僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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初恋

 ユイヌの第一印象は……静か、の一言に尽きる。

 両手あれば数え切れるほどの建物。踏み固められた土がそのまま通りになっただけの道。規模だけで言えば、セティよりもさらに小さいかもしれない。

 ……こんな場所で育ったのか、ヴィクトールは。

 

 あの、誰よりも強くて、誰よりも頼りになる男が、この小さな村で生まれて、ここから旅立っていった。

 信じがたいと言いたい訳じゃない。ただ……あれだけの力を持った人間の出発点がこんなにも穏やかな場所にあることが、少し意外というか。

 

「おっ……おおっ!? ヴィクか!? ヴィクじゃないか!」

 

「おい見ろ! ヴィクが帰ってきたぞ!」

 

「あー……久しぶりだな、皆」

 

 とか考えてたらすぐ人が集まってきてヴィクトールが取られてしまった。

 すごいスピードだったぞ。

 

 ──「久しぶりじゃねぇよ! でかくなったなぁ! 何年帰ってこなかったんだ!」

 

 ──「悪い、色々あって。父さんは元気にしてるかな」

 

 ──「色々って……まぁいい、親父さんはまだ元気だぞ!」

 

 ──「……そうか」

 

 おお。

 村の入り口を通っただけで、もう声が飛んでくるぞ。

 それもそうか。小さな村だし当然というべきだろうな。

 見慣れない集団が入ってくれば嫌でも目立つし、ましてやその先頭にいるのが……この村出身のヴィクトールでは。

 

「(あんなニコニコするんだね、ヴィクって)」

 

『……そうだね。本当に彼の故郷だったんだ。しかも父親がいる。母親について言及しないのは……亡くなっているのかな?』

 

「(エペはまだ疑ってやがんのかよ)」

 

 ……ヴィクトールが笑っている。

 

 いつもとは……違う。力が抜けていて、素朴で。任務中や戦闘後に見せる余裕のある笑みでもないし、パーティーの中で冗談を言う時の穏やかな笑みとも違う。

 故郷の人間の前でしか出せない表情、というものがあるのだとしたら、今がまさにそれだ。あの星空の夜に少しだけ垣間見えた柔らかさが、今は隠しようもなく滲み出ている。

 

 ただ……よく見ると、その笑顔もどこかぎこちないような。

 まぁ、久しぶりの帰郷を喜んでいるのは間違いないんだろうが……何年も故郷を空けていた人間が戻ってきたから、気まずいのか。私の知らない彼がどんどん見れてしまっている。

 

 

 

 ──「俺は、故郷を出て行って、母さんの墓参りにも碌に行けてないし……」

 

 ──「そうだな。その点に関しては親不孝者そのものだな」

 

 ──「魔物を殺して回るとか言い出した時何人がかりで止めようとしたか覚えてるか?」

 

 ──「それは、本当に、その、申し訳ない……」

 

 ヴィクトールがさらに気まずい顔をしている。

 母親が既に亡くなっていることなんて今初めて知ったが、そんな顔もできるのか。

 

 ──「しかし──まさかこんな大勢連れて帰ってくるとはなぁ!」

 

 ──「しかも別嬪さんばっかの………………ちょっと多くないか?」

 

 ──「うっ……ま、まあ、確かに多いけど。別に変な関係では」

 

 ……そんな助けを求める目でこっちを見ないでくれ。

 気まずい。

 

 ──「彼女達は旅の仲間だ。ここには一時的な補給に寄っただけで……」

 

 ──「なんだ? 照れてるのかお前? 変わらないなぁー!」

 

 ──「やめ、やめてくれ……!」

 

 

 

「(て、照れてる……! ヴィクくんが……!?)」

 

「(すごい! 珍しくないですか!?)」

 

 ……本当にびっくりだぞ。

 

 彼の言う通り、ここは本来一時的な補給のためだけに寄る場所だったじゃないか。

 ヴィクトール自身そう言っていたから、故郷にあまりよくない思い入れでもあるのかと思っていたら……とんでもない。至って普通に帰郷して、至って普通に恥ずかしがっている只の青年そのものじゃないか。

 離れた父親もいるし、帰れず墓参りもできなかった母親もいた。数年間別れていたのに顔と声だけで誰だか分かる幼馴染がいて、おそらくだが彼の師匠もここにいる。

 彼は何を思って、「ここを通るしかない」なんて言い方をしたんだ。

 

