僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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悪い結果にはならない……ですよね?

 ただいま戻りました……と言いたいところなんですが。

 なんですかこの空気は。

 

「……マッサージ中に声を上げるのは、ボク、止めた方がいいと思うな」

 

「あァ? んなもんオレの勝手だろ。変な声出してる訳じゃねーんだし」

 

「二人とも、それぐらいに……」

 

「ねぇねぇヴィクくん。ぼく調査頑張って来たんだよ。褒めて?」

 

「……ああ。書置きがあったからな、頼りにさせてもらったぞ」

 

「えへへぇ……!」

 

『こりゃぁひどいや』

 

 ああ、癒しの神様。

 こんなに頑張ってるんですよ? ご褒美にもうちょっとだけ身長を恵んでくださっても、罰は当たらないと思うんです。

 

 だってほら。

 二日間に及ぶ調査を終えてやっと帰ってこれたと思ったらこれですよ。

 宿の部屋に入った瞬間、さっきまで外を歩き回ってた疲れが全部どこかに吹き飛んじゃいました。

 一応現状の説明は受けましたが……それでも空気が良くならないのはどういうことなんでしょうか。

 

 えっと、まず整理しますよ? 

 

「変な声、出てたよ。誘ってるのかと思った」

 

「オレが? ……ねーよ。そもそも、ヴィクがしてくれるって約束だったんだし、文句言われる筋合いはねェんだが」

 

「……ヴィク? 本当?」

 

「事実だエスクリ。リュトには苦労をかけたし約束もしたから詫びを兼ねて……なんで掴むんだ」

 

 ソファにいるあの人が……リュトか。

 昨日の昼間に見かけた、あのナイスバディの。

 

 やっぱり女の人じゃないですか。しかもあの色眼鏡外してるから金色の瞳がバッチリ見えてるし、あの胴着からはみ出しそうな体つきは……いや今それどころじゃないんですけど。

 部屋に入って、くつろいだ顔のリュトがヴィクトールさんにマッサージを受けている光景が目に飛び込んできたときは驚きましたよ。しかもあんなえっ……色っぽい声出して。何してるのかと。

 おかげで僕の中の「リュトさん」のイメージがどんどん崩れてるんですけど。

 頼りになる、ヴィクトールさんみたいな男の僕かと思ってたのに。

 

 あと、エスクリが怖いです。

 声がとにかく低くて、普段のあの明るさがどこにもない。

 ヴィクさんの手を握りしめてる指が白くなってませんか。

 彼だから大丈夫なだけであって絶対痛いですよそれ。

 

 そりゃ気持ちは分かりますよ? 

 ヴィクトールさんがシュヴァへの謝罪をしているのとは別で。こっちは二日かけて走り回って、泥まみれで疲れ果てて帰ってきた訳ですから。これから手に入った情報の整理と共有もしなきゃいけない訳ですし。

 その結果を持ち帰ってやっと一息つけると思ったら、いかにも「いかがわしいことしてました」って感じのリュトを見せられたので……そりゃ不機嫌にだってなります。

 あれは確かに衝撃的でした、僕だって一瞬固まりましたし。

 

「ヴィクくん、お茶飲む? 温かいよ?」

 

「ありがとう。貰っていいか」

 

「うん! どうぞ」

 

 で、肝心のヴィクトールさんはというと……なんだかちょっと困ってそうなのが。

 あの人、こういう仲裁は上手いはずなのに、自分が原因だと途端にダメになりますよね。悪い人じゃないんだからフォローの一つでも入れてくれればいいのに、多分この状況は貴方が作り出したものじゃないですか。

 いやまぁ、二日前は貴方に楽をさせたいって思ってたんですけども。

 

 マージュは……リュトのマッサージにもそこまで興味が無いし、エスクリほど嫉妬する訳でも無さそうですね。彼女だけがこの修羅場に一切巻き込まれてない。

 なんならしれっとヴィクトールさんの隣の席で、何食わぬ顔でお茶飲んでるんですが。気づいてないフリして自然にあの位置を確保してる辺り、あの人はあの人で抜け目がないんだなぁって。

 ……もしかすると一番強かなのってマージュなんじゃないでしょうか。

 

 あぁもうこの空気をなんとかしないと。

 僕の胃がまた痛くなってきたじゃないですか。

 

「……あの」

 

「で、テメェは? さっきバタバタしてて聞きそびれたが」

 

 げ。

 

「えっと、ルメドです。最近このパーティーに──」

 

「あーやっぱしあのアイドル僧侶か。結局このパーティーに集まるのは『この面子』になるんだなァ……」

 

「そ、そんなんじゃありませんっ!」

 

 いやまぁ言いたいことは分かりますけど! 

