僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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『犠牲者の牧場』

 あの紫の髪……間違いない。

 でもなんでこんな場所に。カトリエからセティまでどれだけ離れてると思ってるんだ。僕たちだってシズィからの移動でも一か月近くかかってるのに。

 

「……行こう、マージュ!」

 

「あっうん!」

 

『あわわ』

 

 ちょっと、もう少し丁寧に走ってくれないかな。まだ完全に安定してる状態じゃないんだけど。

 でもまぁ、気持ちは分かるよ。あの顔ぶれを遠目に見て平気でいられる方がどうかしてるし。

 

「──ヴィク! ルメド!」

 

「……! 二人とも……」

 

「おや。その声は、エスクリ様ですか?」

 

「あー、えっとだな……」

 

 やっぱり、彼も動揺してる。こんな素直に動揺を表に出すヴィクも珍しい。

 それだけこの状況が想定外だったってことなんだろうけど……逆にこっちまで不安になるからやめてほしいな。

 

「お久しぶりです、エスクリ様」

 

「あ、うん……久しぶり」

 

「お隣の方は……お会いしたことがありましたか?」

 

「えっと……まぁ、はい。ぼくは、マージュです。よろしく」

 

「なんか僕以外全員顔見知りっぽいんですが……」

 

 ……ルメドだけ肩身が狭そうだな。

 

 エスクリの声がちょっと硬いのは……まぁ仕方ないか。

 カトリエでの一件──彼女がプレヴィをシエルの転生体じゃないかって疑って、空回りして、自己嫌悪に陥ったあの日のこと、まだ引きずってるんだろうな。

 あの時みたいにまた変なことを口走りたくないって、必死で抑えてるのが背中越しにも伝わってくるよ。

 

「プレヴィ……さんは、どうしてここに?」

 

「占いの仕事で各地を回っている途中でして。この村にも、少し用があったものですから」

 

 ……ふむ。

 嘘をついてる感じはしない。でも全部話してる感じでもない。

 

 占い師が各地を回ること自体はおかしくないし、盲目のプレヴィが一人で旅をしているのだとしたらそれはそれで凄いことだけど──杖もあるし、ここまで商隊に乗せてもらうとかしたら……まぁあり得なくはないか。

 ただそれでも、あの予言を伝えてきた張本人が僕たちの目的地と同じ場所にいるなんて。

 

「そうなんだ……大変だね、旅」

 

『……それ以上踏み込まないんだね』

 

「あの……初めまして。ルメドです」

 

「初めまして。プレヴィです、よろしくお願いしますね」

 

 いやまぁ正解だと思うよ。前回の二の舞になるよりずっといい。

 マージュも横で黙ってるけど、あの目は覚えてる顔だ。カトリエですれ違った時のことを思い出してるんだろうな。ただ面識が薄いから、何を言えばいいか分からないんだと思う。

 ルメドは素直に挨拶してるな。彼は本当に初対面だもんね。

 

 

 

「それで……色々聞きたいことはあるんだが──少し、彼女と二人で話をさせてくれないか」

 

 ……来た。

 

 

 

「……分かってるよ、ヴィク」

 

「ぼくたちはあっちで待ってるね」

 

「すぐ戻る。悪いな」

 

 皆、流石にすぐ察したか。

 そりゃそうだ。あのプレヴィの占いは、とんでもない精度を誇ってる。

 そして今僕たちは……大急ぎで見つけたいものがある。

 ここまで来たら考えることは一つだもの。

 

 どうして彼女がここにいるのかは置いておくとして。

 彼女から、「魔王軍の拠点」の場所を聞きだせれば、僕たちにとって大きな進展になる。

 

 カトリエで魔王復活の予言をヴィクに伝えて、今度はセティにまで現れて。ヴィクが即座に「話をさせてくれ」って切り出すってことは、彼もこの再会の機会を生かすしかないって考えたってことなんだ。

 プレヴィは「ヴィクトールだけに話した」と思ってるし警戒されてもいけないから、僕たちは知らないふりをしつつ、彼女がヴィクトールに新しい情報を提供してくれることを期待してる。

 だから二人きりにしてくれって──そう判断した……。

 

「──おー、なんだ。もう全員揃ってんじゃねーか」

 

「ん? ヴィクトールはどこだ?」

 

 あっ、リュトとシュヴァだ。

 戻ってきたのか。タイミングがいいのか悪いのか。

 

「そっちの成果は?」

 

「全然だ。テメェらの方は?」

 

