僕のくせにボクの邪魔しないでよ! ~全員同一人物ハーレム(※同一人物ではない)~   作:破れ綴じ

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新たなる魔王

「──驚きました。急に剣を投げつけて来るなんて。ただ自己紹介をさせて頂いただけなのに……」

 

「くっ……!」

 

 一瞬の出来事だった。

 プレヴィが何か宣言したのとほぼ同時にヴィっくんが持っていた剣をその心臓ど真ん中に投げつけて──プレヴィが変形してそのまま剣がすり抜けてしまった。

 あれはまさかそういうこと? 今目の前にいるプレヴィは初めからあのスライムの擬態か何かで……本体は中に。それこそ初めて見つけた時みたいに内部に閉じこもっている? 

 

 それに気づけなかったわたしもちょっと注意不足すぎたかもしれない。

 兄弟子の暴走を止めるのは妹弟子の役目のはずなのに。普通になんか反応しきれなくておかげでこちら側の武器が一本彼方に消えてしまうという大失態。師匠に見られたら何を言われるか……いや師匠もここにいるんだった。意識が無いことが幸いか。

 いや。幸いな訳ないな。

 

「やはりヴィクトール様は恐ろしい方。あの一撃、もし本体に届いていたら──確実に死んでいたでしょう」

 

「……死ね。死んでくれ」

 

「まぁ、怖い」

 

 ヴィっくんは今焦りで周りが見えていない。対してプレヴィは憎いくらいに穏やか。スライム越しの声なのに妙に通るのは何故? 

 でもそれは裏を返せば届かないと分かっていたということ。最初からこうなると分かっていて座っていた。わたし達が本気で殺しにかかることも……それがスライムを斬るだけで終わることも。全部織り込み済み。

 

 動けない。想定外の事態が連続しすぎてどう動けばいいか分からない。

 自分だけじゃあのスライムは倒せないし。誰かから指示を仰ごうにもそれができそうなヴィっくんはそんなことできる状況じゃないし。

 じゃあわたしはどうすれば?

 

「まだ私は不完全な身。ヴィクトール様と正面からぶつかれば間違いなく負けてしまう程度には、力が足りないのです」

 

「好都合だ。正々堂々戦おう。殺してやる」

 

「まさか。だからこうして人質を取っているのですよ? 卑怯だとは、重々承知していますが……」

 

 卑怯と自覚して開き直る人間は嫌いです。

 いやこいつ人間じゃないのか。じゃあ適用されないのか。それでも嫌いだけど。

 

 でも反論の余地がない。

 ヴィっくんが本気になれば別にこのスライムを殺しきることだってできない訳じゃないと思う。それができないのは単に人質がいるから。

 人質がいるのにそれを無視できるほどヴィっくんは合理に踏み切れる人間じゃない。武器を投げてしまったのはあまりにも感情が暴走しすぎてバーストしちゃったから。隙をついての攻撃が無駄だと分かった以上……もう動けない。次は無いってことだから。

 二人とも動けない。わたしとお揃い。揃ってる場合じゃない。

 

「……じゃあ、あの予言は嘘だったのか」

 

「嘘……ではありませんね。現に私が、こうして目の前にいるのですから」

 

 二人が何を言っているのかは分からない。二人は知り合いだったからわたしの知らないようなことを喋っていても何もおかしなことじゃない。

 ただそれよりも……。

 

 プレヴィはなんでこんなことをただ喋っている? 

 プレヴィはヴィっくんに何を言いたがっている? 

 意図が読めない。どうして? 

 

 さっきからずっとプレヴィの言葉は全部ヴィっくんに向いている。わたしのことなんか見えていない。文字通り盲目だから。

 いやでもそういう意味じゃなくて。最初からわたしは眼中にない。相手にされていない。それ自体は別にいい。わたしは空気みたいなものだし。

 でも──なんでヴィっくんだけ? 

