僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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またまた新視点になります。
ご注意を(´・ω・`)


正直見た目さえよければ後はどうでも

 落ちこぼれ魔法使いの朝は早い。

 ……ま、シンプルに眠れてないだけなんだけど。

 

 

 

 ……動けない。

 首が回らないし、腕も痺れて感覚がないし、なんだってこんな変なポーズで固まっ……ってことはもう朝か。ぼく、昨日どうやって寝たんだっけ。

 

「……うわ、気持ち悪っ」

 

 頬に張り付いてるのはこれ……教科書か。文字が滲んでるのは……ああもう。

 ベタベタしてて、生温くて……拭っても不快感が消えないんだけど。この教科書だって安くないのに……。

 

 ……はぁ。またやっちゃった。

 

 こんな限界の勉強続きでなんとかなるだなんて……愚の骨頂だ。

 結局、この難解な数式の羅列は、ぼくの脳みそを素通りして夢の中に消えただけ。残ったのは、汚れたノートと、バキバキの体と、どうしようもない自己嫌悪だけ……。

 ……なんてね。悲劇のヒロインぶったって現実は変わんないのに。

 ただのよだれ塗れでしかないのに。

 

「あー……顔、洗わなきゃ……」

 

 今すぐに寝床で二度寝したいけど……そんな権利、今のぼくにはないんだった。

 顔を洗わないと。いくら不養生な生活してるからって、これぐらいはしてないと、流石に生物として終わっちゃう。

 水魔法が使えれば、わざわざ水を汲みに行かなくても済むのに……ドゥジェームの魔法学生でこんなことしてるのぼくだけだよ? 

 

 ……ひどい顔だね。

 目の下の隈がまた濃くなって……目つきも日に日に陰を増してるし、髪なんて跳ね過ぎて……頭に鳥でも飼ってるのかな、ぼくは。

 まあ、誰に見せるわけでもないし、どうでもいいけどさ。

 

 はぁ……外、出たくないぁ……億劫だなぁ……。

 

 

 

「……胃が痛い」

 

 この綺麗な石畳を見るたびに、キリキリする。

 憧れの魔法都市だったはずなのに、今はただのストレス発生源でしかなくて。

 いつもの裏道、いつもの鍵で裏口から雑貨屋に入って……。

 悲しいくらいスムーズに手が動くね。こんなことに慣れたくないのに。

 

「……ふぅ」

 

 こんな朝から重たい荷物運ばされて、運び終わったら後は受付でボーっとしてるだけ……ま、ぼくにはこんな仕事しかできないんだけど。

 店の目玉商品は水魔法の触媒になる「水魔法石」の詰め合わせ……。

 

 この街じゃ飛ぶように売れる人気商品なのに……ぼくにとってはただの石ころなんだよね。魔力を込めても何にも反応しないし、ただ重いだけ。

 なのにあの学園じゃ、これを使いこなせる人間が当たり前で。ぼくみたいに才能のない人間は、こうして石ころを並べるだけ石ころ以下の底辺ってわけだ。

 ……元勇者のぼくが。あらゆる魔法を使いこなしてみせたはずのぼくが。

 

「まるで道化だよ……誰も笑ってないのに」

 

 ガラスの向こうの表通りなんかもう完全に別世界。

 休日でもこの学園の制服を着て、楽しそうに笑い合ってる学生たちのグループ。

 あの子たちの服にはシミなんてひとつもないし、遊びみたいに指先から水を噴射させて遊んだりなんかして。

 ぼくが喉から手が出るほど欲しい「水魔法」を、そんなおもちゃみたいに。

 

 いいよね、才能のある人は。優雅にショッピングなんて。

 こっちは生活費のために休日返上でバイトだよ。睡眠時間削って、訳の分からない数式と格闘して、それでも赤点で。

 あーあ。なんでこんなに差がついちゃったんだろ。ぼくの方が、魔力量も、実戦経験も多いはずなのに。

 

「……ふん」

 

 どうせぼくなんて。

 目を逸らした先にある……この薄汚れてボロボロの雑巾の方が見ていてよっぽどマシだ。

 誰にも必要とされず、ただ消費されるだけの消耗品。まるで今のぼくみたい。

 

 ……昔は。

 性格も気持ちも目標も──こんなはずじゃ、なかったのになぁ。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 伝説の勇者シエル──その「魔法使いの才能」を受け継いだ転生体、名前を『マージュ』。

 ぼくは、自分が「選ばれた人間」なんだと、信じていた。

 