 

 この人がこういう人だっていうのはエスクリたちから聞いてましたし、使命とか勇者とかいう言葉にアレルギーがあるのも知ってますけども。僕だってこのパーティーのシエル率はおかしいと思ってましたが。

 まぁ、ボクだって勝手に貴方に期待してたので半々、おあいこです。

 

 とにかく、今は報告しないといけないことがあるんですから。

 ここはぐっと飲み込んで──硬派な大人の対応をしないと。

 

「まぁ、いいです。それより皆さん、会議しますよ」

 

「あっ……そっか。これから『女子会』の時間だね。エスクリもリュトも、ほら行くよ」

 

「あ、女子会? なんでオレが……って、ああ。今はそういう言い方してんのか」

 

「ボクはこの『女子』会って呼び方嫌いなんだけどなぁ……」

 

 女子会。勇者会議の隠語。

 ヴィクトールさんが寝ていない間に会議する必要があって、なおかつヴィクトールさんが近くにいるときにだけ使われる特別な言葉。

 ……この名称で男の僕がメンバーなのはちょっと納得いきませんが。

 

「ああ、いつものだな。俺はここで待っておく」

 

 もう慣れたのか、ヴィクトールさんはお茶を啜りながら見送ってくれます。

 自分だけ置いて行かれるこの異様な状態に違和感を抱かなくなってるみたい。

 

 一時は身を案じて、壁を壊してまで乱入してくることがあったらしいですが。

 ちょっと見てみたかったな。

 もしこれからも勇者会議の最中に、僕たちが心配になったら無理やり来てくれたりするんでしょうか。

 それだと嬉しいんですけど。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 さて、と。

 ヴィクトールさんにはお茶を飲んで待っていてもらうとして。

 

 女子会こと第二十回勇者会議ですね。

 

 リュトが壁にもたれて腕を組んでるせいで余計に圧迫感があるんですが。この人が勇者シエルの生まれ変わりであることは知っていますが……本当にここにいていいんでしょうか。なんか緊張しますよ。

 いやそれは向こうも同じか。あの人にとっては僕の方が新顔ですからね。

 

「じゃあ手短にやるよ。ヴィクを長く待たせたくないし」

 

 エスクリが切り出してくれて助かります。

 僕もそのつもりでしたから。今回は報告と方針確認だけに絞りましょう。

 

 今回の議題は、調査で見つかった──とあるボスの情報についての整理。

 あとそれをヴィクトールさんに伝える上での口裏合わせ。

 

「リュトは知らないと思うけど、ボクたち魔王の手がかりを探すためボスを探してるんだ。この前会ったのは聞き込みの最中だったんだね」

 

「てことは……見つかったのか?」

 

「まぁ。見つかったっていうか……見つかっちゃったっていうか」

 

 そうなんですよ。

 ここがまた引っかかってるところで。

 

 シュヴァが倒して回ってるおかげでボスの手がかりなんてまるで掴めなかったのに。

 それがちょっと移動しただけで、急に「観光地の奥の湖に怪物がいるらしい」なんて話が転がり込んできて。しかも複数の情報源から。

 相当局所的か、一切被害を出してない特別な種類だったのかは知りませんが。

 

「正直、罠かもって思いながら行きましたよ。でも放っておく訳にもいかないし」

 

「ぼくもずっと嫌な予感がしてたんだけど……行ったら本当にいたんだよね」

 

 正直あれは怖かったです。

 噂を聞いて湖に向かった時は「まあ大したことないだろう」なんて思ってたんですよ。

 現地の人の反応も「そういう湖があるよ」程度で。行く必要も無いし、行っても意味が無いからよく分からないだなんて言ってたものですから。

 

 そのままの気分で、例の湖に近づいた瞬間、水面が盛り上がって──出てきたのがあれ。

 多分、水竜……っていうんでしょうか。蒼い鱗に覆われた、巨大な竜。

 サイズはそこまでじゃなかったけど……問題はそこじゃない。

 

「でっかい首が水面からいきなり出てきてさ。水の球みたいなものをバーンって吐きながら追いかけて来るんだよ」

 

