僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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彼の故郷ユイヌ
私の知らない彼


 なんで私はこんな悪路を進んでいるんだ。

 なんで私より昔の知り合いがここに出てくるんだ。

 なんで私は──これが最善の選択だと分かっていながら納得がいかないんだ。

 

 

 

 サシナと名乗ったあの女は……彼の故郷であるユイヌを拠点に活動する用心棒のような存在であり、同時に彼の──ヴィクトールの幼馴染でもあるらしい。

 軽い挨拶と自己紹介をしただけだが、それだけで十分なことは分かった。隠密能力に長け、時折外部に赴いてはボスや魔物の駆除を行っているという……それこそ、私が両手を上げて賞賛すべき人材である。

 そして今回、たまたまセティに寄っていたため久しぶりにヴィクトールと再会……ユイヌを目指しているこのパーティーを最短経路で突き進む近道を、有難いことに案内してくれるというのだ。

 

 馬車が辛うじて通れるかどうかという幅の悪路で、両側から草木がせり出してきていて……地図には載っていない道だ。ルメドとマージュはとっくにダウンし、狭い荷台で目を回している。

 通常ルートなら中継地点をいくつも経由する必要があったから、時間の短縮という意味では確かにありがたい。それは認めるが──彼女のせいで、こんな歩きにくい道を今進んでい……。

 

「……何を考えているんだ、私は……」

 

 彼女の「せい」とはなんだ「せい」とは。「おかげ」だろうが。

 

 普通考えれば分かることだろう。私が出会うより前にヴィクトールの人生があったのは当然のことで、そこに誰がいたとしてもおかしくはない。幼馴染とはそういうものだ。

 頭では理解している。分かっている。分かっては、いるんだけれど。

 ……じゃあなんでこんな気持ちになるんだ。

 

「こんな抜け道があったとはな……」

 

「わたしと残ればよかったのに。ヴィっくんはすぐ旅に出た。薄情」

 

「ハハハ。それはそうかもしれないな」

 

 ……あの声の距離感。あの気安さ。

 私がヴィクトールと話す時とは、明らかに違う何かがある。

 

 私が最初の仲間だった。

 ヴィクトールと最初に旅をしたのは私だ。エスクリたちが加わる前、二人で街道を歩いた日々がある。あの時は、彼の隣にいるのは私だけだった。それが私の……誇りだった、と思う。

 でも、違ったんだな。

 

 別にあのサシナとやらが悪い訳じゃない。ヴィクトールが悪い訳でもない。誰も悪くない。

 彼女が自己紹介以降こちらをほとんど意に介さず、ただ淡々と先行してくれるおかげで彼女の実情がまるで分からないという難はあるが……それでも彼女が悪い訳じゃない。変に敵視する意味は無い。

 

 ただ事実として、私は最初ではなかった。それだけのこと。

 

 なのに私はどうしてこうもうじうじ悩んでいる? 

 勇者として考えるなら、戦力が増えたことを喜ぶべきだ。

 分かりやすく嫉妬深いエスクリじゃあるまいし。ここばかりはドライで気にする素振りも見せないリュトを見習うべきじゃないのか。

 

 ……いや、違う。

 私は、彼女がまた「勇者シエルの生まれ変わり」であることを警戒しているのだ。

 あの瞳と、微かに感じた魔力。彼女が私達の同類であることは間違いないだろう。

 そうなると、今後勇者会議での議題に上がることは必須。注意を払うことも間違いでは無いはず。

 

 使命は揺るがない。

 魔王を倒す。仲間を守る。世界を救う。

 その目的の前では、私個人の感情など些末なことだ。

 

「今日はここまで。ヴィっくん、野営準備開始」

 

「そうか──よし、皆。今日はここまでだ、休んでくれ」

 

 ……些末なことの、はずなんだけどな。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 マージュとルメドはとっくに寝息を立てている。

 あの悪路の馬車移動が相当堪えたんだろうな。二人とも顔色が悪いまま食事もそこそこに倒れるように寝てしまった。

 ヴィクトールも既に寝ている。彼は遅い時間になる前にさっさと寝てしまう。寝ずの番をする日以外は極めて健康的なのが昔からの慣習だ。

 サシナは「ここから先はわたしにおまかせあれ」と抜かして、偵察に出ていってしまった。何を任せるというのだろうか。

 

