僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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伏兵は突然に

 ──「本当についてくるのか? あれだけ自由が良いと宣っていたくせに……」

 

 ──「……流石に見捨てられねェだろ。あんなもん知っちまった以上は……」

 

 ──「素晴らしいぞリュト! 遂に勇者としての使命に目覚めたか!」

 

 ──「そういうんじゃねェって何回言わせんだテメェは!」

 

「……んぅ……うるさ……なに……?」

 

 ……おや。

 朝からずいぶん賑やかだな。

 おかげで僕の持ち主が目を覚ましちゃったじゃないか。

 朝というには少し早い時間だし、まだベッドから出られていないけど。

 

 壁越しに聞こえてくるその声は……ああやっぱり、間違いなくリュトとシュヴァだ。

 内容についてはよく聞こえなかったけど、あの二人が近くにいると大体こうなるから、もう驚きもしない。こんな朝から元気に喧嘩してるのか? 

 

 さて、問題は僕の持ち主なんだけど。

 

「……シュヴァ……と……リュト? なに、けんか……?」

 

『おはよう、エスクリ。喧嘩じゃないよ、いつものだ』

 

 ベッドの中でもぞもぞ動いてるな。

 起きたと思ったけどまだ半分寝てたか、これは。

 

 いつもなら僕に「おはよう」って一言ぐらい返してくれるんだけど……目が覚め切ってない朝はこんな感じなんだよね。普段の彼女からは想像できないぐらいふわふわしてるけど、まぁ寝起きなんてこんなものか。

 今日もまだ頭が起動しきってないらしい。目を擦りながら上体を起こして、ぼんやりした顔で壁の方を見てる。眠ることのない僕にはもう思い出せない感覚だけどさ。

 

「あ……えぺ……おはよ……ぁー……朝、か」

 

 うん、完全にぽやぽやだ。

 この姿をヴィクに見られたら色々台無しだと思うんだけど、本人にはその危機感すらなさそう。

 

 ああちょっと、そんなふらふらした足取りでベッドから出て大丈夫なの? 

 僕を背負うのはちゃんと装備に着替えてからじゃないとダメだし、寝間着姿の今のまま僕を背負っても何の意味もな……あれ、寝ぼけてる? 

 手つきが覚束ないのがちょっと怖いんだけど……落とさないでよ? 

 一応僕、聖剣なんだから。

 

『エスクリエスクリ。しっかり持ってね。落としたら泣くよ、僕』

 

「だいじょぶ……もうちょっとで起きる……」

 

 本当かなぁ。

 まぁいいや、部屋を出れば嫌でも目が覚めるだろうし。

 

 

 

「ふぁぁ……あ、おはようございます……エスクリ」

 

「ん……あ、ルメド。おはよ……」

 

 おっと。

 廊下に出たらさっそくルメドとすれ違……。

 

 ……寝癖すごいな。

 

 びっくりした。多分、宿の外の井戸に向かう途中だったんだろうけど……こっちも寝起きか。しかもついさっき起きたばっかりのタイプの。

 いつも几帳面に整えてるあの青い髪が、今日は右も左もぴょんぴょん跳ねてて……治癒術師としてのあの、とりあえず見た目だけ凛とした佇まいが、今はどこにもない。

 寝間着がフリフリしてるせいで、いつにもまして庇護欲を刺激されそうな見た目をしている。自分自身にこんなこと思うのはすごく複雑な気分だけれど。

 あの見た目で男だって言うんだから、本当に世の中分からないものだよね。

 

「……んん? エスクリ、寝ぐせすごいですよ……」

 

「そっちだって、ボクも寝ぐせはまだ大したこと無いし……」

 

『二人ともお互いのこと言えないよ。急いで直して来たら』

 

 世界を救うための勇者が揃いも揃って寝癖まみれのぽやぽや状態だなんて格好がつかないじゃないか。

 普段通りなら、今日もエスクリは運送兼連絡要員として働かないといけないんだから、早いうちに準備しておくべきだよ。

 

 あそこにいるマージュを見習ってごらんよ。

 ほら、彼女はもうだいぶしっかり目が覚めて……。

 

「あれ……? ぼく、いつの間にこっちに? 昨日は途中で寝ちゃって、誰かがおぶってくれて………………あれ? もしかしてぼく、勿体ないことした?」

 

 ……いや、寝癖酷いな。

 それも、さっきの二人よりも数段上のぼさぼさ具合だぞ……。

 

「あ、マージュも……おはようござ……ぁ……ふぁ」

 

「え? あ、おはよう、エスクリ、ルメド。髪ぼさぼさだよ?」

 

「だからボクは大したことないって……あー、でも……ん……?」

 

 まぁ、マージュは癖毛というか。出会った時からぼさぼさの髪の毛だったからね。寝起きだとさらに輪をかけてすごいことになるんだよね。

 一緒に旅をするようになって、パーティー共有の水が使えるようになってからは、かなり改善されて清潔感のある見た目になったけれど。彼女の寝起きがエスクリたちを上回るのもおかしくはないの……か……。

 

 ……あれ? 

