僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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ど、同類だと思ったのに!

「……遅いですよ。もっとスピード上げられないんですか?」

 

 ガタゴトと揺れる馬車の中。

 安全運転なのは分かりますけど……でも、もう少し急いだっていいんじゃないです? 

 窓の外を流れる景色がもどかしいくらいゆっくりで……いつになったら着くんですか。

 僕は早く『首都サンク』に戻らないといけないのに。

 

「無茶を仰らないでください、ルメド様。馬も疲れていますし、これ以上は危険です」

 

「……僕が回復させましょうか?」

 

「それこそ無茶です。ルメド様の魔力を浪費する訳にはいきません」

 

「……そうです、けども……」

 

 対面に座ってる、僕の護衛のパルジュ。

 彼に、正論を言われるときほど気まずいものもない。

 

 分かってますよ、そんなことくらい。馬や御者や馬車が壊れたらもっと時間がかかることくらい、子供じゃないんだから理解してます。それのために、僕の魔力を消費すべきでないことも分かります。

 でも、イライラするものはイライラするんですから、仕方ないじゃないですか。

 

「ルメド様、少し顔色が優れませんよ」

 

「……ふん、誰に向かって。この程度の治療、僕にとっては朝飯前ですから」

 

 疲れてる? そんなの当たり前じゃないですか。今日だけで何人の怪我人や病人を回復させたのか……一般的な治癒術師の十倍は優に超えてますよ? 

 それをこうして何日もかけて国中回るんですから。僕の魔力だって無限じゃないんだし、度重なる魔法の行使で頭だってガンガン痛むのは当たり前……。

 

 それでも、そんな弱音を吐いてる場合じゃないんです。

 僕が倒れたら、この国の人たちを救える数が大きく変わるんですから。

 

 

 

 伝説の勇者シエル──その「僧侶の才能」を受け継いだ転生体、名前を『ルメド』。

 とはいえ、僕はかつての自分に良い感情は抱いていませんけど。

 

 だって、あのときの自分はどこからどう見ても……器用貧乏じゃないですか。

 

 今でこそ「癒しの神」に対する「信仰心」を受け継いだことで、こうして僧侶としての職業に一心に打ち込めている訳ですが……あれはあまりにも冒涜的なやり方です。

 癒しという力は、もっと神聖で、尊いもののはずなんですよ。それを、実戦で使える回復魔法だけを習得して、数ある手段の一つとして道具のように使うだなんて……。

 あれもこれもと欲張って、中途半端に手を出した結果がこれですよ。世界を完全に救えなかったから、僕がこうして尻拭いをさせられてるんじゃないですか。

 もし回復魔法を完全に極めていれば、病からも回復して、魔王軍の残党の暴挙を許さない……そんな未来もあり得たっていうのに。

 

 ……まぁでも。

 そうするしかなかったことも……理解は、しています。

 現に回復魔法しか使えない僕では、直接戦闘をすることはできませんし。

 壊れたものを元に戻すことはできても、壊す元凶を消し去る術を持ってないんですから。

 

 僕は元々……『世界の平和を見届ける』という使命のために転生したはずなのに。

 だというのに、今僕がやってることはどうですか? 

 

 ソワン国随一の治癒術師という肩書きを背負って、国中をただぐるぐると回って……。

 この国に蔓延る「あのボス」は毎日のように被害を出している。今はまだ大きなパニックになっていないけれど、いくら癒しの国ソワンといえど現状人手が足りなさすぎる。

 だから僕みたいに優秀な治癒術師が忙しいのは理解しています。

 国を維持するためにこれが重要なことは、自分の立場的にも分かっているつもりです。

 

 でも──これでいいんですか? 

 

 毎日毎日、同じことの繰り返し。怪我人を治して、感謝されて、次の街へ移動して。

 皆、「生きる奇跡」なんて持て囃してますけど……本当に僕はこれでいいんですか? 

