僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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信じる者は……救われない?

 ……重い。

 空気が、鉛みたいに重いんですけど。

 ガタゴト揺れる馬車のリズムだけが、唯一の救いでしょうか。

 窓の外を見れば、首都サンクの美しい街並みが流れているはずなんですが……それすらも色あせて見えるくらい、車内の空気が淀んでるような。

 

「パルジュ、ヴィクトールさんをそこまで睨まないでください……」

 

「しかしルメド様。エスクリ様やマージュ様ならともかく、この男をそこまで信用していいものか……」

 

「だからってそこまで警戒しなくても」

 

「俺は別に気にしないが……」

 

 原因は明白。

 僕の対面に座る二人──ヴィクトールさんと、パルジュのせい。

 

 いやまあ、パルジュの考えてることは分かりますよ? 

 今日のメンバーは、僕とパルジュ、そしてヴィクトールさんの三人だけ。 

 エスクリとマージュは、以前予約していたらしい「エペ修理用の素材」を受け取りに行っているため別行動中……つまり、この馬車の中にいる「勇者シエルの生まれ変わり」は、僕一人だけ。

 あの二人は、金色の瞳と魔力で「同類」だと証明済みです。だからパルジュも彼女たちには一定の信頼を置いてるし、僕に近づくことも許してる。

 

 でも……ヴィクトールさんは違う。

 彼は僕たちのような魔力を持ってる訳でもないし、瞳の色も違う。僕たちの立場から見れば、完全に「部外者」なんですよね……。

 僕はヴィクトールさんを疑ってませんが、パルジュは「主君を守らないといけない」という責任感もある訳で。忠誠心と過保護さが、ヴィクトールさんへの警戒心になってるような。

 ヴィクトールさんも、それを分かってるんでしょうか。基本的に「俺は部外者だからな。気持ちは分かるぞ」ってスタンスを貫いてるから、居心地悪そうにするでもなく、かと言ってパルジュを挑発するでもなく。

 

「え、えっと……ヴィクトールさん!」

 

 あー、もう! この空気に耐えられません! 

 何か話さないと、僕が窒息しそうです! 

 

 とりあえず、無難な話題を振ってみましょう。

 今一番の懸案事項であり、共通の話題。これならパルジュも文句は言わないはず。

 

「聖剣エペの修理ですが……方針が、固まりました」

 

「っ、そうなのか!」

 

「ッ!」

 

「あっこらパルジュ!」

 

 ちょっと! ステイ! 

 ヴィクトールさんが身を乗り出したのは話に食いついてくれたからですよ! 

 そうやってすぐ僕と彼の間に割って入ろうとしなくていいんですってば! もう……。

 

 ええっと……こほん。

 

「それで、どうなるんだ?」

 

「その……エペを常に元の形に戻すことは、正直、難しいです。変質した魔力回路が複雑に絡み合っていて……」

 

「……じゃあ、あのままなのか?」

 

「いえ、そうでもなくて。完全に元通りにはできませんが……『機能』を取り戻すことは可能かもしれません」

 

 そう。『必要な機能』を取り戻すことだけなら。

 このためにどれだけの実験をしたか分かりませんが、これもヴィクトールさんが初日で素材を大量に準備してくれたからです。新規の素材が手に入れば実験はさらに進みます。

 資料は……そうそう、これだ。この前徹夜で書き上げた、新しい魔力回路の設計図。今のエペの状態を逆手に取った、画期的な……と自負している修理プランです。

 

「ここの部分にですね、新たな魔力の通り道を入れることで──硬度を変化させられるようになるはずです」

 

「硬度を……変化?」

 

「はい。普段は柔らかいままでも、魔力を通すことで十分に硬化させることができる。そういった調整を行う予定で」

 

「そんなことが?」

 

 ふふん。そうですよね、驚きますよね。

 剣が自在に柔らかくなったり硬くなったりするなんて、普通じゃ考えられませんから。

 

 ……今も十分おかしいんですけども。

 

「今の『溶けた』状態は、魔力の過剰摂取による『流動化』とも言える状態。その流動性を制御できれば……理論上は可能なんです」

 

「そ、そうなのか……? いや、それでも……良かった。きっとエスクリも喜ぶよ」

 

「い、いえ! これが僕の仕事なので!」

 

