僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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幕話:メンテナンス

 やっとこさシェーヌド山も抜けられて。一年ぶりのだだっ広い平原を見ることができて。

 一歩進む度に土の香りが鼻まで届くような、この解放された空間で。周りに誰もいなきゃ今すぐ走り出したりしてたのに。

 

 オレの目の前で起こってるのは──今日も今日とて会話から外されてるヴィク。

 

 本当は今頃……気ままに一人旅してたはずなんだがなぁ……。

 いやまァ、コイツらと一緒にいるのがイヤって訳じゃねェが……。

 

「──あぁ、分かった。いつもの『あれ』だな」

 

「ボクたちのせいで、仲間はずれにして──ごめん、ヴィク……」

 

「いいさ。俺がその領域まで辿り着けてないだけだ。じゃ、向こう行ってるから」

 

「うん、ありがとう……!」

 

 このやり取りも慣れたもんだな。もう何度目だっけか。

 ああ言って遠くに移動する度、オレたち三人は厄介シエルファンだと思われてるのが納得ならねェけど。

 

「……で? 今回は何の議題だ?」

 

「う、うん……えっとね」

 

 これは……地図か。

 デカいな。マージュ一人で広げるには結構無理がありそうなサイズだぞ。

 

 てことは……なるほど、これからソワン国への行き方を説明してくれるってこったな? 

 今見えてるこの空白が、シェーヌド山を越えた先にある平原地帯で。そこから点々と続く小さなマークが……村だな。

 

 ……いくつかの村に目印がつけてあるのは──そういうことか? 

 もう嫌な予感がしてきたんだが。

 

「ぼくたちはこのまま『ソワン国』へ向かうから……ここと、ここと、あとこの村を経由するつもりなんだ」

 

「おう」

 

「補給もできるし、安全だし……で、国境手前の最後の村『カトリエ』を通って、そこからソワン国に入るつもり……なんだけど」

 

「あー……」

 

 ……やっぱりか。

 そんな不安そうな目しなくたっていいって。

 要は「ぼくたちはこういうルートで向かう予定だけど、被ってる?」ってことだろ? 

 被ってなかったら、オレは一人旅できるから、それを確認したいってことだよな。

 

 見事にばーっちり──オレの想定ルートと全部一緒だよ。

 

「……オレも同じルートだ」

 

「……そっかぁ。ぼく、喜んでいいのか、残念だねって言うべきなのか……」

 

 いやそうだよなァ……。

 村は沢山あるが、一番効率的に、物資の補充も兼ねつつ移動するなら……誰がどう考えたってこのルートを選ぶ。

 わざわざ獣道を行くとか、大きく迂回して別の街道に出るとか、そんな酔狂な真似をしねェ限りは。

 

 はァ、参ったな。

 オレ自体の持ち物は少ねェからわざわざ遠回りするだなんて選択肢は取れないし。かといってコイツらに「別の道行ってくれ」なんて頼むのは流石に申し訳ない。

 どっちかが先行しようにも、中継地が同じだからどっちにしろ合流するし。一人旅をしたいのは事実だが、コイツらの顔も見たくねェってぐらい離れたい訳でもないし。

 

 ……仕方ねェか。

 

「てなわけで、『カトリエ』までは一緒だな。よろしく頼むぞ」

 

「……! う、うん! よかった……」

 

 んな露骨にほっとしたような顔しやがって。

 確かに場合によっちゃ進路変更も有り得ただろうから安心だろうけど。

 

 まァ、あくまで「ついで」だよ。別に仲間になったわけじゃねェ。ただ目的地が同じだから、道中を共にするだけ。ここまで来てわざわざ別行動する方が逆に面倒だ。

 戦力としても役に立つからな。ちょっとぐらいお互いの安心を提供するって意味でも得っちゃ得だろう。

 

 ……よく考えたらこのパーティー攻撃職しかいねェな。

 怪我とかしたらどうすんだ? 自然治癒? 

 

 

 

「で、次はボクから報告。エペの状態についてだけど……見ての通りだよ」

 

『あー……ごほんごほん……うあー……』

 

「うわァ」

 

 ──デローン……

 

 えっなんだこりゃ、酷ェな。

 ……剣? エペ……だよな? 金属の棒だよな? 

 なんで飴細工みたいに垂れ下がってんだよ。重力に負けてひん曲がってるじゃねェか。

 これじゃ斬るどころか、叩くことさえできねェぞ。鞭か何かか? 