「急に出てきて襲ってきたからぼくの火魔法で攻撃したんだけど……傷や焼けた鱗がすぐ元通りになってさ」

 

「再生能力に特化したタイプってことか?」

 

『そう。とはいえ再生速度は異常だよ。マージュの全力でも追いつけない。僕たちの火力じゃ、削り切る前に全部戻される』

 

「へェ、おっかねー」

 

「……簡単そうに言いますね」

 

 むむむ……。

 あれは心臓が止まるかと思ったんですよ? 本当に。

 

 あの水の球は一撃一撃が周囲の木々をなぎ倒していくぐらいの威力で……当たり所が悪ければ即死だったかもしれません。

 飛んできた攻撃を、エスクリと盾に変形したエペが全部弾いてくれなかったら、今頃どうなってたか……改めて考えるとゾッとする。

 それでいざ攻撃が当たったと思っても次の瞬間にはピンピンしてるんですから。相当な手数が要求されるでしょうね。

 

 だから、少なくともあのときの僕たちだけじゃ倒せなかった。

 僕の回復魔法でどれだけ味方を支えようが、敵を倒せなきゃ意味がないんですから。

 

 だけど、重要なことはあともう一つ。

 

「あのボス……深追いしてこなかったんですよ」

 

「……途中で獲物を見逃したって?」

 

「うん。まるで──あの湖を、離れちゃいけないみたいに」

 

 あれは不自然でした。

 普通ボスや魔物って、獲物を見たら諦めるなんて真似しませんよ。

 なのにあの水竜は、僕たちを排除しようとしていたんじゃなかった。僕たちを……追い払おうとしているようでした。

 

 攻撃は全部牽制で、こっちが下がれば追ってこない。こっちが近づけば容赦なく叩いてくる。

 つまり……。

 

 

 

「何かを、守っている……ような」

 

 

 

「その湖の底か、あるいはその奥に……守るべき何かがあるってことだな?」

 

『僕もそう思うよ。あの行動パターンは番犬そのものだ。しかもあの再生能力を持った個体がわざわざ張り付いてるってことは、守ってるものの価値がそれだけ高い』

 

 ……価値が高い。

 

 獲物を自分で追いかけるかどうか判断できる知能の高いボスが、異常な再生力で、一つの場所を守り続けている……どう考えても怪しい。

 つまりは、ボスそのものから情報を引き出せなくても、その奥に進むことで何かしらの情報を得ることができるってことになります。

 

 これで、魔王復活に関わる拠点じゃなかったら、逆に何なんですかって話ですよ。

 他に当たりも無いので当たって砕けろ感は出ていますが。

 

「だから、ヴィクへの報告はさ」

 

 つまり、あの人に伝えるべきは……ここまで来たら全員分かってそうですね。

 

「魔王のことは言わない。でも、あの水竜が異常に強いことと、何かを守ってるっぽいってことを伝える。これでいいよね」

 

「……面倒だなこの隠し事ごっこ」

 

 まぁはい。

 それについては自分の出自を恨んでもらってとしか。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「──という訳なんだ」

 

「なるほど……」

 

 うん、まぁ簡潔にまとめたつもりでしたけど……それでも十分ヴィクトールさんの興味を惹く内容だったんじゃないでしょうか。

 

 あの顔は……対策を組み立ててる最中ですかね。情報を咀嚼して、次の一手を探してる。

 こうやって黙り込む時間が長いほど、あの人は真剣に向き合ってくれてるってことなので……急かさず待ちましょう。

 

「こっちから近づかなければ大人しいんだよね。ただ──」

 

「あそこを通らないと先に進めないんだ。迂回路も無さそうで……」

 

「話聞いた感じ、オレが殴りに行っても同じだろうな。面倒な相手ってことだ」

 

「ねぇ、ボクが喋ってたんだけど」

 

 そう、あの湖は完全に進路を塞いでるんですよね。

 避けて通れるならそうしたいところですけど、地形的にそれも厳しい。

 結局あの水竜をどうにかしないと、僕たちは立ち往生するしかない訳で。

 

 そうなると、マージュの火力でもリュトのパワーでも削りきれないっていうのがまた……。

 再生の方が早いなら削り合いにすらならない。こっちのスタミナが切れるまで殴り続けて、それでも相手はピンピンしてるっていう最悪の展開が目に浮かびます。

 シンプルな強さなんですけど、これがまた厄介なんですよね。

 