 

 早朝にシュヴァと口論しているリュト。

 寝起きで髪の毛が爆発してるマージュ。

 普段通りのはずなんだけど、何かおかしいような……。

 

 

 

 ……いつ、戻って来たの? 

 君たち──拠点にいたはずだよね? 

 

 

 

「ぼく、とりあえず井戸行ってくるよ……まだ眠いけど……」

 

「僕も眠いですよ……疲れは、回復魔法じゃどうしようもできませんしぃ……井戸ってどっちでしたっけ」

 

「んふふ……二人とも寝癖酷いし、早く言った方がいいよ」

 

『エスクリも寝癖酷いんだって』

 

 ああ、二人とも行っちゃった。

 絶対エスクリもついていった方がいいと思うんだけど。

 

 それにしても……あれかな? 

 マージュもリュトもこっちにいるってことは……夜中の内に調査が終了して、拠点に残っていた組が夜中の内に戻って来たのかな? 

 

 なるほどなるほど、調査が終わった以上、あの拠点でさらに一泊するのは時間の無駄でしかないし、急がなきゃいけない我らが勇者パーティーにとっては、その決断で間違いないだろうね。

 マージュが戻ってきたことを自覚していないあたり……ああ、調査が終わった時には寝落ちしてたのか。それで、多分だけどヴィクが運んで来た、と。

 

 じゃあ、この後情報共有の話し合いをするのかな? 

 

「みんな寝ぼけてるねぇ、ボクを見習って……あふぅ……」

 

『エスクリ、君も大概だからね。大丈夫?』

 

「ん……うん、大丈夫。もうちょっと……したら、しゃきっとするかな。朝ごはん食べれば──」

 

 

 

「おはよう、エスクリ」

 

 あっ。

 ヴィクトール。

 

「うわっ……って、ヴィク!?」

 

 

 

「ぁ、あ、あさっ、おはよヴィク!」

 

「ああ。よく眠れたか?」

 

「う、うんっ! ぐっすり! ぐっすりだよ!」

 

『声裏返ってるよエスクリ』

 

 まぁ、そうだよね。

 マージュとリュトが戻って来てるならヴィクだって戻って来てるのが当たり前だ。

 それで、朝なんだから彼も活動を再開する。

 その過程で──寝癖姿で固まった仲間の女剣士とすれ違うことも……おかしいことじゃ、ない。

 

「(エペ! 今のボク大丈夫!? 見た目変じゃない!?)」

 

『何度も言ってたけど変だよ。寝ぼけてるなって感じ』

 

「(うそでしょ!? なんで言ってくれなかったの!?)」

 

『何度も言ってたけど』

 

 あー、これは。

 寝癖直してないことに今気づいたな。

 

 さっきまでのぽやぽやはどこに行ったんだか。急にシャキッとしたと思ったら、今度は片手で必死に髪を押さえつけてるのが背中越しでも分かるよ。

 旅の最中だとそういったことがないよう全員気を付けてたんだけど……ここ数日はヴィクと同じ場所で寝泊まりしてなかったし、気が抜けちゃったのかな。

 ヴィクは多分気にしてないと思うんだけど……まぁ、彼女にとっては一大事なんだろう。

 

「……あ、あのっ、ボクちょっと顔洗ってくる! すぐ戻るから!」

 

「ああ、いってこい」

 

「え、えっと! 普段はこんなんじゃないからねっ!」

 

 少なくとも一人のときはこんなんだったよエスクリ。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「全員揃ったな。報告を始めるぞ」

 

 朝の騒動がひと段落して、全員が一階の食堂に集まっている。

 宿の食堂を借りてるだけだから大した広さじゃないんだけど、七人が顔を突き合わせるにはまぁ十分。

 エスクリはもう流石に目が覚めたし、マージュとルメドも準備済み。シュヴァは事前に起きていたから問題無いし、リュトも面倒そうな顔をしつつちゃんと席に座ってる。

 勇者揃い踏みだね。

 

「まずだな。あの牧場は『第七集積所』として登録されていた。名前の通り、番号が振られている以上は他にも同様の施設が存在する」

 