 

「不調の状態で、マージュの魔力をさらに流し込んだ反動が……今になって本格的に出ちゃってて」

 

「あァ、俺を助けたあの時の……」

 

「それで、その日の夜から──完全に硬さを失っちゃって……しかも、言葉も上手く出てこないみたいで」

 

「超重症じゃねェか」

 

 マジか、そんなことなってやがったのか。

 じゃあアレだよな。俺を助けるために、最後の変身一回を使っちまったせいで──今こんなことになっちまってるっつーことだよな。

 罪悪感凄ェんだけど。

 

「意識ははっきりしてるみたいなんだけど、会話に相当影響が出てて……」

 

『ごめ……ちょ……しゃべ……れな……』

 

 ……相当参ってんな。人間で言えば高熱出して寝込んでるような状態か。

 思えばあの戦い以降やけにエペが喋らねェと思ってたんだ。こういう理由があったとは。

 

「だから、戦闘だと、ボクは予備の剣を使うしかない。足を引っ張るかも……ごめん」

 

「いやいや、オレを助けるためだったんだからしょうがねェだろ。エペも悪かったな」

 

「いや、それなら! 魔力を流したのはぼくなんだし、ぼくにも責任が……」

 

『堂々……巡り……』

 

 いやまァ、剣士なんて武器が変わっちまえば戦闘スタイルも大きく変わっちまうだろうし、エペは切れ味も一級品だ。それを封じられるってことは……間違いなく戦力ダウン。

 この状態で敵襲を受けたら……守るのはヴィクだけの役目になっちまう。

 オレの同行に安心したのは、前衛が増えるのも理由の一つか。

 

「とりあえず、それの報告。ヴィクにも、エペのことは内緒で必要なことだけ伝えてあるから」

 

「了解だ。肝に銘じとく」

 

 となると。ますますソワン国へ急がなきゃならねェってことだな。

 それが結論ってことで、今期の会議は終わりそ──

 

「──それと、最後にもう一つ」

 

 ……終わらなさそうだな。

 

「……リュト、最後に一つだけ、聞きたいことがあるんだけど」

 

「ぼくからも、お願い。すごく気になって……」

 

「お、おう」

 

 ……なんだその目は。

 議題はオレなのか。

 探るような、責めるような、それでいてどこか怯えたような目して……。

 ……なんかすっげーゾワッとしたぞ。嫌な予感がする。

 

 

 

「昨日の夜のこと……なんだけどさ」

 

「リュト……ヴィクくんと二人で──『何か』してたよね……」

 

 ……あァ? 

 

 

 

 昨日の夜? 

 なんだ、ヴィクが番をしてたときのことだよな? 

 

「ボクたち、寝たふりをしてた訳じゃないんだけど……ふと目が覚めちゃってさ」

 

「う、うん……それで何だか、色っぽい声が……聞こえちゃって」

 

 おっと……寝てなかったのか。

 てっきり眠りこけてるかと。

 

 あー……じゃあ、「アレ」か。

 うん、心当たりあるぞ。確かに『何か』やってたな。

 それについて話せってことか? 

 しまったな。内緒話ってわけでもねェが、お前らを起こさないように小声で話してたのが逆に怪しかったか。

 

 でもなァ……あのこと喋っちまったら、ヴィクがお気に入りのこの二人はさぞかし嫉妬するだろうしな。だから黙ってようと思ってたんだが……。

 ……いや、そんな風に隠せば隠すほど、後ろめたいことしてたって風に思われかねないか。それで因縁つけられても困る。

 

 仕方ねェか。

 別に大したことじゃないし、問題になる前に、さっさと喋っちまおう。

 

「よし、いいぜ。教えてやる。昨日の『アレ』についてだな──」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ──昨日はまだシェーヌド山を抜けてなかったよな。大体、中腹あたりだったか。

 道が整備されてるって言っても、やっぱ山は山だ。平地とは空気が違うし、地面も固い。野宿するには骨が折れる環境だよな。

 

 だからこそ、下山で体力を消耗したお前らはさっさとテント張って、早々に夢の中へ行っちまった訳だが。

 

 静かなもんだったぜ。聞こえんのは虫の声と、時折吹く風の音くらい。

 テントの横じゃ、マージュが残した魔法の明かりが浮いてたな。アレ便利だよな。薪もいらねェし、煙も出ねェ。

 

 オレはちょっと離れた岩の上で体を伸ばしてたんだよ。全然眠気とかはなかった。

 ほら、オレって同じチームじゃねェから生活リズムとか無理に合わせる必要ねェし。寝る前に運動の一つでもして、体を疲れさせとこうかなって思った訳だ。

 

「……あー、イテテ」

 

 二人もそうなのかは知らねェが……首を回す度にゴリゴリ嫌な音がするんだよ、オレ。

 肩甲骨周りもガチガチだ。腕を上げるだけで突っ張る感じがしてた。

 

 普通の人間なら「筋肉痛」で済むんだろうが、オレの場合は……分かるだろ? 

