僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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不本意自画自賛マッチポンプ

 ぼくは今、リュトの隠れ家の玄関広場にいます。

 そして、その中央では、三人と一本の勇者シエルの目の前で……。

 

「反省してっかー?」

 

「……誠に、申し訳ない……」

 

 ヴィクくんが正座をしています……。

 

 

 

 ……うん。見事に粉々。

 見るも無残な瓦礫の山。さっきまで壁だったものが、足元に散らばってる。石造りの頑丈そうな壁だったのに、ヴィクくんの突入で紙細工みたいにひしゃげちゃって……。

 たった一発の衝撃で、ここまで綺麗に吹き飛ぶかな。相変わらず彼は人間離れしてる。

 

 で、その犯人は今──顔面蒼白で首を垂れてる訳だけども。

 

「そ、その……リュト? ヴィクも悪気があった訳じゃないし……」

 

「ぼくたちからも謝るから……その、なんとか見逃すことは……」

 

「でもなァ……」

 

 瓦礫の上。肩身狭そうにしてる大きな背中。

 あの最強の戦士が、今は小さくなって縮こまってる。

 肩を落として、うつむいて、飼い主に叱られた犬みたいに。

 

 よく思うけど……彼のこの凄まじいパワーはどこから来てるのかな。

 エスクリからも「超巨大なトレントを盾でかちあげた」って話を聞いたことあるし。ワームと戦った時も、ぼくとエスクリと「百メートルに巨大化したエペ」の三人を支えたまま動き回ってた訳だし。

 リュトだって全盛期の勇者シエルのパワーをそのまま受け継いだらしいけど……それでもヴィクくんほどじゃないし。ぼくを抱えてるときとか、ヴィクくんはどれだけ手加減してるんだろうか。

 

「っ……」

 

 ……ちょっと可愛いな。

 ちょっと抱きしめてあげたいな。

 ちょっとだけだけど。 

 

「だってよ、ここにいねェはずの人間が急に壁ぶち破ってきたんだぜ? ビビるだろ」

 

「確かに、非常識だった……」

 

「ここ気に入ってたんだぜ? 廃墟とはいえ、雨風もしのげる貴重な場所だったのに」

 

「それについては本当に申し開きのしようも無いというか」

 

 ヴィクくんはぼくたちに「ちょっと外してて」って言われたあと、そのままこっそり追いかけて来たらしい。全く気付かなかった。

 で、バレないようについて来てたら急に悲鳴が聞こえてきて……入口もカギがかけられてたからとりあえず突っ切って来た。

 悲鳴っていうか、リュトが女の子だって分かったエスクリの絶望の叫びだったんだけど。

 

「で? そんな焦ってたのはどうしてだって?」

 

「……さっきまで戦ってた相手に二人が連れていかれて。騙されてるのかと……」

 

「へェ……」

 

「……なんか、そういうのじゃなかったみたいだな。早とちりして、その、ほんと、申し訳ない」

 

 ……ヴィクくんの主張としてはこうだ。

 ついさっきまでぼくやエスクリが死に物狂いで追いかけてた怪しい人がいた。

 身元不明のその人──リュトといざ話をしようって前に自分だけ追い出された。

 疎外感を感じつつ、言われた通りに離れた場所で話が終わるのを待っていた。

 疎外感だって。寂しかったのかな。かわいい。

 そしたらぼくとエスクリがリュトに連れていかれて、心配になって追いかけて来た。

 

 急いでぼくたちが「彼女は悪人じゃない」と説明し、矛を収めるよう説得。

 ヴィクくんは自分が誤解していたことと、焦りのあまり壁を破壊して不法侵入したという事実に気づいて青ざめて……そして今に至る、と。

 

「いやぁ……」

 

「そのぉ……」

 

 ちょっと、この状況に関しては……ぼくたちとしても罪悪感を感じる。

 

 ここはリュトの隠れ家で、壊したのはヴィク。

 だけど、彼を仲間外れにして──この状況を招いたのは他でもないぼくとエスクリ。

 エペやリュトと「勇者シエル」についての会話をするんだから、彼を会話に混ぜる訳にはいかないし、仕方ないんだけど……。

 

 ……よく考えたらエスクリが優先的にやってたとこに続いただけだなぼく。

 どうしてシエルの会話に彼を混ぜちゃダメなのか聞いてないな……。

 

「しかもせっかく破けたサラシを変えようとしてた時に」

 

「確かに、女性のプライベートに踏み入るのは……良くないよな……」

 

「その上、女の一人暮らしだぜ。冗談だと思ってたあの口説きはマジだったのか?」

 

「……悪かった。責任は取るから……」

 

 ……今ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするけど。

 そんな他所の人に軽々しく「責任」なんて重い言葉使わないでほしいんだけど。

 リュトもリュトでさ。胴着の中の盛り上がったそれをぷるぷる持ち上げて話すの止めてくれないかな。無意識なんだろうけど、ちょっとはだけてるし、腕組みしたせいですごい強調されてる。

 ……わざと見せつけてるみたいだよ? 