 一つの国の中で、ちまちまと傷を治してるだけで……本当に僕は、世界の平和に貢献できてるんでしょうか。本来の使命を果たせているんでしょうか。

 もっと広い世界を見るべきなんじゃ。もっと根本的な解決をするべきなんじゃ……。

 

「いや、これで大丈夫ですよね……?」

 

「ルメド様?」

 

「こうして怪我人を治し続けることが……僕の、僕にできる、最善のこと……ですよね?」

 

「……ええ、ルメド様はとてもよく頑張っていらっしゃいます」

 

「です、よね……」

 

 そうだ、パルジュの言う通りだ。

 魔王は倒されたんだし、無理に旅をする必要は無い。僕は回復魔法しかできないんだから、こうして人を癒し続けていれば、きっと世界の役に立てているはず。本来の目的は成し遂げられているはずです。

 落ち着け、僕。焦ったって、事態は好転しないんだから。

 これが、今の僕にできる唯一にして最大の、平和への貢献なんですから。自分にしかできない、英雄としての義務なんですから。

 

 僕のやってることは無駄じゃない。

 このまま続けていれば、いつか報われる日が来る。

 ああもう。どうして僕はこうも焦るというか、「焦燥感」に駆られてしまうんだろう。

 確かに前世でも魔王を倒すためにとにかく焦っていた覚えがあるけれど……かつての僕はもっと自信を持っていたり、強い正義感で奮い立ってたはずなのに。

 

 ……さぁ、早く。

 早く首都サンクに戻りましょう。

 戻っても仕事がたくさんあるんですから。立ち止まってる暇なんてないんですよ。

 僕が動かなきゃ、この国は守れないんですから……。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「……はぁ。今日も忙しくなりそうですね……」

 

 これ全部、目を通さなきゃいけない治療依頼書ですか? 

 ようやく首都サンクの僕の執務室まで戻ってこれたのに──国中から集められた「手に負えない重症患者」のカルテでこの部屋は今日も溢れかえってて……はぁ。

 

「あの、ルメド様……こちらの承認印もお願いします」

 

「分かってますよ。そこ置いといてください」

 

 ほら、秘書の人だって萎縮しちゃってるじゃないですか。僕よりずっと年上なのに。

 国中動き回って来た僕に向かって、「まだまだお仕事ありますよ!」って言わなきゃいけないんですから、この態度だって分からなくないですが。

 

 やれ、『魔物による裂傷、毒の併発』だとか。

 やれ、『高所からの落下、複雑骨折』だとか。

 やれ、『原因不明の魔力枯渇、意識不明』だとか。

 どれもこれも、普通の治癒術師じゃ匙を投げるような案件ばかり。

 僕がいなきゃ助からない命。分かってる。分かってるけど……。

 

「……どうして、もっと自分の体を大切にしないんですか」

 

 いや分かってますよ。

 だって僕はただの傷だけじゃない──それこそ命に関わる重症や、傷とは一切関係ない病気ですら、魔力と時間があれば回復させられるほど極めたんですから。こうして引っ張りだこなのは承知の上です。

 

 それこそ、簡単な怪我や病気は他の人でも対応できるし、最悪放置しても大丈夫です。

 でも、それにしたって、この国の人間は、無茶をしすぎじゃないですか? 「回復魔法があるから大丈夫」って考えが、一般にも浸透した結果……どうにも怪我への忌避感が薄れてしまってるし、痛みへの想像力が欠如してるような。

 国民全体が強く信仰心を持ってくれるのはいいことですけど。

 あんまり「癒し」を発展させ過ぎるのも、考え物なのかもしれませんね。

 

「……しかし、これだけ被害が出ているというのに」

 

 ふと、窓の外を見れば──活気に満ちた街並み。笑い合う人々。

 平和そのものに見える光景。

 

 理由は単純。

 かつてはこの国にも悪事を働こうとしていた『ボス』が存在していたけれど、国が行った「とある軍事作戦」によりそれを殲滅。

 おかげで国民は「ボスは倒された」「今は残党がたまに出るだけ」……そう信じ込んで、日常を謳歌してる。

 それ自体は良いことです。勇者シエルが望んだ理想そのものでしょう。

 

 でも、僕たち含め、国の上層部は知っている。

 そのボスは……まだ死んでない。未だ健在で、どこかで力を蓄えていると。

 

「どうしたものですかね……」

 

 被害の報告書を見ればそれは明らか。出現場所も、頻度もバラバラの──魔物というには強いが、ボスというには弱すぎる個体が湧いては消えている。

 特定の縄張りを持たず、神出鬼没に現れては人を襲い、そこまで大きな傷跡を残さずに姿を消してを繰り返す。

 こっちの戦力を試してる、あるいは……何かを待っているようで。とにかく気味が悪い。

 

