僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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えっデカ!!

 ──ズズズズズ……ッ! 

 

「で、で……」

 

 でかああああああああああ!? 

 

 え!?

 ……は!? 

 嘘、でしょ!? 何あれ!? とんでもないサイズのワームが……! 

 夢? 幻覚? それともボクの頭がおかしくなった? 

 

『……ねえ、エスクリ。あれ……何?』

 

 知らないよ。ボクに聞かないでよ……! 

 ボクだって今、現実を受け入れられなくて吐きそうなんだから。

 ようやく真っ暗な霧が晴れて、やっと空が見れるようになったっていうのに──

 

 ──グァォォォォォォッ! 

 

 ──あからさまな異物がさっきから暴れまわって……え、なんなの、山脈なの? 

 いや、動いてるけど。うねってるし、波打ってるけど。遠近感がおかしくなりそう。

 ここから何キロ離れてると思ってるの? それなのに──あのデカさ? 

 生物としての大事なルールを色々間違えてるんじゃないかな!? 

 

 若干地響きまでしてる気がするし、足元から内臓まで揺さぶられるみたい。

 あいつが動いてる音だよね、これ? ただ身じろぎしただけで? 

 

「嘘でしょぉ……」

 

 学者さんが「ボスは非常に巨大だ」って言って……「まさかそれだけなの?」って思ってたのに……ちょっと想像以上にデカすぎる! 

 いや、舐めてるつもりは無いけどせいぜい五、六メートルか、大きくても十メートル少しかと思ってた。間違いなくそんなレベルじゃない。桁が明確に一つか二つ違うレベルで大きすぎる……! 

 

『え……勝てるの? あれに』

 

 エペの声すら震えてる。奇遇だね、ボクもだよ。

 ボクもエペもヴィクも普通にボスを倒すつもりでドゥジェームに来たんだけど、今も「ボスを倒すぞ!」って意識は変わってないんだけど……いやちょっと流石に倒せるビジョンが見えない。

 

 ……それじゃあ、さっきまで出てたあの黒い霧は──あの特大のボスが吐いてた超広範囲のワームの霧……ってことになるよね? あれだけのサイズなら街一帯を覆いつくす霧だって説明がつく。

 それで、さっき広場で見たあの魔法使いの集団は、所謂「結界部隊」で間違いないんだ。急にボスが出現したから、ドゥジェームを守るために急いで結界を張る準備をしてたってことなんだ。

 思えば、さっきからあの巨大ワームもこっちをチラチラ見つつ、手を出して来ない。この場所に獲物が山ほどいることは分かってるけど……同時に、結界があるから手を出せないことが分かってるってことなのかな。

 

 ……いや、そんなこと考えてる場合じゃない。

 

「と、とりあえず──ヴィクに知らせなきゃ!」

 

 ヴィクにもこのとんでもない情報をいち早く共有しないと! 

 ボスのサイズがボクたちの想像を遥かに上回る、ほとんど山みたいな個体だって分かったんだ。武器濡らしたり、水筒の中身ぶちまけたりしてなんとかなるような相手じゃない。

 とりあえず、作戦を練り直す必要もあるし、今後の方針についても話し合わないと……! 

 

『ヴィクの居場所に心当たりはあるの?』

 

「多分、宿屋からいつもの水売り場までの道中のどこかだと思うんだけど……」

 

 ヴィクは……そうだ、水を買いに行ったはず。あの霧の中だし、先に宿まで戻れたってことはないよね。

 無事だったのかな。彼なら大丈夫だと思うけど……水は買えなかったかも。

 

 今思えば──街の人たちが急に建物の中に逃げ込んだのも、ボス出現による霧の発生と、その後の地響きが理由って考えれば納得だ。視界が不明瞭な状態で足元がおぼつかないだなんて、普通に転倒の危険とかあるし。

 宿の方も大丈夫かな。水売り場も今頃大変なことになってるかも。ボスがいつどれぐらいの頻度でこの騒ぎを起こしてるのか知らないけれど、街の人は毎回こんな大変な目に遭ってるってことだよね……って。

 

「……あ、そういえば」

 

 マージュは。

 さっき別れたばかりの、もう一人のボクは。

 

 あの子、ボクたちと別れて一人で帰ったよね。霧が出たのは、別れてすぐだった。

 ……いや、でも用事があるとも言ってたし、もしかしたら外に出たままなのかも? 

