僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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山岳都市トロワジー
これが究極の二択かぁ……


 シェーヌド山。

 地図にもほとんど内部の情報が載ってない、人を拒むような場所。

 ……だと聞いていたけど。今のところ、拍子抜けするくらい順調だ。

 道幅は広いし、地面は平らに均されているし。ぼくたち全員、「馬車が通れるだろうか……」って心配してたのに。これなら、その心配は杞憂でしかなかったみたい。

 

『いやぁ、快適だねぇ』

 

 普段はエスクリが背負ってるんだけど……道が平らなら、馬車の揺れも少ないし。今のエペは馬車の荷台の奥の方でゆったりしてる。

 ……前々から思ってたけど、エペは背負われてるときどういう感覚なんだろう。ずっと揺れてる訳だよね、よく『揺らさないで!』って言ってるし。ずっと気持ち悪かったのかな。

 

 ただ、一つ懸念があるとすれば……。

 

「結局、なんなんだろうね、これ……」

 

 山道の途中で急に見えてきた、巨大な瓦礫の山……じゃなくて、石造りの建造物っぽいもの。

 先を歩いてたエスクリがまず見つけて、今は三人で取り囲んでる訳だけど。なんなんだろうこれ……。

 

「わざわざ道の途中にあった訳だし、関所ってことじゃないか?」

 

 とはヴィクくんの言葉だ。

 

 形を見るに……門みたいだし、確かに関所か何かの役割を果たしてた建物っぽそう。

 ただ、あくまで関所そのものとは断言できず、「っぽい」に留められているのは──その門の形のせい。

 

「……ひどい、壊れ方」

 

「だね。何をどうすればここまでグシャグシャにできるんだろう」

 

 思わず口に出しちゃったけど……それも仕方ないと思う。エスクリの応答も不思議そう。

 だって、かつては道を塞いでいたであろう頑丈な壁が──今は無残に砕け散っているんだから。

 

 これは……風化して崩れたんじゃないな。分厚い石壁が、まるで粘土細工みたいに捻じ曲げられてる。

 何らかの力が加わって、無理やり「こじ開けられた」……いや、「機能不全になるまで破壊された」? 

 

「上から押し潰された形跡があるな。空からの攻撃か、あるいは巨体で踏み潰したか」

 

「そうだね……少なくとも人間にはできなさそうな荒らし方だ」

 

 ……もしヴィクくんとエスクリの分析が正しいのであれば、この破壊痕は荒くれの集団とかじゃなく、「強力な一個体」が引き起こした災害、それによって破壊された跡地ってこと。

 つまり魔物、「ボス」の存在を示唆してることになる。

 

 う~ん……。

 地図だと山の周りには何もなかったけど、こうして魔物やボスの存在を感じ取れる何かが残ってるってことは……山の中には人の住む集落があるってことなのか。

 

「まあ、魔物がいるなら倒すだけだ。そもそも旅の目的はそれだからな」

 

「だね。避けて通る理由はないよ」

 

「うん、それはぼくもそう思う」

 

 今はエペを「修理する」ため寄り道を選択してる訳だけど──そもそもぼくたちの旅の目的は世界を巡ってボスを倒して回ること。

 いずれは倒さなきゃいけない敵なんだし、エペ自身も調子が悪いだけで戦闘に問題は無いらしいから、ボスが道中にいるなら倒してから通るだけ。

 だから、この山道に魔物が出るかもしれないっていう可能性について、こっちから特に不満は無い。

 

 ただ、一つだけ。

 どうしても違和感が拭えないのは。

 

「道が、綺麗すぎる……よね」

 

 そう。関所の残骸を避けるように、綺麗に続いている石畳。

 最近、少なくともそれほど遠くない過去に誰かが手入れをしたような痕跡があって、馬車の轍も新しく刻まれている。

 

 ……おかしくない? 

