僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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十分な成果だと思いますよ?

「『索敵』に反応はない! 制圧完了だ!」

 

 ……すごい速さで終わりましたね。

 

 ヴィクトールさんが扉を蹴破って一分経ったかどうかってところですよね、まだ。

 前衛メンバーは返り血まみれだけど……シュヴァの強化のおかげで一切ダメージを負ってないし。後衛の僕とマージュに至っては入る瞬間の姿と一切変わりませんよ。

 

 改めて思うんですけど、この人たちの戦闘は本当に凄まじい。

 水竜の時も思いましたけど、僕が軽い回復魔法をかけ続けてるだけで勝手に片付いちゃうんじゃないですか。それだけ、全員の能力が相当なレベルというか。元勇者だから当たり前なんですが。

 

「よし。何人かに分かれて『犠牲者』の保護の準備だ。念のため警戒も続けよう」

 

「了解だよ!」

 

「ヴィクくん、ほら、これで血拭いて」

 

「ん。ありがとう、マージュ」

 

 ヴィクトールさんの切り替えの早さも相変わらず。

 さっきまでは、あの蛇のボスと戦っていたときの……タガの外れたみたいな、驚くぐらい凄まじい殺意を滲ませてたように思うんですが。もう次への行動の指示を出してる。

 入るや否や、初手で三体いたボス一体の首を跳ね飛ばしたのもあの人ですし。シュヴァの強化も相まって、戦闘に限っては本当に敵なしですね。

 

「──ルメド。いいか」

 

「……シュヴァ。ええ、準備できてますよ」

 

「そうか。着いてきてくれ」

 

 ……よし。

 ここからは、僕の出番だ。

 戦闘じゃ役に立てない。それはもうとっくに受け入れてる。

 剣も振れない、魔物も倒せない、殴り合いなんて論外。回復魔法しか能がない僕は、さっきの戦闘中も後ろで回復をかけ続けることしかできなかった。

 

 でも──ここから先が僕の仕事なんです。

 

 犠牲者の牧場にいる人たちは、実験動物として、あるいは兵士として運用するために虐待を受けている。普通じゃ治せないぐらいの傷や呪いを受けている可能性が高いです。それを何とかできるのは、一国の最高治癒術師として名を馳せた僕だけなんですから。

 

「私が前に立つ。何かあれば即座に下がるんだぞ」

 

「百も承知です。シュヴァも気を付けてくださいね」

 

 シュヴァは施設の奥の方にあるであろう生体反応を敏感に感じ取ってるんでしょうね。

 この人の索敵は範囲も精度も一級品だし、何より前衛としての実力が段違いだから、いざ何か出てきても安心できる。使命感が強いから、僕を連れて真っ先に救助へ向かおうとするのも納得です。

 

 通路を奥の方は……ああ、こんな感じになってるんですね。じわじわ施設の全貌が見えてきましたよ。

 左右に小部屋が並んでる構造。前世の記憶の断片と一致してる。壁に刻まれてる紋章も、あの嫌な空気も、全部覚えがある。かつて潰して回っていた『犠牲者の牧場』そのものです。

 

「シュヴァ、奥の方に反応はありますか?」

 

「あるな、敵対反応ではないものが複数。多くはないが、人間と思しき反応だ」

 

「……生きてるんですね」

 

「生体反応がある以上、そうだな」

 

 生きてる。

 誰かが、この奥で生きてるんだ。

 

「……ふぅ」

 

 ……っ、いや、落ち着け。

 ここで走り出して罠にでもかかったら元も子もない。

 シュヴァの索敵を信じて、確実に、一歩ずつ。

 

 今はあの時と違う。

 焦ってばっかりの僕でしたけど、今の時点でも相当迅速な行動ができてるんですから。

 急がなきゃいけない理由と、急いじゃいけない理由の両方が分かってる。

 だから──シュヴァのペースに合わせて、確実に進めばいい。

 

 ……ここか。

 

「この扉の先が最奥だ。索敵に敵性反応は無い──入るぞ」

 

「はい」

 

 大丈夫、覚悟はできてる。

 生きているということは、中では大きな牢屋があって、そこで『犠牲者たち』が囚われている。中のボスが「迎撃」と言っていたはずだから、中にいるのはおそらく兵士として運用されている……訓練された人たち。

 ボスがいない以上、指示する存在がいないから、僕たちに対していきなり攻撃を仕掛けてくるなんてことも無いはず。

 シュヴァも敵性反応はないと言っているし、大丈夫です。

 

 ……よし! 

