僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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そんな関係、だったのか……

 今日はヴィクトールと会う日だ。

 あの遺跡での再会から数日。謝罪と、それから積もる話をするための場を設けた。

 私からヴィクトールへ。元相棒として、改めて向き合うための時間。

 

 ……なのに、どうしてこんなに落ち着かないんだ。

 

 嬉しいに決まっている。

 やっと会えたんだ。ずっと探していた相棒が、今も変わらず戦い続けている──十分すぎるほどの奇跡じゃないか。

 あの頃と同じように隣に立って、背中を預けて、共に進んでいける。そう思うだけで胸の奥がじんわりと熱くなるのを……否定するほど私は野暮じゃない。

 

 ただ……。

 

「彼は……変わってしまっていないだろうか」

 

 それと同じぐらい──怖い。

 

 数年だ。数年もの間、お互いが何をしていたか知らない。

 私はここで傭兵として戦い続けていたが……彼は? 

 あの夜、針葉樹の高原ではぐれてから、彼がどんな道を歩いてきたのか。どんな敵と戦い、どんな傷を負い、どんな夜を過ごしてきたのか。

 一緒にいた頃ですら、あまり弱みを見せようとしない男だったんだ。自分の命を粗末にする節があって、無茶な攻め方をして、それでも平然とした顔をしてた。

 

 もし、あの癖がもっと酷くなっていたら? 

 私のいない間に、取り返しのつかないほど心を擦り減らしていたら? 

 

 ──『魔王が復活する』

 

 あの事実を彼は、たった一人で抱え込んでいるんだ。

 あの頃だって、辛いことがあっても顔に出さなかった。

 今もきっとそうなんだろう。変わっていないなら──いや、変わっていないからこそ、余計に心配だ。

 

 しかも私はその事実を知っていることを、彼に話せない。

 彼が一人で苦しんでいるのを知りつつ、久しぶりの再会を祝いたい気持ちのフリをして今日に臨まないといけない。

 その時、私はどう接すればいいのか、今も分かっていないまま。

 

「はは……まだ何を着るかも決まってないのに。困ったことだな」

 

 いや、着ていくのはいつも通りの鎧だ。

 正直、これを変える気はない。この街で私と言えばこの鎧姿だ。

 

 ディアマがいつも通り迅速に手配してくれた、新調されたばかりの鎧。

 相変わらずの全員鎧で、胸元が多少大きいが、それでも体格は分からない。

 私の、お気に入り。

 

 だが。

 

 ──『お前……女だったのか』

 

 ……これのせいで、数年間も。背中を預け合った相棒に。

 性別すら、気づかれていなかったんだよなぁ……。

 

 いっそのこと別の服を着てみるか? 

 あの、畳んである、何の変哲もない旅の平服とか。

 あれを着て会いに行けば、さすがに今度は間違えないだろう。「ああ、やっぱり女だったんだな」と、ちゃんと認識してもらえる。

 鎧を脱いで、髪を整えて、もう少しだけ──「女性らしく」して会いに行けば。性別を間違えられるなんて悲しい勘違いはもう起こらな……。

 

「……何を考えているんだ、私は」

 

 私が鎧を纏うのは、自分を飾るためじゃない。

 あいつの前で綺麗に見せたいからでもない。

 この鎧は、私が私であるための──盾だ。

 勇者シエルとしての使命そのものだ。

 

 世界を脅かす悪から人々を守るための盾。

 そしてヴィクトールを、あの無茶ばかりする馬鹿を守るための盾だ。

 私は元男だし、彼がどうしてもというなら……その、私もやぶさかではないが。

 

 彼に女として見てほしくて服を選ぶんじゃない。

 これからも、完全な平和を実現できるまで、この格好はずっと変わるべきじゃない。

 

「……そうだ、これからも、この格好なんだから」

 

 私は今の暮らしを捨て、彼らの旅に同行する。もうそれは決めた。

 魔王が復活するとなっては今まで通りの暮らしをしてはいられない。世界平和に身を尽くしてこその勇者だ。彼と一緒に、世界を救う旅をする。

 

 彼とはそういう話もしないといけない。

 とはいえ、それについても何を言えばいいかは決まってないが……。

 

 

 

 ──バタン! 