 

 初めは馬車で通るのにも苦労しない、だなんて楽観的に考えてたこの山道だけど。

 こんな化け物が暴れ回った形跡があるのに、道は生きてる。人の通った痕跡がある。

 魔物が頻繁に、それも新しく関所を立て直す時間も与えないほどのスパンで出没するのだとしたら──この舗装された山道は不気味でしかない。

 

 普通なら、こんな危険な場所、封鎖されて近づかないはず。

 それだけの価値がある拠点が、山の奥にあるってことなのか……。

 

「……まさか、山の中に都市があるとか?」

 

「そんなこと流石にある? ここに住む意味がなくない?」

 

「分からないぞ。デカい山だし、どこかに高原があればそこに集落とか作れるかもな」

 

 まぁ、こんな風にわいわい話ながら進める間は安全だよね。

 この後に何があるかは分からないけど、二人の足を引っ張らないようにできればいいな。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 嘘でしょ。

 

「……旅のモンか。ここは山岳都市『トロワジー』だ」

 

 街あったんだけど。めちゃくちゃ普通にあったんだけど。

 それも小規模な農村とかじゃなくて、割と大規模な街が。

 

 山と山の間に、不自然に切り取られたみたいな平地があって、石造りの建物がびっしりと続いてる。人の話し声とかも聞こえるし……幻覚じゃない。

 こんな山奥の、陸の孤島みたいな場所に、こんな大きな都市があるなんて。

 ……とりあえず野宿は回避できそうってこと、かな? お風呂とか、美味しいご飯があれば嬉しいんだけど。

 

「そ、そうなんだ! ボクたちも地図は持ってたんだけど、まさかこんなに大きな街があったなんて──」

 

「歓迎はしねぇからさっさと通っていけばいい」

 

「え、えぇ……?」

 

 門をくぐれば……本当に普通の町と変わらない。人も予想以上にいる。

 今のぼく──「マージュ」にはドゥジェームでの記憶しかないけど、「シエル」としては色々な街を巡った経験があるし──それと比べても見劣りしない、思ってたよりしっかりした街だ。

 市場には屋台が並んでて、野菜とか肉とか売ってる。日用品や魔法道具とかのバリエーションも豊富。

 逆に武器や防具とかの装備店、あと宿が少なめな気がする。この地域の特色なのか。

 

 ……でも。

 なんだろう、この違和感。

 

「さっきの人、なんだか冷たかったね」

 

「俺も他の住民に話しかけたがあまり相手にされなかったな」

 

「ここの地域にそういう人が多い……のかな?」

 

 二人ともよくそんなすぐに声かけられるね……ぼくには無理だなぁ……。

 ただまぁ、そんなぼくでもこの違和感にはすぐ気づける。

 

 すれ違う人たちも、呼び込みをしてる店の人たちも、さっきまで楽しそうに談笑してた人たちも……全員、ぼくたちに気持ち冷たく接してきてるような。

 下を向いたり、チラッとこっちを見ては目が合うとすぐに逸らしたり。で、ぼくたちが離れていくとまた楽し気に話始めてる。

 肌がピリピリするくらい視線を感じるのに……誰も声をかけてこない。「どこから来たんだ」とか「珍しいな」とか、そういう旅人への好奇心が一切ない。

 

「とりあえず宿と飯を食べられる店を探そう。気になることはその後で相談だ」

 

 いやまぁ、それが先決か。ヴィクくんの言う通りだ。

 ぼくたちは旅人。新天地に着いたならまずは羽を休める場所を探さないと、ね。

 

 

 

「急で済まないんだが三部屋空いてるか? 無ければ一部屋でも構わないんだが」

 

「……」

 

 やっと見つかった宿だけど……宿の店主までこっちを見る目が死んでるのか。

 ヴィクくんの質問に対しても感情がないというか、疲れ切ってるというか。愛想が悪くてもやっていけてるのは競合他社の少なさから……? 

 

 ……ところでエスクリはなんでそんな顔してるの。

 ……え、部屋数? 巨大ワームの討伐報酬でお金はあるんだから一人一部屋で十分じゃない? 何が気に入らないんだろう……。

 

「……空いてる」

 

「じゃあ三部屋で頼みたい」

 

「ああ、だが……」

 

 うわ……ひっくい声。歓迎の色なんて欠片もない。

 まぁ、空いてたのはよかった。あれだけちゃんと山道が整備されてるんだから人の行き来だって盛んなんだろうし、そんな街に宿が一つしかないんだからちょっと心配だったんだよね──

 

 

 

「──できるだけ早く、出て行った方がいいぞ」

 

 ……へ? 

 

 

 

「ここは観光地じゃねえ。長居してもいいことは一つもねえぞ」

 

 ……え、脅し? 

 なにこれ? 

 

「……多少料金が嵩もうとこっちは問題ないんだ。何か理由があるなら聞かせてほしい」

 

「理由なんざねえよ。命が惜しけりゃとっとと街から出てけって言ったんだ」

 

「……何か隠しているのか? 俺たちが長居すると都合の悪いことでも?」

 

「知るかよ。こちとらこれが通常営業だ──鍵三つ、ほら」

 

 あっこれガチのやつだ。

 マジの脅しだ。

 思いっきり「命が惜しけりゃ」って言っちゃったよ。

 えぇ……? 