 扉を開けて、いざ中へ……! 

 

「開けるぞ……!」

 

 

 

 扉が開いた先は──かなり広い部屋。今までの小部屋とは比べ物にならない。

 明かりはあって、壁に埋め込まれた何かが淡く光ってて、中の様子はよく見える。

 そして、その光に照らされて並んでる──

 

「これは……」

 

 透明な、大きな筒。

 何本も何本も、部屋いっぱいに並んでる。

 管が繋がってて、中に液体が満たされてて。

 そしてその中に……うぅ、やっぱり人がいる。

 

 つまり、これが……牢。

 でも、牢というより……。

 

「……水、槽?」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 水槽。

 水槽の中に人がいる。何本も何本も並んでて、全部に人が入ってる。やっぱり、人間を人間だなんてまるで思っていない。研究素体として、生物兵器としてしか見ていない使い方。

 向こうの方には、まだ五歳ぐらいの子どもの水槽だってある。生まれ変わって十六年間見てこなかったけど、相変わらず最低最悪な施設。

 

 でも竦んでる場合じゃない。生きてるんだ、この人たちは。

 中の液体で揺れてる影が、僅かに動いてるのが見えるんですから。

 

 早く……早くこの人たちを助けないと! 

 

「急いで助けましょう、シュヴァ!」

 

「──ああ!」

 

 ──ガシャアァンッ!! 

 

「えっちょっ!?」

 

「えっ」

 

 いやいやいやいや!? 

 何やってるんですか!? 

 え、あ……いや、僕も助けようとは言いましたけど! 

 壊した!? 拳で!? 確認もなしに!? 

 

「まず中の液体の成分を確認しないと危ないでしょう!? 未知の薬液や毒液かもしれないのに!」

 

「あああ、すまない! 体が先に動いて……」

 

 もう遅いんですけど!? 

 まず安全を確認することが先でしょう! だから急ごうって言ったんです! 使命感に突き動かされてるのは知ってますけど躊躇いが無さすぎませんか!? 

 液体がバシャバシャ流れ出してきてるし、中から人が──うわ、崩れ落ちてくる! 

 

 受け止めないと! 

 

「っと……! 大丈夫、大丈夫ですからね……!」

 

「げほっ……かはっ……」

 

 ……っ、軽い。軽すぎる。

 まともに食事を与えられてなかったんでしょうね……腕も足も痩せ細ってるし、体温も低い。

 でも息はある。脈もあるし、微かに震えてもいる。

 生きてる。まだ生きてるんだ。

 

 この液体は……うん、大丈夫。

 回復効果や猛毒の類は見当たりません。呪いや弱体の魔法がかけられている訳でもなさそうです。

 冷や冷やした。先にこういう確認をするのが先でしょう! もう! 

 

「どうだ、ルメド? 問題は無さそうか」

 

「ええ、まぁ……はい。この分なら全部開けても問題無さそうです」

 

「了解だ! 今すぐ全部割ってくる!」

 

「あっ……破片には気を付けてくださいよ!」

 

 とりあえず、まずこの人の液体を拭き取らないと。

 シュヴァが羽織ってた外套を貸してくれたから、それで体を包んで。

 一応念のため──『解毒』。この液体は大丈夫でも、体内はどうなっているか分からないし。

 次に──『回復』。衰弱してるし、栄養失調に近い状態。魔力で補える範囲はすぐにでも。

 ……っと、うわわ。

 

「……っ、ぁ……! ぁあああっ……!」

 

「落ち着いて! もう大丈夫ですから……!」

 

 まずい。

 目が覚めた途端、パニックを引き起こしてる……! 

 

 でもこれ、僕に対して暴れてるんじゃない。

 じゃあ一体何に……。

 

「……いや、やだ……! 濡れて、いやだいやだ……!」

 

 ……濡れ? 

 もしかして、この人……。

 

 ……水恐怖症? 

