僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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お先真っ暗というかなんというか

「──ふぅ」

 

 あー休憩休憩。

 こんな連日でワームばっかり狩ってたら喉が渇くのも仕方ないよね。

 でも、荒野の乾いた風に吹かれた後だと、ただの水でも甘く感じるから不思議な感じ。

 

 ……もう水筒も半分くらい減っちゃったかな。

 隣には「無限水源」こと学者さんがいるから安心だけど……うわ、また始まったよこの人の演説。ほんと元気だなぁ。

 

「……つまりだね! 学園の連中は『威力』と『効率』を履き違えているのだよ! それ以上の思考を放棄しているともいえる! 奴らが研究している『超高圧水魔法』……聞こえはいいが、要は子供の水遊びの延長戦に過ぎん!」

 

『……また始まったね。元気だなぁ、この人は』

 

 ほんとだよ。

 採取した黒い霧の瓶なんか片手に、よくもまあそこまで熱くなれるよね。

 また学園の悪口かな? 

 ボクには難しいことは分からないけど、その熱意だけは伝わってくるよ。

 

 ボクたちと違って普段運動なんかしないだろうに……あんなに動き回ってた後で、どこにそんな体力が残ってるんだか。

 ヴィクも苦笑いしてるけど、ちゃんと話は聞いてあげてる。偉いなぁ。

 

「水遊びって……そんな簡単なものなのか?」

 

「ああ! 君たちは『水鉄砲』という玩具を知っているかね? 革袋に水を入れ小さな穴から押し出す、圧力をかければかけるほど水は鋭く遠くまで飛ぶ──というやつだよ!」

 

「知らないが……まあなんとなくイメージはできたな」

 

「連中がやっているのは、あれを極大化させただけの単純な発想だ! 十数人、いや数十人の魔導士が魔力を同期させ、巨大な魔法陣から一点に絞った激流を放つ!」

 

「へぇ、凄そうだね」

 

 なるほど。それで例の──すごく大きなワームをやっつけちゃおうって発想な訳だ。

 でも、数百人でやる水鉄砲って、規模が違いすぎない? 

 想像したらちょっと笑っちゃいそうになったけど、威力は凄そうだよね。

 岩くらい簡単に穿てそうだし、この辺の魔物の硬い皮膚なんて紙切れみたいに貫通しちゃうんじゃないかな。

 

「いや! それではダメなのだ! 全く持ってナンセンスだ!」

 

 あれ、ダメなの? 

 なんでさ。強そうなのに。

 

「連中の狙いは『貫通』だ! 分厚い装甲を一点突破し、内部を破壊する『水の槍』……だが! 相手は動かない的ではないのだぞ! 魔物は生きている、動く、暴れる、再生もする! あんな巨大な魔法陣を展開して、数百人が動きを合わせて……照準を合わせるのに何分かかると思っているのだ!」

 

 あー……なるほど。言われてみればそうだよね。

 今日のワームだって、地面からいきなり飛び出してきて、場合によっちゃすぐ潜っちゃうし。「ちょっと待っててください、今狙いを定めてますから」なんて通じる相手じゃないか。

 どんなに威力があっても有効打にならない可能性が大きいってことね。それを承知で学園の人は研究してるんだと思うけど。

 やっぱり、机上の空論ってやつなのかな。

 

「それにだ! 仮に当たったとして……それで倒せる保証はどこにある? ただ穴を開けるだけでは意味がない! 生物には必ず『急所』がある! そこを正確に確実に潰さねば、奴らは止まらんぞ!」

 

「急所……か」

 

 確かに。ボクたちだって、ただ闇雲に斬りつけてるわけじゃない。

 ワームなら節の継ぎ目。トカゲなら腹の柔らかいところ。

 そこを狙うからこそ、最小限の力で倒せるんだし。

 

「だから魔物の研究なんてやってんだな。急所を探すために」

 

「その通りだ! 普通十数分かける相手を一振りで殺せる君達も大概だが……それ故に分からないのだろう! もっと小さな力で確実に殺すことの必要性が!」

 

 ……いやまあ、それは確かに。

 

 ボクは技術で、ヴィクは最悪力業で無理やりやればここのワームは一振りで両断できるし、それでおしまい。

 でも、この地域で暮らす人皆がボクたちと同じだけの力を持ってる訳じゃないだろうし、普通はもっと大変なんだろうね。 

 

