僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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急接近は怖いんだよ?

 んん……? 

 戦ってくれ? 

 

 それは……その……「俺と協力して予選を勝ち上がろうぜ!」的な……? 

 えっと……ボクのことが気になってたとか、相棒になってくれとかじゃなくて? 

 

 ……んん? 

 

「違ってたら悪いんだが──お前、大会に出る気がないだろ?」

 

「えっ? あ、う、うん……うん?」

 

 あっ違うっぽい。

 一緒に協力して勝ちに行こうぜじゃなさそう、残念……。

 

 というか、ボクは別に出る気が無いって訳じゃ……いや、確かに「ちょっとなぁ困ったことになったなぁ」とは思ってたけど。もし今その状況を都合よく回避できるなら願ったり叶ったりなんだけど。

 でも、どうしてそのことを……。

 

「だよな。案内があったのにいつまでも会場に行こうとしなかったし──そもそも優勝賞品の『名剣』はお前に不要だもんな」

 

「えっ案内出てたの」

 

「……聞いてなかったのか?」

 

 全然気づかなかったんだけど……。

 え、もう予選会場への案内出てたんだ。バトルロイヤルって対戦形式で困り果ててあたふたしてたから、聞き逃したってことなのボク。間抜け過ぎない? 

 

 ていうか、この大会の優勝賞品って『名剣』なんだ。

 相棒探しが目的だったから、優勝して何か貰おうって考えがそもそも無かったなぁ。

 

『ね、聞いた聞いた? キミに「名剣」は必要ないって! ボクが既に「名剣」を上回る剣ってことに気づいてるんだ。彼、見る目あるね』

 

 ちょっと黙っててほしい……彼に褒められたからって調子に乗って……。

 

 確かに、ボクにはエペがいるから他の剣なんていらないけれど……それを見越して彼は声をかけてきたってこと? 

 ボクが会場に向かわずずっと通路の端で慌てふためいてて、案内も全部ガン無視してて、かつ聖剣エペを持つボクが大会に出る旨味は無いってことを踏んで……それで大会開始寸前の今ボクを連れ出した……? 

 

 戦いたい、から……? 

 ……やっぱりなんで? 

 

「俺は……簡単に言えば武者修行中でな。この大会に参加したのも、強い奴と戦って自分を磨くためだ」

 

「え、あ、そうなんだ。ストイックだね。すごく良いと思う」

 

 武者修行って、なんかカッコイイし。

 ちょっと溜めがあったのが気になるけど。

 

「ありがとう──で、この前お前とその剣を見た瞬間、『とんでもなく凄腕だ』って本能で分かったんだよ」

 

「え、ええー……そう? えへへ……」

 

 な、何さ急に。照れるなあ、もう……。

 じゃあ、ボクとぶつかったあの日、ボクとエペを見た瞬間にその才能を感じ取ってたってことだったんだね。

 

「だから大会にも期待してたんだが──残念ながら、ここでお前以上に強い奴はいなかった。ちょっと上を見過ぎてた訳だ」

 

「……ああ、なるほど」

 

 そういうこと、ね。

 変な期待……じゃなくて、勘違いをしてたのはボクも一緒だったみたい。

 

 彼はただ強くなりたいだけの人で、ボクとエペの実力を見抜き、「この街に来ている凄腕の剣士」なんだからきっと大会にも出るだろうと踏んで「また会おう」って言った。

 で、いざ来てみたはいいけれど、期待してたレベル──ボクと同レベルの人は一人もいなかった、と。まあ実際、一対一ならボクに勝てる人はいないと思うけど。

 せめてボクと戦いさえすれば……と思ってたけど、肝心のボクがいないから焦って探して。それで通路の端にいるボクを見つけたと。

 

 なんだ、特に運命とか、そういうつもりじゃなかったんだね……いや別にいいんだけどさ。

 

「図々しいのは分かってるんだが……お前は間違いなく強い。その腕を見れずに帰るってのは、あまりにも勿体ない」

 

「そ、そう……?」

 

「そうだ。だから、俺と一戦戦ってくれないか。ここまでの強者を逃がしたくない」

 

 ……ズルいよ、それ。

 

 彼は、賞品や乱戦の経験より──ボクとの一戦の方が価値があると考えて、今こうしてボクに勝負を挑んだんだ。

 名声よりも実利を。安易な勝利よりも、困難な挑戦を。その姿勢は、まさにボクが目指していた「理想的な男」そのもの。戦士としての彼の株は、ボクの中でストップ高を更新中だよ。

 

 そんな彼に、実力を認められるなんて──これほどまでに嬉しいことが、他にある? 