 

 え、大丈夫かな。

 

「……エペ、先にマージュを探そう」

 

「え? でも、ヴィクは──」

 

「彼はきっと大丈夫。それより彼女に何かないか、一応確認だけでも」

 

 マージュのことはボクにとっても、エペにとっても……他人事じゃないんだ。

 あの子の弱さは、ボクの──勇者シエルの弱さでもあるから。彼女にとってこの霧はもう当たり前の現象なのかもしれないけど、一応確認しておかないと、ボク自身の心が落ち着かない。

 

『……まあ、心配だもんね。寄り道しようか』

 

「うん。ちょっと顔見るだけでいいから。とりあえずマージュの家に戻ろう」

 

 何も問題無いなら無いが一番だよ。

 でも、なんだか放っておけないから……。

 

 

 

「ああ……見えてきた!」

 

 あった、扉が見えてきた。マージュの住んでる一人部屋の……。

 ……あれ、開いてる? 

 

 ──「えっと……霧、晴れたみたい……」

 

「マージュ……!」

 

 あ、よかった。無事だったんだ。

 なんだ、ちゃんと家まで戻れてたんだ。ボクの気にしすぎだったんだね──

 

 ──「助かった。ありがとう、マージュ」

 

 ……ん? 

 

 ──「い、いや。いいよ、ヴィクトールくん」

 

 ──「ヴィクでいいって。借りができちまったな」

 

 ──「じゃ、じゃあ──ヴィク、くん」

 

 ……? 

 え、ヴィク? 

 

 ……なんで、マージュといるの? 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「──だ、だから、水を買いに行った道中で偶然一緒になって……」

 

「それで、霧の中迷ってた俺のために、一時的に避難させてくれてたんだ」

 

「……ふーん。そうなんだ」

 

 ……まあ、言いたいことは分かったよ。

 

 マージュの言ってた用事ってのも「水を買いに行くこと」だった、って訳でしょ。確かに水切れたって言ってたからね、納得はできる。

 で、ヴィクも水を買いに行ってて、二人とも遠いけどちょっと安めの店に行ってたから……偶然居合わせた。そのまま動けなかったから、マージュの部屋で雨宿りならぬ霧宿りさせてもらってた。うん、筋は通ってる。

 あの霧じゃ視界ゼロだし、ヴィクは土地勘ないし、知ってるマージュについていくのは合理的だよね。何もおかしいことはない。

 

 ……ないんだけど。

 

「……数時間も、二人きりで?」

 

『エスクリー、声が低いよー』

 

 いや、だってさ。あの……言っちゃ悪いけど、狭い部屋だよ? 

 薄暗くて、外に出られなくて、二人きり……って、なんかこう、さあ。

 

「その、悪かったな。心配かけて」

 

「ご、ごめん、エスクリ。変なことは、起こってないから……」

 

「……いや、二人を責めてる訳じゃないけどさ」

 

『責めてたよ、君』

 

「(うるさい……!)」

 

 変なことなんか起こる訳ないじゃん。

 部屋にいるのは……肉体としては男女だけど、精神は男同士な訳だし。

 

 でもさ、なんか納得できないというか。

 ヴィクだって、いくら暗くてもその気になれば壁を伝って宿まで戻ってこれたじゃん。あの時大人買いした──光る棒だって持ってるんだし。

 まさか実は、暗所恐怖症……ってこともヴィクに限ってないだろうしさ。ならわざわざ女の子の部屋まで行く必要ある? 

 それにマージュもなんか、様子が変。あんなに「誰の役にも立てない」って落ち込んだ様子だったのに、今見たら急に憑き物が落ちたような顔になって……。

 ……そんなにヴィクと一緒が楽しかったの? 別に自信を取り戻せたならボクとしても文句ないけどさぁ。

 

 なんか複雑。

 なにこの気持ち。

 ボクの知らないヴィクとの時間をマージュが見れたから? 

 落ち込んだマージュをボク以外の人が解決しちゃったから? 

 ……分からない。

 

『それよりエスクリ。本来の目的は?』

 

 ああ……そうだった。

 そうだった。

 

 

 

「で、あの『ボス』なんだけど……」

 

「ああ……ちょっと、予想外だった、な……」

 

「いつ見ても大きいなぁ……」

 

『マージュは慣れてるね。ここの人にとってはもう違和感ないのかな、あれ』

 

 まあ、マージュは驚いた様子無いし……。

 結界もあるから、この街の人にとっては「大きいけど、こっちには来ない迷惑なボス」って認識なのかな。

 

 ただ、学者さんだって「学園はあいつを倒すために研究を続けてきた」って言ってたんだし、倒さなきゃいけないことは確実。

 だとしても、あんなのどうやって倒すの? 

