僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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深淵を覗くとき、剣もまた……

 ──ガキンッ! 

 

 おっと。

 耳……はないけど、芯まで響くようないい音だねぇ。

 この振動、この熱気、目の前で火花が散るのがありありと感じられるよ。

 目もないけど。

 

「……ふぅ。病み上がりにしてはやるじゃないか、エスクリ」

 

「そっちこそ……いや割と限界だけどさボクは……ッ!」

 

 リュトが発って今日で三日後。

 跳ね橋が降りるまであと一日。

 エスクリの知恵熱もすっかり治ったし、武器も一時的に新調することになったから、今日はその復帰のための訓練に来てる訳だけど。

 いやぁ、それにしても二人とも凄いなぁ。

 

 エスクリは劣勢とはいえ、昨日まで知恵熱でうんうん唸ってたとは思えない動きだ。病み上がりならもっと大人しくしてればいいのに……ヴィク相手だとつい熱くなっちゃうのかな。ま、元気なのは良いことだけどさ。

 ヴィクは逆に、今のエスクリに合わせるため手加減してる訳だけど……逆に手加減しててあの立ち回りなんだね。相変わらず攻撃の動作に躊躇が無いというか戸惑いが見られないというか。

 かつての──あの模擬戦のときよりも、明らかにレベルが上がってるのを感じられるよ。

 

 ただ……やっぱり、あの予備の剣じゃ役不足か。刃筋が少しブレてるし、踏み込みも浅い。不慣れの影響が大きく出てるし、エスクリの剣技を十全に活かそうと思ったら、重心も切れ味も足りてない。

 僕が万全なら……もっと鋭い斬撃を繰り出せるし、もっとマシな稽古相手になれたはずなんだけどね。

 

『……はぁ』

 

 我ながら情けない姿だ。デローンと力なく刀身が垂れ下がっちゃって。

 金属の硬質感なんてどこへやら、日向に放置された飴細工の方が似合ってる。

 意識はあるし、感覚も鋭敏になってるのに、肝心の体が言うことを聞かないなんて。

 

 今はマージュの膝の上で模擬戦を見てる訳だけど……うん、座り心地は悪くないかな。

 柔らかいし、温かいし。ただ、彼女が動くたびに微妙に揺れるのが少し気になるけどね。もっと安定感のある台座を用意してほしいところだ。

 

「二人とも……がんばれー!」

 

 今もこうして、黄色い声援を投げかけて。

 どっちかを応援しちゃうと偏りが出るから、「二人とも」って言葉を使ったんだろうけど、本当はどっちを応援したかったんだろうね。

 自分自身のエスクリかな。

 それとも……。

 

 ここ数日、主にヴィクに連れられて色々見て回った訳だけど、中でもマージュは……ちょっと危なっかしさが垣間見えることが多かった。確かに、自信を取り戻したのは良いことだよ。かつての姿に比べれば、見違えるように明るくなった。

 でもなぁ……その自信の根拠が、全て「彼」にあるのがなぁ……。

 彼女を突き動かす原動力が「ヴィクくんの役に立ちたい」「ヴィクくんに褒められたい」っていう……完全なヴィク依存になってる気がして仕方がない。

 

 エスクリもそうだ。プレヴィって占い師を疑ってた時の、あの焦りよう。彼女を疑ってたのは僕も同じだったけど……エスクリがあそこまで取り乱すなんて。

 男の自認が強いエスクリに対し立て続けに女のシエルが現れて、自分が戦闘で足手まといになる可能性が出てきて、その状態で強烈に嫉妬心を掻き立てられて……。

 普段は自信過剰なエスクリだけど、負の感情経験を受け継いでないせいか、予想外の事態にはめっぽう弱い。精神的な脆さが、ここにきて浮き彫りになってきてる。

 

 ……リュトはちょっと別ベクトルで変わってたね。

 彼女は「一人旅最高!」とか言って、さっさと出て行っちゃったけど。勇者としての信念なんて欠片もないし、使命感もゼロ。ある意味、一番シエルらしくない転生体だよ。

 でも、一番楽しそうに生きてるのは彼女かもしれない。迷いがない分、強さも純粋だ。

 

 ……というか、彼女のおかげで間接的に知ることになったけど。

 ヴィクって……高いところもダメなんだ。なんか弱点多くない……? 