 ……あ、戻って来た。

 

「その……すまない、皆」

 

「……ヴィクトール。何を謝るっていうんだ」

 

「いや、時間が無いのは分かってるんだし、本当に補給のつもりだけだったんだが。父さんに……挨拶に行きたい。あと、母さんの墓にも。少しだけ時間をもらっていいか」

 

「それは……」

 

 ……ヴィクトール。

 

 なんでそんなことを遠慮するんだ。自分の故郷で、自分の親に挨拶に行くのに、仲間に許しを請う必要がどこにある。

 でも、彼にとってはそうなんだろうな。パーティーの時間を自分の私事に使うことへの……彼は、いつもそうだ。自分のことを後回しにする。

 

「当然だよ! ヴィクの家族に挨拶しなきゃ! ボクも行っていい?」

 

「ぼくも……行きたいな。ヴィクくんの両親に、ご挨拶させてほしいから」

 

「僕もご一緒していいですか? せめてお花を摘んでいきましょう!」

 

「……ありがとう」

 

 ……。

 私も、着いていくべきか。

 

 相も変わらずリュトは興味無さそうにしてるが。

 私はきちんと彼の仲間だ。それも一番古くからの付き合いで。

 ならば、私もついていくのが筋か? 

 私も彼の父親へ挨拶をしに行き、母親の墓参りに参加すべきなのではないか。

 

 ……いや。

 

「感動の再会に邪魔者は不要。幼馴染はここで一旦おさらば。どろん」

 

「サシナ」

 

「ん?」

 

 私には、確かめなければいけないことがある。

 それを、優先しよう。

 

「君に……ついていって構わないか?」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「ご指摘の通り。わたしは師匠の元へ報告に帰る必要がある。このままついてくれば師匠に会うことも可能。しかし何故?」

 

「……君の師匠に会いたかったんだ。それではダメか?」

 

「ふーん、そ。ダメではない。手土産があれば喜ぶが、無くても可」

 

「そうか」

 

 そうだ。

 ヴィクトールについていって両親への挨拶をするのも大事ではあるが──私は私でちゃんと本来の目的をやるべきじゃないか。

 

 エペとも会議で話したばかり。

 ヴィクトールの故郷で、しっかりと情報収集をする。

 となれば、こうしてサシナに着いていき、彼女の『師匠』とやらの面会を選ぶのも間違った選択では無いはず。

 

 ヴィクトールとサシナはかなり親し気だったし、戦闘スタイルもどちらも暗殺者のような動き方で……要は似通っていた。それはすなわち──師匠が同一人物である可能性を示唆している。

 そして、ヴィクトールが語ってくれた『師匠』というのは、エルフで、かつ暗殺術を教えてくれた人物。わざわざ戦闘職の知識を持っているんだ。場合によっては勇者シエルが生きていた時代に存命だった可能性がある。

 つまり、師匠を調べることはそれ自体がヴィクトールの詳しい過去の情報や、これまでの数々の謎を解くための手がかりと直結している可能性が非常に高い。

 

 だからこうして、その師匠とやらと対面するための機会を選択したんだ。

 決して……ヴィクトールの家族や、私と出会う前から仲が良かった人物の元へ行くのを避けた訳じゃない。師匠ならあくまで「教える側」と「教えられる側」だから彼とそこまで親密じゃないだろう……だなんて、考えていた訳でもない。

 情報収集の方が優先度が高かっただけだ。勇者会議で決めた方針に従っているだけであって、私個人の感情は関係ない。

 

 ……関係、ない。

 

「それでリュト。君はなんでついてきたんだ」

 

「暇だから。小さい村ってやることねェんだよ」

 

「……相変わらずだな」

 

 この女はこの前の勇者会議でした内容を覚えてるんだろうか。

 覚えてるからこそこうして着いてきているのかもしれないし、それとも本当に暇なだけで、本当に暇つぶしと言う意味だけで彼の師匠を一目見てやろうと思っているのかもしれないが。

 

 

 

「サシナ。一つ聞いてもいいか」

 

「どうぞどうぞ。質問は大歓迎」

 

「ヴィクトールの師匠について教えてほしい。エルフだと聞いているが」

 

「おお。エネ師匠にご興味がおあり?」

 

 エネ。

 エネというのか。

 

「……エネだと?」

 

「リュト?」

 

「っ、いや。気にすんな。多分オレの気のせいだ」

 

 ……? 