 ……実際には、彼自身の『意思』で制御できるようにするってシステムなんですけどね。

 エスクリからも「エペには意思がある」って説明を受けましたし、多分できるはずです。

 まぁ、このことはヴィクトールさんには秘密なので言いませんが。

 癒しに特化した僕だからこそ、こんなことできるんですよ。

 

「とにかくありがとう──」

 

 

 

「──この後の『説得』でも、必ず役に立ってみせるよ」

 

 

 

「……はい」

 

 そう。

 今日の目的は……かつてのシエルの一人、『オンド』に会いに行くこと。

 

 彼は生前の水魔法をもう使えなくなっているけれど……当時の自分の痕跡から「水魔法の研究者」として生きることを決め、社会復帰を果たした……そんな人です。

 勿論、シエルの生まれ変わりだなんてことは目の前のこの人に言えませんけど。

 

 ただ、オンドは少し気難しい性格なので、難航するかもしれませんが……。

 

 蘇生後のリハビリ期間中、彼は何度も「どうしてこんなことに」と問い続けていました。

 そして、社会復帰してまもないうちに、何か変化があったのか。周囲との壁を作ってしまい、政府を警戒しだして、今では蘇生を行った僕と僕の紹介した人以外との面会を絶ってしまっている状況です。

 もしかしたら、かつて自分が死亡してしまった原因である、作戦遂行者の政府を憎むようになってしまったのかもしれません。

 

 ただ、ティルがあの時、一瞬だけ意識を取り戻して語ったように。

 ボスの正体の謎を解く鍵を、もしかしたらオンドも持っているかもしれない。

 

「話してるうちに……着きましたね。行きましょうか」

 

 さぁ、気難しい元自分自身との対面です。

 ちょっと胃が痛くなってきた……。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「失礼します……オンド、いますか?」

 

「……久しぶりだな、ルメド。何の用だ」

 

 ああ、いたいた。相変わらずだ。

 振り返りもせずに、ペンを走らせたままで。

 髪の色も、背格好も、その声も……かつてのオンドとそっくり。

 ただ、もう彼には金色の瞳も、シエルとしての記憶も、水魔法の才能も無くなってしまっているけれど……。

 

「相談があって来ました。この国の、未来に関わる話で──」

 

「そうか。だが、私には関係のない話だ」

 

 うっ……。

 

 やっぱり、相当拗らせてますね。相変わらず取りつく島もない。

 政府への不信感、自分の運命への絶望……そういうものが、彼の心を閉ざしてしまったんでしょうか。

 ドゥジェームという街へ「魔法の勉強に行く」と言い出した時もこうでした。一度結論を決めたら中々曲げたがらない……頑固な感じで。

 

 でも、ここで引き下がるわけにはいきません。

 

「それでも、話を聞いてくれませんか。僕たちは、ボスを倒すための情報が必要で……」

 

「断る。今の政府には……あの怪物を倒す力はない。無駄死にを増やすだけだ」

 

「……!」

 

 ……またこれだ。

 

 オンドは前々から、何かを知っているような口ぶりをすることがあった。

 本当に知らないなら「知らない」と言えばいいのに、「断る」だなんて言葉を選ぶんだから、知っているけどわざと教えないのか。

 彼が悪い人では無いことは分かってるんです。でも、それならどうして教えてくれないのか分からない。

 

 確かに、僕には攻撃手段がないです。

 回復魔法で支援することはできても、トドメを刺すことはできませんよ。

 軍だって、魔物を倒すことはできても、またあのボスが出てきたら火力に欠ける……せいぜい防衛に徹するのが現実だと、僕も思います。

 彼の言う通り、今の戦力じゃ、また誰かが犠牲になる結末しか見えないのかもしれない。

 

 ……けど。今は僕の他にも勇者が三人……じゃなくて、二人と一本も集まってきてる。

 僕を入れれば、合計としては四人分。前回と同じだけの戦力は集まってきているんです。

 このチャンスを逃すわけにはいかないんですよ。これだけの人数の勇者が集まるなんて、どれだけの低確率なのか。

 だからこそ、今日ここでオンドからその秘密を教えてほしい、のに……。

 

 

 

「それなら俺たちが、力になろう」

 

 ……ヴィクトールさん。

 

 

 

「……さっきから思ってたが。誰だ、あんたは」

 

「ただの旅人だ。だが、ボスを倒すという目的は同じ、な」

 

