僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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農村カトリエ
現実はジャムのように甘くなくて


『あー……あ、あ、テス、テス……』

 

 ……ダメだ。 

 喋りたいのに、やっぱり届かない。

 

 そう、不調ではあるけど思考はクリアなんだよね。

 その思考が喉元まで言葉が出かかってるんだけど……音が形にならない。水の中に沈められたみたいだよ。不便だなぁ、これ……。

 剣が何言ってるんだって思うかもしれないけどさ、「えっ、さっきの道って右で合ってる?」とか「そのスープ塩足りないんじゃない?」とか、些細なことすら伝えられないって。

 

 錆びたまま森の中で放置されてたことを思い出すなぁ……。

 エスクリに見つかるまでの十六年間が懐かしいよ。僕の世界だけが土の中に埋められたみたいに静寂。前と違うのは──ダイレクトに外の状況が伝わってくるってことか。

 これが「壊れる」ってことなんだね。物質としての視点を持てるようになって、これが一番の収穫と言っても良い気がするよ。

 今後はものを大事に使おうって思えるようになった。使う側に戻れるのかは疑問だけど。

 

 それに、何より……。

 

「ねぇヴィク。そろそろカトリエだね!」

 

「そうだな、エスクリ」

 

「ヴィクくん、ほらこれ……水筒」

 

「ありがとな、マージュ」

 

「なァヴィク。お前らこの後どうすんの?」

 

「何日か滞在してからソワン国の予定だな、リュト」

 

 ……この「特等席」で見せつけられる光景が、僕の精神をガリガリ削り取っていくのが一番の苦痛だ。

 

 エスクリは何でもない内容ですら一々ヴィクに話しかけるようになったし。

 マージュは一見素直に見えて、とにかくヴィクの役に立とうと意識しすぎてる。

 リュトはそういう雰囲気無いんだけど……如何せん距離が近いというか。

 

 いやぶっちゃけ自分自身がふにゃふにゃになって剣としての役目を果たせないってのはもういいんだよ。僕自身の不調だし、そういうことはしょうがないかなって。今の目的だって僕の不調を直すことだしさ。

 でもこれは……ちょっと。

 

 頼むから、僕の目の前で「僕」を辱めるのは止めてくれないかな。あれって他人じゃないんだよ。全員かつて「シエル」だった魂たちで、全員僕と同一人物なんだよ。

 つまり、あの「構ってちゃんな態度」みたいな表情も、あの「健気な尽くしたい」みたいな仕草も、あの「無自覚に距離感バグってる」態度も……全部、僕の中に眠っている可能性の一つってことになっちゃうんでしょ? 

 僕が意識しすぎなのかもしれないけど……少なくとも、山を出てすぐの頃はまだ控えめだった。でもなんだか、どんどんパーティーの雰囲気が変わっていっちゃって……いやぁ、ゾッとする。背筋……いや、刀身に悪寒が走るというか。僕も、もし人間の体を持っていたら、あんな風になっちゃってたのかな。

 

『こ、この………………はぁ……』

 

 別にヴィクに惚れ込むこと自体はいいんだよ。僕だって彼は良い男の人だと思うし。彼と友達になりたい、彼に頼ってもらえる存在になりたい……そういう気持ちは分からないでもない。

 ただ、皆自分が男ってことを忘れてるみたいな表情でああやって話しかけるのが……特にそれを、僕が割り込んで指摘できないってのがとにかくむず痒い。

 

 胃袋なんてないけど、鉄の味が口の中に広がる気分だよ。自分自身の黒歴史を、リアルタイムで、高画質で、しかも三方向から同時に見せつけられる精神的拷問だよ。

 叫びたい。「皆、正気に戻って!」って怒鳴りつけて、客観的に自分が今何をしているのかって突き付けたい……でも、声が出ない。口に出して割りこめないってのがこれほどまでに居心地悪いだなんて。

 

 ……ああ神様、僕前世で何か悪いことしましたか。

 世界救っただけなのに、あんまりじゃないですか? 

