僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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農村セティ
こんな未来読めなかった


「いやー……結構かかっちゃったね」

 

『そうだね。すごく平和な旅だったって記憶しかないけど』

 

 一か月。

 丸々一か月の道中で──まともな戦闘が一度も無かったなんて信じられるかい? 

 なんども中継地点を経由しての、セティ到着だったけど……ボスはおろか、雑魚の魔物すらまるで見なかっただなんて。

 いやまぁ魔物がいるならボスがいるってことだから、魔物がいないのも当然なんだけど。

 

 僕? 

 僕みたいな剣は背負われてるだけだから元々暇だよ。

 

 まぁ、パーティーの中は相変わらず賑やかだったさ。

 エスクリは平和過ぎて僕を調理道具に使おうとしてたし。

 マージュの日記はあれで何冊目になるのか。前の分はどうしてるんだろう。

 ルメドはヴィクと毎晩話し込んでたけど……治療の話か何か? 

 シュヴァはもう上達しきった方位磁針について何度もヴィクに質問してて。

 リュトはリュトで時折、マッサージを頼んでは……もういいや。恥ずかしくなってきた。

 

 肝心のヴィクは──割と率先して皆の世話を焼こうとして。

 ディアマとの交渉で「所持金を全部使い果たした」とか前に言ってたから、金銭面で立場が無くなって、できるだけ他の仕事を引き受けるようにしてるんだろうけど。

 別にそんなことしなくてもいいのにね。

 

 でもまぁ、それも含めて──この一か月は平和だった。

 

 やっと到着したこの村も……小さな農村、って印象がぴったり。

 石造りの建物なんてほとんどなくて、木と土で出来た素朴な家がぽつぽつと並んでる。畑があって、井戸があって、鳥が歩いてて。カトリエを思い出すなぁ。

 

「リュト」

 

「……分かってる。ここが『次の街』だろ」

 

 で、到着して真っ先に皆の頭にあるのは──当然、あの約束のこと。

 

 リュトは確か、「次の街まで」って約束でシュヴァと和解して、こうして今着いてきてる。それ以降はもう関係ない、自由にやらせてもらうって。

 セティがその「次の街」に該当する以上、本来ならここでお別れのはず。これまでなんだかんだ再開して別れて再開してを繰り返してたけれど……自由を愛する彼女にとって、これ以上の拘束は望むところじゃないだろうし、僕たちだってそれを引き留める権利は無い。

 

 ……はずなんだけどね。

 

「……チッ」

 

 ……声の調子で分かるよ、リュト。

 君、すごく複雑な顔してるでしょ。

 やっぱり引っかかってるんだね──この一か月、何一つ貢献できなかったことに。

 

 いざ「協力してやる」って啖呵を切った手前、何もしないまま帰る訳にはいかないんだ。

 平和な道中のせいで彼女の腕力も体術も出番がゼロだったから──このまま去ったら、ただ飯を食って馬車に揺られてただけの一か月になっちゃうもんね。

 これから残りのメンバーはいざ世界を守るため本格的な活動を開始するのに、「まぁ自由がいいならお好きに」って感じで何もしないまま帰るってのが……彼女のプライドが許さないんだろう。

 

「……あと少しだけ付き合ってやる」

 

 ほら。

 

「いいのか?」

 

「……いーって。せっかく付き合ってやるつってんだ。気が変わらねェうちに取り仕切れよ」

 

「そうか。ありがとう、リュト」

 

「……おうよ」

 

「意外だな、リュト。もしや、遂に君も使命を──」

 

「がーっ! 余計な事言うんじゃねェ! ゾワゾワすんだろうが!」

 

 素直じゃないなぁ。

 

 でも嬉しいよ、僕としては。

 正直なところ、ここからが本番なんだ。一か月分の平穏のツケが一気に回ってくる可能性だってある。戦力は一人でも多い方がいいに決まってる。

 リュト自身がそれを分かってるかどうかはともかく──結果として、彼女はまだここにいてくれる。それだけで十分だ。

 

 

 

「じゃあ改めて、これからの方針についてだが」

 

「……奴らの拠点はこのセティの近くにある。そうだな、ヴィクトール?」

 

「そうだ。だから今後はこの村を拠点に、周囲を捜索していく。皆、いいか?」

 

 別にそんなこと聞かなくても皆賛成だよ。

 他に方法は無いんだから。

 