 つまり今、起きているのはエスクリ、エペ、リュト、そして私の四人。

 勇者会議の面子としては……ちょうどいい。

 

「じゃ、始めよっか。第四十回勇者会議……」

 

「議題はまァ、あの女のことになるんだろうが」

 

「彼女……サシナのことだな」

 

 ……空気が重いのは私の気のせいじゃないよな。

 普段は穏健派のマージュとルメドもいるからある程度落ち着いた雰囲気の会議になるんだが……今は唐突な伏兵の登場と、「ヴィクトールの故郷」という爆弾を短時間でぶつけられたせいで、緊張感が隠せていないように思う。

 火を囲む四人──いや、三人と一振りの間に、昼間とは違う空気が流れているようだ。

 

『うん。まずはそこからだね』

 

 金色の瞳。

 彼女──サシナの目は、間違いなく私たちと同じ色をしていた。

 間違いなく勇者シエルの生まれ変わりだ。ここまできて逆に無関係の人間である可能性は……極めて低い。それどころか、ほぼゼロと言って問題はない。

 

 だが、それだけで信用するかと言われると、少し慎重にならざるを得ないのが現状だ。

 

「あのヴィクトールとどういう関係にあるか正確に把握できない以上、彼女をこの会議に加えていいのかは即断すべきではないと思っている」

 

「自分のこと棚に上げといてよく言うぜ。『私が最初』にそれだけ固執してんのか」

 

「ボクにとっては二回目だったし。シュヴァもボクたちの気持ちが分かったんじゃない?」

 

『何張り合ってんの君達』

 

 ……? 

 彼女達は何をそんなに不機嫌そうに……ああそうか。彼女達も突如現れた異質な存在に違和感を隠せていないのか。

 それはそうだろうな。あれだけ大事な仲間に、自分より親密そうな謎の女が現れたんだ。二人も少なからず彼のことを想っているだろうし、面白くないのだろう。

 

『とりあえず、彼女は本当にシエルなのか。だとしたら、何の才能を受け継いでいるのか。シエルとしての記憶がどの程度あるのか。これまで何をしていたのか。なぜセティにいたのか。なぜあのタイミングで姿を現したのか。魔王復活阻止に協力してくれるかどうか。それらを明らかにしないといけない』

 

「謎だらけだね……」

 

「全部聞けばいいだろ」

 

『それはリスクを軽視しすぎだよ。今は誰を信用すべきかも注意すべきなんだから』

 

「そうだな。ではどうする? 私には良い案が思いつかないが」

 

 その判断は正しいと思う。

 今の段階でサシナを勇者会議に迎え入れるのは早すぎる。

 なら我々はどうすべきか。

 私の考えでは、ユイヌに到着後、そこから様子を見て判断するのが最適だと考えているが……。

 

 エペの判断は冷静そのもの。

 行動も判断も早く若干軽率なエスクリを、旅の初期の初期から支えていただけある。その冷静かつ客観的で理路整然とした思考は見習うべき長所だ。

 

『それについてなんだけど……僕から、少し気になっていたことを共有したい』

 

 ……つまり、彼からの情報や提案は聞くに値するということ。

 その内容が何にせよ、無下にあしらうのではなく、一考するだけの価値がある。

 

 

 

『僕は……ヴィクについて、少し疑念を持ち始めている』

 

 どうやら彼は疲れているようだ。

 

 

 

「……エペ? 流石に言っていいことと悪いことがあると思うけど」

 

「アイツの何を疑うってんだよ。真面目にやってると思うぜ」

 

「そうだぞ。疲れているなら素直に言ってほしい、エペ」

 

『これだからちょっと言うの悩んだんだよなぁ』

 

 エペは何を言っているのだろうか。

 疑念も何も。何を疑う要素があるのか分からない。

 彼の今までの行いを見れば、疑念の余地もないことはいとも容易く理解できる。あれは完全に正義にのみ構成された、この世で最も尊敬を受けるべき偉大な行いだ。

 エペならこの旅を通じて、それを最も身近で見ていたのではないのか。

 

『エスクリは色ボケ脳、リュトは興味がないから意見が浅い、シュヴァは正義さえ執行されていれば意図は問わないみたいなところがあるからそりゃ気づかないだろうね。僕がいてよかったと思うよ』

 

「色ボケ!? ボクが!?」

 

「浅いっつったかテメェ」

 

「待て。私はそんな考え無しだと思われているのか?」

 