 敵の正体も目的も見えてこない。

 今はまだ平和だけど、このままじゃいずれ手遅れになりそうな気がします。

 誰かが倒さなきゃいけない……でも、誰が? 僕には癒す力しかない。戦う力はない。

 騎士団も、討伐隊も、その姿さえ捉えられていないのに。

 

「ん? ……これは?」

 

 ……嘆願書だ。

 本来の仕事とは別の、国民からの声を聞くために設けられた嘆願制度の内容をまとめた書類。役所とかの窓口を通して、書記官の方々が選別して、重要だったり緊急だったりする案件を僕が決済する……。

 

 後でまとめてみるつもりだったけど……紛れ込んでたんでしょうか。

 僕のとこに届いてるってことは、当然「癒し」目的の嘆願なんでしょうけど。

 えっと、なになに……。

 

 ──『剣が飴細工のように柔らかくなってしまった』

 

 ……なんだこれ。

 

「『鍛冶屋でも直し屋でも原因不明と言われた。もし何か知恵があれば教えてほしい』……?」

 

 ……えぇ? 

 何ですか、これは。いたずら? それとも酔っ払いの戯言? 

 剣が柔らかくなるなんて、そんな症例聞いたこともないし。本当にこれ審査を通った書類ですか? 見落としてません? 

 百歩譲って事実だとしても、それはやっぱり鍛冶屋の領分でしょう。なんで治癒術師の僕のところに回ってくるんですか。

 一応できるけど、こっちは道具の修理まで請け負えるほど時間がある訳じゃないし。

 

 ……捨てる? 

 

「……あの」

 

「はい、ルメド様」

 

「捨てていいでしょうか、これ」

 

「……ああ、その件ですか」

 

 あれ。

 秘書さんが知っている? 

 じゃあもしかしてちゃんと審査を通ったものということ? 

 え、この内容で? 

 

「受付でも話題になっていましたよ。なんでも国に入るなり、様々な直し屋や鍛冶屋を転々とし、すべての店でお手上げ状態だとか」

 

「……いや、どう考えても当たり前でしょう」

 

 だって、剣が錆びるとか、欠けるとか、折れるじゃなくて──溶けるですよ? 

 そういう……魔力を込められた特別な剣だとか。世界唯一の魔法道具だとか。普通じゃ理由を説明できないと思いますが。

 それで、どうしようもないから僕の方に頼み込んだってことなんですか? 

 

「依頼人が少々変わった方々で……三人組なんですが」

 

「変わった……ねぇ」

 

「はい。なんでも、そのうちの二人が……」

 

 そのうち二人が何なんですか。

 結構偉い方だったりするんです? だからこの書類を通したとでも──

 

 

 

「ルメド様と同じ、『金色の瞳』をされているとか」

 

 

 

 ──今、なんて。

 

 え、金色? 

 金色の瞳? 

 

「……間違い、ありませんか?」

 

「は、はい。とても綺麗な瞳だったと、受付の者が申しておりましたが……」

 

「そんな……まさか……?」

 

「……ルメド様?」

 

 それは、でも、まさか。

 いや、確定ではないけれど、しかも二人だなんて。

 あり得るのか? 二人同時だなんて。運が良すぎません? 

 いやでも、逆にあり得るのかもしれない──『前例』だってある。

 

 そうだそうだ。よく考えれば。

 剣が溶けるだなんて普通ならあり得ない異常事態も、金色の瞳の持ち主が関係しているのなら──もしかしたらあり得るかもしれない。

 

 というか、もしそれが事実なら。

 その二人の存在は、今の状況を大きく変える一手になる……! 

 

「えっと……パルジュ! パルジュ!」

 

 じゃあ、会わなきゃいけないじゃないですか! 

 それも今すぐに。書類仕事なんてしてる場合じゃない! 

