僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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最悪の誤算!

「──人と魔物は……っ、相容れない……」

 

「そして、ここの魔物は……姿かたちを自由に変形させられる」

 

「つまり……裏切り者とは人間ではなく──蛇の魔物、そのものだ」

 

 ──ボトッ……

 

 

 

 え……。

 ……えええぇぇぇぇ!!? 

 

「ななな、何やってるんですか貴方はっ!」

 

「いつつ……これじゃ盾は持てないな……」

 

 いや「持てないな」……じゃなくて! 

 貴方今、自分で……! 

 

 自分の手首を──切り落としたんですよ!? 

 

 な、何を平然と言ってるんです! 痛くないんですか!? 顔色一つ変えないなんて、人間離れしてますよ貴方! 

 あああ今すぐ回復させないと! 馬鹿にならない量の血が出て──

 

「──お待ちくださいルメド様!」

 

「パルジュ! で、でも……」

 

「『でも』ではありません! あの男……遂に気が狂ったか……!」

 

 ……! 

 

 た、確かに。なんでこんなことを……!? 

 今話してたのって誰が裏切り者かどうか、でしたよね。それがどうして手を切り落とすことになるんです!? 

 

 いや……でもさっき……。

 

「だが、これで……俺が人間であることは証明された、はずだ……っ」

 

「……!」

 

 ……そういう、こと? 

 

 さっきの、人と魔物が相容れないっていうのは……確かに、そうです。

 人は魔物の餌だから、その「人」が魔物と協力するって立場には……どう足掻いてもなれない。一緒に作戦を立ててる最中に、その人が食べられて終わり。

 蛇の魔物は肉体を自由自在に変形できるから、人に化けられるってのも……確かにそう。

 つまり、裏切り者は──最初から人じゃなくて、魔物が化けた姿だった……ってこと。

 

 じゃあ、手を切り落としたのは……もし魔物が化けた存在なら──切り落とした部分の変形が解除されて、元に戻るはずだ……。

 そう言いたいってこと……ですか? 

 そして、自分の手を切り落とし、その手が人間のものであると見せることで、自分が魔物でないことを証明した……と。

 それも、僕がすぐ近くにいるから、切り落としても大事にはならないと踏んで……? 

 

 ……なんて無茶苦茶な! 

 確かに理屈は通ってますが……なんてことを考えるんですか! 僕が「無理です」って言ったときのこととか考えてなかったんですか!? 

 

「き、貴様……正気なのか!? 自分の手を切り落とすなど……!」

 

「……っ、次は……そっちの番だ」

 

「……!?」

 

 ……それで、ヴィクトールさんはパルジュを疑ってる。

 どうしてか分からないけれど、パルジュを疑ってて、「お前が蛇の魔物じゃないなら腕を切り落として証明して見せろ」って、言っている……! 

 

「ま、待ってください! 裏切り者が、人間である可能性だって、あるはずです!」

 

「……そうだ! むしろ、貴様がその気狂いである可能性を否定できるのか!」

 

「……っ、ふぅ……気狂い、か……」

 

 い、痛そう……! 

 でも、だって……そうじゃないですか。

 

 確かに人と魔物は手を組めませんが……裏切り者が、ただ一方的に魔物を信奉し、独自で動いてるって可能性もありますよ。

 もしそうだったとしたら、手を切り落としたところで何の証明にもならない。ヴィクトールさんが裏切り者じゃない証明にはならないし、パルジュが手を落とす必要性だってない。

 だから、この行為には何の意味も無いんです! 

 

 ああ、早く、早く手当てをしないと。

 もう見てられない! 今ならまだ繋がります! 僕なら元通りにできるんですから……! 

 

「もしそうなら……こんなことしている時点で、俺がその裏切り者である可能性は微塵も無いだろう?」

 

「……えっ?」

 

 ……あっ。

 

 そうだ。

 ヴィクトールさんが裏で暗躍している当事者だとして……それなら今こんな真似をする意味は何一つない。

 

 もし本当にヴィクトールさんが裏切り者なら、デファという他の容疑者を怪しんでいる最中の僕たちを止める意味は無い。

 裏切り者じゃないパルジュに向かって、「手を切り落とせ」だなんて無実の証明になるようなことを強要する意味は無い。

 自分が痛い思いをして、ただ戦力を落とすだけなのに、わざわざ自分の手を切り落として引き留めようとする意味は無い。

 

「もしお前が本当にただの人間なら、俺の傷は治さなくてもいいし、慰謝料だって払おう」

 

「……! ルメド様に頼めば治せるからと、簡単に言って……!」

 

「簡単? 結構痛いぞこれ」

 

「そういう問題じゃ……!」

 

 この人は……何か確証を持って、パルジュが人間に化けた蛇の魔物だと確信している。

 もし裏切り者が人間だとしても……僕がいるから治せると。だから自分が潔白である証明を今してくれと……そう言ってるんだ。

 そして、その要求が飲めないならお前は魔物に違いないと……。

 

 じゃあ、もしかして本当に? 