『これでも盲信しすぎのマージュと入れ込みすぎのルメドがいなくてマシっていう……』

 

 ……落ち着けシュヴァ。エペの発言は一部を除いておかしなものではないはずだ。

 

 確かに彼の言う通り、エスクリは色ボケと言って過言ではない態度を取っている。

 リュトが周囲に興味を持たない自分本位で、意見が薄っぺらいのも自明の理。

 マージュがヴィクトールに依存しかけているのは私も薄々感じていたし。

 ルメドは自分が癒すと決めた人間に過剰なほど入れ込む癖があるように見える。

 私とエペ以外に、まともな思考ができる人物がいないというのは事実だろう。

 

 と、なると。

 一応、彼の意見も……何かしら、正当性のあるものなのかもしれない……。

 

『考えてみてよ。ヴィクには謎が多すぎるんだ』

 

「まァ、それは確かにな」

 

『ちょっと挙げるだけでも──何故か勇者の剣の見た目を知っていた。勇者シエルの詳細な情報を知っている。古代文字が読める上、魔王の名前も知っている。純粋な人間なのに僕たちを上回る実力。牧場で見せた異様な殺気。これ以外にも気になることは山ほどある』

 

「言われてみれば、そうかもしれないけど……」

 

 

 

『それで僕は、彼が──「犠牲者の牧場」で育てられた、元魔王軍側の人間だったんじゃないかと見てるんだ』

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

『まぁ、見てるというか……見てた、なんだけども』

 

 

 

 ……その可能性を、否定は、できない。

 

 確かに、彼の知っている「一般人では知りようがない情報の数々」は、「犠牲者の牧場」というかつて魔王軍側の組織に所属していたと考えれば、一応辻褄が合わなくもない。

 あの強さは実験を繰り返して得られた人工的なものであり、かの殺気はかつての苦い思い出を呼び起こされたか故の憤怒と捉えることもできなくはない。

 しかも、彼には「仮面恐怖症」という私しか知らない弱点がある。恐怖で動きが取れなくなるほどの弱点を作り、兵士を支配するのは牧場の日常だ。エペは知らない事実だろうが、それも説得力を増す要因の一つでもある。

 

『ただ、ルメドにも聞いたんだけど──彼の肉体は純粋な人間らしいんだ』

 

「あっ、だからわざわざ『僕を荷台に乗せて』なんて言い出したんだ?」

 

『うん』

 

「純粋な人間って、当たり前だろうがよ。化けてんならすぐ分かるだろ」

 

『肉体はね。でも、肉体が人間であることと、彼が何者であるかは別の問題だよ。人間の体を持っていても、知識や能力の出所が説明できないなら疑問は残る』

 

「……正論、だな」

 

『だから僕は、彼がよく言う「故郷」などの話は──話を逸らすための作り話なんじゃないかと思っていて』

 

 確かに、エペの言うことは正論だ。

 

 一切の色眼鏡をかけないで見てみれば、彼の供述には謎が多すぎる。

 少し踏み込んだ問いをしてみれば、基本的に「それは故郷で」と「それは師匠が」で返してきて、それ以上は自分からあまり語ろうとしない。

 だから、何も知らない立場からしてみれば、「本当にその故郷は存在するのか?」と疑いたくなってしまうのは自然なことなのかもしれない。

 

 だが……。

 

 

 

『ただ今回、彼の「幼馴染」と「故郷」が本当に出てきてしまった』

 

 ……そうだよな。

 

 

「だよね。普通の子ども時代を生きていた証拠が出てきた以上、牧場出身者って線は薄れる」

 

「だな。このままいけば、その故郷で事実かどうかの確認もできるんじゃねェか?」

 

「そうだな。サシナという存在が事実である以上、偽装の可能性も低いだろう」

 

 それだけではない。

 彼の故郷であるユイヌに着けば、彼を鍛えた噂の「エルフの師匠」とも出会えるだろう。

 エルフは長命種だ。もしその人物が古代文字を使っていたり、勇者シエルの時代を生きていれば、彼の記憶についての問題も解消される。

 

『ユイヌに着けばあらゆる情報の裏が取れる。村人への聞き込みで、彼の詳しい過去や……サシナについての素性だって分かるはず』

 

「つまり、エペが言いたかったのは……」

 

「ユイヌの中継を、ただの補給だけで終わらせねェってことか?」

 