 生まれたのは、このドゥジェームからも少し離れた、小さな村。

 正直、男だったぼくが女の体で生まれ変わったことも驚きだったけれど……それ以上に驚いたのは、生まれた時点で「凄まじい魔力量」を秘め、「炎の魔法を使いこなせた」という事実。

 村の子供たちが泥遊びをしている間に、ぼくは炎の形を変えて遊んでいた。おかげで村の皆は「神童だ」「この子は将来、国一番の魔導士になる」って持て囃して。

 物心ついた時には自分の前世も思い出し、この力があれば世界の平和を見届け、残った歪みを正すための使命を果たせると──そう思うようになるのも無理はない話のはず。

 

 ──「ぼくは世界を救うんだ!」

 

 だからぼくは、迷いなく故郷を出た。

 行き先は当然魔法都市ドゥジェーム。一番近場だし、魔法を学べる学園があって、数多の魔法技術が集まる……とにかくぼくにおあつらえ向きの場所。

 しかもぼくの凄い魔力量が認められ、学費の支援まで受けることができた。当然、そこまでお膳立てされて逃げ出すなんて、元勇者のプライドが許さない。

 そこで力を磨き、最強の魔法使いとなって、再び世界を救う。馬車の窓から見上げた青空は、どこまでも澄み渡っていて。ぼくの未来には、一片の曇りもないはずだった。

 

 ……そう。あの頃のぼくは、まだ知らなかったんだ。

 勇者の魂を持っているからといって、世界がぼくに優しくしてくれるわけじゃないってことを。

 

 

 

 意気揚々と入学、初めて開いた教科書。

 現代の未知の魔法を学べると期待していたぼくの目の前に広がっていたのは……数字、記号、幾何学模様、難解な論理式。

 

 ──「……あ、あれぇ?」

 

 だって、ぼくの時代の魔法っていうのは──イメージだ。体内の魔力をなんとなくで練り上げて、「燃えろ」と念じれば火が出てくる。それが、ぼくの知っている魔法だった。

 けれど、現代の魔法は「魔力の波長を数値化」だの、「最適な術式を幾何学的に構築」だの、「詠唱の韻律がトリガー」だの……要は「杖なんてもの」を持って「ややこしい詠唱」や「見たことない魔法陣」で発動するのが当たり前らしい。

 呪文どころか、異界の言語にしか見えなかった。

 おかげで座学は壊滅的。いくら教科書を睨んでも、数字が頭に入ってこないし。

 

 おまけに、この地域で最も重宝される魔法は「水魔法」。

 だけど、ぼくが勇者シエルから受け継いだのは火魔法の才能『だけ』だった。しかも昔のぼくは感覚派だから、理論系の今の内容に当然ついていけやしない。

 そうなると当然学生の間でだって舐められる。初歩の水魔法も使えないし、唯一使える火魔法だって、水魔法が当たり前のこの学園じゃ簡単に対処できる。脅威でも何でもない。そもそもこんな荒野で火を出せるから良いことなんて特にない。

 どれだけイメージしても絞り出すような水しか出せやしなくて。役にも立たない魔法しか使えなくて。肝心の実技でさえ、ぼくの魔法は学生にも魔物にも通用しない。

 ぼくに特段才能があると思ってくれる人なんて誰もいない。

 

 

 

 それからは、転がり落ちるように居場所を失っていった。

 

 必須科目の水魔法は、何度やっても習得できず。「水よ出ろ」と念じても、出てくるのは黒い煙か、暴発した火花だけ。水魔法が使えない魔導士なんて、この街じゃ基礎もできない無能と同義だ。

 成績は最下位を独走。特待生としての支援金は打ち切られ、生活費のためにバイトを始めなきゃならなくなった。勉強時間は減り、成績はさらに落ち、バイトを増やし、体調を崩す。悪循環だった。

 

 ある日ふと、店の奥にある姿見が目に入った時。そこに映っているのは、疲れ切った顔をした、陰気な少女。髪は手入れもされずにボサボサで枝毛だらけ、目の下の隈は病人みたいだ。

 服だって、安物の店員服がヨレヨレになっている。これと学生服以外にろくな服を着た覚えもないし。体はどんどん女として成長していって、もとのシエルの肉体なんてとうに思い出せない。

 

 ──「……なんでだよ」

 

 ぼくは元勇者なのに。世界を救うために生まれてきたはずなのに。

 こんな時代じゃなきゃ、こんな乾燥した場所じゃなきゃどうにでもなったのに。

 なんで、こんなところで躓いてるんだ。なんで、水が出せないんだ。なんで、誰もぼくの本当の力を認めてくれないんだ。

 