 本当に、パルジュが──魔物が化けた、裏切り者だって言うんですか? 

 

 で、でも……! 

 

 でも、だからって……手を切り落とせだなんて、そんなこと、飲める訳がない! 

 だって、自分が無実なら……ものすごく痛い思いをして、自分の取れた手を見せつけなきゃいけないんですよ? いくら無実の証明ができるとはいえ……ほんの一瞬だとしても、普通そんな思いはしたくない! 

 だから、これを断ったからって、パルジュが裏切り者とは限らないはず……! 

 

「……生憎だが、その痛い思いとやらを私はしたくない」

 

「そうか……」

 

「そうだ。証明できるなら今すぐにでもしてやりたいが、貴様の理不尽な提案に何もかも委ねてまで自傷する意味を私は見出せない」

 

「そ、そうですよヴィクトールさん! こんなやり方じゃなくても、調べる方法は他にあるはずです!」

 

 だから、今はいち早く手の治療をしましょう! 

 ま、まったく! ヴィクトールさんも僕と一緒で結論を急いじゃったんですね! 人のこと言えないんだから! 

 後でしっかり話し合いをして、その後ちゃんとパルジュに謝ってもらわないと──

 

 

 

「──それなら髪でいいぞ」

 

 

 

 ……ん? 

 へ、髪? 

 

「痛いのが嫌なんだろ。じゃあ髪の毛でいい。今この場で一束切ってみてくれ」

 

 ……ああ! 確かに! 

 髪なら何も痛くありませんし、すぐに切り落とすことができて、自分が魔物じゃないことの証明も簡単にできます! 

 もし蛇の魔物が化けているなら、切り落とした髪の毛は変形を維持できなくなって元に戻ってしまいますが……。

 逆に言えば、髪を切るだけで無実を証明できるってことになるじゃないですか! 

 

「……なるほど。考えたな、貴様」

 

 ほらパルジュ! 髪ですよ! 早く切ってやってください! 

 こんな茶番、さっさと終わらせて、僕にヴィクトールさんの腕を治させてください! 

 ほら、剣を持ってるんだから、一房くらいすぐ……。

 

 

 

「パルジュ?」

 

「……ルメド様」

 

 

 

 ……どうして、動かないんですか。

 なんで髪ごときで、そんなに脂汗をかいてるんですか。

 

 切ってよ。

 お願いだから、髪を切ってください。

 笑い飛ばしてよ。「髪くらいあげますよ」って。

 

 切って。

 切ってください。

 切れるでしょう? 

 人間なら、髪くらい、切れるでしょう!? 

 

 

 

「貴様……いつから気づいていた?」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「あー……内緒だ。魔物の気配とか魔力に敏感で……勘みたいなものだと思ってくれ」

 

「ハッ……ただの腰巾着ではなかったと。やはり時期を急ぎ過ぎたか……?」

 

 待って。

 なんで。

 

 どうして、笑っていられるんですか。

 どうして、否定してくれないんですか。

 どうして、髪を切ってくれないんですか。

 それじゃあ、ヴィクトールさんの推理が正しかったってことじゃないですか。

 

 そんな、そんな、そんな……嫌だ! 

 

「パルジュは……」

 

「ルメド様?」

 

 で、でも。あり得ないはずです。

 だって、彼は……確かに一度死亡していた。

 僕が生き返らせた? そんなまさか! 

 

 だから……。

 

「本物の……パルジュは……どこに?」

 

 僕が助けた彼は……確かに「人間」で「死体」だった! 

 それは回復魔法をかけた自分が一番分かります。

 もしあのとき既に魔物だったなら、死亡したことで変形が解除されていたはず……。

 

 だから、彼は死んでいない。

 本物の彼はまだ生きていて、どこかで拘束されていて。

 今も、僕の助けを待っているはずで……。

 

「ああ、あの『蘇生させた』パルジュですか? 味は悪くなかったですよ」

 

「……は?」

 

 ……え。

 そ、んな……? 