 ……はぁ、心臓に悪い。

 敵にやられる可能性がほぼほぼ無いってことぐらいしか安心材料がないよ。

 

「ボクも戦えたらね……そしたらもっと役に立てるんだけど」

 

「エスクリはぼくの護衛を頑張ってくれるじゃんか」

 

「そうだぜ。正直そこらの雑魚はオレとヴィクでどうにでもなるんだし」

 

 ここまでいくつかの村を経由して、なんどかボスと戦うこともあったけど……でろでろになった僕が心配をする場面はもう、これといってこなかった。そこそこ大きなオーガとか、沼にいた巨大魚とか、いつぞやに見たトレントの亜種とか。本来であれば厄介な敵……のはずだったんだけど。

 

 どの相手も。エスクリがマージュの護衛、ヴィクとリュトが飛び込んで相手の機動力を削ぎ、マージュがトドメに超火力の火魔法をぶち込んで瞬殺……こんなんばっかりだった。

 なんなら「足止め役」のはずのヴィクとリュトがそのまま敵を殺しきることだってあったし。少なくとも通常の魔物戦で、マージュの力が必要になる場面は一度も無かった。だって的が無いからね。

 ちょっとこのパーティー大丈夫かな。攻撃役ばっかりで、火力に全力投球な気がする。あまりにもバランスが悪い。

 

 あ。

 そんなことを考えてるうちに……。

 

 

 

「おっと……じゃあ、こっからオレとは別行動だな」

 

 ……ああ、やっとここまで来たんだ。

 

 

 

 小さな農村『カトリエ』。

 ソワン国への関所の一つ手前にある村で、国に入るためには必ず通ることになる場所。

 つまり、一人旅を続けたいリュトは、ここで別れることになる場所。

 

「よし! じゃあまたな! 今度はソワン国で会おうぜ!」

 

「あ、行っちゃった……」

 

 着くや否やリュトがものすごいスピードで手を振ってどっか行っちゃった。エスクリたちも、「またね」なんて笑顔で送り出してるけど。

 いやまぁそうだよね。旅の最中もずっと「近くに人の目があって落ち着かない」「あんまりはっちゃけられなくて不満」って言ってたし。彼女は「ソワン国の観光」が目的だから、物資補給のためにも一時的に滞在する僕たちとはペースが合わない訳だしね。

 急いで距離を取ろうとするのも、今度こそすぐ再会しないことを願ってのことか……。

 

 ……無理なんだろうなぁ。

 ここまでの傾向的にまたすぐ再会しちゃうんだろうなぁ。可哀想に。

 ま、僕としては精神衛生上は少しマシになるから、止める気はしないけど。

 

「じゃあ俺たちも──これからの動きを決めようか」

 

 ヴィクもあんまり気にしてないというか……惜しんでなさそうだ。

 エスクリもマージュも苦笑してるし──そうだよね、これまでのリュトの一人旅失敗伝を見て来た僕たちにとって……これが長い別れになるとはとても思えないよね。

 うん、それでいいと思うよ。

 

「俺は関所に行って、通行時の注意事項とか、必要なら手続きとかもして来ようと思う」

 

「ぼくは……拠点の確保、かな。宿は三部屋で……いいか。他にもこっちで決めておくね」

 

「じゃあボクは、この村や『ソワン国』の最新情報を集めてくるよ。ボスの有無とかさ」

 

 他の皆も手馴れて来たね。

 ま、こういうのは剣としての役得か。仕事を割り振られないから、のんびりできるしね。

 そういう意味だと、ヴィクにリーダーシップがあるのは凄く良いことだよ。

 後はいくつかの弱点さえ克服できれば完璧なんだけどなぁ……。

 

「よし、また後でこの場所に合流しよう──じゃあ解散!」

 

 じゃ、僕はエスクリに背負われながら着いていくから。

 問題とか起きないことを祈ってるよ。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 あぁ……いい笑顔。すっごい平和。

 

「じゃあねお嬢ちゃん。また何かあったら何でも聞きな」

 

「うん。ありがとうね、おばあちゃん。じゃあ!」

 

 あー……こんな場面でも、ノイズ混じりの思考しか送れないのがもどかしいね。

 目の前のお婆ちゃんの顔がくしゃっと崩れて、柔らかい笑みがこぼれるのを、僕はただレンズ越しの映像みたいに眺めてるだけだ。エスクリが頭を下げてるのが視界の揺れで分かる。お婆ちゃんが手を振ってるのも見える……うん、平和だね。

 

「にしても──ここにはボスがいないだなんて……」

 

 ベンチに座って、情報を整理中のエスクリは拍子抜けそうだ。

 まぁ僕もそう思うよ。ここまで何人にも聞き込みをしてみたけど……皆揃って「今はボスの被害は無い」って言うんだから。ちょっと張りつめてた気分が少し緩んだみたい。

 ……剣に気分なんてあるのか知らないけどさ。

 

