僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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幕話:触診

 ……た、旅が。

 ここまできついものだったなんて……。

 

「ルメド、大丈夫か?」

 

「大丈夫です。それより急ぎま……うぷっ」

 

 ああもう。早々に歩き疲れて動けなくなったから一人だけ馬車に乗せてもらったのに……結局酔って気分が悪いだなんて。

 ソワン国じゃこんなことにはならなかったんですけど……早く国を出るために相当急いだことと、整備されてない地面を走ってるからでしょうか。激しい揺れがお尻に響く……。

 

 国を出て早数日。

 僕たちは次の目的地、「交易都市シズィ」を目指して、街道をひた走っています。

 通常の行程なら一か月はかかる道のりを──半分の期間で踏破するペースで。

 無理があるのは百も承知。ですが……。

 

『ルメド、どこかの街を中継すべきじゃないかい? 君は旅慣れしていないから』

 

「い、いえ。お気になさらず、急がないといけないんですから……」

 

 一年以内。魔王の復活まで、残された時間はあまりにも短い。

 その間に、なんとか対抗策を編み出さないといけないんです。

 

 出発前に行った会議でも、「迅速に次の目的地へ向かおう」って結論が出たばっかり。

 ヴィクトールさんは「あまり魔王のことを言いふらすべきではない」って思ってるけど、それはそれとしてなるべく急いで行動したがってます。

 僕たちも「エペから聞きました」なんて言う訳にはいきませんが、急がないといけないのは同じなので、三人とも真実に気付いていないフリをしつつ、ヴィクトールさんの提案に賛成。

 結果、全員の相談の元、僕主導でかなりハイペースなスケジュールを組み、情報の集まる交易都市シズィで調査を行おう……という話だったんですが。

 

「ルメド……ボクたち急がなきゃいけないのは分かってるけど、次の街で休まない?」

 

「……やっぱり、そうすべきですかね」

 

「うん。ぼくもそう思う。逆に負担になってる気がするんだ、今の旅」

 

「あぁ、そうなのかぁ……」

 

 睡眠時間を削って移動距離を延ばしたり、極力回り道を使わず過酷な道も通るようにしてたので、当然他のメンバーも……疲れて、きてますよね。

 僕だけじゃなくて、エスクリやマージュも同じことを言い出すようになったので……多分、ここらで一旦休憩をはさむべきなんでしょう。

 次第に生活リズムが崩れてきているようにも感じますし、人だけじゃなく馬の疲労も相まって、結果的にあまり速く移動できてるように思えません。

 

 僕の回復魔法で自分の体力まで回復できれば……。

 ああいやいや、癒しの神から授けられた力に何をケチつけているんだ僕は。

 疲れが取れないというのなら、それは神の想定していない活動をしているということに他ならないじゃないですか……。

 

「食事の内容も偏って来たし、ここで休憩は良い判断だと思うんだよね」

 

 ……旅をしていて気づきましたが。

 

 エスクリはよく料理を担当しています。

 彼女の作る料理は肉類や野菜類のバランスがよく、非常に旅慣れしていることが伝わってくる出来で。マージュが「かつては何故か野菜ばかりだった」と言っていましたが……最近になって良い感じのバランスを見つけたんでしょうか。

 ……ヴィクトールさんに配膳するときだけ、量や見栄えや具材を工夫しているように見えるのがちょっと複雑ですが。どうしてあんな嬉しそうな顔して「美味しい?」とか聞くんですかね、彼女は。

 

「そうだね。ぼくも日用品が……うん、減って来てる気がしてたんだ」

 

 マージュは夜暗くなるとかならず火魔法で明かりをつけてくれます。

 やっとの休憩、そんな時に手元が見えやすくなるのは本当にありがたいですし、それはエスクリやヴィクトールさんも同じなんでしょう。彼女も寝る前に日記を書いているそうですし、まめに記録を残しているのは非常に良いことだと思います。

 ……ただ、毎回ヴィクトールさんの周りだけ明かりの数がとにかく多いのはどうしてなんでしょう。僕用につけてもらった火を使うより、わざわざあの人の近くに行って作業する方が明るいんですけども。

 

「そうだな。次の街で一旦休もうか」

 

「……ヴィクトールさん、いいんですか?」

 

「いいって、何がだ? お前に倒れられるよりは良いじゃないか」

 

