僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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信用してもいい?

「えぇ。私の方でもいくつか確認できたわ」

 

「わお。まさか師匠も気づいていたとは」

 

 動物の気配が極端に薄い区域を見つけたと思ったのに。

 なんなら鹿の生首までセットで見つかったというのに。

 せっかくわざわざいつも落ち合っている村の外れまで戻って来たのに。ここまで大急ぎで「早く報告すべきでは」と考えていたわたしの苦労は何だったというのか。

 

 まぁでも。わたしの技術が師匠に及ばないことも事実。

 弟子が師匠を超えるのは師匠が衰えた時か死んだ時のみである。わたしが分かることをわたしの数百倍を生きてまだなお現役の師匠に分からない訳もなかった。

 

「ここ数日、罠の周辺で動物の痕跡が減ってきていて。最初は季節的なものかと思ったんだけど……減り方が不自然なのよ」

 

「不自然」

 

「特定の区域だけごっそりいなくなる。隣の区域には普通にいるのに。昨日見つけた場所と今日サシナが見つけた場所、方角は?」

 

「わたしのは西の杉林の奥。昨日師匠が見つけたのは?」

 

「北東の沢沿い。一昨日は南の尾根付近でも似たような空白があった」

 

 ふーむバラバラ。

 方角に一貫性がないというか。村を中心にして見ても規則的な配置ではない。

 ……村を直接狙って包囲しているとかではなさそう? 

 つまり狙いは村そのものではないということなのか。うーむ。

 

「ランダム……?」

 

「そう。発見場所に法則性が見えない。村を直接狙っているなら、もっと集中するはずなの。でもこれは散発的。広い範囲に何かが潜んでいて、移動しながら獲物を狩っている──そんな印象を受けるわ」

 

「移動型の捕食者」

 

「断定はできないけど。少なくとも、一箇所に留まっている存在ではないと思う」

 

 師匠の分析はいつも的確。

 わたしの頭では「なんか変」止まりのものをちゃんと言語化して仮説にしてくれる。ありがたい。

 移動しながら狩りをしている何か。魔物かもしれないしそれ以外の何かかもしれない。あの斥候のスライムではすっとろくてそんな芸当できないはず。大きさ的に鹿を二つも食べるならもっと時間を要するだろうし。

 では何が? 

 

「罠にはかかっていない?」

 

「かかっていないわね。罠を避けているのか、罠の設置範囲外で活動しているのか……どちらにせよ厄介」

 

「それは厄介。この村史上最大の危機の可能性」

 

 師匠が厄介と言うなら相当厄介。

 とはいえわたしにできることは引き続き偵察で目を光らせることだけ。

 それ以上の対策は師匠の領分。

 分業分業。

 

「範囲を広げて罠を追加するわ。明日からしばらく戻りが遅くなるかも」

 

「了解。わたしも偵察の範囲を少し広げる」

 

「無理はしないで。見つけても一人で手を出さないこと」

 

「らじゃー」

 

 まぁ心配してくれるのは分かるけれど。

 本当に死にそうになったらわたしはすぐ逃げるから問題ないと思う。

 心配されるのは嫌いじゃない。指示をもらえるのはもっと嫌いじゃない。

 師匠の教えはわたしの中で生きている。これで師匠も安心だろうし、ヴィっくんもわたしのことが誇りだろう。

 褒めてくれてもいいんだぞ? 

 

「……ところで師匠」

 

「なに?」

 

 

 

「ヴィっくんとはまだ会えてないの?」

 

「…………そうなのよ」

 

 

 

 あ。ちょっと目を逸らした。分かりやすい。

 というかまだ会えていない? もう避けているとかそういうのでは? 

 

「流石に変だと思う。何日経ったと思っているのか」

 

「それはそうだけど……仕方ないでしょう。私は罠の設置で忙しいし、あの子はあの子で村の手伝いをしているみたいだし……タイミングが合わないだけよ」

 

「師匠かヴィっくんが意図的に避けていなければおかしいような」

 

「避けてないけど、でもそれぐらいめっきり会えないのよね。ヴィクの仲間の子はよく見かけるのだけれど……」

 

 ふむ。

 数年ぶりに弟子が帰ってきて、しかも女の子をたくさん連れている。この時点で親心には暴風雨。しかもその弟子は相変わらず師匠のことが好き……なはず。

 複雑な心境は想像できなくもない。無意識のうちに避けていてもおかしくない。

 まぁわたしには関係ないので放置一択ではありますが。

 