 

 ああ、それでも彼は流石だ。

 外で警護していたのに、すぐ飛び込んできてくれる。

 

「ルメド様! いかがなされました!」

 

「客です。護衛に着いてきてください」

 

「は? 客とは……予約の方ですか?」

 

「違います……この、嘆願書の送り主の方です!」

 

 秘書が目を丸くしてるし、パルジュも困惑してるけど……構ってられない。

 だって向こうは僕のことを知らない可能性がある。

 今の状況は、一歩間違えればもう戻ってこないニアミス。

 代筆だって頼まれてないこの嘆願書が、僕には宝の地図に見える。

 

「この人に、今から会います。すぐに呼んでもらえますか? 僕が対応するので」

 

「は、はい。可能ですが、パルジュ様以外の護衛も連れていかれた方が……」

 

「いえ、この話はパルジュとしかできません。この後の予定もキャンセルします」

 

「ちょ、ちょっと落ち着いてください。私としてもいきなりなので……」

 

「いいから! パルジュ、早く準備して行きますよ!」

 

「は、はい!」

 

 だって、これを逃したら、二度とチャンスは巡ってこない気がするんです。

 

 かつて、この国のために──「あの作戦」で大きな代償を払ったんですから。

 これぐらい無理言ってもいいでしょう!? 

 もし人違いなら謝りますから! ほら! 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「ルメド様。となると、もしや……」

 

「そうです。その依頼主は──僕と同じ、『勇者シエルの生まれ変わり』の可能性が高いです」

 

「なんと……!」

 

 とにかく、指示を出してからの動きは早かった。

 例の三人組はすぐ近くにいたみたいで、呼びつけるなりすぐ集まってくれて、今は客室で僕を待ってるらしい。

 

 いいですいいです。早いことはいいことですよ。

 もしこれで、「戦闘職のシエル」じゃないだとか、「過去の記憶を受け継いでいないシエル」だとか言われたら困りますが……そうでないなら大歓迎です! 

 ……いや、戦闘職のシエルならそれはそれで、僕としては複雑でもあるんですが。

 ああもう! 待たせてる側なのに何考えてるんですか僕は! 

 

 そう、金色の瞳は勇者シエルの証。ソースは僕自身です。

 なんでだって前世のままの目なんだって思いましたけど、今考えればこの瞳と内包してる魔力ですぐ同胞を特定できるんですから、意外と便利なものです。聖なる「癒しの神」への信仰心を失わなかった僕へのご褒美なのかもしれませんね。

 それならこの無駄に可愛い顔と貧相な肉体もどうにかしてほしかったと思いますが……。

 ああダメだダメだ。「癒しの神」を疑うだなんてあってはいけない! 

 

「では、お待たせしてはいけませんね。護衛も私のみで、残りは引かせておきましょう」

 

「お願いします。もし実際に『勇者シエル』なら、僕に手を出すことは無いでしょうから」

 

 パルジュはこの案件を知っている、数少ない護衛。

 僕が「勇者シエルの生まれ変わり」ということを知っているのはこの国の上層部の人間しかいないから、必然的にその話題の際は人払いをしなきゃいけなくなる。

 

 ……金色の瞳をしただけの凶悪犯罪者とかなら、すぐ護衛を集める必要がありますが。

 大丈夫ですよね? 審査は通った人たちですもんね? 

 

「えっと、正装はこれで大丈夫なんでしたっけ。失礼じゃないですよね?」

 

「……可憐で、よく似合っていらっしゃるかと!」

 

「ちょっと! 僕の前世がシエルだって分かって言ってるんですか!?」

 

「いえ! そんなつもりは……!」

 

 ああ、不安になってきました……。

 これだけ客人をお待たせしているのに。

 アイドル扱いなんて身の丈に合ってない気がする……そんな理由で正装をほぼ着てこなかったのが災いした! 

 そういえばフリフリしてて可愛い服なんだった……! 

 

 ……もういいです。後には引けません。

 次の通路を曲がってすぐの扉、そこが客室。

 入ったらまず遅れたことを謝罪して、そこから自己紹介をしないと。

 そして、僕自身の力で、魔力をしっかり見定めて。

 

 その後、依頼を引き受けるのと──その報酬としてこちらの交渉にもついてもらう! 

 これがやるべきことです! よし! 

 

 ──バタン! 

 

「──お待たせして申し訳ありません! ソワン国、最高治癒術師の『ルメド』です!」

 

 

 

 ……!

 あぁ、本当だ! 本当に金色の瞳だ! 

 魔力だってそうだ、これは間違いない! 

 

「うわっ!」

 

「へ!?」

 

「?」

 

 ……えっ!? 

 

 お、女の人!? 

 そんな……なんで!? 

 

 

 

 ぼ、僕は……男、なんですけど……!?




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