 実際問題なんだよね。

 あの石板にあった情報は「セティに第七集積所」があるってことだけで。どの方角に何歩歩けば見つかりますなんてご丁寧な案内が書かれてる訳じゃない。

 村の中なのか外なのか、地上なのか地下なのか。隠すために作られた場所がそう簡単に見つかるはずもない。

 あの水竜の洞窟だって、ボスを倒すまで入り口すら見えなかったんだから──今回もすんなりとはいかないだろうなって覚悟はしておくべきだろうね。

 

 もし拠点を見つけられれば。

 そこから本格的な勇者勢の反撃が始まる訳だ。

 

「だから今日は──二人ずつ三組に分かれて探索してみないか」

 

「えっ……」

 

「……へ?」

 

「ふーん?」

 

「わ、わぁ」

 

「……ふむ」

 

「俺が思うに、村の中に一組、村の外に二組で──」

 

 ……あっ。

 ごくりって聞こえた。

 

 誰のだろう。全員心当たりあるけど。ヴィクの話が聞こえてるのかな。

 まぁでも流石にエスクリかな。僕を背負ってるからね。

 

「(じゃぁもしかして、ボクとヴィクで、二人きりってことも……?)」

 

『また始まったよ……』

 

 まぁ仕方ないか。

 世界に危機が迫ってる状態ではあるけれど、それが彼女の色ボケを完治できる訳でもないし。

 二人きりってシチュエーションはやっぱり惹かれるものがあるのかな。

 

 組になれるといいね、エスクリ。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「……よろしくね、マージュ」

 

「残念だったね、ぼくもヴィクくんと組みたかったけど」

 

「……そんなんじゃないよ、ボクは」

 

 あちゃー。

 組めなかったか。

 

 

 

 まぁエスクリの内心は置いといて、こうなったからには仕方ない。

 とはいえ、このチーム分けは合理的だと思うよ。

 

 シュヴァはリュトと組んだけど──あれはまぁ、リュトの監視も兼ねてるんだろうね。

 リュトの嫌そうな顔と言ったらまぁなんとも。ちょっと同情しちゃうぐらいだった。

 あの二人はお互い苦手意識がありそう……というか完全な犬猿の仲なんだけど。シュヴァはリュトを信用しきってないからこそ、リュトが勝手にどこかへ行くのを抑止しようと思ってるんじゃないかな。戦力としても前衛二人で安定感がある。

 

 で、残りの組み合わせを考えると。

 マージュとルメドは後衛同士で組ませても前線が空白になるし、いざ戦闘になると護衛がいなくてすぐやられちゃう可能性がある。

 でも、回避特化のエスクリと回復特化のルメドだと戦闘スタイルが噛み合わない。火力のあるヴィクと火力特化のマージュが組んでもまぁ効率が悪い。

 となれば、エスクリとマージュ、ヴィクとルメド。これが一番バランスが取れてるんだ。

 

 リュトとの組を志願したシュヴァは除くとして……ヴィクが何も説明せずにこの組み合わせを出してきたってことは、全部頭の中で計算してたんだろうな。彼、そういうとこは本当に抜かりないし。

 ……まぁ、当人たちの感情面は一切考慮されてないんだけどさ。

 

「それにしても──近くに魔王軍の拠点があるとは思えないや」

 

「のどかだよねぇ。ドゥジェームの荒れ地とは大違い」

 

『まさに平和そのものって風景だよね』

 

 散策を始めてしばらく経つけど、拠点の手がかりらしきものは一切見つかっていない。

 村の人は旅人に対しても歓迎的な空気で、すれ違う住人が「どちらから?」なんて声をかけてくれたりもするし。怪しい気配なんて微塵もないんだけど……だからこそ、あの石板の情報が本当なのか不安になってくるというか。

 

「ボクが見た感じだと、怪しい建物とか洞窟の入り口みたいなものは全然……」

 

「ぼくも魔力的に変なものは感じないかなぁ。普通の村だよね」

 

『索敵魔法が使えるシュヴァの組が本命になるのかな』

 

 まぁ初日からそう簡単に見つかるとは思ってなかったけどさ。

 それでも何かしらの取っかかりぐらいはあるかと期待してたんだけど──

 

「──あら、旅の人? よく来たね」

 

「あっ、どうも」

 

「セティには何も無いけれど、ゆっくりしていってね」

 