「奴らの装甲は外側だけが硬いわけではない! 層になって重なり合い、衝撃を分散させる構造になっているのだ! だからこそ、外からの力押しでは限界がある……内部へ、核へと至る『道』を作らねばならんのだ!」

 

「件の水魔法じゃ装甲に穴を開けるだけで急所には届かないから意味がないと」

 

「その通りだ! 君は理解が早いな! 学園の連中にも爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだよ!」

 

 あー……それなら確かに巨大水鉄砲じゃ埒が明かないか。

 ヴィクも流石、飲み込みが早いね。ボクなんか上辺の話だけ聞いてなんとなく理解してるだけなのに。

 学者さんも嬉しそうだね。この数日で大層ヴィクを気に入ったみたいだし。

 

 まあ、分かるよ。彼は結構ワイルドな感じに見えて意外に知的だし、聞き上手だし、的確な質問するし。

 一緒にいて安心感があるんだよね。

 ボクも……うん、頼りにしてるし。

 ……相棒として、ね!? 

 

『エスクリ、顔が緩んでる。変なこと考えるのは止めなよ』

 

「……っ!」

 

 うるさいなエペ! 緩んでないよ! 

 ただ、頼もしいなって思っただけ! 変なこと言わないでよね、恥ずかしいじゃんか。

 

 

 

「……今日は、もういいか」

 

 ん? もう終わり? 

 まだ予定の半分も回ってない気がするけど。

 

「どうしたの? まだ時間は……」

 

「いや、今日は早めに戻ろう。そういう『予感』がしただけだ」

 

「……?」

 

 え、なに、どういうこと? 気分? 

 ほら、ヴィクも「今日はこれだけでいいのか?」って顔してるし……。

 こんな風に急に斬りあげられたりすると必要な数足りないと思うんだけど。

 ものすごく時間かからない? 

 

 ……変なの。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「──みたいな感じでさ。ほんと、変な人なんだよ」

 

『話が難しくなるあたりで毎回離脱してるからねぇ、エスクリ』

 

「うっ……言わないでよ、エペ……」

 

「た、大変そうだ……ぼくには想像できない……」

 

 まあそこまで大変って訳でもないけども。

 いや大変かな。大変だった気もする。

 まあおかげで、ネタには困らない訳だけど。

 

 今日は休日で、お店自体も月一の休みらしいし、マージュの住んでる部屋で近況報告を兼ねたお茶会。

 あの時の酷く落ち込んだ顔と違って、今は普通に会話ができてる。まあ、それは「相手が自分自身」ってのも大きいだろうし、平静なその顔の裏にどれだけの葛藤が隠れてるか、ボクには計り知れないけど。

 

「まあ、思ってたより面倒だね。戦いの中で『エペを濡らす』って作業工程が増えるしさ」

 

『もういっそのことヴィクみたいに力業で振り切ればいいんじゃないかな』

 

「できるわけないでしょ」

 

「あはは……」

 

 部屋に家具は最低限しかないし、飾り気もない。質素というか、殺風景というか。

 でも掃除は行き届いてる、性格が出てるなぁ。

 

「お茶、冷めちゃったかな。淹れ直そうか?」

 

「え、いいの? 水は貴重なんじゃ……」

 

「いい。お客様だって貴重だし、水もそろそろ切れるから逆にキリがいいし……」

 

「そう、じゃあお言葉に甘えようかな」

 

「どうぞ。お湯を沸かすのだけは得意だから」

 

 ……いや、その、なんとも返しがたい自虐を。

 そのまま「便利だね」なんて言ったら嫌味になるし、「そんなことないよ」って否定するのも無責任だし。

 

 マージュは「火魔法使いの数少ない特権だよ」とか言ってるけど、多分じゃなくても結構傷ついてるんだよね。

 自分も魔法使いなのに水は自分で買いに行かなくちゃいけないし……この街で魔法使いが水を自前で準備できないなんてあり得ないとも言ってたし。

 お金が勿体ないからわざわざ遠くの安い水売り場に行ってるって話もしてもらった。

 こうして出してもらってるお茶も、彼女にとっては生活を圧迫する出費なんだ。悪いことしたかな。

 

 ああ止めだ。

 話題を変えよう。

 

 

 

「……ねえ、マージュ」

 

「なに?」

 

「この前話した、『外に出る』件だけどさ。考えてくれた?」

 

「……っ!」

 

 ボクたちの提案。

 この街のボスを倒した後、彼女を外の世界まで護衛するって話。

 