「旅人? 素人が何をしに来た。そこの護衛と一緒に早く帰れ」

 

「悪いな。俺は彼に嫌われてるから、一緒には帰れないぞ」

 

「そういう意味じゃ……もういい」

 

 ヴィクトールさん……。

 

 いやでも、今はこれしかない。

 ヴィクトールさんだってあの二人についていける実力者なんだ。見せかけでも、ここで「今十分な戦力が揃ってるんですよ」とアピールすることができれば、オンドだって考えを改めてくれるかもしれない。

 問題は、この人に、それだけの強さを証明する「力」があるのか。あるのなら、それをどうやって「証明するのか」……。

 

 

 

「俺たちはドゥジェームで、数十年居座っていた巨大ワームを討伐した。この実績でも不十分か?」

 

 

 

 ……何の話? 

 ドゥジェームの……巨大ワーム……数十年居座っていた? 

 

「ドゥジェームの……?」

 

 あ、ほら。オンドも不思議そうにしてるじゃないですか。

 確かに彼はドゥジェームに勉強しに行ったとは言いましたが、急にそんな話をされても、心当たりが無いんじゃ分かりようも……。

 

「あの、化け物をか? 本当に?」

 

「事実だぞ。都市長からの感謝の手紙も頂いたが、今から持って来ようか?」

 

「まさか。そんなもの偽造できるだろう。しかし、もし事実なら……」

 

 うん? 

 あれ、通じてる? 

 

 ……じゃあもしかして、結構有名な話なんでしょうか、これ。

 ドゥジェームだと、オンドのようなただ訪れただけの人でも知っているような……とんでもないボスがいたと? 

 それを既に倒してきたと? 

 いや、唐突に出てきた情報でよく分からないですが……パルジュ、どう思います? 

 

「(ルメド様、ドゥジェームの強大なボスをとある旅人が倒したという話は巷でも広がっています)」

 

「(えっそうなんですか? 全然知らなかったんですけど……)」

 

 僕、仕事にかかりっきりで噂話とかまるで聞いたりしてなかったから……。

 えっこの国にまで伝わってるほど有名なボスなんですか? ここからドゥジェームまでどれだけ距離あると思ってるんです? 

 巨大ワームって言うぐらいだし……百メートルぐらいの大きさがあったのかも。それを倒すために……。

 ああ、エペのぐにゃぐにゃの原因はそれか! 納得! 

 

 でもそれなら、この情報は──ものすごく有用じゃないですか! 

 僕には分からない話ですが、それが通じるなら……これ以上ない、彼という戦力の担保になるはずです! 

 

「ひとまず、確認させてもらう。私はドゥジェームで通信魔法も学んできた……現地にサヴァンという学者の知人がいる」

 

「なるほど。それで確認ができるなら俺としても助かる。是非やってくれ」

 

 ……本当ですよね? 

 ハッタリとかじゃなくて? 

 やけに自信満々だから多分大丈夫なんでしょうけど。

 なんだか緊張してきちゃった……。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「──なら、事実なんだな? サヴァン」

 

『まさしく! 現在こちらは宿敵を失って今後どうすればいいか分からない馬鹿共で溢れかえっているぞ!』

 

「名前は……間違いないか?」

 

『ああ! マージュ君、ヴィクトール君、エスクリ君の三人組だ! おかげで情報提供した私の立場は鰻登りだよ!』

 

「そうか……分かった。感謝する。切るぞ」

 

『ああ待て! マージュ君は元気かね? 彼女の魔法についてぜひ気になっ──』

 

 

 

「……事実だったようだ。疑ってすまなかった」

 

「いや、構わない。俺もいきなり信じてもらえるとは思っていなかったから」

 

 ……オンドがすっごい顔してる。

 

 通信魔法の内容はこっちに聞こえてきませんでしたが……相当衝撃的な内容だったんでしょう。

 果たして、そのボスとやらそれほどまでに強大な存在だったからか、それとも耳元で大声で叫ばれ続けたからか……真相は不明ですが。

 いやでも、オンドの態度が明確に軟化して、さっきまでの拒絶が薄くなったような……。

 ヴィクトールさんたちの実力を認めた……ってことなんでしょうか。

 

「ならば、私が隠していた──このことを話してもよさそうだ」

 

 えっ。

 

「何を驚いている、ルメド。聞きたかったんだろう」

 

「あ、ああ。そうなんですけど」

 

 いやまさかこんな急展開で教えてもらえるとは思ってなかったから。

 僕がこれまで何度尋ねても教えてくれなかったのに、勝てる可能性があると踏んだ瞬間すぐ話すだなんて……。

 

 ……もしかして、それだけマズい情報ってことですか? 