 

「ソワン国には私が長い時間をかけて仕込んだ駒がおりました。ヴィクトール様ならきっと辿り着くと思ったのですが……何故か殺してしまわれた」

 

 声は穏やかなまま。

 でも穏やかなのに重い。

 怒りではない。もっと厄介な何か。期待を裏切られた人間の声。

 親が子供に「どうしてそんなことをしたの」と問い詰める時の声に似ている。

 ……気持ち悪い。何を言っているのか。

 その感情をヴィっくんに向けないでほしい。

 

「セティの集積所もそうです。あそこで仕事をしてほしかったのに……それをヴィクトール様は一晩で跡形もなく……はぁ」

 

「何を、何が言いたい。お前……」

 

「どうしてなのでしょう。私の導きに従ってくだされば、もっと穏やかに事が運んだのに」

 

 集積所。犠牲者の牧場。

 それは知っている。師匠の指示でわたしも似たような施設を叩いてきたんだから。

 でもなんでそれをヴィっくんに言うのか。

 わたし達が壊した施設もある。恨む相手はわたし達でもいいはず。なのにヴィっくん個人に向けている。まるでヴィっくんだけが全部の中心みたいに。

 

 導きというのは? 

 予言という形の指示でヴィっくんを誘導していたということ? 

 行き先も行動も全部。ヴィっくんはそれに従って旅をしていて──でも途中で自分の判断で全部壊した。プレヴィからすればそれが許せない。そういうこと? 

 訳が分からない。なんで敵に自分達の所在地を教えておいて文句を言っている? それをなんでわざわざ今説明している? 何もかも理解できない。わたしが馬鹿なだけ? 

 

「勇者を集めているのかと思えば……誰にも手を出さない。殺さないにしても、身重にでもしてくれればよかったのに。このお師匠様がそんなに好みでしたか?」

 

「黙れ……」

 

「犠牲者風情で、随分と情が移ったものですね」

 

 いや本当に何を言っている。理解できたのが「師匠が好みだった」しかないぞ。

 勇者ってのはどういうことだ。ヴィっくんは何か集めている? それがシエルに関係している? 殺すというのは? 身重にするというのは? 誰かヒントくれないか。

 犠牲者ってなに。何の犠牲者。ヴィっくんが? 集積所の犠牲者と同じ意味? ヴィっくんはこの村で生まれてこの村で育った普通の人間なんだけど。

 ヴィっくんもどうして何も反論しないのか。それだと相手の言葉が全部分かっているみたいじゃないか。わたし抜きにして二人で通じるような会話しないでほしいんだけど。

 

 ……そういえば。もしかしてだけど。

 確か師匠があんなことを言っていた。

 それが何か関係している? 

 いざ。しばし回想開始……。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ヴィっくんがまだ旅に出る前の話。

 まだ村にいた頃のある夜。

 

 何かの物音で目が覚めて……それが何だったかはよく覚えていないけど。でも気になった。気になったから外に出た。

 そしたら師匠がいた。

 

「はぁ、また……」

 

「師匠?」

 

「……サシナ。起きてきたの?」

 

 わたしが近づいたら師匠が振り返らないままこっちに手を向けられた。それだけでわたしは止まってしまう。師匠の手にはそういう力がある。訓練の賜物。条件反射。弟子は従順。

 師匠は果たして何を見ていたのか。村の外れの方をじっと……。

 

 そこにいたのはヴィっくんだった。

 

「……?」

 

 一人で座っていた。膝を抱えて背中を丸めて。

 いつものヴィっくんじゃない。いつものヴィっくんはもっと大きい。もっと堂々としている。それがあんなに小さくなっている。

 声は聞こえない。泣いている訳でもないと思う。ただそこにいるだけ。多分。

 なのにあの背中は……見ていてはいけないもののような。見てしまったことが悪いことのような。

 

 声をかけようとした。かけるべきだと思った。

 だって幼馴染だし。小さい頃から隣にいたし。そもそも何してるかが気になったし。

 

「……サシナ。待ちなさい」

 

「おっと師匠。止めないでほしい。わたしは幼馴染としての義務を果たそうと……」

 

「よくこうなるの」

 

 ……ん? 

 えっそうなのか。

 

「ヴィク……よく、悪夢を見て飛び起きるそうなの。そのまま朝まで眠れないこともあったりして……今月もこれで五回目よ」

 

 ほう。悪夢。

 ヴィっくんが悪夢を見る。しかも常習的に。

 飛び起きてそのまま眠れず一人で外に出て膝を抱えている。それがよくあること? 