「えっと、はい。ありがとうございます」

 

「ふふふ。じゃあ」

 

 

 

「……さっきの人、耳が──長くなかった?」

 

「……長かった、ね」

 

『エルフか。現代だと見るのは初めてかも』

 

 

 

 僕はちょっと前から気づいてたけど、この村──エルフがいるんだよね。

 さっきすれ違った人だけじゃなくて、向こうの武器屋で仕事してる、背の低いがっしりした人はドワーフっぽかったしさ。普通に亜人種がちらほらいるな。

 数は多くないけど、人間に混じってごく自然に暮らしてる感じ。

 

「ぼくも初めて見たなぁ。ドゥジェームにはいなかったし……」

 

「ボクもなんだよね。前世では会ったことあるはずなんだけど、今世だと全然縁がなくて」

 

『まぁ……前世でも数は減ってたけどさ』

 

 前世──シエルの時代には、もうちょっと亜人種の知り合いがいたはず。

 

 当時、それこそエルフやドワーフみたいな亜人種は沢山いたけれど……長命の特性や技能の高さから魔王軍に危険視されてとにかく標的にされてたこと、しっかり覚えてる。歴史の勉強で何度も教えられた。

 おかげでどんどん数を減らして、ただでさえ少なかった亜人種がどんどん減っていた……と、聞いていたけれど。

 

 一時的に魔王の脅威が去ってから数百年経って、彼らの居住地域が変わったのか、それとも僕たちが偏った場所ばかり回ってきただけなのか。今世ではさらにめっきり見なくなってしまった。

 エスクリが旅を始めた田舎の村にも、マージュが暮らしていたドゥジェームにも、それ以降の旅でも亜人種の姿は無かったし。こうして普通に共生してる村を見ると、ちょっと新鮮ではあるよね。

 

「前世で教わってた先生の中にも亜人種の人いなかったっけ」

 

「あー……どうだろう。ぼく魔法の先生しか覚えてなくて」

 

『僕もはっきりとは覚えてないんだよね。なんかいたような、いなかったような……』

 

 うーん、曖昧だなぁ。

 記憶の受け継ぎ方にはかなり個人差があるから、僕が覚えてないだけで実際にはいたのかもしれないし。もしかしたら他の記憶と混ざってるだけでそんな先生いなかったのかも。沢山いたし、流石に一人ぐらいはいてもおかしくないけれど。

 リュトなら訓練時代の記憶をかなり鮮明に持ってるはずだから、聞けば分かるかもしれないけど……彼女は当時のことを話したがらないだろうしね。嫌な記憶と直結してるんだから、わざわざ掘り返すのも可哀想だ。

 

「まぁいいか。今は関係ないしね」

 

「そうだね。それよりもうちょっと先まで見て回ろうよ」

 

『賛成。日が暮れる前にできるだけ歩いておきたいしね』

 

 よし、雑談はこれぐらいにしておこう。

 今日一日で見つかるとは思ってないけど、足を動かさないことには何も始まらないし。

 明日以降の探索範囲を絞るためにも、とりあえず村の全体像を把握しておかないとね。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 結局、今日一日で分かったことは──何も分からなかったってことだけだ。

 

 村の端から端まで歩いて、目につく場所は一通り見て回って。怪しい建造物も、不自然な地形も、魔力の残滓みたいなものも一切見つからなかった。

 村人への聞き込みも同じ。「最近変わったことはないかい?」って聞いても、返ってくるのは「いやぁ、特に何も」「平和なもんだよ」ばっかり。嘘をついてる感じもないし、操られているような魔力も一切感じない。本当に何も無いんだろう。

 それはそれで、魔王軍はこの村に手を出していないっていう意味にもなるんだろうけど。何もなかったことを果たして今は喜ぶべきなのか……。

 

「収穫なしかぁ……」

 

「ぼくも何も見つけられなかった。ごめんね」

 

「マージュのせいじゃないよ。ボクだって同じだし」

 

『初日だしね。焦らず行こう』

 

 時間が無いのは事実だけど、これで重要な情報を見落としてもダメだからね。

 明日以降は範囲を広げて、僕たちも村の外──周辺の森や丘陵を探索する方向になるだろうね。今日のところは村の中に手がかりが無いって分かっただけでも、消去法としては意味がある。

 そう考えれば、全く無駄だったって訳じゃない。そういうやり方じゃキリがないのは分かっているけれど。

 