「じゃあもう一つお願いが。師匠……いい?」

 

「……別にそんな分かりやすく媚びなくたって。なによ」

 

「ヴィっくんの仲間と仲良くなりたいので協力してほしい」

 

「協力?」

 

 そうそう。

 いえすいえす。

 

 あの六人の乙女たちはおそらくこっち側を少し警戒している。

 気持ちは分かる。自分が一切知らない「知り合い」の「知り合い」って気まずいなんてものじゃない。普通に会話するだけでも間にヴィっくんを挟むことは必須。初対面ではみんな緊張するのである。

 

 しかしあの六人が持っているのは「わたしの知らないヴィっくん」というなんとも面白そうな情報。

 弱みが手に入ればそれでいくらでも弄れるようになるし。何を思って今のハーレムパーティーを生み出すに至ったか。師匠一筋だった彼の心に何が起こったのかを是非とも教えていただきたい。

 

「あの人たちと仲良くなりたいな~と。わたしが見ていない間のヴィっくんの話をしてほしいな~と。秘密の会議みたいなのをしているから混ぜてほしいな~と」

 

「……秘密の会議?」

 

「多分ヴィっくんを見守る乙女連盟的な何か。わたしも参加資格があると思う」

 

 おそらく合っているはず。ヴィっくんがいるときは絶対にしない会議だし。そこで話した内容をヴィっくんに共有してる素振りも無かった。

 パーティーのリーダーであるヴィっくんをいかに出し抜くか日夜作戦を考慮しているものと思われる。なんて面白そう。わたしを省くなんてとてもとても。

 

「それに伴って──師匠は『勇者シエルの剣を見たことがあるか』。教えてほしい」

 

「……なんで?」

 

「さぁ。何故か皆知りたがっている」

 

 手土産は大事。手ぶらで乙女連盟に乗り込むのは失礼というもの。

 あの人たちが何やら勇者シエルについて色々と知りたがっているのは会話の端々から拾えている。というか普通に会話することもあるし。こっちを探ろうとしているのも察せている。「エネは勇者シエルの剣を見たことがあるのではないか」という推測に基づいて会話をしているところが度々みられるので。

 何故だか知らないけれど──つまり皆は師匠の知っている情報に興味を持っている。

 

「……剣? ああ、見たことはあるわよ──」

 

 

 

「──もうほとんど覚えてなんていないけどね」

 

 

 

 ……ふーん。

 当たり前か。

 数百年前の剣なんて覚えていなくて当然。

 きっと見た目なんて──まるで覚えていないだろう。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 シュヴァは硬い人だなぁというのが改めての感想。

 

「──ということで。一応の報告」

 

「報告承った……他の仲間にも共有しておく」

 

 なんでこうも睨まれるのだろう。

 動物の異変について共有したかっただけなのに。鹿の生首が見つかったこと。生き物のいない区域があること。何かが潜んでいるかもしれないこと。隠す理由もないし全部正直に話しただけなのに。

 きちんと聞いてくれたし情報としてはしっかり受け取ってくれた。そこは好感が持てる。真面目な人は嫌いじゃない。

 

 ただ──何故か他のメンバーと違ってシュヴァだけわたしに対する当たりが無意識に強い。

 

 会話を盗み聞きした当たり──ヴィっくんの一番初めの仲間はシュヴァだったらしい。おそらくそれが原因? 

 そんなところに現れた素性のよく分からない幼馴染。信用しろという方が無理な話。自分の知らないヴィっくんを見せつけられて不機嫌なのかもしれない。

 そうやってずっと気を張り続けられるのは一種の才能だと思う。わたしにはない才能。

 おかげで仲良くなれそうな気配はまるでない。

 

 乙女連盟への道は遠い。

 

「では」

 

「ああ……また、な」

 

 そんなに不満ならぎこちない笑みなんてしなくてもいいのに。

 

 しかし気になることがある。

 シュヴァとの会話の中で……というか。この数日ヴィっくんの仲間ほぼ全員と話してみたけど。

 

 

 

 ヴィっくんの仲間たちは──師匠の話をほとんど聞いていないみたい? 