 

 知らなかった。

 

 気づかなかったのか気づけなかったのか。それとも気づく気がなかったのか。

 ……まぁどれでも結果は同じか。とにかく知らなかった。

 逆に師匠は気づいていた。まぁそれも師匠だから当たり前か。師匠はいつだってわたしの百歩先にいる。

 

「何度かそばに行って声をかけたわ。でもあの子は『大丈夫です』としか言わないの。何が夢に出るのかも教えてくれない」

 

「……師匠。それはヴィっくんの常套句。信用できない」

 

「そうなんだけどね」

 

 もう聞き飽きた台詞。

 小さい頃からそうだった。転んでも大丈夫だ。熱が出ても大丈夫だ。腕を怪我しても大丈夫だ。全然大丈夫じゃない状態で大丈夫だと言い張る。

 あれは本人の癖なのか意地なのか……多分両方。

 

 しかし師匠相手にもそうなのか。

 ヴィっくんにとって師匠は誰よりも信頼している人のはず。わたしなんかよりずっと。その師匠にすら見せない場所がある。

 じゃあ誰になら見せるんだろう。誰にも見せないのか。ずっと一人で膝を抱えて座っているのか。

 それでいいの? いい訳ないだろう。

 

「あの子には何か重いものがあるの。私には全部は分からない」

 

「ふむ……」

 

 師匠が分からないと言っている。なんだそれ。

 師匠でも分からないならわたしに分かるはずがない。わたしはヴィっくんの幼馴染だけどそれだけだ。師匠ほど近くにいた訳じゃない。師匠ほど長く見てきた訳じゃない。師匠が届かないものにわたしが届くはずがない。

 

「だからサシナ」

 

「ん?」

 

 師匠がこっちを見た。あの夜初めてこっちを見た。

 エルフの目。長い時間を生きてきた目。でもその時だけはただの心配している人の目。数百年の知恵とか経験とかそういうものを全部置いて──ただ一人の弟子のことを親のような気持ちで心配している目。

 師匠にもこんな顔ができるんだなと思った。思ってしまった。今思えばかなり失礼なことを考えていた。ごめん師匠。

 

「あの子が追い詰められている時は……できる限り楽をさせてやってほしいの」

 

「楽……」

 

「そうよ。あなたにしかできないことがあるから」

 

 わたしにしかできないこと。

 普通師匠は弟子に「楽をしろ」なんて言わないと思うが。ヴィっくんは自分から苦労を選んでいく人。流石にここで「さらに追い詰めろ」とは言えないか。

 

 その時は深く考えなかった。師匠が珍しいこと言うなぁとしか。

 師匠に合わせる顔がない。いや顔は合わせられないけど。スライムの中だし。

 

 でも今。まだ繋がらないけど確信だけはある。

 ヴィっくんの中にわたしの知らない何かがある。

 結局これが今のヴィっくんと特に関係してる訳じゃないのかもしれないけど。

 ずっと隣にいたのにそれでも見えなかった何かが──ヴィっくんにはある。

 ……回想終了。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 あの子には何か重いものがある。わたしにしかできないことがある。

 今がその時なのかは分からない。

 分からないけど──少なくとも今のヴィっくんは追い詰められている。

 それだけは間違いない。

 

「何故それを……俺に教える」

 

「あら?」

 

 ……えっそれ聞いちゃうの。聞いちゃっていいの。

 確かにわたしもそれがずっと引っかかっていたけど。

 

 プレヴィはさっきから自分の手の内を喋り続けている。

 ヴィっくんを誘導していたこととかその他諸々全部。

 普通は黙っているもの。勝っている側が情報を渡す理由がない。趣味の自慢話にしては物騒すぎるし。じゃあただの慢心? それなら相手の隙だから嬉しいんだけど。

 

「本当は……もうお分かりになっているのでしょう?」

 

 きっとそうじゃない。

 だってヴィっくんはずっと……。

 

 

 

「私の言っていることが──ヴィクトール様には分かるはずなのです」

 

「……っ」

 

 

 

 分かるはず。

 何が。何を分かるはず。わたしには全然分からない。一割も分からない。なのにヴィっくんには分かる? なんで? どうして? 

 同じ言葉を聞いているのに片方だけに通じる会話ってなに。わたしだけ仲間外れみたいで地味に腹が立つんだけど。腹を立てている場合じゃないけど。

 

「なぜ私が準備したものを全て潰されるのですか? 全て、ヴィクトール様がいなければ順調に進んでいたものばかり」

 

 ヴィっくんは黙っている。

 反論しない。否定しない。怒りもしない。ただ黙っている。

 それが一番怖い。ヴィっくんが黙るということは言葉が刺さっているということ。的外れなら「何を言っているんだ」と返すはず。それすらしないということは──少なくとも全部が出鱈目ではないということ。

 嫌だ。そういう結論に辿り着きたくないのに。

 

「上手くいくはずだったのに。どうしてそちら側にいるのです」

 

「……止めてくれ」

 

「あの施設をご覧になったでしょう。何もお感じにならなかったのですか」

 

「……止めろ!」

 

 そちら側。どちら側とどちら側? 