 

「(ねえマージュ。なんか失礼じゃない? ここの人)」

 

「(いや、それはぼくも思ってるけど……変だよね)」

 

 正直あれが通常運転なら失礼なんてレベルとうに飛び越してるんだけど。

 え、宿の経営って客商売だよね? そんな言い方しなくてもよくない……? 

 

 街中を歩いてたときもそうだけど、さっきからずっと街の「外」の人間に対する当たりがキツめな感じ……。

 興味を持たれない……そんな感じだったドゥジェームと違って。このトロワジーは明確に「私は敵意を感じてますよ」ってアピールを欠かしてこないから別ベクトルで居心地が悪い。

 というか、そんなに外の人が嫌ならなんで宿屋経営なんてしてるんだろう、潰せばいいのに。

 

「……とりあえず、荷物置いたら飯に行くか」

 

「分かった。じゃあ一階で待ってるね」

 

「う、うん。ぼくもすぐ行く」

 

 なんか、とんでもないところに来ちゃった気がする。

 関所の破壊痕に、歓迎ムード皆無の空気、そしてさっきの……物騒な忠告。

 

 ひとまず今は、持ち物を部屋において楽な状態になろう。

 さっさと部屋に入らないと。

 

 というか、あんな忠告されるなら一人一部屋って逆に危なかったりするのかも……。

 ……あっ、だからエスクリは狼狽えてたの? 

 なんだ、ぼくはてっきりヴィクくんと同じ部屋にしてほしかったのかと……。

 ぼくも気が緩んでるなぁ……なんだか意識しちゃってるみたいで恥ずかし……。

 

 

 

「……ん?」

 

 あれ。

 何か、誰かに──見られたような……。

 

 ……おかしいな。

 ここは一人部屋だし、窓の外には山壁が広がってるだけで何もいやしないのに……。

 ……気のせい? 疲れてるから? 

 それとも……。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「なんだか……気まずいね。ボクたちが入った途端お店静かになってたしさ」

 

「まあ……さっきまでヴィクくんがいたからよかったけど……」

 

 宿のすぐ近くにあった食堂。外見はボロかったけど、中は意外と広かったし、「今日はここで食事を取ろう」ってなったばかりなのに……。

 とにかく「余所者は早く出て行け」ってアピールするみたいに、皆黙りこくるか、小声で会話するようになった。

 

 ……気まずい。おそろしく気まずい。ご飯だって普通に食べられない。

 ヴィクくんは「飲み物もらってくる」って言って、カウンターの方に行っちゃったし……早く帰ってきてほしい。

 正直彼が普通に座って普通に話しかけてくれてたから平気でいられたってのもある。

 それに引き換え、周りの視線が……言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに。

 

 ただ、もっと変なのは……。

 

「すごく、美味しい……よね」

 

「変だよね。エペはどう思う?」

 

『食べられない僕に聞かれても』

 

 そう、これ……。

 目の前には、湯気を立てるシチュー。焼きたてみたいないい匂いのパンもある。

 見た目だけは普通……かと思いきや普通に食べてみても美味しい。野菜がトロトロに煮込まれてて、肉も柔らかい。塩加減もちょうどいい。

 食べ始めてから随分経つけど痺れたりもしないし──毒が盛られてる可能性はまあ皆無。

 

「こんなに邪険にするのに、食事はあくまで一級品なんだよ」

 

「やけに高いと思ったけど……ちゃんと客としては扱ってくれてるよね」

 

『へえ、なるほど。追い出したいなら、薬でも入れて嫌がらせすればいいのに』

 

「そうなんだよ。でもそれどころか、味付けまで丁寧だし……」

 

 エスクリだけじゃなくエペも言うようだけど……やっぱりおかしい。矛盾してる。

 言葉と態度では「出て行け」って拒絶してるくせに、提供されるものはまとも。

 あんなに敵意を振り撒く癖に……殺す気はない、害する気もない。

 じゃあ、何? ただのツンデレ? ……そんな可愛いもんじゃないか。

 

 そもそも……この店の人たち、なんで急に静かになった? 

 さっきまで賑やかだったのに、ぼくたちに悪印象を与えたいなら大声で縄張り宣言でもしてくれた方が確実なのに……。

 

『ねぇ、二人とも! あそこ!』

 

 ひゃっ! 