 

「っ! 大丈夫、大丈夫です! 今、拭きますからね。落ち着いて、もう大丈夫、安心ですよ、ほらね……」

 

 やっぱりそうだ。

 自分の体にべったり張り付いてる液体に──怯えてる。必死で拭おうとして、でも手が震えて上手くいかなくて、余計にパニックになって。体についた液体そのものが恐怖の対象みたいな……反応を示してる。

 とりあえず急いで体についた水分を全部拭き取って、乾いた外套で包み直して。『鎮静』の魔法も重ねがけして、背中をさすって、とにかく落ち着かせることだけに集中しなきゃ。

 

 癒しの神が、僕たちにするように。

 僕がこの人に、安心を与えないと。

 

「大丈夫、寝てていいですよ。もうあいつらはいません。目を閉じて大丈夫ですよ……」

 

「……ぅ……ぁぁ……」

 

 ……よし。

 

 少しずつ、震えが小さくなってきた。

 寝てくれましたね。体力が限界だったんでしょう。

 

 でも表情は、さっきよりずっと穏やかみたい。

 安心して眠れてるなら、今はそれでいいです。

 

 気を失ってる間に、もっと詳しく診ておかないと。

 

「……『診断』」

 

 ……っ。

 やっぱり、というか。

 この人の体──純粋な人間のものじゃなくなってる。

 

 骨格の一部に不自然な変形があるし。筋繊維の密度も場所によってまちまちで、明らかに人為的な改造の痕跡。内臓にも手が加わってるし、魔力の流れ方も普通の人間とは違ってる。

 これは……典型的な『犠牲者の牧場』の被験者の体だ。実験と改造を繰り返された結果、元の人間の体から逸脱してしまっている。

 

 この調子だと……精神状態も相当荒んでしまっている可能性があります。

 元々、数百年前に兵士として運用されていた『犠牲者たち』は過度に魔王軍を恐れていて、恐怖によって統制されていた。恐怖に心が支配されているから、人間側に戻ろうとしないし、戻ろうとも思わない。

 そうして、事が済めば自分たちを拷問する『牧場』に帰っていく……そんな人たちだった。

 

 じゃあ、水槽に入れていたのも……そのため? 

 恐怖で行動を制限するために、わざわざ水槽に漬けてたのか。

 逃げ出そうとしても、水が怖くて動けない。蓋を開けられても、出られないようにするために。

 自分たちに従わせるときだけ運用できるように……。

 

 

 

 ──『……俺、尖ったものが、苦手なんだ……』

 

 

 

 ……何考えてるんですか僕は。

 

 あの人の体は何度も診てきたでしょう。

 ソワンであのボスに騙されて以来、目の前の相手が本当に人間なのか怖くなって。人を看る度に相手が人間かどうか確認する癖がついてたじゃないですか。

 正直ちょっと病的かなとは自分でも思うけど……それもあるから、間違いようがありません。

 

 だって、ヴィクトールさんの肉体は──完全に純粋な人間じゃないですか。

 

 断言できる。

 あの人にはおかしな痕跡も、変な魔力も、複雑な肉体構成とかも一切ない。

 あの先端恐怖症がどこから来てるのかは分かりませんけど──僕が見た限り、あの人はこんな施設とは何の関係もないってことだけは確かなんです。

 

 そんなこと考えてる暇があるなら、僕は自分の仕事をしなきゃ。

 

「……よし。応急処置は完了です」

 

 後は急いで他の皆を呼んで、この人たちを外に連れ出さないと。

 とりあえずはセティまで運んで、宿の部屋を複数借りて休ませて。商隊に依頼を出してソワンまで護送してもらえれば、なんとかなるはず……。

 

 

 

 ──「わお。ヴィっくんが来てる。驚愕」

 

 ……え? 

 

 

 

「ルメド」

 

「っ、シュヴァ」

 

「さっき一瞬索敵に何かが引っかかった。反応が小さかったから小動物かもしれないが、一応警戒しておけ」

 

「あ、はい……分かりました」

 

 ……びっくりしたぁ。シュヴァが話しかけてたんだ。

 それにしては声が違ったように感じたけれど……。

 

 それに、よく聞き取れなかったけど「わお」とか「驚愕」って聞こえたような……。

 ……疲れてるのかもしれませんね、僕も。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「戻って来たぞ、次は誰運べばいいんだ?」

 

「おかえりなさいリュト。次はあそこの三人を運んでもらえますか」

 

 運び出しが始まってこれで大体……二往復目か。

 シュヴァの強化があると、マージュですら人を抱えたまま移動できるから凄いですよね。リュトやヴィクトールさんに至っては、三人から五人くらい一度に運べますし。

 強化をかけてもらってなお、僕は一往復でバテちゃうんですけども。

 体力がないのは今に始まった話じゃないんですけど、こういう時に痛感するんですよね。

 

 診断は全員終わらせた。応急処置もかけた。

 やれることは全部やった。あとは運ぶだけで、それは僕の仕事じゃない。分かってるんですけどね。

 なのに、こうして座ってると「本当に全部やったのか」って不安が湧いてきて……僕が頑張ればこの方々をもっと早く、地上まで運べるんじゃないかって思ってしまう。

 

 まぁでも、これで良かったんだ。

 到着して初日の動きにしては、相当早く動けたんじゃないですか? 