 

 まぁでも、声はそこまで怒ってるとか呆れてるとかではなさそう。

 どっちかというと楽しんでるような。そこまで問題視してるってことじゃないのか。

 ヴィクくん普段はかっこいいのに暗いとこが怖いっていうギャップあるから。つい揶揄いたくなるのも仕方ないっていうか。気持ちはよく分かるよ。またキモいこと考えてんなぼく。

 

「まァ、いいさ。反省してるみてーだし」

 

「……!」

 

「責任取るっつってんだし、ここの片付けと弁償については頼むが……ひとまず許してやるよ」

 

「い、いいのか! ありがとう! 恩に着る!」

 

 ……あ。

 

 とかなんとか考えてたらなんか話が落ち着いて来たみたい。

 よかっ……。

 

 

 

「それで──結局俺は、どうしてハブられてたんだ……?」

 

 

 

「……緊急会議! マージュ! リュト! 集合!」

 

「え、うん」

 

「お、おう」

 

「……俺は?」

 

「ちょっと待ってて!」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「(……ヴィクくんずっとこっち見てるけど)」

 

「(……で? 結局なんで黙ってるんだ)」

 

「(それは……その……)」

 

 緊急会議。場所はリュトの隠れ家の隅。議題は「ヴィクくんにどう説明するか」。

 ……って言っても、ぼくとしては別に喋っちゃっても良いんじゃないかと思う。ここまでヴィクくんにだけ秘密にする理由がよく分からないし……多分それはリュトもそう。

 

 そりゃ確かに、公に「ぼくは『勇者シエル』の生まれかわりです!」って宣言する必要は無いと思うよ。

 そんなことすれば重要な国や地域に召集されて、偉い人のお抱えとして一生を終えることになるだろうし、そうでなくても旅はずっとやりにくくなるはず。世界の平和を維持するって目的からは大きく遠ざかる訳だ。

 

 ただ、ヴィクくんだけは別じゃないか? 

 彼だけはこれからもぼくと一緒なんだし、エペが喋ることも踏まえて、もういっそのこと喋ってしまってもいい気がする。ヴィクくんなら、優しいしきっと受け入れてくれると思うけど……それをエスクリがしない理由は何だろう? 

 

『……実は、ヴィクは勇者シエルに憧れてるんだ。かなり純粋に』

 

「(……へ?)」

 

 ………………勇者シエルに、憧れてる? 

 あのヴィクくんが? ぼくに? え、ほんと? 

 

「(ん? そうなのか?)」

 

「(……そうなんだよ)」

 

「(へェ……オレのことを。そうか……)」

 

 ……なんかドキドキしてきた! 

 あんなに強くて、頼もしくて、完璧に見える人が……前世のぼくに、憧れてるって? 

 彼に憧れてるのはこっちだってそうなのに。ぼくを強く肯定してくれた、ヴィクくん自身が……前世のぼくを理想にしてくれてるだなんて、そんな……! 

 

 ……あっ。

 じゃあ、エスクリが黙ってるのは……。

 

「(じゃあこのことを話さねェのは……)」

 

「(……彼の夢を壊したくないから?)」

 

『そういうことになるね。証明手段が無いから場合によっては嘘吐きと思われるかもだし』

 

「(……あと、剣に話しかける変人だと思われたくなくて)」

 

『おい』

 

 あー……そうか、そういうことか。

 

 今の時代、なんだかんだ勇者シエルに憧れる男の子ってのは結構多い。「魔物」「ボス」っていう現役の脅威が存在するから猶更。

 しかも、魔王を倒した後、華やかな凱旋を遂げて栄誉ある一生を送った……っていう説が一般的だから、そういう成功の象徴として見てる人も少なくない。

 ヴィクくんもそうだとしたら──「きみの憧れの存在は、前世ですぐ早死にした後、今女の子としてあなたにデレデレしています」……って教えることになっちゃうのか。

 

 しかも、話したが最後。

 ぼくたちとの関係も大いに変化することは間違いなし……。

 

「(あっこれすごい嫌だ!)」

 

「(……まァ、確かに話したくねェな)」

 

「(で、でしょ!? だからどうしよう!?)」

 

 でも、どうする? 言えないなら、誤魔化すしかないけど……なんて? 