「こっちも同じ……なんだけど、ちょっと事情が変わって。えっとね」

 

 エスクリがかいつまんで説明してくれてるね。

 まぁプレヴィについての情報はヴィクが一度説明したから大雑把にだけれど。

 その彼女が何故かここに来てて、今ヴィクがその人と話してる──って。

 

「……盲目の占い師か。彼に情報を与えたという女性だな」

 

「あー、道教えてくれたアイツか。なんでここにいんだ?」

 

『さぁ。各地を旅してるとは言ってたけど……』

 

「ふーん?」

 

 まぁ、納得はしてないけど、ここで騒いでも仕方ないって判断したみたい。

 となると、僕たちにできることは待つことだけ。

 全員揃ってるのにヴィクだけがいないっていうのは──なんだかパーティーの形に穴が空いたみたいで、どうにも据わりが悪い。

 唯一勇者じゃない。唯一過去を生きていない。唯一の現代人の彼が……このパーティーの中心っていうのは、やっぱり不思議だな。

 

 

 

「──戻ったぞ」

 

 ……っ! 

 

「ヴィク!」

 

「おかえり!」

 

 どれぐらい経ったかな。

 体感だと相当長かったけど、実際はそこまでじゃなかったのかもしれない。

 プレヴィの姿は……ないか。もう別れた後なんだ。

 

 でも、ヴィクの顔がいつもと違う。はっきり違う。

 平静を装おうとしてるのは分かるけど、あの目の奥にあるものを隠しきれてない。

 深刻で、切迫してて、何かをぎりぎりのところで押し殺してるような──

 

「……で、どうだった」

 

「ああ、その……それについてなんだが……」

 

 あの日と同じだ。

 カトリエの小屋で、プレヴィから魔王復活の予言を聞かされた直後の──あの空気。

 またあの人から何かを聞いたんだ。しかも前回以上に重いものを。

 彼は今から、それを打ち明けようとしている。

 

「もう遅い時間で悪いが──皆、少し付き合ってくれないか」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 拠点の場所が分かったと聞かされて、出発したのがもう一時間前。

 ここから南東にさらに一時間ほど歩いた先。荒れ地の中にあるらしい。

 具体的な方角と距離まで。相変わらずとんでもない精度だよ。

 本人は「必ず的中する訳ではない」って過去に言っていたけれど……今まで外したところを見たことが無いからなぁ。

 

「準備整えるべきじゃないの? いや、ボクは付き合うけどさ」

 

「すまない。遅い時間で悪いとは思ってる。だが──かなり急ぐ必要がある」

 

「急ぐってのはどういうことですか? 僕も賛成ですけど」

 

「厳密には違うが……人質がいる可能性がある。優先すべきだ」

 

「!? 人命がかかっているのか、ヴィクトール!?」

 

「そうだ。最悪、ショッキングなものを見るかもしれない」

 

「ショッキングって……ヴィクくん、大丈夫なの?」

 

「大丈夫……じゃないかもしれないな。次はこっちだ」

 

「おいおい、マジかよ……」

 

 え……っと。

 思ってたより重要そうな情報が出てきたんだけど。

 

 人質。それに、ショッキング。

 ただ危険なら「危ない」「気をつけろ」って言い方をするはずの彼が、わざわざ「ショッキング」と言ったんだよ。つまりこれは戦闘の危険を警告してるんじゃなくて、「見たくないものを見ることになるかもしれない」っていう……そっちの覚悟を求めてるんだ。

 ヴィクが詳しい説明をしないのは……その情報を告げることが──僕たちの目を曇らせる可能性があると、思っているのかもしれない。

 

「覚悟の上だよ、ヴィク」

 

「今更怖気づいたりしないから、安心して」

 

「……ふん。行くだけ行ってみりゃ分かるだろ」

 

「僕はヴィクトールさんの判断を信じます」

 

「私もだ。先導してくれ、ヴィクトール」

 

 ……誰一人、迷わなかったな。

 僕たちは全員勇者。どんな覚悟だってできてる……リュトは例外かもしれないけど。

 

 それにしても、村を出てからもう結構歩いたな。

 道なんてとっくに消えてるし、草も低くまばらで、岩がちの荒れ地がだらだらと続いてて……足元が不安定だからエスクリの歩き方もぎこちなくなってきてるし、僕の体もさっきからガタガタ揺れっぱなし。

 