「ってことは、少なくともあと七つ?」

 

「正確には全十二箇所らしい」

 

「そんなに……!?」

 

 ……それだけの数の牧場が、この世界にはひっそりと存在していたのか。

 いや……番号が連番とは限らないし、欠番もあるかもしれないけれど。

 十二ってことは……世界各地にそういう施設があったってことになるんじゃないか。

 一つじゃなかったという事実だけで十分重いよ。

 

「各集積所は独立して活動していた訳じゃない。定期的に報告を上げていた先がある」

 

「それは……総括している本拠地があるってことですか?」

 

「そうだ。記録の中に頻繁に出てくる──『アザール』という都市の名前があった。記録から見る限り、指令の発信元であり、全ての集積所を統括する中枢拠点と見ていい」

 

 ……中枢拠点、か。

 

 つまりセティの施設を潰したところで、大元が別にあるってことだ。

 あの施設一つであれだけの犠牲者がいて、それが複数ある。

 ……考えたくないけど、あの犠牲者たちと同じ目に遭ってる人間が他にもいる可能性がある。

 

 その全部を束ねてる場所が……アザール。

 聞いたことのある名前ではないけれど……これまでと同じく、あえて目立たないような場所に拠点を置いてるのかもしれないな。

 

 その情報の信憑性が気になるところではあるけれど、僕は聞けないし……。

 あっほらエスクリ。僕の代わりに聞いてよ。

 

「えーっと……記録の保存状態はどうだった? 信憑性はありそう?」

 

「うん、状態は良かったよ。魔法で保護されてたから、劣化もほとんどなくて」

 

「なるほど。じゃあ、他に被害者の情報などはありませんでしたか?」

 

「そこまでは無かったぜ。上下はともかく、横の繋がりは無いみたいだな」

 

「そうか。アザールというのは聞いたことがあるが、ここから遠いのか?」

 

「遠いな。待ってくれ、地図を持ってくる」

 

 拠点にいなかったエスクリ、ルメド、シュヴァが質問。

 拠点にいた、マージュ、リュト、ヴィクが応答。

 

「シュヴァ。あの『犠牲者たち』の護送手配は済みましたか?」

 

「ああ。セティの村の方々にも引き継ぎは済ませた。商隊にはセティからシズィ及びソワン国までの護衛依頼を出してあり、受領の確認も取れている。ルートは最短ではなく安全性を優先したものを選定した。道中の不安を最小限にするために、護衛だけじゃなく、生活面の補助もしてくれる隊を選んだ」

 

「そうですか、それなら良かったです……」

 

 なるほどなるほど。流石だね。

 ここまでの情報を聞いた感じ、次の目的地はアザールって都市で確定になりそうか。

 

 横のつながりはないってあたり、他の拠点の情報はあんまり書かれてなかったのかも。

 情報の信憑性については、まだ怪しいところがあるけれど。保護魔法がかけられているのなら、自分たちが閲覧するように取ってあるものだろうけど……もしこれが罠だとしたら、初めからそのアザールに誘導することが目的なのかもしれない。

 

 ただ、アザール以外に次の情報が無いことも事実。

 犠牲者たちの回復・保護・護送の準備が完全に整っているのなら、もう僕たちがこの村に滞在し続ける理由もない。

 

「よし。これが地図だ。アザールは……ここだな」

 

「おお……確かに、かなり遠いね」

 

「だな。ルートとしては、ここから少し東に進んで、この街道沿いに──」

 

 ……本当だ。セティから東方に、かなりの距離がある。

 途中にいくつもの街や村が点在してて、直線距離でも相当だ。徒歩で向かうなら中継地点を挟まないと物資が持たない。

 残り日数が……あと八ヶ月ないぐらいだし、あまり寄り道もしていられない。最短経路を進んでいくべきだね。

 

「途中でいくつか補給できる場所がある。ここと、ここ。この辺りは街道が整備されているから移動は比較的楽だろう。問題はこの峠を越えた後の……」

 

「いくつか村があるね。ヴィク、これを経由するの?」

 

「………………えっと」

 

「ヴィクくん?」

 

 ……あれ。

 ヴィクの指が……止まってる? 

 報告を淡々と進めてたのに、急に言葉が途切れたから、どうしたのかと思えば……。

 

 指さしてるのは……「ユイヌ」……かな? 