 勝てる可能性が無いなら絶対に伏せておきたいけど、少しでも可能性があるなら大急ぎで教える必要がある、みたいな……。

 パルジュとヴィクトールさんも黙りこくってる……ちょっと嫌な予感がしてきました。

 これでボス捜索とは関係ない情報だったら困りますよ。

 

「ではまず……私がドゥジェームを訪れたのは『体液成分調査魔法』を学ぶためだ」

 

 ふむふむ。

 

 確かに、そう言っていました。

 彼が出発する前に、そういうことを勉強しに行くと、自分で言っていた覚えがあります。

 

「そして私は、その魔法を用いて『私の体内』の詳細な再検査を行った」

 

 ……再検査? 

 

 そういえば、彼は蘇生後、自分の体がどうなっているのか執拗に気にしていたような。

 でも、僕だって何度も診察しましたよ。解毒魔法を繰り返し、完全に排出して。

 だから毒の後遺症以外に異常は見当たらなかったはず。

 きちんと問題無いように回復させたんですから──

 

「──その結果、私の体内の痕跡から……毒物は戦闘中に受けたものではないことが判明した」

 

 ……はい? 

 

 え、ちょっと待ってください。

 戦闘中に受けたものじゃ、ない? 

 じゃあ、いつ? どこで? 

 

「毒は……作戦の数ヶ月前から、少しずつ、微量ずつ、蓄積されていたのだ」

 

「数ヶ月、前……?」

 

「つまり、我々の死は戦闘による名誉の戦死ではない」

 

 そんな馬鹿な。

 作戦が決まってから、僕たちは厳重な管理下に置かれていたはずです。

 食事も、生活環境も、全て国が用意した安全な場所で……。

 

 

 

「あれは、何者かによる──計画的な暗殺だった」

 

 

 

 あん、さつ……。

 

 誰かの息をのむ声が聞こえたような。

 それが誰のものか、自分のものかすら分からなかったけれど。

 だって、そんなこと……あり得ないじゃないですか。

 僕たちは……英雄ですよ? 国を救うために集められた、希望の星ですよ? 

 

 それを、誰が、何のために……? 

 

「そ、そんな……まさか……」

 

「事実だ。私の体内からは、非常に特殊な……遅効性の猛毒による炎症が見つかった」

 

「……!」

 

「一度に致死量を摂取すれば即死するが、微量ならば体に馴染み、身体を徐々に蝕んでいく」

 

 そう、なんだ。

 回復魔法で無理やり除去する僕の方法じゃ、毒の種類や効果は分からないけれど……痕を分析すれば、そういうものだと、分かるってこと、ですか。

 

 じゃあ、ティルが言っていたように。敵の攻撃を受けたわけじゃなかった。

 戦う前から──もう、死ぬことが決まっていた……と? 

 

「怪しいのは、かつての三人全員の生活にアクセス可能な人物。おそらく政府上層部の人間か……」

 

 ……まさか。

 やめてください。言わないでください。

 

 ずっと隠してたのは……そういうことだったんですか? 

 

 今その人物が動かないのは、とっくに死亡したか……あるいは、潜伏期間にいるから。

 もし「裏切り者がいる」という事実自体が公になれば、その人物は迅速に行動を再開する。そして、裏切り者の行動は即座にボスの行動に直結する。

 戦力が不十分な状態でこの事実を広めてしまえば、今度こそこの国は終わるかもしれない。

 僕一人が知ったとしても、焦って行動を先走る僕から、その情報が漏れ出す可能性を否定できない。

 だけど、その裏切り者が何をするか分からない以上、すぐにでも行動する必要がある。

 

 だから。

 だから……。

 

「まあ、その、要はだ」

 

 今気づいたけど。

 オンドの声も震えてる。目も泳いでる。早口になっている。

 彼も、本当は早く伝えたくて、でもその結果がどうなるか分からなくて、怖いんだ。

 

 何故かって……。

 

 

 

「我々の内部に──裏切り者がいる」




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