 何せ中身は「勇者シエル」の全盛期並みの怪力だ。骨格は女なのに、筋肉だけ異常に鍛えられてるからな。重力に逆らってるだけで負担がかかるっつーか、鎧を着て歩いてるようなもんなんだよ、常に。

 

「……どうした? どっか痛むのか?」

 

 そしたら、そっちの番してたヴィクがこっちを見て声かけてきやがったんだ。

 心配そうな顔しやがって、相変わらずお節介なヤツだろ? 

 

「ああ、ちょっとな。筋肉って重いからよ」

 

「なるほど、分かるぞ。俺も似たようなものだからな」

 

 まァそりゃアイツなら分かるか。ヴィクも大概、人間離れしたフィジカルしてるしな。

 意識しなきゃなんでもないが、逆に力抜いてると疲れやすいっていうか。短期戦型なのかもな、オレは。

 

 自分で肩を揉んだりした経験はあるんだが……如何せん自分の手じゃ届かねェ場所があるし、何より力が入りにくい。

 人に頼むにしても、生半可な力じゃオレの筋肉はビクともしねェし……ってなって、そこでひらめいた訳だ。

 

 目の前に──ちょうどいいヤツがいるじゃねェか、って。

 規格外の怪力を持ってて、しかも今、手持ち無沙汰にしてる男がよ。

 

「おっ、そうだ。なあヴィク、お前暇だろ?」

 

「暇ってわけじゃないが……番をしてるだけだからな。どうした?」

 

「マッサージしてくれね? 背中とか、自分じゃ届かなくてよ」

 

 ほら、これがお前らの聞きたかったことさ。

 思い付きにしちゃ名案だろ? コイツの力なら、間違いなくオレの凝りもほぐせるはずだ。

 岩をも砕くオレ以上の力だぞ? 人間の肩くらい余裕だろ。

 

「……ん? いいのか? 俺は上手く加減できる自信が無いが」

 

「ハッ、誰に向かって言ってんだ。オレだぞ?」

 

 まァ確かにアイツの力でマッサージすれば骨の一本や二本は覚悟が必要かもな。

 だがな、オレは普通の人間じゃない。こちとら魔物相手にも負けないフィジカルだぜ? 

 むしろ、それくらいの力でやってもらわなきゃ意味がねェと思う。

 

「いいじゃねーか。オレの家の壁のこととか、まだ気にしてんだろ?」

 

「それは……そうだが」

 

「だったら、これで返してくれよ。オレの体をメンテする、それが償いだ。悪くねェ取引だろ?」

 

 実際、アイツが気にしてるのは家の壁だけじゃなくて。落ちそうになったところをオレが……いやいや、これは秘密だったな。

 ま、オレとしちゃ今更ぶっ壊れてもう住むこともない家の壁なんざどーでもいいが……それで責任感じてるみたいだし、ありがたく利用させてもらおうってことだ。

 オレとしても、助けてもらった借りは返しきれてねェしな。

 

 あのボス戦で、オレがトドメを刺し損ねた後、コイツが始末してくれたおかげで街は救われた。オレの命も救われたようなもんだ。

 向こうはなんとも思ってねェだろうが、その借りを言葉だけで返すのは癪だし、かと言って金で解決するのも味気ねェ。

 だから、こうして「女の体」を触らせてやるってことでチャラにしてやろうかと。

 オレはマッサージされて気持ちいい、コイツは女の肌に触れて役得。ウィンウィンじゃねェか。お互い様だろ? それでヴィクが喜ぶかどうかは知らねェが。

 

 ……おい、まだ話の途中だろ。

 なんか目つきが怖いぞテメェら。

 

「よし分かった。お前がそこまで言うなら、やらせてくれ」

 

「おう、頼んだぜ。遠慮はいらねェからな、ガッツリいってくれ」

 

 とりあえず、交渉成立。

 じゃあ、お手並み拝見と。

 

 オレは岩の上から降りて、平らな地面にうつ伏せになったんだ。

 その後、背中の方からヴィクが近づいてきて……あのときはなんだか緊張したぜ。

 俺の背中に触れるときはだいぶ恐る恐るって感じで。どれぐらいの力加減がいいか確認してたんだろうな。

 

 そのあと。

 

 ──グッ……

 

「んっ……!」

 

 ってな感じでマッサージが始まった。

 肩甲骨の内側、一番凝ってるポイントに、親指が沈み込んでくるんだよ。

 やっぱデカかったな、アイツの手。オレの背中の半分を覆っちまいそうなぐらいだったか? 