 本当に、トロワジーのあの殺伐とした空気とは大違いだなぁ。空気からして違う。

 事情があったとはいえ……あそこじゃ、誰も彼もが余所者を排除しようとしてたし。そうじゃなくても、ここに至るまでのいくつかの村で僕たちはボスとの戦闘を経験してたから……ここに来て急に「魔物被害の無い街」ってのはちょっと予想外だった。

 他にもいくつか話を聞いてたけど、「二年ほど前はいたけど今は」とか「今でも湧きはするけどすぐ追い払う」とか「今月は定期的な点検で跳ね橋が上がってる」とか「昔から有名な占い師がいる」とか「腕は良くない」とか。

 本当に魔物に関する被害の話は聞かない。跳ね橋って何のことだろって考える程度には余裕のある聞き取りだったと今振り返っても思う。

 

 風が穏やかで、日差しが柔らかくて、何より人の目が優しい。背中に背負われてるだけの僕にまで、温かい視線が届く気がするよ。

 勇者として旅をしてると、どうしても「救うべき人がいるかいないか」でその場所を判断しちゃう癖がついてるけど……ここは本当にその気配がない、被害がない、平和そのもの。戦う必要がないって分かった瞬間の、この肩透かし感。

 でも、それこそが僕たちが求めていた「平和」なんだよね。なんかしみじみするな。

 

「それも、討伐隊が通るからボスが定着しない……か。納得、だね?」

 

 ……多分これ僕に言い聞かせてくれてるんだな。口に出さないと僕には聞こえないから。

 

 さっきのはボスがこの近くに住み着かないことの理由の一つだ。

 ここカトリエはソワン国への玄関口。国境を守るための騎士団や、魔物討伐の遠征隊、他にも人が頻繁に行き来する要衝。

 人の行き来が盛んなら、それこそトロワジーみたいにボスの恰好の標的なんだけども。その種類も頻度も他と比べてずっと多いし、防衛のために人員を割ける余力が大きいから、わざわざ巣を作るボスが生まれにくいってことなのか。

 

「……あ、そうだ。あとこれも」

 

 ん……ああ、そういえばさっきお婆ちゃんから小瓶貰ってたね。

 透き通った黄金色の……蜂蜜のジャムか。何だっけ、名産品だった? 

 うわぁ、すごいね。太陽の光を浴びてキラキラ輝いて、見るからに甘くて美味しそうだけど……僕には味見もできないのが残念だ。

 

「……ヴィク、喜ぶかな」

 

『……え……ぇ……』

 

 出たよ。

 顔が緩んでるよ、エスクリ。いつものことだけど。

 少なくともあのお婆ちゃんは君がいたいけな少女だから甘いそのジャムをくれたんだ。

 途切れ途切れの声しか出せないけど、ツッコミだけは入れさせてもらうからね。

 

 そもそも、まず一番にヴィクの顔が浮かぶって、だいぶ重症だと思うんだけど。

 お土産にしたいとか、喜んでほしいとか、美味しいものを共有したいとか……自覚はないんだろうなぁ。これでまだ「相棒として」とか言い訳するんだよ? 酷くない? 

 

「だってほら、彼、疲れてそうだし。甘いもの食べたら元気になるかなって……」

 

『い……いんじゃ……ない……?』

 

 まぁ、届いてるか分からないけど、プレゼントしたいだけなら賛成だよ。

 彼なら人からもの受け取って嫌がるってことはしないと思う。それに、ああ見えて彼は意外と甘党かもしれないし。

 

「……でも、待てよ……男が、こんな甘ったるいもの貰って、喜ぶかな?」

 

『……は……?』

 

 おっと、雲行きが怪しくなってきたぞ。

 また変なこと考え出したな、これ。

 

「ボクは男だぞ? 男同士でジャムのプレゼントなんて……なんかこう、女々しくないか? もっとこう、肉とか酒とか、そういう豪快なものの方がいいのかな……?」

 

 ……また始まった。面倒くさいなぁ。

 いや確かにプレゼントとか僕たちには分からないんだよね。前世じゃこれといった友達もいなかったし、男にプレゼントするって経験も無かったし。おかげで僕にもその辺の正解は分からない。

 でもね君。エスクリは十六になるまで普通に故郷の村で過ごしてたじゃないか。中身は男だ男だって主張する割に、そこまでうじうじ悩んだりするのは君の望む姿からかけ離れてると思わないかい? 