 皆だんだん口数も減って来て、途中からルメドはヴィクに背負ってもらってる。

 でもパニックってわけじゃなくて──皆、自分の中で覚悟を固めてる最中なんだろうな。

 リュトだけはいつも通りの足取りで、周囲をきょろきょろ見回してるのがちょっとだけ安心するけど。

 

 ここまで遠いとなると、見つかる訳がないよね。

 平坦で、乾いてて、目印になるものが一つもない。こんな場所に拠点を隠すには最適なんだろうけど、逆に言えば何の手がかりもない荒野の真ん中で「この辺りだ」って言われても──

 

「っと……確かこの辺りだ。シュヴァ、索敵を頼めるか」

 

「任せろ──『索敵』」

 

 本当に言ったよ。

 

 それでもやっぱり、何もない。ただの荒れ地だけど。

 岩場がちょっと盛り上がってるぐらいで、洞窟の入り口も建造物の跡もないけど……。

 

「……反応がない。生物も、魔力の残滓も、何一つ引っかからないぞ」

 

「そんなはずは……」

 

 だよね。

 魔法に特化したマージュもルメドもさっきから頭に「?」を浮かべてるし、あの二人がピンと来てないなら本当に何もないのか。

 でも実際に何も見つからないとなると──一体どうすればいいのか。僕たち皆この場所を信じて来てるのに。

 

 こうなってくると正直、本当にここで合ってるのか不安になってきちゃうんだけど──

 

 

 

「──見つけたぞ」

 

 え……? 

 リュト? 

 

 

 

「やっぱこれのせいか。山ほど見てきたから、もう見慣れちまったよ」

 

「え、何を見つけたの」

 

 ……リュトは何を見下ろしてるんだ? 

 そこにあるのは──何もない地面、のはず。少なくとも僕の目にはそうとしか映ってない。僕に目は無いけど。

 でもリュトだけは明らかに何かを見てるような……。

 

「テメェらに見えてないだけだ。ここに魔法陣がある」

 

「魔法陣? 私にはまるで感じ取れなかったが」

 

「人除けの魔法陣だから引っかからねェんだよ。オレ以外には分かりにくいんだろ」

 

 ……あっ。

 そうか! 

 

 リュトは確かソワンにいた頃、国中の人除け魔法陣をかいくぐって卵潰しの一人旅をしていたんだっけ。確か、後でそう話してたのを聞いた覚えがあるぞ。

 前世のシエルの肉体が呪いや妨害魔法を寄せつけない体質だったから──その特性をそのまま受け継いだリュトには、人除けの魔法が一切効かないってことなんだ。

 

 だから、彼女が地面をかき消したら……。

 

「こうして魔法陣をぐしゃぐしゃーってやると……ほらな?」

 

『……見えた!』

 

 ……こうして、入口が浮かび上がってくるんだ! 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ……もう、嫌な予感しかしないな、ここ。

 地下に降りてからずっと、ずっと嫌な予感しかしない。

 

 ただの通路がバカみたいに明るいし、バカみたいに広い。しかも、前世で何度も嗅いだ修羅場の空気を、さっきからずっと感じてるんだよね。

 言葉にしにくいんだけど……生き物を飼ってる場所特有の、ぬるくて、重くて、どこか甘ったるい匂いっていうのかな。当時は剣じゃなくて人間だったから嗅覚があったんだけど、今は匂いじゃなくて──魔力の質として、同じものを感じてる。思い出したくないのに、体が……いや刀身が覚えてるんだよ、この感じ。

 

 

 

「もしかしたら、皆、知っているかもしれないが──ここはかつて、『犠牲者の牧場』とも呼ばれる施設だ」

 

「えっ……!!」

 

 ……ああ、やっぱりか。

 

 今、息をのんだのは誰なのか。

 もしかしたら、その『かつて』の記憶を持つ全員なのかもしれないけど。

 

 

 

「ま、待て。『犠牲者の牧場』と……言ったのか? 今」

 

「それだと、人質ってのは……そういうことなんですか?」

 

「想像の通りだ。その反応だと……やっぱり知っているのか」

 

「いや、それは、その、そうなんだが……」

 

「げ、現代にも……これが……!?」

 

 思わずシュヴァとルメドが声を上げちゃったけど……他のメンバーが黙っていられたのが不思議なぐらいだよ。

 

 だって、分かってたんだ。

 降りた瞬間からずっと、嫌な予感の正体がこれなんだろうなって。

 でも名前を聞くまでは認めたくなかったんだ。まさか、まさかそんなはずないよねって。

 その「まさか」が当たっちゃった訳だけどさ。

 