 峠を越えた先の、小さな村だね。

 直線で進むなら避けては通れなさそうだし、一つ前の中継地点からかなり距離が離れてるから、多分その場所に滞在することはほぼほぼ確定事項だろうけど……その村がどうかしたのかな。

 

「! ヴィクトール、これはまさか……」

 

「……あ、ああ。いや、その……俺も、今気づいたんだが……」

 

 

 

「……これ、俺の故郷だ」

 

 

 

 ……え!? 

 

「え、えぇ!? 故郷!?」

 

「こここ故郷って……ヴィクくんの!?」

 

「へェ……こんな辺境出身だったのかお前」

 

「え、これからヴィクトールさんの地元行くんですか?」

 

「そういうことに……なるな」

 

 ……びっくりだよ!? 

 

 え、本当にびっくりした。この小さな村がヴィクの生まれ故郷? 

 これまで彼の過去とか全く教えられてこなかったから突然の情報開示に一同困惑中なんだけど。地理的に避けては通れないし、あの場所を避けて通ろうとすれば──かなり長い迂回路を使わざるを得ない。

 彼と出会ったのはプルミエールだったから……ここからずっと南に旅をしてたのか。で、エスクリと出会ってからは北上を続けたと。で、気づけば良い感じの場所まで戻って来ていた……。

 

 おかげで会議の雰囲気が一変しちゃったよ。

 さっきまで真面目な話だったのに、流れが一気に変わっちゃったんだけど。

 

「いや、すまない。そんなこと気にしてる場合じゃないよな。少し恥ずかしいが、早く行くならここを通るしかないし──」

 

 

 

「──それなら近道がある。非常に便利。わたしなら案内可能。いかが?」

 

 ……え? 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「! 何者だ!」

 

「ひょいっと。残念でした」

 

 ……!? 

 

 だ、誰かいる!? さっきまで六人で会議してたのに、気づけば七人になっていて──誰一人としてそれに全く気づかなかったんだけど。

 宿の人に食堂を借りるときに、「重要な話をするから誰も入れないでくれ」って頼んで見張りをしてもらっていたはずなのに……それすら掻い潜って来たって? 

 

 しかも、さっきの身のこなし。

 寸止めするつもりだったんだろうけど……咄嗟のシュヴァの攻撃を一切ものともせず、華麗なバックステップで躱して……。

 

 ……え、本当に誰!? 

 

「うわっ! だ、誰!? 誰なのキミ!?」

 

『わわ! 待ってエスクリ! ここで武器はマズいよ!』

 

「ひっ、ヴィクくん! その、後ろ隠れてもいい!?」

 

「あ? 部外者か? 誰も入ってくるなって言ってたはずだろ」

 

「どこから聞いていた! 何者だ! 魔王軍の手先か!」

 

「わお。物凄い殺意。わたし怖い」

 

「(……あれ? この声って……)」

 

 誰かの知り合いかと思ったけど、全員面識がないみたいだよ? 

 一般人には完全秘密の会議にこっそり紛れ込んでいて、凄まじい隠密能力と華麗な回避能力を見せて、意味深な発言でこっちを翻弄してくる謎の人物って……。

 

 見た目は……フードを被った緑髪。性別は体形からして間違いなく女性。

 黒を基調とした動きやすそうな軽装で……暗殺者みたいな装備。女性的なボディラインががっつり出てて、筋肉質というよりしなやかそうな肉体。少なくとも、僕たちが見てきた記憶のどれにも属さない恰好。

 本当に誰なん──

 

 

 

「サシナ!? お前、サシナか!?」

 

 ……ん? 

 ヴィクトール? 

 

 

 

「いえす。わたしがヴィっくんの幼馴染であり、ユイヌの用心棒サシナちゃんでーす」

 

「久しぶり……というか、なんでお前こんなとこにいるんだ!?」

 

「いやはや。ユイヌの名前が出てきたからここはわたしの出番かと」

 

「そんな──あっ皆、すまない。彼女は俺の幼馴染のサシナで……」

 

 ……ん!? 

 て、いうか……今気づいたけど──その目は……! 

 

 

 

 金色じゃないか!! 

 

 

 

「また、巨乳……!?」

 

「渾名呼びで……!?」

 

「……今度も勇者かよ」

 

「また女の人……!?」

 

「幼馴染だと……!?」

 

 えっ、そっち!?




Q. どうして一番初めに金色の目に気づかなかったの?
A. フードと髪の毛で隠れてたんじゃないですかね(適当

これで第7章終わりです。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
今回は幕話をやらず、その後8章に移ろうと思います。

可能であれば、感想や意見や評価やここすきを頂けると嬉しいです。大喜びします。
それでは、次話以降も宜しくお願いします(´・ω・`)
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