「それは……その……」

 

 ……うぅ。

 

 この人、心の中では僕以上に焦ってるはずなんですよね。

 でも、それを踏まえた上で休もうと言ってくれてるんです。

 このまま無理をして、肝心な時に動けなくなったら、それこそ取り返しがつかない。

 えっと、「急がば回れ」……でしたっけ。

 

 ごめんなさい、皆さん。僕のせいで足を止めることになってしまって。

 でも、これからはもっと……体力をつけて、迷惑かけないようにしますから。

 

「……分かりました。次の街で、休息を取りましょう」

 

「ホント? あーやっとお風呂入れるよー!」

 

『エスクリって意外と綺麗好きだよね。自分の見た目を気に入ってるだろうし』

 

「ははは……今まで汚れても水浴びとかできなかったからねぇ」

 

 ああ、まぁ、そうですよね。

 女の子ですし、彼女たちにとっても、お風呂に入れない日々は辛いでしょう。

 

 ……段々、自分の分身が女であることに違和感を覚えなくなってきましたね。

 これでいいのかという気持ちはありますが。まぁ、それはそれとして。

 

「そうですね。あんまりゆっくりはできませんけど……」

 

 ……ん? 

 待てよ。

 

 お風呂、ということは。

 当然、男女別ですよね? 

 エスクリとマージュは女の子だから、女湯。

 じゃあ、僕は? 

 

 

 

「そうだな。俺も久しぶりに体を洗いたい」

 

 ヴィクトールさんと……一緒? 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ──「……おい、あれ女の子じゃねぇの?」

 

 ──「だよ、な。なんで男湯に入ってんだ?」

 

 ──「親父に連れられた子供……にしちゃデカいか」

 

 ……聞こえてるんですけど、全部。

 せっかく街に公衆浴場があったから期待して来たのに……これですか。

 

 ヒソヒソ話してるつもりでしょうけど、お風呂場って意外と声が響くんですよ。

 脱衣所でも散々ジロジロ見られましたけど……裸になってもまだ疑いますか。

 ついてるものはついてるでしょうが! 見せつけてやろうかと思いましたけど、それはそれで変態扱いされそうなので止めましたけどね! 

 

 はぁ……これだから、自分の見た目は苦手なんです。

 勇者シエルの頃は辛うじてもっと男っぽかったのに……どうしてこうなったんでしょう。

 

「ふぅ……あったまるなぁ」

 

「ヴィクトールさん、影になってもらっていいですか」

 

「ん……ああ、いいぞ」

 

 貴方は何も気にしてなさそうですね……。

 この人の逞しい胸板と、引き締まった腹筋を見てると自分の貧相さが際立ちますが……この体格差のおかげでなんとか周囲の目を遮れそうです。

 

 ……左腕も、ちゃんと繋がってますね。

 再生魔法で皮膚は完全に綺麗になっていますが……あの腕、一度は完全に腐り落ちて骨が外れたとこまでいってるんですよ。流石に違和感とか無いんでしょうか。

 

「……痛みます?」

 

「これか? いや、全然。むしろ前より動きがいいくらいだ。感謝してるよ」

 

「そんなこと言って……無理は禁物ですよ?」

 

「分かってる。お前に見限られたら困るからな」

 

 もう……口が上手いんだから。

 

 まぁ、でも……。

 

「こうして、男同士だと……やっぱり、落ち着きますよね……」

 

 今思えば、この四人と一本の旅は……かなり露骨な矢印が飛び交ってました。

 

 だってそうじゃないですか。

 この数日見ただけでも……エスクリとマージュのアピールには驚かされましたよ。

 二人とも無自覚なのかもしれませんが、ヴィクトールさんに対してかなり距離が近いし、真面目な話してるとき以外はデレデレしてることが多いです。それこそ、魔王復活のことなんて意識してない……そんな顔をしてるところが何度も見られました。

 

 別に僕は「打倒魔王」のために人生の全てを注げって訳じゃないんですよ? でも、もう少し危機感や焦燥感を持つのが普通だと思っているだけで。

 そもそも、中身は男じゃないですか。どうしてあそこまで乙女になれるんでしょう。

 エスクリは辛うじて自認が男性ですけど……元のシエルから、人格が乖離しすぎてませんか?