 剣で斬る? 木のナイフで大木──それこそあのトレントを切り倒すようなもんだ。

 水魔法で濡らす? この荒野に一点集中の大雨でも降ることを祈るしかないよ。

 

「どうしよっかぁ……」

 

「どうしたもんかなぁ……」

 

 ほら、ヴィクもこう言ってる。

 勇者失格かもしれないけど、正直本当に勝ち目が見えない。

 あのトレントも強敵だったけど、今回のボスは生物としての格が違いすぎる気がする。

 魔法のエキスパートである学園のエリートたちが、「当たるかもわからない巨大水鉄砲」に望みをかけようとするのも分からなくない。

 

 ……どうしよう。

 これって手詰まり、というかボクたちにはどうしようもない案件じゃない? 

 

 確かに、ボクたちの目的は「ボス討伐」だ。あいつを倒さない限り、この街での仕事は終わらないし、マージュを外に連れて行くって約束だって果たせない。

 でも、街には結界があるから、今すぐ逃げなきゃ死ぬってわけじゃないし、あいつが落ち着くまで待てばまた外に出られるってこと。今の装備と戦力じゃ、あいつの土の鎧を剥がすのに何日かかるか分かったもんじゃ──

 

「──まあでも、物理的に干渉できるなら、倒せるはず、だよな」

 

「いやまあ、そうかもしれないけど……」

 

 

 

「じゃあ──手はあるか」

 

「へ?」

 

『ん?』

 

「え?」

 

 

 

 ……えっ、今喋ったのってヴィクだよね。

 え、本気で言ってる? 

 ほら、マージュも流石に驚いてるよ。

 さっきまで「でもいつかはヴィクくんがボス倒すんだよね……」って、これでも結構心酔してるって顔してたのに、今じゃ「えっもう倒せるの? 冗談言ってない?」って顔になってるよ。

 

「え、どうするの? あんなの、正面から突っ込んでも砂粒で岩山削るようなもんだよ?」

 

 いや、相棒が言うならボクは付き合うけど、付き合いますけど。

 

 別に考え込んだって、あのデカブツが小さくなってくれるわけじゃないよ? 

 何か具体的な策がある……ってことだよね。あんな化け物相手に? 

 

「……とりあえず、二人とも」

 

 ……二人? 

 え、ボクだけじゃなくて? 

 火の魔法は弱点にならないってことが分かってて……

 その上で──マージュも? 

 

「俺に──ついてきてくれるか?」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「──いやはや、急に客が来たと言われたから何事かと思えば──君たちか! 

 

 ……相変わらずこの人は声が大きいというかテンションがおかしいというか。

 いつもワーム狩りしてる屋外ならともかく──ここはあなたの研究室なんだから、大人しくなろうよ。あんまり隣の部屋まで響くとか考えたりしないのかな。

 いや、いきなり押しかけたボクたちもボクたちだけどさ。

 相変わらず元気だなぁ──この学者さん。

 

 部屋の中は……うん、予想通りというか。

 本に紙くず、変な薬品の匂い。足の踏み場もないカオス空間。

 マージュなんか、顔引きつらせてヴィクの後ろに隠れちゃったじゃん。

 ……なんかどんどん仕草が女の子になってない? 大丈夫? 

 

「そして、そこの──ヴィクトール君の背中に隠れた君!」

 

「ひっ!?」

 

 あ、マージュがロックオンされた。

 え、マージュのこと知ってるの? この人。

 

「確かあれだね! 入学してまもない頃、とんでもない方法で魔法を使おうとしていた子だね!」

 

「え……?」

 

 ん……? 

 とんでもない方法……? 

 

「杖も触媒も詠唱も魔法陣も使わず、ただイメージだけで魔力を練り上げ、ぶっ放そうとした! ただ一言、『燃えろ!』と叫びながらね! あまりにも原始的だったからよく覚えているとも! まさに変人!」

 

「あー……あはは、その節は、どうも……」

 

 ……なるほど、ボクたちの時代で当たり前だった──イメージで魔力練り上げて発動って方法が珍しかったんだ。

 マージュも「今の魔法は難しすぎる」って言ってたけど、向こうからすればこっちの考え方の方が「変人」なんだよね。

 

 いやこの人にボクたちの常識を変人扱いされるのには異議を唱えたいぞ? 