 前世の記憶にある「勇者シエル」は、高潔で、多くの人から愛される英雄だった。

 でも、その心の奥底には、常に深い孤独があった。誰にも理解されない苦しみとか、対等な友人のいない疎外感とか、期待に応えられなかったときの罪悪感とか。

 このねっとりして、うじうじして、ドロドロした思考。誰かを妬み、環境のせいにして、自分の殻に閉じこもるこの感じ。多分これも、勇者シエルから受け継いだものなんだろう。

 華やかな「剣の才能」や「カリスマ性」はどこかに置いてきて、残ったのは「火の魔法」と「陰湿な内面」だけ。

 前世の自分のせいにまでするあたり、ぼくは相当落ちぶれたんだろうな。

 

 

 

 どれだけ捻くれても、どれだけ周りを呪っても。「世界を守らなきゃ」という思いだけは、消えてくれなかった。それこそぼくがこの世界に生まれてきた意味だし、今だって世界を平和にしたいって気持ちがある。

 

 でもそれが一番苦しかった。

 

 諦めてしまえば楽になれるのに。「ぼくは落ちこぼれだ、世界なんてどうでもいい」と開き直ってしまえば、ただの一般人として生きられたかもしれないのに。

 どんなに疲れていても、夜になると机に向かってしまう。理解できない数式と睨めっこしてしまう。噴水に向かって呪詛を吐いて、旅人から変人だと思われて苦笑いされても。

 いつか、何かの間違いで水魔法が使えるようになるかもしれない。そんな惨めな希望にしがみついて、ボロボロになりながら足掻き続けている。

 

 ──「いいな……」

 

 脳裏に浮かぶのは、さっき窓の外で見た学生たちの姿。

 学生で見た目がいい奴ってことは水魔法が使えるってことだ。

 水魔法がきちんと使えるから時間も余裕もあるし、見た目を綺麗にすることだって楽にできる。自分磨きが済めば、余った時間は友達と遊びに行ったり? 

 それに引き換え、ぼくはなんだ。かつては世界を救った英雄の魂を持っているはずなのに、今じゃその日のパンを買うのにも苦労する、薄汚れた小娘だ。

 シエルの「孤独感」を受け継いだぼくには友達すらいない。前世でも今世でも友達がいないだなんて笑えてくる。

 

 憎い。あいつらが憎い。

 何もかも持っている、キラキラした連中が憎い。ぼくの苦しみなんて知りもしないで、ヘラヘラ笑ってるあいつらが、どうしようもなく憎い。ぼくはおしゃれの一つだってできやしないのに。

 いつしかぼくの心の中は見た目へのコンプレックスが募っていって、今じゃ理由もなく見た目が良い奴をただただ嫌うようになっていった。

 ……ああ、醜いなぁ。顔だけじゃなくて、心までボロボロだ。

 

 

 

 こんな奴が、世界を救う? 笑わせるなよ。自分の心のシミひとつ洗い落とせないくせに。

 はぁ……もう、いいや。考えるだけ無駄だ。どうせぼくの人生なんて、この薄暗い価値観の中で、埃に塗れて終わるんだ。

 出没する魔物を倒せないから、自力でこの地域の外に出ることだってできないし。そもそもどうせ学校も卒業できない、大人しく故郷の村に帰ってひもじく暮らすのが関の山だ。

 

「──よう、邪魔するぞ」

 

 ……今日も客が来た。

 どうせ水魔法の触媒だなんて見ていって、無自覚にぼくの心を逆撫でして帰るんだろう。

 ならせめて、見た目の整ったやつじゃないといいな。

 それなら、まだマシな気持ちで接客できるかも……。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 えっちょっと待ってすっごい男前が来たんだけど!? 

 

 

 

 眩しい、直視できない、存在自体が発光してるみたい……あー、ダメだ。

 おかしいな、こういうキラキラした奴が嫌いだったはずなのにな。

 正直この感じなら多少性格が悪くても許容できるっていうか……。

 

 こういうのが今のぼくの肉体の「タイプ」ってこと? 