 

「……ヴィクくんは本当に強いね。もしかしたら、魔王にも勝てちゃったり……」

 

 ……それは流石に、買い被りすぎだと思うけど、マージュ。

 

 確かに彼は強いよ。今の時代の戦士としては破格の実力だ。

 でも、僕たちが戦った「敵」は、そんなレベルじゃなかった。世界を絶望の底に叩き落とした、あの絶対的な恐怖。僕たち人類が総力を結集して、命を削るような思いをしてようやく打ち倒した、あの……。

 

 

 

 魔王『ル・マル』相手なら、彼だって無事じゃすまないはず。

 

 

 

『……ん?』

 

「あれ、どうしたの? エペ」

 

『いや……なんでもない』

 

 そういえば……。

 みんな、あの大災厄のことを──『魔王』としか呼ばないな。

 エスクリも、マージュも、リュトも。「魔王を倒した」とは言うけど、その名前を口にしたことは一度もなかった気がする。アイツの名前は『ル・マル』だったはずなのに……。

 

 ……忘れてる? 

 いやいや、そんなはずないよね。自分たちの人生を狂わせた張本人だ。名前を忘れるなんてあり得ない。

 単に呼ぶのが嫌なだけか? 忌まわしい記憶だから、無意識に避けてる? それとも……アイツとのここまで勝負を意識してるのは僕だけ? 

 

 ……いや、まさかね。

 そりゃ調べれば分かることではあるけどさ、何百年も経ってるんだ──歴史書の情報だって変わってるだろうし、元シエルたちだって多少の記憶の欠落や齟齬があってもおかしくない。

 それに、名前なんて今更どうでもいいこと。それがどうプラスになるでもないしね。

 

 ま、今の僕は、余計な心配するより、早く体を治してまた戦えるようにならないと。

 元勇者シエルとして、恥じない切れ味を取り戻すためにね。

 

「!? うわぁ! ボクの剣が!」

 

「し、しまった! つい癖で砕いちまった……!」

 

 ……へぇ、ヴィクって戦闘でついうっかり相手の武器を破壊したりするんだ。へぇ。

 今だけは武器じゃなくてよかったな。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「ふぅ……いい汗かいたね。久しぶりに体動かせてスッキリしたよ」

 

「うん。エスクリ、すごかったよ。あの動き、ぼくには真似できないなぁ」

 

 カトリエの村へと続く、夕暮れ時の帰り道。

 前を歩くエスクリとマージュの会話が聞こえてくる。

 さっきまであんなに激しく動いてたのに、まだ喋る体力が残ってるなんて。

 こちとらただ見てただけなのに、精神的にどっと疲れた気がするよ。

 

 ……ま、僕の場合は、この不調のせいもあるんだろうけど。

 

 目の前にあるのはヴィクの広い背中と、揺れる黒髪……今の僕の特等席って訳だね。

 エスクリは訓練用の予備の剣を持ってるし、魔法使いのマージュにあまり重い物を持たせる訳にもいかないし。消去法で、一番力持ちのヴィクが荷物持ち担当になったってこと。

 この二日間、ヴィクと一緒に行動してたおかげですっかりここが定着しちゃったよ。

 

 このポジションは中々どうして悪くない。

 彼の背中は広くて、温かくて、安定感がある。かつてエスクリも言ってたけど、ブレが少なくて、他の人が運ぶ時と比べてはるかに振動が少ない。多少はあるけれど、リズムが乱れたりしないからむしろ心地いい。

 ゆらゆら揺られながら彼の体温を感じていると……なんだか、眠くなりそうだね。剣の僕は寝ないけど……体があったらどうなるか分からないな。

 

「今日はいい天気だったし……訓練するには丁度良かったね」

 

「そうだね。ボクのリハビリもしっかりできたし」

 

「風も穏やかだし──お前も、気持ちよかったか?」

 

 ん? 

 ……あ、僕にか。

 

 あと、これだ。

 ヴィクと僕が一緒にいたせいで起こるようになった変化その二。

 

 ただの剣でしかない僕に──話しかけるようになった。

 

 以前は僕のことなんて、ただの「不思議な武器」くらいにしか思ってなかったはずなのに。ここ数日、僕を預かるようになってから、急に態度が変わったような。

 きっかけは多分、エスクリたちの態度なんだと思う。僕を放置することを気にしたのか、「エペも退屈だろうから」とか「散歩に連れて行ってあげて」とか、迂闊な発言を何度もしていたんだけど。彼女たちがまるで僕を生き物みたいに扱うのを見て、影響されちゃったんだろうね。「こいつはただの武器だが……こうして名前をつけて愛でてやるべきなのかもしれない」っていう。