 まだ、返事はもらっていない。

 

「……行きたい、とは思うよ」

 

「うん」

 

「この街にいても、ぼくには未来がないって分かってるし。外の世界には、ぼくの魔法を必要としてくれる場所があるかもしれないって、そう思うと……少しだけ、ワクワクする」

 

「そ、そう……! じゃあ──」

 

「でもね」

 

 うっ……。

 ……やっぱり。

 

「ぼく、外に出ても……役に立てない気がするんだ」

 

「……そんなこと」

 

 ああダメだ。

 どうしても彼女の中で自信が無くて、それが枷になっちゃってるんだ。

 もう、話を変えなきゃって思ったのはボク自身なのに、結局こんなこと言わせちゃって。

 

 そんなことないって叫びたいけど、それが慰めにしかならないのはここにいる全員が分かってるし。実際にこういう用途で役に立てるって説明したとしても、すり減りすぎた自己肯定感が彼女にそれを信じさせられない。

 同じ魂なのに、同じ可能性を持って生まれたはずなのに……なんてもどかしいんだろう。

 

「……そっか。まあ、焦ることはないよ。ボスを倒すまではまだ時間があるし。まだゆっくり考えて」

 

 今はこれが精一杯。

 無理やり連れ出しても、彼女が傷つくだけだ。

 自信を取り戻すきっかけがあればいいんだけど……ボクには、剣を振るうことしかできないからなぁ。

 自分自身のことなのに、どうしてこうも正解が分からないんだ。

 

 ああ、また話題を変えないと……。

 

 

 

「……ねえ、エスクリ」

 

「ん? なに?」

 

「あのさ……ヴィクトール、くんって──普段どんな感じなの?」

 

 ……はい? 

 

 ヴィクトール……くん? くん付け? いつの間にそんな呼び方しだしたの? 

 ていうか、なんで急に彼の話? いや、話題が変わって助かりはするけど……。

 

 ……エペ、『あっ嫌な予感がする』って言って黙り込んだのをボクが聞き逃さなかったよ。

 にしても、どんなって……えっと……。

 

「……致命的な弱点が、一つだけあるかな。本人の名誉のためにも伏せておくけど」

 

「へ、へぇ……」

 

 とりあえず落としておこう。

 なんとなく、褒めちゃいけない気がした。

 

「そ、そうなんだ……気になるなぁ……」

 

 ……あれ、凄いデレてない? 

 頬をちょっと赤らめて、夢見るような目をして……あれ、これボクだよね? 中身男で……元勇者だよね? 

 なんでそんな──恋する乙女みたいな顔してんのさ。

 

「あの日、店に来てくれた時もさ……すごく優しくてカッコいいから、ちょっと、気になっちゃって……」

 

「えぇっ……」

 

『いやぁ……これは……いやぁ……』

 

 ……あれかな。

 ボクは元勇者としてのプライドとか、男としての憧れがきちんと確立してるからそんな気持ちにはならないけど……逆にその辺がぽっきり折れちゃったマージュには自分が男だって自覚も薄れてきちゃってるのかな。

 そんな自信喪失状態の中でヴィクっていう劇薬にぶち当たっちゃって、元男ではありながら、ちょっと事故的に過剰な反応しちゃってるのかも……。

 

『エスクリ、顔怖いよ』

 

 いやだって、仕方ないじゃんか。

 目の前の自分自身が、男だった過去以上に──今現在どんどん女の子っぽくなってるって……それを見るのって、結構クるものがあるよ? 

 

『何考えてるかは大体分かるよ。無自覚はもっと怖いなぁ……』

 

「キミは何を言ってるのさ……」

 

 ……なんかモヤモヤする。

 なんだろう、この感情。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「じゃあ、またね。マージュ」

 

「うん……また来てね、エスクリ。エペもね」

 

『あの、あんまり外で僕に話しかけない方が良いよ。またね』

 

 精一杯、手を振り返して……うん、これでよかったんだよね。

 

 ……あぁ、なんか、凄い複雑。変に疲れちゃった。魔物と戦うより、よっぽどエネルギー消費した気がする。

 用事があるから途中まで見送ってくれるってマージュは言ってたけど……二人とも喋る話題に困ってたからすごい気まずかったぁ……。

 

「それにしても……『ヴィクトールくん』かぁ……」

 