 

 え、そ、それじゃあ、僕が蘇生させたパルジュは……一度息を吹き返し、部屋で休ませていたパルジュは──確かにちゃんと人間だったってこと、ですよね? 

 

 その後に──ボスに食べられて、死亡した? 

 

 じゃあ、覚醒後にボスの情報を教えてくれたパルジュは……あのとき既に死亡していて。

 僕たちが遂に討伐したあのボスは……本物のボスじゃない、眷属。ただの、ダミー。

 そしてこのパルジュは、その功績で、僕の護衛に昇進して……! 

 

 嘘だ嘘だ嘘だ! そんな訳がない! 

 

 僕の手は、人を救うための手じゃなかったんですか? 癒しの力じゃなかったんですか? 

 それが……化け物に餌を与えて、本物のパルジュをもう一度殺す手助けになった……? 

 

「じゃ、じゃあ……三人が死亡したのは……まさか」

 

「落ち着けルメド」

 

 あっ……。

 ヴィクトール、さん。

 

「今は考えるな。俺の後ろに下がっていろ」

 

 そ、それは……。

 ……いえ、でも、もう……。

 

「ふむ……鈍いルメド様にも察しがついたようですね」

 

「黙れ魔物め。余計なことを喋るんじゃない」

 

 もう、いい……ですよ、ヴィクトールさん。

 今こうして、パルジュに化けていた姿を見れば……すぐ分かることです。

 

 裏切り者は「数か月前から暗躍していた、三人全員と親密な共通人物」じゃなかった。

 その正体は姿を自由自在に変えられる魔物で、パルジュに成り代わる前は他の人に成り代わっていた……そういうことなんですよね。

 ティルやオンドやルアーに数か月前から毒を仕込めたのは、パルジュにもしたように──三人の専属の部下などの、近しい人間を殺して、その人に変身して行っていた……。

 

 じゃあ、なんで……。

 

 なんで僕だけ生かしたんですか。

 他の三人は殺したのに。

 僕だけ、のうのうと生き残らせて……。

 こんな地獄を見せるため……ですか? 

 

 デファへの裏切りの証拠も……パルジュが、捏造したもの? 

 防衛に関係する高官を裏切り者に見せかけて、僕と衝突させようとしていた……。

 僕は無実の彼を疑い、追い詰めようとしていた。彼の名誉を傷つけ罪を着せようと……。

 全部、この化け物の掌の上で踊らされて……! 

 

 ……なんて。

 なんて卑劣な……! 

 

「許せない……!」

 

「『非戦闘職』のルメド様に睨まれたところで、何も怖くありませんよ」

 

「……!!」

 

 あ、ああ……。

 そ、そういうこと、ですか。

 ずっとずっと不思議に思ってたけれど──おかげで今、ようやく理解できました。

 僕だけを生かしていたのも、全部コイツの作戦だったってことなんですか……! 

 

 パルジュ……いや、悪辣極まりない──このボスは。

 ただ人間を襲うのではなく、防衛高官などのより高位にいる人間を狙うことで、効率的に国へ攻撃を仕掛けようとしていた。そのために、人間に化けて機を伺ってたんだ。

 だから、「元勇者」という、一般市民にも広く認知されていながら、上層部の人間とも交流がある僕たちに取り入ろうとした。

 だけど、四人のうち三人は「戦闘職」のシエル。いくら手強いボスといえど、かつて世界を救ったシエルが四人もいれば、目的達成の障害になるのは確実。

 

 だから、コイツは。

 自分を殺そうとしている計画を、囮役の眷属を使うことで成功したと誤認させ、他三人を怪しまれないように殺した……! 

 

「僕を利用して国の内部に入り込むために……!」

 

「ええ。ルメド様は、誰も疑わない『聖女』のようなお方ですから」

 

 ……! 

 ……聖、女。

 

 複雑ですけれど……民衆が僕をそう呼ぶことは知っていました。

 ただでさえアイドル視されてる訳ですから、男なのにですよ。

 いつもそのことで貴方にからかわれて、それでも普段なら軽く流せたのに……。

 今の貴方から聞いても……最大の侮蔑にしか聞こえませんよ! 

