィクの手にはあの手袋で、ボクにはもう隠すものが何もない。

 

 でも、だって、仕方ないじゃないか。

 ボクはヴィクのパートナーで、相棒がパートナーの持ち物を大事にするのは当然じゃないか。ボクが持ってて何が悪いの? すっごく良い匂いがして、すっごくカッコよく見えたんだよ、ボク悪くないよ。

 エペだってさ、最近はボクの背中でずっとブツブツ言ってるんだよ。ボクのこと色ボケだなんだと言っておいてあの体たらく。他のシエルたちだってデレデレしてるし、それを想えば相棒として適切な距離感のボクは立派でしょ。でも、だって、さ。

 

「……だって、だってヴィクのものなんだもん」

 

「……」

 

「捨てられなかったんだよ……ヴィクの匂いがして……」

 

「……」

 

「ヴィクの一部みたいで、手放せなくて。ずっとボクの近くに置いておきたくて」

 

「……」

 

「……ボクの宝物だったんだ」

 

「……別に、あれぐらい構わない。持ち物くらい、欲しかったら言えばいい、けど」

 

「えっくれるの?」

 

 ……? 

 え、あれ。な、なんでそんな風に目を逸らすのさ。

 声のトーンも、いつもと違う。明らかに困ってるし。しかもちょっとだけ顔が赤い。

 何だろう。何かに迷ってるみたいな、距離を取ろうとしてるみたいな──

 

 ……待って。

 今のボク、傍から見たらどうなってる? 

 

 何故か捨てたはずの手袋が全然別の場所で見つかったと思ったら、「ボクがくすねてて、匂い嗅いでました」って聞かされた状況? 仲間の『男』の装備品を欲しがって、匂いについて言及して、「捨てられなかった」とか「近くに置いておきたかった」とか「宝物だった」とか言ってる……『女』? 

 しかも、そろそろ夜になる、いい雰囲気で二人きり。お風呂上りで、見た目も整えて、他の人は誰もいない状況で、こんな勘違いされかねない行動を自白している美少女……。

 

 これ、ボク。

 ヴィクに、ふしだらな女の子だと思われてるんじゃ──

 

 

 

「……女の子が、あんまりそういうことすべきじゃないと思うぞ」

 

「ごっ、誤解だよっ!! 信じて!!」




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