 犠牲者の牧場。

 かつて魔王軍が世界各地で運営していた人体実験施設。

 それを忌み嫌う人間たちがいつしか呼ぶようになった名前。

 

 人体実験といっても、既に育った人間じゃ素材として使えないから、わざわざ一から「製造」する。

 赤子の段階から完全な管理下に置いて、育てて、実験材料にする者と兵士にする者に振り分けて。人間じゃない形へ改造を施していく。

 魔王軍にとっては「資源」だった。魔力の触媒、肉体改造の素体、洗脳兵士の補充──用途はいくらでもあった。だから、魔王軍の間ではここを「集積所」なんて呼んでたんだな。

 

 前世で何度も潰して回った。何度も何度も。

 各地で見つけるたびに仲間たちと共に突入して、魔王軍を殲滅して、中にいる人たちを外に連れ出して──でもあの人たちにとってはそこが「世界の全部」で、外に出されても喜ぶ訳でもない。怯えるか、暴れるか、何も反応しないかのどれか。

 僕は剣だから胃は無いんだけど──もしあったら今頃ひっくり返ってると思う。何度思い出しても慣れない。慣れちゃいけないものだとは思うけど、それでも辛いもんは辛いんだ。

 

「ヴィクくん……それ、本当なの?」

 

「……一度、その跡地を見たことがある。ここはその雰囲気にそっくりだ」

 

「なんだって跡地になるような施設が今も現役なんだよ、畜生が」

 

 そうだ。問題はそれが今も動いてるってことなんだ。

 今、いる場所が本当にそれなのかもまだ信じきれてないのに。

 魔王が滅んだ後もずっと。僕たちが各地でボスを倒して、人々に感謝されて、世界は平和になったって──そう思い込んでた裏側で。数百年、この地下でずっと。

 

 ……皆、明らかに目の色が変わってるよ。動揺が隠せてない。

 まぁそうだよね。前世の記憶がある者なら、この名前を聞いて平静でいられるはずがない。記憶の濃さはそれぞれ違っても、「犠牲者の牧場」が何を意味するかは分かってるんだ。

 ヴィクが言ってた「ショッキング」の意味が、今やっと分かった──いや、分かりたくなかったな。

 

 ……あれ?

 じゃあどうしてヴィクは、この建物に入る前から、「人質がいる可能性」なんて知って──

 

「──だから、皆」

 

 ……っ。

 

 

 

「これから先、見たくないものを見るかもしれない」

 

『……』

 

「でも俺は──次の日まで待つなんてできなかった」

 

『……っ』

 

「無理を言ったのについてきてくれて、ありがとう」

 

『……』

 

「どうか、俺に力を──貸してほしい」

 

 

 

 ……僕は何を、彼のことを疑おうとしていたんだ。

 彼が正義の人であることは、分かり切ってるじゃないか。

 多少何か分からないことがあるからなんだ。それは後でだってできる。

 今は彼を信じて、共にエスクリの武器となるのが僕の役目じゃないのか。

 

「当然だよ! キミじゃなくても、ボクだってきっとそうしたから!」

 

「そうだよヴィクくん。ぼくたちはみんな、覚悟して、ここに来たから」

 

「……やーっと約束を果たせそうだな。いいぜ、やってやるよ」

 

「これだけ迅速に動けたんですし、僕は最初から賛成でしたよ!」

 

「そうだ。これは正義の行いそのもの。自信を持て、ヴィクトール」

 

「……ありがとう、皆」

 

 皆の心は一つだ。

 ここが本当に「犠牲者の牧場」なら、することは前世から変わらない。

 ここにいる魔王軍を殲滅して、中の人々を助け出すことだけ。

 

 だから、彼の剣を握るその手が、過剰なまで震えているのも。

 その全身からこれまでにないほど殺気があふれ出ているのも。

 普段の彼から想像できないほど底冷えした空気を感じるのも。

 すべては、ここの管理者を打ち倒し、犠牲者たちを救うため。

 いくつかちょっと気になりはしたけど、今気にすべきことじゃない。

 

 

 

 ──「……侵入者がいるナ?」

 

 ──「次の物資ではないのカ。殺セ」

 

 ──「水槽を開けロ。迎撃するゾ」

 

 

 

「──行くぞ。魔王の手先は皆殺しだ」

 

 なのに、今の彼は、酷く恐ろしく見える。

 これが終われば、いつも通りの君に、戻るよね?




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