 

 

 

 いやいやいやいやおかしいおかしい。

 ヴィっくんの口から「師匠」という単語が出ることは滅多にない。あのヴィっくんだぞ。分かっているのか。

 シュヴァ自身は「師匠について詳しく聞いたのは最近のこと」というようなことを言っていたけど。

 ……それはおかしい。

 

 わたしが知っている幼少期のヴィっくんは師匠への好意を隠す気なんてまるでなかった。

 師匠の話を誰にでもした。村の大人に。同い年の子供に。通りすがりの行商人にすら。

 憧れを超えているのが目に見えて分かっていたし、「うちの師匠はすごいんだ」だの「師匠に新しい技を教えてもらった」だの「師匠の作る薬草茶は世界一美味い」だの。自慢しない日は無かったはず。しかも顔を真っ赤にした状態で。

 

 あれは正直うるさかった……弟子入りしたての頃は特にひどかった。朝起きて一番最初に師匠の話をするのだから。

 お前の脳内は師匠しか存在しないのか。流石に師匠も引いていた。兄代わりがこんなにも熱烈だと妹としてはげんなりする。

 あれのせいでヴィっくんに抱いていた淡い恋心を打ち砕かれてしまった少女がいたかもしれない。なんと恐ろしい男なのか。

 

 なのにそれが? 

 旅に出て以降。師匠について誰にも話していない? 

 あれだけべた惚れだったのに? あの分かりやすすぎるヴィっくんが? 

 照れ隠しにしたって限度がある。そもそもヴィっくんに照れ隠しという高等テクニックが使えるとは思えない。もしかして師匠への恋が冷めちゃったり? 正直想像できないけど。

 

「……」

 

 まぁ。

 ヴィっくんには一人で抱え込む癖がある。

 

 旅に出る時もそうだった。大好きな師匠を振り払うようにして。

 あの背中は今でも覚えている。振り返らなかった。一度も。

 好きだからこそ話せないとか。大切だからこそ口にできないとか。そういう面倒な感情の仕組みが思春期のヴィっくんの頭の中で育っていたり? 

 

 今も何か抱えている可能性がある。

 師匠のことを話せない理由が何か。帰ってきたのに会いに行けないのも多分そう。罠の設置とか村の手伝いとかタイミングとかそういうのは全部言い訳で。本当は怖いのかも。

 数年間放置した師匠にどんな顔で会えばいいか分からない。

 その可能性もあり得なくはない。

 

 男の子ならそういう秘密があっても当然のこと。

 実際それが合ってるかどうかも分からないし。

 話せるまでニアミス報告係を続けてあげよう。善意で。

 深追いはしない。わたしは理解のある幼馴染だから。

 

「……あ」

 

 ……理解といえば。

 そうだ。理解できないことが一つあった。

 

 プレヴィに会いに行こう。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 失礼しまーす。

 

 いたいた。プレヴィ。

 ベッドの上にいる。上体を起こして……あれ。こっちを向いている? 

 おかしいな。盲目のはずなのにこっちが来たのが分かったのか。

 足音は相当消していたつもりだけれど。もしやプレヴィも師匠の暗殺術を? 

 

 ルメドは……いない。何か用事かな? 

 ずっとここにいる訳にもいかないだろうし。別に多少外に出るくらい問題ないと思うが。

 

「こんにちは。サシナ様、でしたか」

 

「名前覚えてくれていたとは。嬉しい」

 

「それは勿論。命の恩人ですから」

 

 命の恩人……確かにあのスライムを拘束したのはわたし。

 なんと良い言葉の響き。人の命を助けてよかったと思える感謝の言葉。

 

 いや待てよ。

 そのスライムが捕食していたプレヴィを専用の罠で縛り上げていたのは私では? 

 意識が無かったのってもしかしたら私のせいかもしれない。

 仕方ない。黙っておこう。

 

「様子を見に来た。具合はどう?」

 

「おかげさまで。体はもうすっかり。ルメド様のおかげです」

 

 穏やかな声。穏やかな笑顔。

 スライムの中から引きずり出された人間のものとは思えないぐらい落ち着いている。

 あの時のボロボロの姿を知っているだけに違和感がすごい。

 普通あんな目に遭ったらもうちょっと怯えたりしないのだろうか。わたしが言えたことではないけれど。

 

「記憶の方は?」

 

「……残念ながら。あの前後のことは何も」

 

「そう。仕方ない」

 