 リュトは何か気づいたのか? まぁいいが。

 

 エネ。それが師匠の名前か。

 ヴィクトールからは聞いたことがなかったな。あの夜も「師匠」としか言わなかったが……名前があるのも当然か。今聞けて良かった。

 

「エネは優しい人。すごく優しい。訓練は厳しすぎる。すごく厳しい」

 

「そうなのか」

 

「ただし弱点あり。煽てに弱い。すぐ機嫌が良くなる。チョロい」

 

「へェ……優しくて、チョロい、か。じゃあ人違いか……?」

 

「さっきからリュトは何を言っているんだ」

 

 しかし師匠の性格については大体分かって来たぞ。

 普段は優しい、落ち着いた性格だが、訓練の際だけで豹変する二面性を持っている。

 彼女の性別や見た目、どういった経緯でサシナやヴィクトールを鍛える経緯に至ったかは未だ不明だが、少なくとも「優しい」という項目があるだけで魔王軍の関係者という線は大幅に薄れるだろう。

 

 訓練のときだけ厳しいというのは気になるが。

 それもヴィクトールやサシナのように人格が破綻するまで苛烈なものを強いている訳ではないあたり、まだ常識的な範疇に収まる人物なのだろう。

 

「しかしまさか──ヴィっくんが女の子ばかり連れているとは。予想外だった」

 

「……それは」

 

 いやまぁ、外部から改めて指摘されると、まぁ……否定はできないな。

 彼は別に女好きと言う訳でもないはずだが。気づけば、エスクリ、マージュ、リュト、私。ルメドも加えると、見た目で言えば女性が五人。外から見れば、確かに奇妙な構成でしかない。

 しかし、幼馴染のサシナが「予想外」と言うということは、隠しているだけでヴィクトールが意図的に女性を集めていたという訳でもなさそうだ。幼少期からそういう性質ではなかったということになるし。

 

 じゃあ今のこのハーレムみたいなパーティーは完全に偶然の産物なのか。

 ハーレムといっても、全員が元男で、全員が同一人物というかなり歪んだものだが。

 

「しかしそこはヴィっくん。安心安全。誰にも手を出さない。でしょ?」

 

「ああ。それは、間違いないぞ」

 

「そうだな。あの男、性欲ねェんじゃないかってぐらいだもんな」

 

「リュト! 変なことを言うな!」

 

 まぁ、リュトの言いたいことも分からなくはないが。

 間違いなく、彼は仲間の女性に対して一方的に手を出したりしない。

 

 考えてみれば中々奇妙な状況だ。

 自分でも思うが、私は見た目が整っている方だと思っているし、スタイルだって相当なものだと自覚している。そうなってしまったものは仕方ないと諦めているが……このパーティーではほぼ全員がそれだ。小さいのなんてルメドぐらいだ。

 そんな集団に囲まれていてもなおヴィクトールは、照れたり、態度を変えたり、いやらしい目をする様子も全く見られない。本当に健全な男なのか怪しくなるようなあの誠実さが今まで一度もブレたことがない。

 私が度々誤解することはあれど、事実破廉恥なことをしていたことはなかった。

 私に対しては「相棒だから」というのもあるだろうが、他の面子全員にはそうもいかないだろう。

 

 かといって、私達を女性として見ていないということも無いと思う。

 採寸を見られた時は……今でも思い出したくないが。彼は「女性の着替えを見てしまった」としっかり認識していたし、エスクリ達の話によれば「宿は部屋を分けよう」だとかあったらしい。

 言葉では直接何かを言う訳じゃないが、行動の端々に、私達が女性であることを自然に前提にした配慮があったように思える。

 

 彼に女性扱いされるというのは……その、なんといか、ふふ。

 いやまぁ僕の自認は一応男だし、それで嬉しくなるというのは無いと思うのだが。それでもなんとなくふわふわした気分になれる。どうしてなのかは分からないが。

 

 で、サシナはいったいどうしてこの話を……。

 

 

 

「やはり。さてはヴィっくん。旅の途中でも師匠の話ばかりしてたと見える」

 

「……え?」

 

「……は?」

 

「ん? 違った? それは失敬した。謝罪」

 

 

 

 え、なんだ、それ。

 どういう意味だ。

 

 いや、別に彼は師匠の話なんてそんなにするような人間ではなかった。

 それはともかく──どうして、「彼が仲間に手を出してこないこと」が「彼が師匠の話をすること」に繋がるんだ? 話の流れと言うか、意図がまるで読めないんだが。

 

 嫌な予感がする。

 何の根拠もないのに、サシナの次の言葉を聞きたくない。

 

「だって、ヴィっくん」

 

 

 

「ずっと昔から。分かりやすく。照れるくらいに──師匠のこと、好きだから」

 

 ……はぇ? 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ……好き。

 

 あのヴィクトールが。

 

 ずっと昔から、分かりやすく、照れるくらいに。

 

 ……すき? 