 

 

 

「あら、随分と深刻なお顔ですこと! 寝不足かしら!」

 

 ……ノックぐらいはしてくれないか。

 考えてたこと全部飛んだじゃないか。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「また変な仮面を……それより深刻な顔をしているつもりはないが」

 

「そうでしょうね。愛しの殿方と逢引するのにそんな顔見せたくありませんもの」

 

「違う! 長い付き合いになるから悩んでいるだけだ!」

 

「あんなに愚痴っておいて無自覚なんですの……?」

 

 あの三人から聞いた話では、今一番必要なのは「知能の高いボスの情報」。

 それを最も効率的に提供できるのは……ディアマだ。

 彼女の商会網を使えば、世界中の魔物の動向をかなりの精度で追える。

 

 そんな中、私が旅に出るということは、当然ディアマとの傭兵契約も終わるということ。

 

 分かってる。分かってるんだ。

 最善の選択はディアマから重要な情報だけ手に入れて、後は契約を無視すること。

 ただ、そんな虫のいい話、通る訳がない。

 いくら奇妙な仮面趣味があろうと、彼女は私を支え続けてくれたパトロンだ。傭兵としてここまで便宜を図ってもらった以上、筋は通さないといけない。

 義理を欠くのは、勇者の生き方に反するというものだ。

 

 そのために、彼女とのうまい落としどころを見つけるのも、目下悩みの種だった。

 

「……それで、何の用だ」

 

「まぁまぁそんな怖い顔しないでくださいまし! わたくし、単なる雑談に参りましたの」

 

 嘘をつけ。

 今このタイミング。何か嗅ぎつけて牽制にでも来たのか。

 必ず何か目的がある。金の匂いか、私への要件か、あるいはその両方。

 案の定、向かいの椅子に勝手に座って足を組んで──あの変な仮面の奥で、何かを企んでる。

 

「最近賑やかですわね~。あのパーティーの方々、中々の腕前とお見受けしましたけど」

 

「……人払いはしたはずだったが」

 

「あら! ウチの人間を使って人払い? くくく……」

 

 ……しまった。

 

 私としては単に各地のボスや勇者としての活動を聞くつもりの会議だったが……あの勇者会議、ディアマに盗み聞きされていたか。

 確かに、この女ならそういった密談を見逃す訳ないかもしれない。人払いさせたといっても、犯人がこの屋敷トップの権力者となれば、防ぐのは不可能じゃないか。

 

 ……で、あれば。

 あの会議の情報も、あらかた筒抜けだったことになる。

 

「……先日の会議の内容、どこまで聞いていた?」

 

「あら~、わたくしが盗み聞きなんてするように見えまして?」

 

「見える」

 

「まぁ失礼な! それでも、んー……正直に申し上げますとですね~」

 

 失礼なのはそっちだ。

 だが……これは勝負どころでもあるぞ。

 

 もし彼女が「魔王復活」の話まで聞いていたなら。私にとっての切り札になる。

 本来あれは外部の人間が知っていい情報ではないが、もしこの後一般に知れ渡れば下手人は間違いなくディアマだ。

 情報の漏洩は信用の失墜。そんな危険を冒す真似、彼女はしないだろう。

 

 ディアマとの契約は「世界平和のため」という大義名分の上に成り立っている。それは向こうも承知。

 もし世界そのものを脅かす存在が復活しようとしているのなら──この街の商路を守ることより、遥かに優先すべき任務だ。

 契約の精神そのものに基づいて、私は堂々と出ていける。

 彼女も商人として、契約の根拠が覆った以上は引き留められないはず、だが……。

 

 

 

「お部屋の壁が厚すぎて、肝心なところは聞き取れませんでしたの! くくく!」

 

 ……この女。

 それは、当然、そうなるか。

 

 

 

「あ、でも何やら深刻なご相談をされていたことは分かりましたわよ? お声の調子で」

 

「なら……」

 

「でも中身はさっぱりでしたわ! 残念~」

 

 嘘だ。

 絶対に嘘だ。

 

 この女が、自分の屋敷の客間に対策を施していない訳がない。

 壁が厚いだと? それならどうして「深刻な相談」以外は聞き取れるんだ。

 都合が良すぎる。「魔王復活」を知っていると認めた瞬間、私に契約解除の大義名分を与えてしまうことが分かっているから。

 全部聞いた上で、「聞いていない」と言い張ることで──私の切り札を封じに来ている。

 

「……本当に、聞いていないんだな?」

 