 ここの『犠牲者たち』も命に別状は無かった。全員助けることができたんです。

 思ったより早く結果が出せそうで、僕としては十分頑張った動きができたと思いますよ? 

 

 ……あ。

 ヴィクトールさん。

 

「ルメド。まだ、中にいたのか」

 

「はい。彼らに何かあったときのために、僕はここで待機してます」

 

「……そうか」

 

 ……ちょっと間があったな。

 

 この人がこういう間を作る時って、大体何かを言おうとして迷ってる時なんですよね。

 もう何回も見てるから分かる。

 

 

 

「──すまなかった、ルメド」

 

 ……そう。

 こういうことを切り出すとき、とか。

 

 

 

「お前と一緒に行動してたのに、急に俺の判断で切り上げて。独断で動いてしまったから」

 

「ヴィクトールさん……」

 

「それ以上に、今回の行動はリスクを伴うものだった。相談すべきだったかもしれない」

 

 そうですよね。この人は分かってるんだ。

 

 今回の襲撃は……魔王軍にこっちの存在を知らせるリスクがあった。

 今も稼働している施設を急襲して、中の人たちを全員外に運び出してるんですから。この集積所が、そこまで重要な場所ではなかったとしても、いずれは魔王復活を目論む本隊に認知されるでしょう。

 それが全部分かった上でなお、『犠牲者たち』が今も虐待を受け、死にゆく可能性があると理解しているから、今すぐ動くべきだと判断した。

 その判断を一人で下したことを、謝ろうとしているんですよね。特に、今日一緒に行動していた僕に負担を強いたんじゃないかって。

 

「ヴィクトールさん」

 

「ああ」

 

「僕は──あの判断は正しかったと思ってます」

 

「……そうか。そう言ってくれるか」

 

「気休めとかじゃなくて」

 

 本心ですよ。

 お世辞でもフォローでもなく。

 

 だって、あの水槽を見たでしょう。あの中に閉じ込められてた人たちを見たでしょう。元気に動いているボスを見たでしょう。

 その上で、あれを「準備を整えて明日ゆっくり行こう」だなんて。戦略としては正しいかもしれませんが、勇者としては合理性に囚われ過ぎです。

 もし判断を下すのが僕だったら、ヴィクトールさん以上に冷静を欠いて「今すぐ行こう! すぐ行こう!」って焦燥感に駆られていたのが目に見えてます。

 

「様子を見てたら間に合わなかった人がいたかもしれないじゃないですか。結果としてあれだけの人が助けられたんです。だったら即断で正解ですよ。どっちにしろ魔王軍とはすぐに戦わないといけないんだし」

 

 僕がこんなこと言うの、おかしいですかね。

 結果を急ぎすぎるなって、この人に窘められた。焦って周りが見えなくなって、パルジュに騙されてた僕が、貴方に大丈夫ですよなんて慰めるだなんて。

 

 でも──だからこそ分かるんです。

 急がなきゃいけない時に急げることが、どれだけ大事か。

 僕はあの時、急ぐべきじゃない場面でも焦ってた。

 ヴィクトールさんは今回、急ぐべき場面で迷わなかった。

 全然違うんですよ、それは。

 

「それに──僕たちはついていくって決めたんですから。独断だったとしても、ヴィクトールさんが動くなら僕たちも動きます。そういうものでしょう、今更じゃないですか」

 

 焦ってばかりの僕ですけれど。

 そんな僕でも貴方はすごく頑張ってると思います。

 

 それじゃあ、不十分ですか? 

 

「……ありがとう、ルメド」

 

「! いえいえ!」

 

 ……笑ってくれた。ほんのちょっとだけですけど。ふふっ。

 やっぱりこの人、生粋の抱え込み気質ですよね。責任感が強すぎるというか。

 そんなこの人のこういう顔を見ると、根拠はないんですけど、安心するんです。

 ……根拠なんていらないか。僕がそう思えるなら、それでいいですよね。




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