 わたし達の側と魔王軍の側。ヴィっくんはわたし達の側にいる。それは当然のことで疑う余地なんかないはずなのに。なんでプレヴィはそれを疑問として投げかけている。

 施設をご覧になった? 何か見れば分かるものがあったのか。それで何か感じ取ってほしかったのか。敵組織の拠点を見て理解できることなんて……。

 まるでヴィっくんが本来いるべき場所は別にあるみたいな言い方。

 まるでこっちにいることの方が間違いみたいに。

 

 やめてほしい。そういう言い方。

 それはまるで。それは……。

 

 

 

「あなたは私の──仲間のはずなのですよ」

 

 

 

 ……。

 

 ……仲間? 

 プレヴィの仲間。魔王の仲間。ヴィっくんが。

 

「まさか本当に……ご自分の使命をお忘れになっているのですか?」

 

「……」

 

 何を言っている。何を言っているんだこの人は。

 ヴィっくんが魔王の仲間? あのヴィっくんが? 師匠に弟子入りしてわたしと一緒に育ったあのヴィっくんが? 

 冗談にしては笑えない。本気にしては意味が分からない。

 

「ヴィクトール様が勇者たちをお集めくださっていたから、てっきりお分かりになっているものと思っていたのですが」

 

「……勇者、というのは」

 

「まさかそれすら、はぁ……」

 

 勇者たちを集めている。

 勇者というのは? シエルのこと? 単純に勇ましい人という意味? 

 人だというなら……エスクリ。マージュ。リュト。ルメド。シュヴァ。ヴィっくんが旅の中で出会って仲間にした人達。

 それを──魔王のために集めていたと? 

 

 嘘だ。嘘に決まっている。

 ヴィっくんがそんなことをするはずがない。

 ヴィっくんは優しくて不器用で狭いところが怖くて師匠のことが大好きで世界平和に目覚めたちょっと変わった──それでも誰かのために立ち上がれる人で。

 わたしはそれを知っている。幼馴染だから。生まれた時からずっと見てきたから。

 だから嘘だ。嘘のはず。

 

「ヴィっくん」

 

「……」

 

「何で……何で言い返したり何で否定したりしないの?」

 

 黙っている。さっきからずっと黙っている。なんで。

 早く嘘だと言ってほしい。馬鹿なことを言うなと怒ってほしい。違うと。全部出鱈目だと。お前の妄想だと。一言でいい。一言でいいから。

 お願いだから何か言ってヴィっくん。

 

「……少々、期待が過ぎたようですね。残念です」

 

 残念。残念だと言っている。期待していたと。ヴィっくんに。

 自分の味方として動いてくれることを期待していたと。

 気持ち悪い。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。

 ヴィっくんに期待するな。ヴィっくんをあなたの所有物みたいに語るな。

 

 ──ズズズッ……

 

 ……っ! 

 まずい。

 

「では、私はこれで。お師匠様は人質として持ち帰らせて頂きますね」

 

「ッ! ま、待て、待ってくれ。師匠だけは──」

 

「ヴィっくん! ダメ! ヴィっくんまで飲み込まれる!」

 

「サシナ……! だが……!」

 

 わたしだって。わたしだって師匠を奪われたまま黙ってなんていられない。

 でも動けない。師匠が人質のまま。動けば師匠が死ぬ。

 それどころか。無理に助けようとしたら自分まで巻き込まれかねない。

 指示待ち人間のわたし。こういう時に自分で動けない。動き方が分からない。

 

「ああ、ヴィクトール様。最後に一つだけ、命令を忘れていました」

 

 ……だからもう。

 わたしは何も……。

 

 

 

 

 

「魔王プレヴィの名の元に命令します」

 

「貴方のお師匠様の命を助けたければ」

 

「仲間達全員と、殺し合いを行ってください──」

 

 

 

 

 

「──魔王ヴィクトール様」




まぁまだまだ謎は残ったままなんですけどね。
とりあえずは一段落です。

これで第8章終わりです。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
また1話、幕話をやって、その後9章に移ろうと思います。

可能であれば、感想や意見や評価やここすきを頂けると嬉しいです。大喜びします。
それでは、次話以降も宜しくお願いします(´・ω・`)
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