 

「……分かったよ。そこまで言われて、断るなんて野暮だね」

 

「じゃあ……!」

 

 ま、実際ボクは予想外の形式に困り果ててたところだからね。

 大会から逃げる訳じゃないけど……こうして彼の相手をする方が有意義なのは間違いない。だって彼も相当、しかも周りとは格が違うレベルで強いってこと、ボクの勘が教えてくれるんだから。

 だからまあ、都合がいいというかなんというか。こんな状況を準備してくれて、どちらかというとこっちが感謝したいぐらいだ。

 

「いいよ、やろっか」

 

「ありがとう。終わったら飯でも奢らせてくれ」

 

「ふふ、楽しみにしてるね」

 

 キミがボクを「強者」として認めてくれたなら、ボクも全力で応えようじゃないか。

 現代の強者の実力を、元伝説の勇者として、しっかり受け止めよう。キミの期待に応えてみせるよ。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「──行くぞッ!」

 

 っ! やっぱり──速い! 

 彼が地面を蹴って次の瞬間には距離が半分以上縮んでる! 

 

 この前の抱き留め……支えてもらった時も思ったけど、やっぱり彼の身体能力はレベルの高い現代においても、その基準を遥かに超えている。

 一歩で間合いを詰め、盾を構えたまま突っ込んでくるなんて、鋼鉄の砲弾みたいだ。

 

『エスクリ! 受け止めは……!』

 

「分かってる、よっと……!」

 

 まずは距離を取らなくちゃ、バックステップバックステップ。

 エペの言う通り、馬鹿正直に受け止めるのは悪手だ。あの盾でガツンとやられたら、ボクの華奢な腕なんてポッキリ折れる。あれだけのスピードが出せるってことは、パワーも桁違いってことだからね。

 躱して、いなして、受け流して。その中で反撃の点を探る。それがボクの勝ち筋だ。

 

 ──ヒュンッ! 

 

「うわっ!」

 

 すごい、紙一重だ。風切り音と一緒に、ヴィクの剣がボクの鼻先を掠めてった。

 ギリギリで見切ったはずなのに、肌がピリピリする。

 

 殺気? いや、これは……。

 

「ははっ! やっぱ速いな!」

 

 楽しそうに攻撃してくるね! 結構ペースが速めだし、一撃一撃が油断ならないんだけど! 

 大振りじゃない。最短距離を走る鋭い突きと、盾を使ったコンパクトな打撃のコンビネーション。

 エペの腹で弾いたり、身体を捻って躱したりしながら観察してるけど……ちょっと動きに迷いが無さすぎる。

 

「そっちこそ……!」

 

「うおっ!? あの体勢から反撃できるのか!」

 

 さっきからずっと彼の剣先が、ボクの急所──喉笛とか、心臓とか、太腿の動脈とかを正確に狙ってる。

 それだけなら別に、熟練の戦士なら当然の行動と言ってもいいんだけど……問題はその「踏み込み」だ。

 

 普通、剣士ってのは自分の間合いギリギリで戦うものだ。その方が安全だし、次の手が打ちやすいからね。

 でも彼は違う。

 

 届く距離にいるのに、さらにもう一歩、深く踏み込んでくる。

 

 ──ガキンッ! 

 

 エペと彼の剣が噛み合う鍔迫り合い。

 至近距離で目が合って……あっちょっとそんなに見つめないで……じゃなくて。

 

 彼の瞳はギラギラ燃えてて、そこには一切の躊躇がない。

 

「容赦ないね! キミ!」

 

「もう傾向を掴んだのか! 流石だな!」

 

 思わず背筋がゾッとしたよ。

 この踏み込みは、「相手を無力化する」ためのものじゃない──「確実に息の根を止める」ための距離だ。

 人間相手ならある程度の攻撃でも致命傷になるから十分なところを──彼は必要以上に攻めてこようとしてる。

 

 再生能力の高い魔物や、急所を一撃で潰さないと死なないアンデッド相手にするような。

 必要以上に相手の間合いの奥まで詰めていって、一番大事なところを叩き潰すような。

 少なくとも対人間用じゃない、対魔物用の戦い方。

 人間のボク相手にその戦法を選ぶあたり、普段からそれで戦ってるのかな。

 

『エスクリ、気をつけて! このスタイル、ただの戦士じゃない!』

 

「うん! まるで暗殺者だね!」

 

 しかも、ボクたちの時代にいた暗殺者みたいな……ちょっと古風だけど基礎がしっかり固められた動きをしてる! 