『その通りだよ。最悪、時間の浪費を覚悟してまで、滞在を延長して情報収集する価値がその村にはあると思う』

 

「私は賛成だ。不要な疑念は早い段階で片付けておくに限る」

 

「ボクも賛成」

 

「オレもだよ。ちと癪だが」

 

 確かに考えてもみれば、勇者シエルの伝承が正確に伝わっている故郷というだけで──その場所を調査する意味は十二分にあるんだ。

 場合によっては、誰か重要な情報を持っている人物が駐在していたり、その情報を持っているが故に魔王軍に狙われている可能性もある。情報の裏付けという意味以外でも調査すべき案件ではないか。

 むしろここでの調査を曖昧に済ませてしまうことで、魔王復活阻止に欠かせない情報を見落としてしまう可能性だってある。シエルの生まれ変わりがいる時点で、ユイヌはそれだけ重要な旅の中継地点となるはずだ。

 彼にとっても久しぶりの帰郷になる訳だし、気が張り詰めすぎている彼を休ませるという意味合いでも、ユイヌ滞在には意味がある。

 

 やはり、エペの提案には一切の正当性しかない。

 疲れているのかと思っていたが、やはり彼は客観的にものを見れている。

 

『皆賛成してくれてありがとう。マージュとルメドには後で僕が共有しておく』

 

「じゃあ今日はここまでにしよっか。明日も悪路が続くだろうし、休めるうちに休むよ」

 

「おーし。オレは火の番あるから、お前ら先に寝てろ」

 

「そうだな。おやすみ、皆……」

 

 エスクリはエペを抱えて寝床へ。リュトは火の傍へ。

 私も、今回のことをしっかり把握した上で寝床へ向かうべきだ。

 サシナへの警戒。ヴィクトールの……謎に対するこのざわめき。

 そして、これから彼の故郷に踏み込むということ。

 

 

 

 ただ。

 ……彼は、そのことも、聞けばきっと答えてくれるのではないだろうか。

 

 

 

 あの夜、私が故郷のことを聞いた時、ヴィクトールは素直に答えてくれた。隠す素振りもなく、聞かれたから話した、という自然さで。私に話すことを、苦に思う素振りは見せなかった。

 思えばあの時に、気になっていたことを全て聞いておくべきだったのかもしれない。二人きりの夜が楽しくて、結局踏み込んだことを言えず、彼との信頼を確かめるだけに終わったけれど。

 

 どうして私は昨晩、彼に全てを聞こうとしなかった? 

 良い雰囲気を壊したくなかった? 

 彼が悪い予想を肯定するところを見たくなかった? 

 それとも……。

 

 彼が私の質問に対し「悪いがそれには答えられない」と言ってしまうのが怖かった? 

 自分の信頼が及ばない、私にも打ち明けられない、知られたくない過去があったのだと突き付けられるのが怖くて──私は彼に質問ができなかったのではないか。

 

 すべては、ユイヌに着けば、分かるかもしれない。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ……そして。

 本来一か月かかると予想されていた、ユイヌまでの経路を大きくショートカットすることが決まって……今日で実に一週間余り。悪路がようやく終わりを見せたかと思えば、視界が一気に開けて……。

 

「じゃじゃん。遂に到着──ようこそ、ユイヌへ」

 

「……ぇ? 着いた? 着いたの……?」

 

「つ、着きましたよマージュ……! これで乗り物酔いからおさらばです……!」

 

 ……ここが、ユイヌ。

 ヴィクトールの、故郷。

 

 小さい。本当に小さな村だ。

 地図で見た時の印象通りというか……集落と呼んだ方がしっくりくるぐらいの規模で、建物の数も両手で足りてしまいそうなほど。周囲を木々に囲まれていて、知らなければ通り過ぎてしまうだろう。

 それぐらい、小さな村。

 

「……ああ、久しぶりだ。あんまり変わってないんだな」

 

「うむ──おかえり、ヴィっくん」

 

 ヴィクトールの声も、今日はいつもと少しだけ違うような。

 柔らかいというか……力が抜けているというか。こういう声は、あの星空の夜に一度だけ聞いたことがある。故郷に帰ってきた人間の声、なんだろうな。

 

 ……ここに、答えがある。

 彼の過去も。サシナの素性も。師匠のことも。

 全部この小さな村の中に。

 

 覚悟はできている。

 ……できている、はずだ。




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