 しかも二人ともあれを特別だと思っていなさそうなのが性質の悪い。

 

 あっ僕は違いますよ。

 見た目はこうですが、中身は硬派な男ですから。

 キャピキャピするのは苦手ですし、ヴィクトールさんに対しても、あくまで「頼れる仲間」として接しているつもりです。エペも苦労してるみたいですし、やっぱり自分自身のそんな姿を見るのは複雑ですよね。

 皆から話を聞いた「リュト」という男の人はそこまで露骨に態度を変えたりもしない──サバサバした人みたいで。やっぱりシエルからの性別変化が大きな違いになってるんでしょうか。

 

 ね? 

 そうですよね、ヴィクトールさん? 

 

 

 

「あー……残念だが、あの二人は好きな男がいるらしいぞ」

 

 ……ん? 

 

 

 

「ガチ恋? というヤツらしいし……気があるなら、根気よくやれよ」

 

 ……え? 

 えっと……な、何を言ってるんです? 

 好きな男? エスクリとマージュに? 

 ……どうしてそういう話に? 

 

 ……あっ! 

 まさかこの人! 

 

 僕の「男同士だと落ち着く」って言葉を「女がいると、気が休まらない」と解釈して、そのまま「僕がエスクリやマージュを狙っているのでは」って勘違いしましたね!? 

 なんて誤解を! そんな訳ないでしょう!? 自分自身ですよ!? 

 

「あ、あな、貴方……って人は……!」

 

「だが、相手は特別な人だから……アプローチすれば可能性はあるかもな。落ち込む必要も無いと、俺はもう」

 

 な、なんで、肩を掴んでこっちを真剣な目で見て来るんですか。

 え、これ、本気で善意のアドバイスしてるつもりなんですかこの人? 

 針刺しますよ? 

 

 相手って……あの二人が狙ってる相手なんて僕は一人しか思い浮かびませんけど。

 アプローチすれば可能性はあるってなんです? 「俺にその気は無いから諦めなければ芽はあるぞ」的な? それともあの二人が「叶うはずのない恋」をしているから頑張って振り向かせてみろと? 

 

「……」

 

 ない。

 ない! 

 ないないない! 

 

 だって彼女たちは僕自身ですよ!? 自分自身に恋するなんて、ナルシストも極まれりじゃないですか! 

 それに、中身が男だって知ってるんですよ!? 

 

「な、何言ってるんですか!?」

 

「え、俺はアドバイスしようと……」

 

「いいですよもう! ほら早く洗いますよ!」

 

 もう! この話は終わりです! 

 さっさと頭を冷やしてもらわないと! 

 ほら! 背中流してあげるからこっち来て下さい! 

 それで馬鹿なことはもう考えないで! いいですか! 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「もうちょっとかがんでもらえます?」

 

「おう、これでいいか?」

 

 ……無防備ですね。

 確かに洗ってあげるっていったのは僕ですけど……それだけ信用してくれてるってことでしょうか。

 とりあえず石鹸を泡立てて、彼の髪に指を通して……っと。

 黒くて、少し硬い髪。戦士の髪って感じがしますね。でも、頭皮は温かくて、柔らかくて……。

 

「……あ、気持ちいいな」

 

「そうですか? よかったです」

 

 ふふん、褒められました。僕の手つき、悪くないみたいですね。

 指先でマッサージするように、丁寧に、丁寧に。彼の疲れが少しでも取れるように。

 僕は後衛で守ってもらう立場なので、日頃から感謝の気持ちが伝わるように……。

 

 ……ん? 

 あれ? 

 

「……ヴィクトールさん」

 

「ん? どうした?」

 

「これ……怪我、ですか?」

 

 泡をどけて、髪をかき分けてみれば……傷跡があるじゃないですか。

 後頭部から耳の後ろにかけて、結構な長さの古傷が走ってますよ。

 新しい傷じゃ……なさそうですね。もう完全に塞がって、皮膚が白く盛り上がってる。

 でも……これだけの大きさの傷、ただ事じゃありませんよ。

 

「……? 傷?」

 

 え、なんですかその口ぶり。

 まさか……気づいてなかったんですか? 