「ええ~! 本当ですわよ? わたくし、嘘は商売道具ですけど、貴女にだけは使いませんもの」

 

 今まさに使っているだろうに。

 

 だが……証拠はない。

 聞いていたはずだと詰めたところで、この女は絶対にボロを出さない。そういう人間だ。

 だからといって「実は魔王が復活するんだ」と切り出すこともできない。聞いていないと言い張られた以上、その情報をこちらから開示する意味は──むしろ情報を無償で渡すだけになってしまう。

 しかもこれは秘密にしないといけない情報。本当に知らなかったのなら交渉道具を明け渡すだけだ。

 

 なんてこと。

 悩みの種がさらに増えてしまったじゃないか。

 友人としては……まぁ、悪くない人間だというのに。

 金が絡みそうな案件になるといつもこうだ。

 

「それはそうと! あの旅人の──エスクリ様たちのこと、ですけれど」

 

「……」

 

「あれだけの腕前、遊ばせておくのは勿体ありません! 言いたいことはお分かりでしょう?」

 

 ……で、本題はやっぱりそういう話か。

 その、橋渡しを、私にしてもらおうと。

 

 彼女達が旅人で、同じく魔王復活阻止のための旅をしていることが分かっていて。

 それに知らないフリをしつつ、この街の利益のため、私と同じ条件で彼女達と傭兵契約を結びたいと。

 

「それに、彼女たちを説得してくださるなら──」

 

 

 

「──『知能の高いボス』の情報、提供して差し上げてもよろしくてよ?」

 

 ……! 

 本当に、いい性格をした女だ……! 

 

 

 

「勿論、鮮度も精度も保証付き。わたくしの商会網万歳ですわー!」

 

 ……持っていたのか、初めから。

 

 いや、持っていたのは分かっていたんだ。

 ディアマの情報力なら、その程度の情報を掴んでいて当然だ。

 

 問題はそれを「いつ出すか」を完璧に計算しているということ。

 

「……金の話になった瞬間これか。本当に流石だよ」

 

「お返事は急ぎませんわ~。じっくり考えてくださいまし!」

 

 情報が欲しいなら、旅は諦めろ。

 旅を諦めないなら、情報は渡さない。

 情報なしでこの街を出ても、手がかりの無い旅が待っているだけ。

 大人しくここを拠点に、傭兵任務と並行しろと、提案している。

 

 確かにこの街を拠点に動くことも可能だろうが、それはかなり自由度を削られる選択だ。

 そして、私達が契約を破れるような性格ではなく、万が一残り時間に迫られ出ていったとしても、その期間で最大限資産を蓄えることができる。

 

 返事を急がないというのは相談して自由に決めろとでも言いたいからか。

 人生楽しそうで羨ま……ん? 

 

 

 

「で、その殿方との仲直りは何時に待ち合わせですの?」

 

 今、何時だ。

 

 

 

「……もう、すぐだ」

 

「まぁ! わたくしが教えに来て助かりましたわね!」

 

「お前が話しにきたからだろう!」

 

 ああもう……まだ何を話すかまるで決まってないのに! 

 

 ヴィクトールを待たせるなんて絶対に許されないんだぞ。

 これでもし、「シュヴァは時間にルーズな女へと変わってしまった」なんて思われたらどうしてくれるんだ! 

 

 ……女だとも思われてなかった! 

 いいさ僕は男だよ! そういう目で見たこともないだろうし、相棒には最適だろうな! 

 

「ま、とりあえずさっさと仲直りしてきてくださいな!」

 

「言われなくてもそのつもりだ! 行ってくる!」

 

「行ってらっしゃいませ~!」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 もういい加減気持ちを切り替えよう。

 本番はすぐそこなんだ。別に思いつかなくてもいい。

 ヴィクトールは昔から、取り繕った言葉より素直な言葉の方が響く男だった。変に格好つけたところで、あの目にはすぐ見抜かれてしまうし、率直に言った方が意図を読み取ってくれる。

 

 だったら、普通に。かつての相棒として、自然体で接するのが一番だろう。

 

 この前のハーレム発言についても……ちゃんと謝らないと。

 あれは本当に酷いことを言った。彼の人格を否定するような暴言だった。あの場にいた三人にも不快な思いをさせてしまったし。

 まず「ごめん」から入って、それから……よし、後は流れに任せよう。不器用でも、誠意さえあれば伝わるはず。ヴィクトールなら。

 

 待ち合わせの広場はもうすぐそこだ。

 深呼吸して。背筋を伸ばして……。

 

 ……ん? 