 

「……どうだ? 痛くないか?」

 

「全然。もっと強くていいぞ。そこ、グリグリいっちゃってくれ」

 

「……そうか。じゃあ、少し力を入れるぞ」

 

 ──グググッ……! 

 

 そっからはすげェ気持ちよくてよ。これだよ、これを待ってたって感じで。

 筋肉の繊維を一本一本引き剥がすような、強烈な圧力だぜ。

 痛い、けど気持ちいい。脳味噌が痺れるような快感だったな。

 普通のヤツなら悲鳴上げて逃げ出すだろうが、オレには丁度良かった。

 

「っ……あっ……くぅーっ……! そ、そこ……!」

 

「なるほど……これぐらいの加減か……」

 

 今までのマッサージは何だったんだってくらい、次元が違うぜ。

 旅先で女のマッサージ師に頼んだこともあったが……あれじゃ力が足りないし、なんというか「撫でられてる?」みたいな。「もっと強く」って言っても、「これ以上は無理です!」って泣き言言われて終わりだ。

 詐欺だろあれ。入る店を間違えたか? 

 

 かと言って、男に頼むのもなァ……。

 一応オレも女だ。オレの体を自由に押したり揉んだりしてくれって頼んでも……絶対にトラブルになるだろ? そういう目で見られるのも気持ち悪いしな。

 

「よし、だいぶほぐれてきたな」

 

「おう……生き返るわ……」

 

「相当凝ってるぞ? 鉄板でも入ってるのかと」

 

「ハッ、褒め言葉として受け取っとくよ。自分じゃどうしようもなくてな」

 

 その点、ヴィクなら安心だろ? 

 アイツはとんでもない力持ちだし、割りかし技術も持ってる。どこが気持ちいいか教えたらすぐ覚えていくんだ。

 それにアイツは疚しいこと考えたりする様子がねェからな。

 マッサージすることに夢中で……いや、力加減に集中しすぎてただけかもしれねェが。

 

 ……なんだって? 不用心? 警戒心が無い? 

 男に夜の番任せてぐっすり眠れるお前らに言われる筋合いはねェぞ。

 別に、オレだって手出されそうになったら抵抗するって。

 ヴィク相手なら、まァ……「調子乗りすぎだぞ」ってデコピンで許してやるが。

 

「いいねいいねェ。次頼むときは脚もやってもらおっかなァ……?」

 

「武器を握るときと同じぐらいの力加減で……一回ここで試していいか?」

 

「……もうちょっと手加減しろ。千切れちまう」

 

 結局、「性欲あんのかなコイツ」とか思いながらマッサージを続けてもらった訳だ。

 ま、細けェことはいいんだよ。男友達みたいな関係の方が、オレには都合がいいからな。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「──っていうのが、昨日の出来事だ。満足か? エスクリ、マージュ」

 

 ……なんでそんな顔するんだ。

 正直に答えたじゃねェか。

 

「いやでもボクは男だからマッサージなんて……ん? 男同士でマッサージを頼むのはおかしいことじゃない? ボクは別にマッサージを頼める? いやでもそれでヴィクがその気になったらボクとしては困るというかなんというか……」

 

「ヴィクくんのマッサージって……あの形の良い手に、全身まさぐられるってことだよね? しかも、耳元であの低音を囁かれながら……意識保てるかな。それにあの力だと……あれ、悪い意味でも意識を保てなさそうな気がする……?」

 

 何をブツブツ言ってんだか……。

 

 思えばなんか変な雰囲気は感じてたんだよな。

 アレって、二人が起きて聞き耳澄ましてた音だったりするのか。気になるなら混ざれば良かったのによ。

 

 

 

「というか──今から頼めばいいんじゃねェか? 多分断らねェだろ」

 

「……えっ?」

 

「……えっ?」

 

「あっでも、お前らの体じゃあの力に耐えられないか。やっぱ止めとけ、オレ専属で練習させないと血を見るわ」

 

「は?」

 

「ん?」

 

 

 

 ……なんでそんな睨んでくるんだよ、事実だろ。

 知り合いのマッサージ師でも紹介しようか? オレ出禁になってるけど。




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