 何も言わなければヴィクくんに「自分は仲間として信用されてないのでは?」って思わせかねないし。女の子だけの秘密って言い張ろうにも性別不明だった時点のリュトを会話に混ぜてるから矛盾が生じる。

 作戦会議とか? それならヴィクくんも混ぜるべきだ。彼を納得させるには至らないし、秘密も守れない……。

 

 

 

「……その、まだか? 何をそんなに話してるんだ……?」

 

 ……! 

 

 

 

「あー……その、なんというか……」

 

 ああ……! ヴィクくんがちょっと不安そうな顔してる! 

 当然だ、こんなに何度も待たされたら誰だって不信感を持つし、痺れを切らしてもおかしくない。

 

 でも、どうしよう? 

 エスクリは……困ってる、目が泳いでる、「どうしよう」って顔に書いてある。

 リュトは……いやこっちも同じか。そもそもパーティーメンバーじゃない彼女に説明させるのもマズイ気がする。

 エペに喋ってもらう訳にもいかないし……ダメだ誰も頼りにならない! 

 

 どうする? どうするマージュ? 

 このままじゃ、ヴィクくんとの間に溝ができちゃう。

 何か言わなきゃ。彼を納得させる、何かを。

 だから……えっと……! 

 

「じ、実はね……!」

 

 ……ええい、ままよ! 

 

 

 

「ぼくたちは……勇者シエルの──過激派オタクだったんだ!」

 

「……な、なんだって!?」

 

 

 

「(!? えっちょっマージュ!?)」

 

「(!? おい何オレまで変なのに巻き込んでやがんだ!)」

 

『わーお……』

 

「(三人とも静かにしてて!)」

 

 ……い、言っちゃった! なんとかしなきゃって思ってつい口走っちゃった! 

 ヴィクくんだけじゃない、残りの元シエルたちからも三者三葉の熱い視線が……! 

 

 ……いや、エペに視線は無かったな。

 そうじゃなくて! 

 

「勇者シエルの……か、かげきは……おたく? それってどういう……」

 

 ヴィクくんが困惑してる。いける、今しかない。

 このまま話をなんとか彼を傷つけず拒絶の話に持っていくんだ。「きみとは話したくない」じゃなくて、「話せない理由」が必要なんだ。

 二人が何も言い出さない以上ぼくが何とかするしかない! 

 

「し、しかもぼくたちは、その……」

 

「その……?」

 

 

 

「解釈違いに厳しい、同担拒否の……ガチ恋勢なんだ!」

 

「……???」

 

 

 

 ……よし。

 世界が静止した気がするけど……おかげで完全に話の流れは手に入った。

 

「(待って。待ってマージュ。ホントに待って。ボクもう……)」

 

「(なァ、別にオレ前世の自分は好きじゃねェんだけど)」

 

「(で、でも! もう言っちゃったよ! 他に良いやり方があるなら先にやってよ!)」

 

 後ろの二人も言い返したら黙り込んだ。

 他に良い方法が思いつかないから、この場で無理やり前言撤回を宣言してその場を取り持てる自身が無いんだ。

 いや、良い方法っていうか……限りなく最悪な方法な気がするけど。

 

「えっと……?」

 

「と、とにかく!」

 

 でも、この流れなら──秘密の会話をする理由付けができる! 

 早口でまくし立てろ。勢いで押し切るしかない。

 

 

 

「ぼくたちは勇者シエルへの愛が重すぎて……すぐに喧嘩になっちゃうんだ! それぞれの『最強のシエル像』があって……それを譲れなくて! だから、他の人の意見なんて聞きたくないし、ましてや……ヴィクくんみたいな、純粋なファンには、この、血で血を洗うようなドロドロした争いを見せられないんだ!」

 

『なにこれ』

 

 

 

 ……言い切った。

 顔が熱い。耳まで真っ赤だ。

 なんてこと言っちゃったんだろう。「愛が重すぎて喧嘩する」って。

 自分たちのことなのに。

 

 でも、これなら、「ヴィクくんを嫌いだから仲間外れにしたんじゃない」ってことは伝わるはず。

 まだ歪んだ優しさとして「大切だからこそ、見せたくない」っていう風に持っていけるはず。

 

 肝心のヴィクくんの反応は……? 