 それとも--ぼくの魂が「こういう男性」に惹かれやすいって……いやいやまさかそんな訳ないか。ぼくは男なんだから。

 

「──へえ」

 

 ……うわぁ、声までいいのかよ。

 低くて、敵意とか無くて、デフォルトで他者への敬意みたいな数値が設定されてそうな……こんな声聞いたのいつぶりだろう。

 

 手に取ったのは……あれ、水魔法石じゃない──「魔力で光る棒」だ。

 振ればライトになるし、使い切っても魔力を込めれば再利用できる。ぼくみたいな落ちこぼれでも使えて、夜の勉強のお供になってる便利グッズ。

 ……てことは、魔法使いじゃないんだ。珍しい。

 旅の人……役職は戦士かな。剣と盾持ってるし。

 

 うわ、近づいてきただけでいい匂いしてきたんだけど……。

 香水とかじゃない。こんな荒れ地じゃ感じることのないような、それこそ前世でしか体験したこと無かった──草原みたいな、日向みたいな、自然な匂い。

 心臓がうるさい。ドクドクいってる。なんで? 初対面だよ? 嫌いなはずのイケメンだよ? 肉体が女の子だから、精神まで女の子になっちゃった? 

 何の活躍もできやしないのに、シエルであるアイデンティティをどんどん放棄していってその先に何があるの? しっかりしないと! 

 

「なあ、これいくらだ?」

 

「あぇ、えっと……は、はい!」

 

 ははは話しかけられた! 当たり前だけど! 店員だし! 

 落ち着けぼく、深呼吸。ただの客だ。商品を売るだけの簡単なお仕事だ。顔を上げるな。目を見るな。見たら死ぬぞ。

 

「ぎ、銀貨、さささ三枚……で」

 

 ……声、震えてるし! 恥ずかしい! 穴があったら入りたい。いや、燃え尽きたい! 

 え、見た目大丈夫かな。こんなボサボサの髪で、隈だらけの顔で、だらしない子だって思われてないかな。噴水に向かって「移動水の魔法」の練習してたとこ、彼に見られたりしてないかな。

 なんか嫌なんだけど。

 

「銀貨三枚か! 品質の割に安いな。これなら旅先でも役に立ちそうだ」

 

 あわわ普通に返された。ただ真っ直ぐに、商品を見て、そしてぼくを見て……呆れたりしてないよね? 

 このみすぼらしい見た目に触れないでいてくれてるのか、それとも初めから興味が無いのか……後者じゃないといいなぁ。

 ……ぼくを知ってる連中はみんな、ぼくを見て「うわ」って顔をするのに。

 彼ならそんな風に思わないって確信できるっていうか……ああダメだ、また変な事考え出してる。話を別の方向に逸らさないと……! 

 

「うん……あの、その剣……すごく……」

 

 ……何言ってるの? 

 

 え、いきなり装備の話とか……ぼくは魔法使いだよ?

 一応昔は剣を振るった覚えもあるけど──「そっち方面の記憶はさっぱり無い」んだから、今のぼくって剣の「け」の字も分からないぐらいのド素人なんだけど……? 

 

「ん? こいつか? 買ったばかりだが、手入れはしてるつもりだぞ」

 

 ……うわぁ。

 

 ちょっと優しく声をかけられただけで前世が男だったなんて忘れかけてる。

 見た目がいい奴は嫌い? 嘘つき。結局、顔が良ければ全部オッケーなんじゃん、ぼく。どこまでも恥ずかしい。

 

「へ、へえ。その……ぼくは、かっこいい、と思う」

 

 言っちゃった。剣のこと? それとも彼のこと? どっちでもいいや。本心だし。

 熱ー……耳まで真っ赤になってるのが自分でも分かる。

 死にたい──でも、もっと見てたいとも思ってしまう。

 こうして彼と話せる時間が──永遠に続けば……。

 

 ──バーン!! 

 

「お待たせヴィク! 買い物ならボクも混ぜてよ!」

 

「お、おう。悪いな、先に入ってて」

 

 ……は? 何この美少女。どこかで見たことあるような……。

 ……彼女? 

 

 あれ……なんでだろ、すっごいショック。

 普通に考えればそうなのに、こんなイケメンに相手がいないとか一瞬でも夢見たぼくが馬鹿だった。

 いやでもあの子も剣士っぽいし、パーティー仲間って意味ならまだ望みが──

 

 

 

 ──待てよ。

 魔力が──一緒だ。

 

 

 

 は? おかしいぞ? どうしてあの子と──その背中に背負われてる剣の二つから、僕と同じ魔力を感じるんだ? 

 ていうか、あの瞳は何? あんなキラキラした金色で──あんなの、僕の鏡の中でしか見たこと無かったのに……。

 

 あ、向こうもこっち見て……固まった。

 

「この前の噴水の人……?」

 

「へ……え、あんた……」

 

 ……ってことは、まさか──

 

 

 

「──な、なんでキミも『女』なのさーっ!!?」

 

 ……うわあああそういうこと!?




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