 ヴィクトール……「くん」。

 ボクの「ヴィク」って呼び方とどっちの方が距離近いのかな。

 流石に渾名で呼んでくれって言われたボクの方だよね。

 でも、ヴィクトール「くん」……。

 

『いやに甘ったるい響きだったね。僕はすごく身に覚えがあったんだけど』

 

「何さそれ、変なこと言うなぁ」

 

『こいつめ』

 

 ……正直、ボクはよく分からない。

 あの子はボクだ。同じ魂を持って、同じ過去を背負って生まれた、もう一人のボクだ。

 

 ただ、ボクはあんなにデレることは無いと思う。

 ボクは「頼れる男」に、それこそヴィクのようになりたいんだ。あんな、男であることを諦めたみたいな素振りはできないはず。

 ボクが知らないだけで、元のシエルにもそういう要素が……いや、ないない。絶対ない。

 だから、マージュのあの態度は……なんていうか、見てて変に居心地が悪い。まるで、自分の中にある「認めたくない部分」を、無理やり引きずり出されて見せつけられてるみたいで。多分エペもそう思ってるから反応が時々変なんだ。

 

 ……だから、なんというか、少しだけ……寂しい、かな。

 同じ魂だったはずなのに、もう完全に別の生き物になっちゃったんだなって、突きつけられた気がして。

 

「……ああ、ダメだな。変な気分になってきた」

 

 そうだね。無理に考えても答えなんて出ないし。

 早くヴィクのいる宿に戻ってちょっと気分をリセットして……

 

 ……。ああ、今は水を買いに行ってもらってたんだっけ。忘れてた。

 悪いことしたな、重いのに。いや、重いからこそ「俺が行ってくるから気にするな!」って言ってくれた訳だけど。

 うん、やっぱりヴィクは……彼は、頼もしいよ。思い浮かべるだけで、さっきまでのモヤモヤが少しだけ晴れるみたい。

 早く合流しよう。手伝うフリして、半分くらい持ってあげてもいいし──

 

 

 

「……ん?」

 

『? どうしたのエスクリ』

 

「いや、なんか……魔法使いの、集団みたいな人たちが……」

 

 中央広場の噴水の、そのすぐ近くで……何やってるのかな。

 揃いのローブを着た……多分、魔法使いたちが、円陣を組んで杖を掲げて……訓練? 

 

 周りの人も特に気にした様子はないし……もしかして、魔法都市だとよくあることなのかな。

 あれ、でも周りの人たち皆、建物の中に戻ってる気が……。

 

「え、え……?」

 

 え、なんかどんどん辺りが暗くなってるんだけど。

 変に暗い靄がどんどん広がってる……。

 街中の魔法街灯が急に点灯したおかげで、完全に何も見えないって訳じゃないけど……真夜中っていうには早すぎる時間で、一気に陽の光が見えなくなっちゃって……え? 

 

 というか、この黒いの……。

 

 

 

「……ワームの、霧?」

 

 

 

『へ、ワーム? ここ街中だよね?』

 

「う、うん。そのはず……」

 

 手を伸ばして……ああ、ちゃんと指先が霞むし、なんかちょっと湿ってる。

 やっぱりだ、この黒い靄は今まで散々戦ってきてたあのワームの霧にそっくりだ。

 ボクは実際にほとんど食らわなかったし、これが完全にあの霧と同じものかって確証は持てないけど……でもやっぱりすごく似てる。

 

 でも──おかしいよね? 

 ここは「魔法都市ドゥジェーム」のど真ん中でしょ? 

 この霧が出てるってことは、近くにあのワームがいる訳で。でも街には結界が張ってあるはずだからそれはあり得ない……。

 そもそも、街中に魔物が出没してたら大問題だよ。今すぐにエペを抜かないといけなくなっちゃう。

 

 って、今のさっきでもう周りの人全員建物の中に隠れちゃったんだけど……。

 ……えっ? これから何が起こるの? ほんとにこの場所に魔物が出たってこと? 

 それじゃあさっきの広場にいた魔法使いの集団の人たちは? 迎撃に来てたの? 

 ……でもそれじゃあ、魔物の姿が見えないのにあんなに魔法発動の準備してた意味が分からない。普通、魔物が出てきてからそこに狙いを定めるよね。

 

 そもそも、ワームの霧って、一匹から人一人包み込むぐらいしか出てなかった記憶があるんだけど。

 今のこの霧って──街全体を包み込むぐらいに広がってて……。

 

「なんか、規模が……おかしくない?」




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