 

「あれ? そんなとこにもあったのか?」

 

「……あったのか、って。自分の体でしょう?」

 

「いや、気づかなかったな………………いつの間にできたんだ?」

 

 ……なんですか今の間は。

 いつの間にって。こんな大きな傷、できた瞬間に気づくでしょう普通。

 痛みだって相当あったはずですし、血だって出たはずです。

 それを忘れるなんて……いくら鈍感でも限度がありますよ。

 

「何か、心当たりはないんですか?」

 

「うーん……昔はやんちゃをしてたからな。それでついた傷だろうか」

 

 やんちゃ……ですか。

 昔は結構なワルだったとか? あ、いや。先端恐怖症発覚のときに聞きましたけど、「師匠に鍛えられたから剣は大丈夫」って言ってましたね。えっと、だから……。

 剣で攻撃を受けて、それで先端恐怖症になったけど……師匠に鍛えられて克服したとか? で、やんちゃっていうのはそれを誤魔化すためのカバーストーリー……あっでもこれじゃ覚えてない理由がつかないか。

 

 じゃあこの傷跡と恐怖症は関係なくて、師匠に鍛えられ、送り出された先で敵と戦い、その戦闘で斬りつけられた傷跡っていう線も……それだとヴィクトールさんのお師匠さんがヤバイ人になっちゃいますね。

 この人、あのボスと戦ってるときも過剰に踏み込んで攻撃する癖があったし……後ろ暗い傭兵とか、それこそ魔王軍の残党みたいな活動をしてたとか? 実力的にかなり上位の幹部みたいな……。

 まぁ、それは流石に無いか。

 

 ──「……き、貴様……い、いや、まさか! 貴方は──」

 

 ……流石に無いか。

 

「……治しましょうか?」

 

「え? 治せるのか? こんな古傷でも」

 

「ええ、まぁ、はい」

 

 そりゃ再生魔法を使えば、古傷の跡を消すことなんて造作もありませんよ。

 組織を活性化させて、新しい皮膚に置き換えるだけ。僕の実力なら、数分もあれば綺麗さっぱり消してみせ……。

 

「そうか………………なら、頼みたい。できるか?」

 

 消して、みせ……。

 

 

 

「えっと……治せはしますけど、時間がかかるかもしれません」

 

 

 

 ……あれ。

 なんで僕は、嘘を。

 

「時間が?」

 

「は、はい……長年残った傷は、体に馴染んでしまっています。それを一気に治すと、体に負担がかかるんです。だから……毎日少しずつ、治していきましょう」

 

 そんな副作用、ないんですけど……。

 

 それこそ、このお風呂場でお湯に浸かりながらだって治せますし。

 傷跡がもっと広かろうが深かろうが問題ありません。魔力の消費量が変わるだけです。

 壊死した程度なら一瞬で元通りに、切断された腕でも一時間あれば元通り、もっと努力すれば死者蘇生ですら可能な──ソワン国の最高治癒術師ルメドなんですから……。

 

「毎日?」

 

「ええ。お風呂の時とか、寝る前とか……少しずつ魔力を流して、時間をかけて再生させるんです。そうすれば、体への負担も少なく済みますから」

 

 ……じゃあなんで僕はこんなことを? 

 結果を早く出さなきゃって、あんなに焦っていた僕が。あえて結果を先延ばしにするなんて。効率よりも、無駄を優先するなんて。

 

「そうか。ルメドがそう言うなら、それが一番なんだろうな」

 

「え……っと、はい。そう……です!」

 

「おお力強い回答」

 

 ……いやまぁ、よく考えればそこまでおかしいことではないですね。

 この人は大怪我を負った後で、本来安静にしていないといけない期間を驚異的な回復力で誤魔化しているだけ。いつ不調が出るとも分かりませんし、高い専門知識を持った人が毎日定期的な検診を行って健康状態の確認をすることは不要じゃありません。

 怪我だって目立ちはしないから全力出してすぐ消さなくたって大丈夫。むしろ今まで何の問題も無く動けてたんだから急に変化を与えてしまう方が問題かもしれません。僕の嘘が、本当に嘘である保証なんてどこにもないので。

 

 それに、僕はこのパーティーの新参者です。

 そんな僕が、パーティーのリーダーであるヴィクトールさんと積極的にコミュニケーションを取れる場を確保しておくのは、今後の円滑なやり取りにも役立つでしょうから。

 

「じゃあ、頼むよ。ルメド」

 

「はい。任せてください!」

 

 だからこうして、時間をかけて治療をするのは、間違ってない。

 ですよね、ヴィクトールさん?




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