 

 ──「オレ、アドバイスしただけで選んでなんかいねェぞ?」

 

 ……何、だと? 

 

 あの、後ろ姿。

 胴着に、短い黒髪。色付きの眼鏡は……見たことないが。

 間違えようがない。忘れたくても忘れられない。

 あの日、私に「使命なんざどうでもいい」と吐き捨てた──

 

 リュト。

 

「なんでこんな場所に……!」

 

 いや、そんなことはどうでもいい。

 問題は、あの女がまだ好き勝手に遊び歩いているという事実の方だ。

 世界がこんな状況だというのに、勇者としての自覚の欠片も持たず、ふらふらと──

 

「……いや、落ち着け。シュヴァ」

 

 前みたいに突っ込んでいっても、また逃げられるだけだ。

 あの身のこなしは私でも追いきれなかった。正面からではダメだと学んだはずだろう。

 とりあえず自分に『加速』の強化を重ね掛けするんだ。

 それで、様子を見よう。何をしているのか、誰と話しているのか。情報が先だ。

 

 こちらに気づくか、離れる素振りをしたらその瞬間拘束。

 リュトの力は相当だから『肉体強化』もしておくべきだろう。

 

 ……よし。あの柱の陰からなら見えるな。

 ……誰かと立ち話をしているのか? 相手は……ううん、見えないな。

 

 ──「それでも助かった。贈り物は滅多にしないから、失敗する訳にはいかなかった」

 

 ──「フーン……男?」

 

 ──「いや、女性だ。間違えちゃいけないと深く学んだからな」

 

 ──「へェ、女。女……ね」

 

 ……遠すぎて何を話しているかも聞こえないぞ。

 もう少しだけ、『遮音』を使って近づけば……。

 

 にしても、随分楽しそうじゃないか。

 久しぶりの友人と会ったみたいな。仲の良い知人と話が盛り上がった時みたいな。大好きな恋人と出会った時みたいな。

 そんな顔もできるんだな。

 そうやって楽しく勇者の使命を放棄している間も、ヴィクトールは精神をすり減らし、孤独に戦っているというのに。

 

 ああ、よしよし。

 ようやく聞こえてきたぞ……。

 

 ──「で、さ。助かったってんなら、また『アレ』頼むぜ。お前のが忘れられなくてな」

 

 ……だいぶマズイ会話をしてないか? 

 

 いや、考え過ぎか。

 いくらリュトといえどそこまで奔放な暮らしをしている訳じゃないだろう。

 これはアレだ。気に入った友人を見つけて、その相手が凄い料理の腕だったとか。眠りに効く香を焚くとか。とてつもない名画を描くとか。そういう類だろう。

 

 まさか、乱れた行為に手を染めている訳はない。

 あの女は私自身だ。元男だ。そんなことする訳が……。

 

 ──「別日じゃダメか?」

 

 えっ。

 

 

 

 えっ? え? あ? うそ……? 

 

 ……ヴィク、トール? 

 

 

 

 なんで。

 

 なんでリュトと一緒にいるんだ。どういう繋がりだ。いつの間に知り合ったんだ。

 昨日のあの三人だけじゃなかったのか。もう一人いたのか。

 いやそれよりも今こうして二人きりで話し込んでいるということ自体がおかしい。

 というか、今の会話だと、二人はもう、そういう関係に──

 

 ……ダメだ。

 また変な方向に考えが飛びそうになっている。冷静に。彼には彼の事情があるんだから。

 とにかく、何を話しているのか確認しなければ。もう少し近づけばよりはっきり声が届くはず──

 

「あァ? またやってほしくてここまで来たってのにお預けだって?」

 

「仕方ないだろう。これから大事な用があるんだ。今度全力でやってやる」

 

「はーつれねェの。オレ脚やってもらうの楽しみだったのによォ」

 

 ………………はい? 

 

 ま、待て。今の会話は。

 何の話をしている。何の話をしているんだ今のは。

 

 いや、だ。

 嫌だ。

 嫌だ! 

 

 

 

「はあああああっ!?」

 

 

 

「ん? あっ、シュヴァ」

 

「げっ!? シュヴァだァ!?」

 

 も、もう我慢ならない! 

 白昼堂々! 破廉恥だぞ二人共!!




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