 だからこれは……ペットに話しかける飼い主みたいな感覚? ま、当たらずとも遠からずだけどさ。僕に意思があることも、君の言葉を全部聞いてることも、知る由もないだろうけど。

 

 ……でも、悪い気はしないよ。

 こうやって気にかけてくれるのは、彼なりの優しさなんだろうしね。

 

「いつも揺らして悪いな。もう少しで宿だ、辛抱してくれ」

 

 謝らなくていいのに。

 君の歩き方は、意外と丁寧だよ。

 一歩一歩、地面を踏みしめるように歩くから、変な衝撃がこない。

 野菜が嫌いで、暗所恐怖症で、なおかつ高所恐怖症のくせに、足元への注意は人一倍払ってるのかもね。

 

 ただ……一つだけ、文句を言わせてもらえるなら。

 

 

 

 手入れが……雑なんだよ。

 

 

 

 エスクリなら、専用のオイルを使って、丁寧に、優しく拭き上げてくれる。

 刃毀れは変形で直るからいいけども……汚れや錆防止のためにも色々大事だし。

 前世から続けてた剣士の癖っていうのかな。あれはあれでちょっとこそばゆいんだけど……剣士としての誇り高さを感じる。

 

 でも、ヴィクは違う。使い古した布で、ゴシゴシと力任せに擦るだけ。

 とりあえず「汚れさえ落ちればいいだろ」と言わんばかりの、実用一点張りな手つき。

 専用の鞘に収めるときもとても丁寧とは言えないし、もうちょっと剣に対するデリカシーってものを学んでほしいよ、本当に。

 彼自身もよく武器を新調するし、武器の質にもこだわってないみたいだから、あれで十分手入れをしてるつもりなんだろうな。マージュは「カッコイイ剣」って言ってたけど、あのときのマージュの審美眼が信用できるとは思えないし。

 

 ……ま、それも彼らしいと言えば彼らしいか。

 戦闘中に平気で剣を投げたり、盾で殴ったりするような男だもんね。武器を「相棒」というよりは、「使い潰す道具」として見てる節がある。だからこそ、いざという時に迷いなくあんな無茶ができるんだろうけど。

 

「お前もまた剣としてまた働けるようになればいいな」

 

「ヴィクってば……エペに話しかけるようになっちゃって」

 

「それはエスクリもだろ。俺は影響されただけだぞ」

 

「うっ……それは、その……」

 

「あはは……エスクリも普通に話しかけてたからね……」

 

 うん、迂闊だと思う。

 

 でも──こうして僕に愛着を持ってくれるのは良いことだ。

 そうすれば僕のケアがどんどん丁寧になっていくかもしれないし、僕という一個人をしっかり認識してくれることは僕の精神衛生にも凄く良い。

 ヴィクと同じで、僕は普段会話に混ざれない側の立場の人間……剣だからね。素直に嬉しいんだよ。

 

 だからこそ、ヴィクは、僕の目の前で『あんな真似する』のを止めてほしいんだけど……。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 あれは二日前のことだったかな。

 まだエスクリが快復する前、僕とヴィクが二人きりで移動してたとき。

 ただ、村の中央にあった看板の文字を眺めていたとき。

 それこそ、何の変哲もない、ただの独り言として……。

 

 

 

「……やっぱシエルは凄いよな。光そのものだ」

 

 ……急に何を言っているんだ彼は。

 

 いや、普段は独り言なんて言うタイプじゃないから、ちょっと意外だったけど。

 まぁでも、彼は勇者シエルの純然たるファンだからね。エスクリやマージュやリュトみたいな過激派()とは違ってね。だからこうして脈絡なく勇者シエルを称賛する話をしてもおかしくはない……。

 

 

 

「でも俺は、どっちかっていうと……全てを飲み込む『漆黒の闇』とか、そういうのも良いと思うんだよな……」

 

 急に何を言っているんだ彼は!? 

 

 

 

「深淵とか、カッコイイよな……」

 

 ……は? 深淵? 漆黒の闇? 

 本当に何を言ってるんだ、ヴィクは。

 暗いのが怖くて、夜も見張り番で震えてるくせに? 

 どの口が言ってるんだい? 