 まぁ聞いてはみるものの期待はしていなかった。覚えていないものは覚えていない。

 それはいい。それよりもずっと気になっていることがある。

 

 あの鹿の生首。

 断面に異臭がなかった。腐敗でもなく刃物でもなく断面が溶けてふさがっていた。あれはスライムによるものだと考えるのが自然。スライムの消化液は生き物を溶かすから。

 そしてこの村の周辺から生き物が消えている。広範囲かつランダムに。

 スライムが一匹だけとは限らない。複数が広い範囲で動き回っている可能性が高い。

 

 なのにプレヴィはスライムの中から五体満足で出てきた。

 

 服や髪は多少やられていた。皮膚の損傷も軽度にはあった。

 でもそれだけ。鹿は首を溶断されるのに……この人は数日間飲まれていてその程度で済んでいる。

 どうして? 

 本当に何も覚えていない? 覚えていないだけで体の方は何か特別? 

 それとも──スライムの側がこの人を消化しなかった理由があるのか。

 

「……サシナ様?」

 

「あ。ごめん。ぼーっとしていた」

 

「いえいえ。考え事ですか?」

 

「ちょっとだけ。失敬」

 

 この人の前でうかつなことを考えるのはやめておこう。

 盲目でも鋭い人はいる。というかこの人はかなり鋭い部類だと思う。

 声だけでわたしを識別するぐらいだし。

 

 そしてきっと──何かを話してくれることはない。私のちょっとした疑念が解決することは多分ない。

 もし「本当に覚えていない」なら話せる訳はない。もし「実は覚えているが隠している」なら結局隠すのみ。喋る意味がない。

 そしてわたしはプレヴィを説得できるような手段を持っていない。

 何も考えずここに来たからだ。手土産を準備してから訪ねるべきだったか……。

 

 

 

「……その、サシナ様」

 

 ん? 

 

「この村の人たちって……勇者シエルのこと、すごく詳しいですよね」

 

 

 

 唐突。でもまぁ確かに。

 ユイヌの住民は勇者シエルの伝説をかなり正確に把握している。他の土地で聞くような「身長三メートル」とか「眼光で魔物を殺す」みたいな盛られた話は一切ない。師匠が正しい歴史を伝えているし。

 

「それが何か?」

 

「やっぱり……他の場所だと、伝説はだいぶ歪んでしまっていて。正確な情報を持っている人はとても少ないんです」

 

「そう。きっと苦労したことも少なくないのでは」

 

「だから──ここなら、話しても大丈夫かもしれない」

 

 ……んん? 

 話すって。何を。

 

「私、いくつか秘密があるのですが。それを打ち明けるのは……信用できる人にだけと決めているのです。正しい正義の心を持った、信じても良い人にだけ」

 

「秘密」

 

「はい。秘密です」

 

 ……つまり。

 スライムに襲われたときの情報について。何か秘密にしたい出来事があった。

 だから秘密にしようと思っていたが……信用できるなら話してもいいということ。

 そういうこと? 

 

「この村は、ヴィクトール様の故郷で。皆様勇者シエルのことをちゃんと理解されていて」

 

「うんうん」

 

「ですので。他に『勇者シエルに憧れる人』や『勇者シエルの正しい知識を広めた人』がいらっしゃるのかと」

 

「なるほど」

 

「……いらっしゃるのですか?」

 

 要は……「勇者シエルの信念に理解を示せる人間であれば信用できるから話してもいいよ」と言っているということ。そうでなければ怖くて言い出せないということ。

 その言い方だとヴィっくんは既に信用できると言っているようなものだけれど……まぁヴィっくんを信用できるという気持ちは分かる。気が合うじゃないか。握手でもするか。

 

 ……冗談。

 握手なんてしない。

 

 

 

「悪いけれど。私は何も知らない。お役には立てない」

 

「………………そうですか」

 

 

 

 だっておかしい。

 その言い分ならヴィっくんが直接話を聞けばいい。わたしが無理に聞く意味は何もない。なのに聞こうとしているということは──私から何か聞きだしたいことがあるように思える。

 

 それにさっきからずっと勘が鳴っている。

 言語化できないし根拠もないけれど……でも確か。

 プレヴィには悪いけれど「隠し事をしていること」は師匠含めて皆に告げ口する。

 そして「師匠のこと」は黙らせてもらう。

 

 だって私の勘はよく当たるから。




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