 

「……お、おう。そうか。その、悪かった。俺が未熟だった」

 

 ……よ、よし! 

 納得してくれてる! 

 

 これで大丈夫だ! 

 これならぼくたちが急に話し合いを始めても、彼に原因はないと納得してもらえるし、ぼくたちも善意でそうしていると理解してもらえるはず。

 実際にヴィクくんから勇者シエルの話を持ち掛けられても、ぼくやエスクリやリュトはこの世界の誰よりも勇者シエルに詳しい。

 だから口裏合わせをしなくてもボロは出ない……完璧だ! 

 

「(やったよ二人とも! 誰も傷付けずに誤魔化せたよ!)」

 

「……」

 

「……」

 

 ……あれ。

 どうしてそんな怖い顔を……? 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「……ねぇ、マージュ」

 

 ……痛い。視線が痛い。

 やっと宿まで帰ってこれたはいいけど……隣を歩くエスクリからのプレッシャーが半端ない。

 いやまぁ、怒ってるよね、呆れてるよね。分かってる、ぼくが悪かった。

 でも、あれしか思いつかなかったんだよぉ……。

 

「その、ボクたちはこれからずっと前世の自分に恋する過激なファンとして振舞わなきゃいけなくなったんだけど」

 

「うぐっ……」

 

「ボクは男なんだよ? なのに、これから……ヴィクの前で? はぁ……」

 

『いやぁ、君たちは大変だね。同情するよ』

 

「こんの……!」

 

 うん、冷静になった今、想像してみよう。

 これからヴィクくんや他の人が勇者シエルを話題にあげた途端、喧嘩するフリをするぼくたち。

 ……地獄だ。

 なんという羞恥プレイ。自分の前世をネタにして、ナルシスト極まった発言を繰り返す。

 

「……ご、ごめん。でも、あそこでああ言うしか……」

 

「……いや、助かりはしたけどさ。何も言い出せなかったボクたちも悪かったし……」

 

 ま、まぁ、エスクリとしてはあの場が収まったからギリギリで許してくれるみたい。

 リュトも初めの方は「なんでオレがそんなこと……」って文句言ってたけど、途中でケロっと機嫌直してたから……よしとしよう。

 

「じゃ、また明日ね」

 

「うん……」

 

 ……今日は疲れた。

 リュトを追いかけて、ヴィクくんの腕の中に包まれて、この街やボスの事実を知らされて、そして最後の修羅場。

 ぼくもさっさと部屋に戻ろう。布団被って寝たい。

 今日一日で、一生分の冷や汗をかいた気がす──

 

「──え?」

 

 ……ヴィクくん?

 

「ん? ああ、マージュか」

 

 ……なにその荷物? 

 ヴィクくんがなんか荷造りしてるんだけど……こんな時間から? 

 

 あれ、今日はもう予定なかったよね……? 

 え、もう出発するってこと? 流石にまだ補給のほの字もできてないけど……。

 そもそももうぼくたちはこの街から出られな……あっそういえば、ヴィクくんはそのことまだ知らないんだった。

 じゃあ教えておかないと。それで、荷物の理由を聞かないと……。

 

「その荷物は……?」

 

「ああ、これか」

 

 

 

「『住み込みで壊したもん直せ』って言われたから、これからリュトのところに邪魔することになった」

 

 ……? 

 

 

 

「……すみこみ?」

 

「住み込み。別に二人まで働く必要はないぞ、行くのは俺だけだ」

 

「スミコミ……」

 

 え、なんで? 

 ついさっき帰って来たばかりじゃ……。

 

「帰り際に頼まれてな。俺も家を破壊した張本人だし、ケジメはつけねえと」

 

「リュトに……頼まれて?」

 

「おう、できるだけ早く済ませるつもりだ。エスクリにも伝えてから出発する──じゃあマージュ、おやすみ」

 

「え、あ……」

 

 ……住み込み? 

 一つ屋根の下で? 寝食を共にするってこと? 二人きりで? あの狭い廃墟の小屋で? 

 

 

 

 ……えっ同棲じゃん!?




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