 凄いね、現代の力強さと冷静な殺意を両立させつつ、それをしっかり一つの戦い方として確立してる。そりゃ強い訳だ。今までエスクリとして生きてきた中でも群を抜いて凄腕だよ。

 豪快な剣と盾使いの戦士に見えて、その本質は繊細かつ冷酷な暗殺者。一撃必殺の威力を持ちつつ、針の穴を通すような精密さで急所を狙い、しかも相手の懐に潜り込んで逃げ場を塞ぐ。

 厄介だ。すごく厄介だ。

 

 このままスピード勝負で打ち合っても、いずれジリ貧になる。ボクのスタミナが切れるか、あるいは彼の一撃が掠って致命傷になるか。どっちにしろボクの負けだ。

 

「くっ……強いな、本当に!」

 

「ありがとよ! お前も予想以上だぜ!」

 

 悔しいけど、認めざるを得ない。

 現代の技術と、彼自身の才能が融合したこのスタイルは、ボクの想像を超えている。

 どうしてこんな戦法を編み出したのか。これが「武者修行」の成果なのか。それとも、彼が潜り抜けてきた死線の数なのか。どちらにせよ、半端な覚悟で受けて立てる相手じゃない。

 

 ただ、彼は純粋に戦いを楽しんでいる。ボクを殺すつもりなんて微塵もないんだろう。ただ、彼の「本気」が、結果として殺意の塊になっているだけで。

 ……まったく、タチが悪いよ。そんなキラキラした笑顔で殺しにかかってくるなんてさ! 

 

 ──じゃあ、こっちとしても『奥の手』を出さざるを得ないよね。

 

「エペ……やるよ」

 

『え? やるって、まさか、「能力」?』

 

「うん、出し惜しみしてる場合じゃないからね」

 

『本気かい? ただの模擬戦だよ? それに魔力の消費が……』

 

「本気だよ。そうじゃなきゃ、勝てないかもだから」

 

 彼の攻撃は一撃の殺意が段違いだけど、代わりにかなり近づいてからじゃないとしてこないって弱点がある。

 それを逆手にとればいい。常に離れた位置から牽制を繰り返せば──彼の攻撃の芽は潰せるってこと。

 

 それに、このまま負けたら「カッコイイところ」を見せるどころか、無様に負けた姿を晒すことになる。それはなんか嫌だ! 

 ボクは彼に勝ちたい。勝って、「やるじゃん」って上から目線で褒めてやりたいし、「すげえな」ってその顔で言ってほしい! 

 

『……はぁ。分かった、付き合うよ。僕たちの「奥の手」、見せてやろうか』

 

「ありがとう、エペ」

 

 柄を握る手に魔力を込めて。

 体内を巡る魔力を、掌を通してエペへと流れ込んで。

 回路が繋がって、鋼の刀身が脈動すれば、後は一瞬。

 

 ──ギチチッ……! 

 

「ヴィク。驚かないでよ?」

 

「ん? ……お、おおお!?」

 

 音は硬質で歪だけど、変化は一瞬。

 柄を握る力がどんどん下へ向く。そうしないと持ち切れなくなるから。

 それはもう剣というより、長大な槍か、あるいは物干し竿か。

 普通の人間なら持ち上げることすら不可能な金属の塊……。

 

「エペ! 『三メートル/ロングソード』!」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「うおおおっ!? なんだそりゃ、生きてるのか!?」

 

「悪いね! こういう『奥の手』なんだ!」

 

 そう、これがエペの『能力』。

 魔力を流し込むことで「形状」や「大きさ」を「自由に変えることができる」。

 

 普段は慣れ親しんだ、前世でボクが使ってた姿形そのままの剣として使ってるけど……今ボクの手元にあるのは、身の丈の倍──いや、三メートル近くまで刀身を伸ばした、超・超・ロングソードだ。

 魔力の消費が激しいから、完全に回復しても最大三回しか使えないけど……逆に言えば、ボクは短期間で三回も、エペを自由な武器として使うことができる。

 

 そしてこれだけ長いロングソードなら、ヴィクの過剰な接近を防ぎ、そもそもの攻撃の発生を潰すことができる! 

 

「これ以上近づかれると困るんだ! 牽制させてもらうよ!」

 

「なるほど、勇者の剣と同じ見た目だったのはそういう……っとぉ!」

 

 大きく踏み込んで、横薙ぎ! 