 

「闇の剣で敵を斬り裂き、光を陰で支えるような存在に……」

 

 うわぁ……。

 趣味悪ぅ……。

 

 いやさ、なんかそういうのがカッコイイなって思うのも分かるよ。

 ヴィクはエスクリたちより年上だろうけど……完全に大人って感じより、ちょっと成長した男の人って見た目だし。多分年齢的には十八……ぐらい? そのぐらいの年齢なら珍しくも無いかもしれない。

 

 でもさ、なんでそんな変にダークな方向性に酔いしれるのさ。シエルが光側だから被らないようにって意味なんだろうけど。暗所恐怖症の君に対してアンバランスすぎるでしょ。

 無自覚なのか知らないけど、誰も聞いてないと思ってポエム全開じゃないか。背中に僕がいることを忘れてるのか。聞かされるこっちの身にもなってほしい……。

 

 

 

 ……なんてことがあったわけだけど。

 

 彼、時折イタいこと言うってことが最近新しく分かったんだよね。別にエスクリやマージュやリュトにバラすつもりはないけどさ、まさかここまでの旅でもそんな一面が隠されてただなんて、思ってもみなかった。

 勇者シエルへの憧れが変な形で成長してるのか、よりにもよって闇の方向に夢を見る理由はまるで分からないんだけど。彼がボスを倒してるときも、意外と脳内ではっちゃけたこと考えてるのかもな。

 

 それにしても──僕が人間じゃないからって、油断しすぎじゃない? 

 まぁ、僕みたいな武器にそもそも意識があるなんて思ってないだろうし、こういう誰にも言えないような本音を漏らしちゃうんだろうけどさ。そう思うと、僕は中々意味不明な存在な訳だけど。

 

 甘いな。僕は元勇者シエルなんだよ? 

 君のそのイタい発言も、全部記憶に刻み込まれてるんだからね。いつか僕が君と普通に喋れるようになったら、この事実をとっておきのネタとして弄り倒すだろうし……覚悟しておきなよ。「深淵とか、カッコイイよな……」って、目の前で復唱してやるんだ。どんな顔するだろうね。

 

 ……あ。

 なんて考えたら──もう宿か……。

 

「じゃあ明日は、いくつか用事を済ませていよいよ出発だな」

 

「やっと跳ね橋が降りるんだね。長かったような短かったような……」

 

「じゃ、エペはボクの部屋に回収していくよ。今日は訓練ありがとうね」

 

「いいって。じゃあ二人とも、また明日……あっ、エペもな」

 

『……』

 

 ……まぁ、短かったけど、僕に対するヴィクの認識が変わっただけでも、このカトリエに滞在する価値はあったのかもしれないね。

 これで僕が人間だったら、剣じゃなかったら、勇者シエルの生まれ変わりじゃなかったら──こっちからも『おやすみ、ヴィク』って返せたんだろうけど……。

 

 そういえば、なんで僕は『剣』なんだろう? 

 

 エスクリは人間、マージュも人間、リュトも人間。みんな、性別は変わったけど、人間として転生してる──なのに、なんで僕だけ「剣」なんだ? 

 魂を分割した時、何か手違いがあった? それとも、僕の魂が人間よりも剣に近かった? 

 いやいや、そんなはずないよね。僕はシエルだ。心も思考も、人間のそれと同じはずだ。エスクリたちと同じように、僕だって「人間として生きた過去」があったはずなのに。

 

 

 

 待てよ……? 

 僕が「シエル」として生きていた、長くも無い人生の中で……一番鮮烈に残っている記憶は何だ? それがもしかしたら今の状況の原因なのかもしれないし……。

 

 ……ああ、あれか。魔王「ル・マル」との最終決戦だ。

 

 やっぱりあれが一番記憶に残ってる。僕の記憶の大部分を占める内容だ。

 もうあの光景は限りない一瞬に至るまで鮮明に覚えてる。他の勇者シエルの生まれ変わりの分まで全部僕が引き受けたんじゃないかってぐらい……あっだから皆、魔王ル・マルのことが印象に残ってないとか? 

 

 仲間たちがどんどん倒れ、武器もボロボロ、体も限界。それでも諦めず、「絶対に倒す」「刺し違えてでも」なんて執念だけで剣を振るってた。

 あの時。僕の手の中で剣が熱くなっていたのも覚えてる。ただの金属の塊じゃなくて、僕の体の一部みたいに。血管が繋がって、血が通い合ってるみたいに。僕の意思が、そのまま刃に乗って、敵を貫いて……。

 

 まさに、人剣一体。

 あの高揚感、あの没入感。

 人生で一番、生きていると実感した瞬間。

 

 あのときの僕は間違いなく……『剣と一体化して』戦っていた。

 

 

 

『えっまさかそんなことが原因なの!?』




なんかもうそろそろ出発しそうな感じ出してますが。
4章はあともう1話ありますので。

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