 

 僕の後ろにいれば、誰にも疑われない。

 僕を守る盾だと思っていたのに、実際は彼を隠すためのカーテンでしかなかった。

 僕は最初から最後まで……利用されていただけなんですね。

 僕の信頼も、友情も、全て彼にとっては都合のいい道具だった……。

 

「それもこの男のせいで台無しだ。まさか、自らの手を切り落としてまで私を追い詰めるとは……ニンゲンにしては、中々骨のあるようだが」

 

「……そろそろ本格的に痛くなってきたぞ」

 

 ヴィクトールさん……。

 左手が無い。血が流れてる。痛いはずなのに、平然と……。

 貴方は、気づいていたんですね。僕が盲目的に信じていたものの正体に。

 だから、あんな無茶をしてまで……僕に真実を見せてくれようとしたんですね。

 

 ごめんなさい……! 

 全部、僕のせいです。僕がもっとしっかりしていれば、僕がもっと早く気づいていれば……。

 

「さて……無駄話はここまでだ。勇者の腰巾着、まずはお前から処分してやる」

 

「おっと……ルメド、そろそろ治してもらえるか。これから戦闘になりそうだ」

 

 ……あ。

 

 あ、いや、その、そういえば……。

 

 

 

「せ、切断痕の修復は……普通に、一時間ほどかかります……」

 

「……マジか」

 

 

 

「に、逃げましょうヴィクトールさん!」

 

 切断された肉体の修復は普通よりずっとずっと時間がかかるんです! 

 このままじゃ片手であのボスと戦わないといけなくなる! 今は一旦、距離を取って、完全に回復してから他の勇者たちを集めて再度迎え撃つべきです! 

 

「……仕方ない、盾無しでやるしかないか」

 

「え、えぇ!?」

 

「担ぐぞ! しっかり捕まってろ!」

 

 何言ってるんですか!? 

 あのボスは本当に強いんですよ! 

 悔しいですが……そこまで出血して勝てる相手じゃありません! 

 大人しく逃げた方が……! 

 

 うわあああ本当に変形した! 

 頭がぐねぐねうねってあの蛇の姿になってる……! 

 パルジュの顔が、顔が……!

 く、くそおぉぉ……!

 

「今日この瞬間まで、国中に魔法陣結界を仕込んだ甲斐があった……」

 

 えっ。

 国中に、魔力を込めた、魔法陣……? 

 ……まさか。

 僕の、国中回るあの巡回中、護衛で着いてくるのと同時に……国中に魔法を仕組んでいた? 

 

 それじゃあ、今のコイツは……。

 かつてのコイツより、遥かに強いってことなんじゃ……! 

 

「一瞬でケリをつけてやる……覚悟しろ!」

 

 う、うわあああああ!! 

 

 

 

 ……ん? 

 あ、あれ? 

 

 何も……来ない? 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「おぉ~……ほんとだ。卵の殻と魔法陣がある」

 

「だろ? ちょっと探したら見つかるんだが……やっぱオレしか見つけられねェのか?」

 

「前世のぼくって呪い・妨害耐性凄かったからね……それのせい?」

 

「だろうな。殻ってことは……中身はもう孵ってるのか? どこだ?」

 

「あっちあっち」

 

 

 

 ──「こらっ、逃げるなーっ! ボクの剣でズバッと切ってやる!」

 

 ──ズバッ! 

 

 ──シギャアアァァッ! 

 

 

 

「……やっぱ、くねくねした相手には素手より武器持ちの方が有利か」

 

「だね。切ることに関してはエスクリ以上の人なんていないし」

 

「だよなァ……ここの魔物はオレと相性悪いぜ」

 

「ははは……でも、リュトから卵潰しを手伝ってくれって言われたときは驚いたよ」

 

「……オレだって元勇者なんだ。そういうこともあるってだけさ」

 

 

 

「ん。この魔法陣、人除け以外にもなんか他に書いてあるね」

 

「ん? そうなのか? オレは人除けだって聞いてたんだが……何の魔法だ?」

 

「分かんない……ぼく火魔法しか分からないから……」

 

「そうか。何の魔法陣なんだろうな。オレも分からねェや」

 

「……で、この卵の殻と魔法陣はいつもどう処理してたの?」

 

「いや特に。卵のままなら踏み潰して、殻なら近くの魔物探して……魔法陣は適当にぐしゃぐしゃーってやって消してる」

 

「そっか。じゃあ消した方が良いね。えいっ」




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