 となると……必要なのは、再生を上回る火力か、再生を上回る手数の多さか、再生そのものを封じる手段か。

 今のパーティーだと……若干怪しいですよね。ヴィクトールさんは万能型ですけど、手数という一点までカバーできる訳じゃないし。回復魔法の僕がいるおかげで持久戦はできますけど、相手も持久戦が得意なんじゃ意味がない。

 

 

 

「──じゃあ、シュヴァに頼むのはどうだろう」

 

 あっ。

 

「えっ!?」

 

「ああ~」

 

「……確かにな」

 

 

 

 ……それもそうか。

 彼女の強化魔法があれば、味方の攻撃力を再生速度を上回るレベルまで引き上げられる可能性がある。なんなら、攻撃速度を加速させて、手数を無理やり増やすことだってできそうです。

 少なくとも今の僕たちだけで突っ込むよりは遥かに現実的な選択肢。

 

 ただ……シュヴァに会いに行くってことは、あの屋敷に足を運ぶってことですよね。

 あの屋敷に行くってことは、あの仮面お嬢様の勧誘攻勢をまた浴びせられるってことで。

 あの「ウチの傭兵になりませ~ん?」の圧が尋常じゃなかったのは僕も身をもって知ってますから。正直もう一回あれに晒されるのは僕だって御免被りたい。ちょっと口先で丸め込まれて気づいたら契約書……なんて展開があり得ない訳じゃないですし。

 

「シュヴァの雇い主の……ディアマ、だったか。その人に正式な依頼として金を出せばシュヴァが出動する、だろ?」

 

 ……ヴィクトールさんはあんまり抵抗が無さそうな……あっそうか。

 ヴィクトールさんはディアマさんのこと知らないんでした。シュヴァから「都市長の娘に雇われてる」程度は聞いてるでしょうけど、実際に会ったことはないはずだし。

 あの変な仮面も、あの圧の強い勧誘も、あの「くくく」って笑い方も、全部未体験。だからこういう提案が思いついたんですね。

 

 ただ、言ってることは納得できます。

 普通にシュヴァへ協力を頼もうと思うと、雇い主であるディアマの指示を無視して動くことになってしまう。だから、「こんなボスがいた」という情報を手土産に討伐依頼として頼み込めば、自然とシュヴァを依頼に呼び出すことができる、と。

 時間もありませんし、それが一番だとは確かに思いますよ。

 

「確か、勧誘が面倒でしつこいんだったよな?」

 

「まぁはい。そうですね」

 

「よし──じゃあ明日、俺が一人で話をつけてこよう」

 

 えっ、一人で? 

 

「大丈夫だ。シュヴァへの依頼なんだから、その雇い主に筋を通すぐらいはさせてくれ。その傭兵契約? とやらには引っかからないから安心してほしい」

 

 ……はぁ。

 

 またこの人は、一人で背負おうとしてる。

 僕たちが嫌がってるのを見て、じゃあ自分が行くって。当たり前みたいな顔して。

 自分には「使命」があるから、きっと大丈夫って思ってるんでしょうね。

 そりゃありがたいですよ? ありがたいんですけど。

 

 あのディアマ相手に一人で乗り込むって……大丈夫なんですか本当に。

 戦闘なら百人力でも、交渉は別でしょう。しかも相手は一代で世界規模の商会を牛耳ってる都市長の娘ですよ。

 ヴィクトールさんの純粋さが、あの女狐に利用されないといいんですけど。

 

「……じゃあ、ヴィクに任せるよ。無理はしないでね」

 

「おう」

 

「ヴィクくん……気をつけてね」

 

「分かってる」

 

「まぁ腕ずくで来るような相手じゃねーんだろ? なら大丈夫だろ」

 

 リュトは呑気ですね。

 まぁ、あの人はディアマに会ったことないですから当然ですけど。

 

 僕としては……ヴィクトールさんが傭兵契約に引っかからないっていう自信がどこから来てるのか、ちょっとだけ不安ではあるんですが。

 この人、押しに弱い訳じゃないけど……人の好意を無下にできないところがありますからね。

 ただ、僕たちがついていっても交渉の場で足手まといになる気しかしないし……。

 

 ……本当に大丈夫ですか? 

 一人で行って、尖ったもの見て、「ルメドだけでも連れて来ればよかった……」なんてことになりません? 今なら別にいいですよ? 僕も頑張りますから。




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