 マージュから話を聞いていて思ったけど、そもそも今の魔法が難しすぎるだけだって。よりにもよってこの「変人」に、自分自身を「変人」と呼ばれるのは納得いかない。

 

 というか、マージュ自体が昔の思い出掘り返されてすごく気まずそうなんだけど。

 良い感じのところで話を切り上げさせないと……。

 

「その魔力量も凄まじいものだった! 君が入学してすぐは教師陣が大いに期待していたのが印象的でね! すぐに話を聞かなくなり、不思議に思っていたが……まさかこんなところで──」

 

「──あー、悪い。昔話はそれくらいにしてくれ」

 

「おっとすまない! 何か用事があって来たんだったね!」

 

 あっヴィク、ナイス。

 ……ナイスじゃない、マージュのヴィクを見る目がまた変なことになってる。ボクが止めに入ればよかった。

 

「ヴィクトール君達は私の依頼を毎回引き受けてくれるからな! 質問があるならなんでも答えようじゃないか!」

 

『う~ん……上機嫌だねこの人。いつもこれで疲れないのかな?』

 

 分かんない。

 ボクなら疲れると思う。こんなテンションずっとは維持できないよ。

 

「で、ここに来た用件なんだが──この前言ってた、ワームの『急所』についての話だ」

 

「ふむ? 私がまさに研究しているそのものの内容だね! 君も研究を?」

 

「いや、野暮用で急遽知る必要が出ただけだ。『急所』について教えてくれるだけでいい」

 

 やっぱり……そうだよね。

 ついてきてくれって言われて、素直にマージュとついてきたらいきなり学園だもんね。

 で、例の学者さんの研究室にアポ無しで押しかけたんだもんね。

 その時点で知りたい情報ってなると……やっぱりそれしかないよね。

 

「なるほど……しばし、待ちたまえ!」

 

 おっと……紙に何か書き始めた。

 これは……? ……ああ、ワームの断面図か。

 やけに丁寧に書くね。すっごいリアル。これの研究者だから? 

 そんなに頭部を細かく書かなくても……あ、バツした。

 

 へ? ここ? 

 

「ここだ!」

 

 ここなんだ。

 頭部の……口より少し奥? 背中ほどはいかないけど口から目にかけての頭の中心あたり……これって。

 

「脳、ってこと?」

 

「半分正解だ!」

 

 おっ、半分正解だって! 

 じゃあ、残りの半分は何なんだろ? もう一か所攻撃すべき場所があるとか? 

 

「というのも、この魔物は霧を吐く器官やその他生命活動に重要な臓器すべてを頭部のこの位置に格納しているのだよ!」

 

 じゃあ全部じゃんか。

 というかどうしようもなくここが急所じゃんか。研究するまでもなく。

 

「こ奴らの脳は非常に小さく、そして脆い。ここの内部であればいかに弱い力や小さな傷であっても──即死する!」

 

「なるほど……」

 

「脳天直撃ってやつだな」

 

「へ、へぇ。知らなかった……」

 

『シンプル~』

 

 そうだったんだ。

 毎回ボクたち胴体ごと両断してたけど、そんなことしなくても頭の一点に上手く攻撃を当てられれば倒せたんだね……。

 

 ……いや、それならそうと早く言ってほしかったな。

 どれだけ余計にエペを魔物の血で汚したと思ってるんだろう。

 

「だが、問題はその位置だ! 奴の全長は約1km! 胴回りの直径だけでも数十メートルはあるだろう! 脳があるのはその中心、外皮から脳までの距離は……軽く見積もっても五メートル以上! しかも、奴の表皮は非常に強固……!」

 

 ……まあでも、そうなるよね。そんな簡単な話じゃないよね。

 軽い攻撃でも倒せるとはいえ、物理的にも、魔法だったとしても、あの巨体に対して表皮を突き破って貫く攻撃ができやしないし。

 そもそも胴回りですら数十メートルなら、空を飛ぶでもしない限りその位置まで届かないし。

 そこをなんとかできなきゃ、そもそも倒せる訳が……。

 

 

 

「そうか。よし、目途はついた──行くぞ、エスクリ、マージュ」

 

 ………………はぇ?




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