 

 ……なんだ、エペか。

 急に脳内に響いてくるから文脈を無視して喋りかけるのは止めてほしいんだけど──

 

 

 

『──ヴィクが誰かに絡まれてるよ!』

 

「え!?」

 

「は!?」

 

 

 

 えっ、絡まれてるって……うわわわわほんとだ! まずい! 

 カウンターにいるヴィクくんの隣に座って……あれ、腕掴んでるよね! 

 

「だ、誰!? あの人!」

 

「知らないよ! ボクのヴィクに何して……!」

 

『エスクリ! ステイ! ステイ!』

 

 一瞬すごい聞き流せない言葉が聞こえた気がするけど……今は後、か! 

 

 えっと? 黒い髪で短めの……男の人か? 

 濃い紺のダボっとした……胴着みたいな服を着てる。胴着ってことは、武闘家? 格闘家? あの胴着は……前世のどこかで見たことがある気もするけど思い出せない……。

 背丈はぼくたちよりは高めだけどヴィクくんほどじゃなくて……。

 

 ……って待って。

 この敵意だらけの街にいる「胴着を着た男」が「余所者に絡んでる」って……結構緊急事態じゃない!? 

 ヴィクくんが負けるなんてことはないだろうけど、ここで武力行使に出られちゃったら誰も得しないし、かといって向こうにはそれをするだけの動機が……。

 

『二人とも落ち着いて! まずは何を話してるか聞かないと。ただの一般人だろうから』

 

「そうだけど……」

 

『エスクリ?』

 

「……はい」

 

『マージュも、それでいいよね』

 

「う、うん。ぼくは、べつに」

 

 確かに、エペの言う通り。焦ってぼくたちが手を上げても意味がない。

 相手から魔力は感じないし、そんな人に対してぼくたちの火力なら間違いなくオーバーキル。ただの世間話の可能性だってあるんだから……。

 

 えっと、なになに……? 

 

 ──「ボク……じゃない、オレの忠告が聞けないってのか?」

 

 ──「忠告するなら、理由を言ってくれ。あと飲み物が温くなるから放してくれ」

 

 ──「理由を言いたくねェんだっての。実力で教えないと分からねェのか?」

 

 ──「待てよ、何をそんなに。あと飲み物が零れるだろ」

 

 ──「いい加減飲み物置けよテメェ」

 

 声は……少しハスキーだけど、高い。

 ……あれ、髪型で男だと思ったけど……まさか……女の人? 

 

「……あれ女だよね。なにヴィクに色目使ってんのさ」

 

『あれを色目というには無理があるよエスクリ。戦争帰りでもあんなナンパはしないって』

 

「いやでも……あんなに腕掴む必要は……無いんじゃない?」

 

『マージュまで同意してどうするのさ。僕、多数決で負けちゃったんだけど』

 

 いやでもだって……。

 気になる人に忍び寄る邪魔な影って普通嫌じゃない? 

 え、そうでもない? そう。

 それは多分エペに経験が無いだけだと思うな。

 

 ……あ、ヴィクくん戻ってきた。よかったぁ……。

 相手の人も振り返ってるけど追いかけるそぶりは無いし……というか、やっと顔が見えた。

 

 短い黒髪に、顔立ちは整ってて、姿勢も良さそう。 

 かっこいい系……いや、美人? 中性的か、どっちとも取れる。

 胸は……無い、ような? 少なくともぼくやエスクリほどの大ボリュームじゃない。

 てことは、男の人か……ちょっと、その、控えめな女性か。

 

 あっ目が合っ──

 

 

 

「──って……金色?」

 

「えっあっ、ホントだ……って、えぇっ!?」

 

『はっ!? てことは──また!?』

 

 

 

 え……あの色って、ついさっき宿の鏡で見たような……というか毎日顔見合わせてるような……。

 いや、魔力は感じない……ああでも、魔力を持たない個体がいてもおかしくない、か? 

 

「えっあれ女じゃないよね。まさか」

 

『意味が変わってるよエスクリ。分かるけど』

 

 じゃあもしかして。

 あの、男とも女ともとれる顔つきで。

 あの、高めだけど男としてもあり得なくはない声で。

 あの、胸はあんまりないけどそれは判断材料にならなくて。

 ヴィクくんの背中を不服そうに金色の瞳で睨んでいるあの人は──勇者シエルの……。

 

 

 

 ……いやこれどっちだ?




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