 

 第一、ヴィクの好き嫌いなんて、単純明快じゃないか。

 野菜以外なら何でも食う。彼、見た目はワイルドだけど、味覚は意外と子供っぽいところがあるし。そう思えば甘いものなんて大歓迎ってパターンだってあり得る。

 そもそも男同士だって甘いものくらい食うでしょ。前世の自分を何だと思ってるんだ。

 

『かん……がえ……すぎ……』

 

 伝わってないだろうけど、言っておくよ。

 彼なら「おお、美味そうだな!」って一口で平らげてくれるんじゃない? 

 もし嫌なら僕が欲しいな。食べられないけど、鞘の中に塗っておけば甘い匂いで僕が幸せになれるかもしれない。

 つられて虫とかも寄ってくるかもしれない。

 ……やっぱり嫌だな。

 

 ま、今の君は、銀髪の美少女なんだ。ジャムの一つや二つ、ニコニコしながら渡せば、どんな男だってイチコロ……って、それを言うとまた怒るか。

 

「とりあえず、ヴィクを迎えに行こうか!」

 

 うん、そうだね。

 それが良いと思うよ。

 

 個人的には聞き込みで耳にした占い師ってのも少し気になるけど。

 前世でもそういう人たちはいたからなぁ。今の時代、魔法でその辺あれやこれやできるのかもしれないし。何なら、僕たちの旅路を占ってもらうのもいいかもしれないね? 

 ……今の僕たちに「女難の相が出てます」とか言われたら怖いからやっぱり反対しておこう。よりにもよってその女難の種が自分自身だって現実を突きつけられたら、エスクリほどじゃないにしてもショックを受けるかもしれないし。

 

「ヴィクは関所の手続き上手くいったかな? 何か特別な通行証が要りますとか言われたら困るよねぇ……」

 

 それは確かに。

 僕たちは前世のことしか分からないし、今の旅事情はよく分からない。積極的に旅をしていたリュトはもう別行動中だし、その辺りの問題はヴィクの采配に委ねるしかないんだよね。

 

 今はどうしてるのかな。真面目に話を聞いてる最中? 

 彼が憧れている「勇者シエル」の正体が、実はこの背中に背負われてる「ふにゃふにゃで喋れない剣」と「ナルシスト剣士」と「頼られたい魔法使い」と「ゴリ押し武闘家」になってますだなんて知ったら……どんな顔をするだろう。

 幻滅されるかな? それとも笑ってくれるかな? 

 彼なら、笑ってくれそうな気もするね。「賑やかでいいな」って。

 

 皮肉なもんだね。

 彼は僕たちに憧れて旅をして、僕たちは彼に救われて旅をしている。

 彼がいなかったら、エスクリは孤独なままだったろうし、マージュは引きこもったままだったろうし、リュトは鳥籠の中で腐ってたかもしれない。

 僕だって……エスクリに拾われはするけど、トレントとの戦いで持ち主を失って……結局ただの鉄屑に戻ってたかもな。あの日、旅の途中で出会ったのがヴィクで良かったよ。

 

 感謝してるよ──ヴィク。

 君は僕たちの希望だ。

 僕がいつか彼とも会話できる日が来ればいいんだけど。

 君がその夢を追い続ける限り、僕たちもまた、勇者であり続けられる気がするんだ。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「ヴィクが……知らない女の人と歩いてる……!」

 

 とか言ってたらこれなのか。

 怖い怖い怖いエスクリ。なんかすっごい低い声出てるけど。

 何なのさ。結局こうなの? 良い感じで終われそうだと思ったらエスクリの嫉妬? 

 今までも毎回こうじゃなかった? もう僕飽きてきたよ……。

 

「しかもヴィクから手繋いで引っ張ってる……!」

 

 おっとそうなのか。ヴィクからだったのか。

 関所に行ってるんじゃなかったの? 意外と彼も乗り気だった? へぇ、そう、へぇ。

 そういやそうか。彼は稀代の女たらしだった。証人がもう三人もいる。

 彼は良い人だと思ってたのになぁ。そこも直してくれないと……。

 

「しかも女の人の方も満更でも無さそう……! あと美人……!」

 

 ああはいはい。

 そんなことだろうとは思ってましたよ。

 

 

 

『……ん?』

 

 

 

 ……あれ。いやまさかだけど。

 もしかしてこれ──またシエルじゃないか?




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