 

「武闘家さん。騎士さん、急に何も言わなくなった。故障?」

 

「あー……オレも驚いたから、なんとなく理由は分かる。ほっといてくれ」

 

「そう。了解した」

 

 さっきのサシナの言葉が頭の中でぐるぐる回っている。

 一回聞いただけなのに、もう何十回も再生されている気がする。

 ヴィクトールが、師匠のことを、好き。

 それも──恋愛的な意味で。

 

 いやいやいやいや冗談だろう? 

 いや、冗談かどうかなんて私に判断できはしないが。

 流石にこれを信じるというのは無理があるのでは? 

 

 ……待て。落ち着け。

 もしそうなら彼がこのハーレムのようなパーティーで一切誰にも邪な気持ちを向けようとしなかった理由も全て説明できるが……まだサシナの言葉を鵜呑みにすると決めた訳じゃないだろう。

 彼女がどこまで信用に値するかは、まだ判断の途中じゃないか。勇者会議でそう決めたばかりだ。この情報だって裏を取る必要がある。今すぐ信じるとか、そういうことができないのは当たり前。

 それに、たとえヴィクトールが師匠に恋慕の情を抱いていたとしても、それは彼の私事であって、使命には関係がない。勇者として動揺する理由がない。私には関係のないことだ。

 

 

 

 関係の、ない。

 

 

 

 ……駄目だ。

 あまりにも予想外過ぎたからかまだ飲み込めない。

 

「で? そのお師匠サマは昔の話とかしねェのか。他にも誰か教えたことあるとか」

 

「残念ながら分からない。師匠は過去のことを話さない。秘密主義」

 

「そうか。じゃあ、結構古式の暗殺術を使ったりしないか? 数百年前ぐらいの」

 

「残念ながら分からない。私は師匠の暗殺術しか知らないもので」

 

「……『どうして我々が暗殺術に長けているか分かるか?』」

 

「『それだけ長い期間戦ってきたからだ』。何故師匠の言葉を?」

 

「いや、まさかな……」

 

 さっきからリュトが私の代わりに喋ってくれているが、その内容も正直入ってこない。

 

 なんで私はこんなに引きずっているんだ。あの言葉を聞く前と後で、何が変わった? 

 ヴィクトールが変わった訳じゃない。私が変わった訳でもない。

 ただ一つ、知らなかった情報が増えただけだ。

 だから、だから、だから……。

 

「到着。師匠を呼んでくる。しばしお待ちを」

 

「……おう」

 

「……分かった」

 

 ……いい加減、気を引き締めろ、シュヴァ。

 これから相棒の恩人に会うんじゃないか。いつまでもこんな顔じゃダメだ。

 サシナの勘違いと言う線も、サシナのからかいという線も、ヴィクトールの叶わなかった初恋という線もある。何度も何度も考えるようなことじゃない。

 今はここにいるという──エネと、対峙するだけだ。

 

 ……あれ? 

 エネと言う名前、私も微かに聞き覚えが──

 

「師匠ただいまー。村にお客さんが来てる。挨拶を」

 

「あら、おかえりサシナ。お客さんって?」

 

 ──長い耳。細い体躯。穏やかな目元。

 エルフ、だ。それも……随分と落ち着いた雰囲気の。

 暗殺術の師匠と聞いていたから、もっと鋭い印象の人物を想像していたんだが……どちらかというと、優しそうな。サシナが「優しい人」と言っていたのが頷けるような。

 これが、ヴィクトールの師匠。

 これが、ヴィクトールの……。

 

 ……おかしい。

 私はどこかで、この人を見たことが──

 

 

 

「てめェやっぱ暗殺術の鬼教官エネじゃねェか!!」

 

 えっ。

 

「!? ……えっと……ごめんなさい、どちら様」

 

「どちら様じゃねェよ! なんだそのキャラ!?」

 

 えっ? 

 あっ……。

 

 ……あぁっ!?




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