 ……ただ、僕には一つだけ、どうしても引っかかってることがあって。

 

『あの石板の情報──本当に正しいのかな』

 

「ん? どうしたの?」

 

『あ、いや。なんでもないよ』

 

 声に出ちゃってたか。

 別にこれは僕個人……個剣の疑念だし。あんまり人に言うべきじゃないかもしれないけど。

 

 疑いたくて疑ってる訳じゃないんだよ。

 ヴィクのことは信頼してるし、彼が嘘をついて僕たちをこんな辺鄙な村に連れてくる理由なんて思いつかない。

 

 でも──あの石板を読めたのはヴィクだけなんだ。

 シュヴァは読めるフリをしていたけど、あれがハッタリだったことは口裏合わせを頼まれた僕が一番よく知ってる。ルメドも読めなかったし、エスクリもマージュも当然読めていない。

 つまり、「セティに第七集積所がある」という情報の出どころは、完全にヴィクの自己申告だけ。内容を検証した人間が一人もいないんだよね。

 

 別にヴィクが嘘をついてるとは思わない。

 あの場面で嘘をつく動機が無いし、彼が秘密を打ち明けてくれたあの瞬間の表情は──あれは本物だった。間違いない。

 ただ、「読めた」こと自体が僕にはまだ謎なんだ。

 

 あの文字は──僕の前世の記憶にも引っかからない。

 シエルとして生きた数十年間、ありとあらゆる書物や文献に触れてきたはずなのに、あの石板の文字だけはまるで見覚えが無かった。エスクリやマージュやルメドも同じことを言ってた。

 なのにヴィクは読めた。「勇者シエルの軌跡を追うためにこの言語を勉強した」と彼は言っていたけど──当の勇者シエルたちが誰一人知らない言語を、一般人の彼がどうやって。

 

 ……考えても答えは出ないか。

 彼の故郷に特殊な伝承があったのかもしれないし、旅の途中で偶然出会った文献から学んだのかもしれない。どんな経緯があろうと、彼が魔王復活の阻止に向けて全力で動いてくれてることは事実なんだから。

 今はそれを信じて、目の前のことに集中するべきだ。

 

 ……うん、そうだよ。余計なことを考えるのは止めよう。

 

「あっ、合流地点見えてきたね」

 

「ヴィクくんとルメドはもう着いてるかな……あっ」

 

 ……そんなこと考えてたら、もう合流か。

 

 リュトとシュヴァはまだ来てないみたいだけど……お、もう二人の姿が見えるね。

 ヴィクの大きな背中と、その隣のルメドの小さなシルエットと──

 

『……ん? 三人いない?』

 

「……え?」

 

「あれ、誰かいるね……女の人?」

 

 ……まさか。

 また、これか。

 

 ヴィクの隣に知らない女性がいる。

 カトリエの時と全く同じ構図じゃないか。

 あの女たらしめ。相手が小さい子供好き……ルメド目当てでもない限り、もう言い訳できないよ。

 

 あの時はエスクリが暴走して大変なことになったけど──流石にもう学習したよね? ねぇエスクリ? 

 

「……ボクは何も言わないよ。何も」

 

『偉い。成長したね』

 

「うるさい」

 

「えっなにがあったの……怖いんだけど」

 

 あぁ、そっか。マージュは知らないんだよね。

 そんな彼女も「またかぁ」みたいな顔してるけど、まぁ冷静ではある。

 カトリエの一件でちょっとは耐性がついたのかな。

 

 あ、振り向い……。

 ……あれ? 

 

 

 

 色素の薄い──紫の、髪。

 

「……え」

 

 閉じられた瞳。

 

「……うそ」

 

 質素だけど清潔感のあるローブ。

 

『……え?』

 

 

 

 ……見間違いじゃ、ない、よね。

 あの容姿は、忘れようがない。

 カトリエの小屋で、ヴィクの背中に背負われたまま、あの予言を聞かされたあの日。

 ずっと目の前にいた……。

 

 でも、どうしてここに? 

 ここはカトリエから、物凄く離れているはず

 なのに、どうして……。

 

 

 

 ──「お久しぶりです、ヴィクトール様」

 

 ──「君は、カトリエにいたはずじゃ……」

 

 ──「? ヴィクトールさん、知り合いですか?」

 

 

 

 盲目の占い師──プレヴィ。




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