 ヴィクは咄嗟にバックステップで回避するけど……ここまで距離が取れれば十分だよ。これだけのリーチ差があれば、キミの得意な「超接近戦」は封じられるはずだ! 

 

 必死に距離を詰めようとしてるみたいだけど……無駄だよ! 

 キミの動きは全部事前に刃で邪魔するし、入り込めそうな間なんて微塵も作らせない! 

 

「ははっ、やるじゃねえか!」

 

 ……普通なら、間合いの外から一方的に殴られる展開に焦るはずよね。

 でも彼は、むしろ楽しそうだ。ボクの剣閃の隙間を縫うように動き回って、右から左へ。

 大振りの一撃は上体を反らすだけで躱しちゃうし、返しの刃で襲っても盾の縁で受け流して威力を殺してくる。ボクが切っ先で牽制の突きを放てば、彼は横方向のステップへ巧みに切り返して……。

 

「うぅん! しつこい!」

 

「そっちこそ! よくもまあ、そんな小回りが利くもんだ!」

 

 互いに褒め合ってる場合じゃないけど、実際すごいよ彼は。

 ボクはこの訓練場の空間そのものを薙ぎ払う勢いで振るっているのに、彼はまるで水滴みたいに、刃の通らないわずかな「死角」にするりって入り込んでくる。向こうの攻撃を封じることはできても、こっちの有効打はまるで与えられなさそうな……! 

 

「流石! それだけの長物なのに体の軸にブレはねえし、付け入りそうな『隙』もない!」

 

「すき!? ……ああいや! 褒めたって、ボクをいい気にさせるだけ……だよっ!」

 

 煽てられたってボクは攻撃の手を緩めないよ! 

 重い剣を遠心力で振り回して、ヴィクの周囲に刃の壁を作れば、いくら彼が踏み込みの達人でもおいそれとは近づけないはず……。

 

 

 

「──だが!」

 

 

 

 おっと! 

 

「しまっ……!」

 

 途中まで良い感じだったのに、中々命知らずなことするね! 

 下がるどころか一歩前に出て……そして、ボクが振り払った長剣の切っ先を、わざと自分の盾にぶつけに行くなんて! 

 失敗すれば大怪我は免れないし、盾が押し負ける可能性もあるのに──最小限の力と最適な動きでボクの剣の軌道を見事にずらしてみせた! 凄い! 

 

 長剣の切っ先が盾に弾かれた反動で暴れ出し、ボクの体は大きく外側へ持っていかれ、がら空きの懐がヴィクの目の前に晒されて。

 重心が完全に崩れた。致命的な隙だ。

 

「そこだ!」

 

 ヴィクの目が鋭く光った。

 彼はこの瞬間を待っていたんだ。

 

 彼は達人だ。本来の剣技もさることながら、咄嗟の判断と迅速な行動で次への攻撃に繋げられる。

 前世なら魔王軍と戦う最前線の兵士に負けるとも劣らない……それどころか、技量スペック共にそれを凌駕してるまである! 

 

「もらった!」

 

 長すぎる剣の切っ先を弾かれれば、その根元で強く剣を握りしめてるボクの体もそっちに引かれて外側に大きく傾く。

 致命的なバランス崩壊。早く体勢を立て直さないと、防御をする間も無く斬られちゃう。

 

 ヴィク、やっぱりキミは、最高の戦士だよ! 

 

 

 

 ボクの作った「偽物の隙」に、完璧なタイミングで飛び込んで来てくれるんだから! 

 

 

 

 ボクはこの隙を立て直さない。

 むしろ、その「崩れ」を利用し、そこに体重を乗せさらに加速させて。

 

「エペ!」

 

『了解!』

 

 魔力が爆発的に練り上がり、エペの形状が一瞬で作り替わる。

 長く伸びた刀身が圧縮され、その質量が全て「先端」へと集約され、「鋭利な刃」から「無骨で巨大な鉄塊」へ。

 

 大きく弾かれた反動。

 超ロングソードの遠心力。

 ずれた重心から生まれる回転幅。

 そして、変形による重心と質量の変化。

 全てのエネルギーが一点に収束し、ヴィクが飛び込んできた「その場所」へと、吸い込まれるように落下する。

 

「なっ……!?」

 

 急いでガードしてるみたいだけど……もう遅いよ! 

 いくらボクがキミより非力だからって、この質量と速度で叩き込まれる攻撃を、剣一本と盾一枚で完全に無力化なんてできやしない! 

 

「吹っ飛べぇぇぇッ!!」

 

「がぁっ!?」

 

 終わりだ! 『一メートル/ハンマー』!




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